第3話『ファーストレッスン』
黒くて明るい“神の間”で、二人の少女は、黒いヴェール越しに映る互いを見つめながら、抱き合っていた。
その行為には、愛情表現の他に、迫り来る恐怖から身を守るという意味があるのだろう。
「怖いね、『略奪神』の信仰者が現れたそう」
「怖いね、『略奪神』は全ての神の敵でもあるのに。そんな厄介者を信仰する人が居るなんて」
二人は互いの手を握り合い、指を絡ませながら、ヴェール越しに唇を触れ合わせた。
「でも、きっと大丈夫」
抱き寄せ合い、互いの口が互いの耳元へと近づく。そして二人は、囁き合った。
「私たち、『双雷神』の力を授けた、あの子がいる限り」
「私たち、『双雷神』が屈することは、決してありえない」
二人の足元に映し出される双雷神の刻印。彼女たちはその上で、愉快に舞い踊り始めた。
それは、舞台で披露されるような美しいものではなく、幼い少女が踊るに相応しい、幼稚な、可愛らしいものだった。
「例え彼女が、信仰を諦めても」
「例え彼女が、加護を捨てても」
_____“私たち”は止まらない。
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「んぅ、ん?」
不思議な夢がプツリと途切れるように終わり、ワタシは目を覚ました。
蛇の下半身を使い、起き上がると軋む簡素なベッド。窓から差し込む日の光。そして窓の外に広がるアンブラッセの住民たちの活発な様子。それらがワタシを現実へ引き戻した。
「夢に居たあの二人は、確かワタシを転生させてくれた『双雷神』様・・・」
右手の甲に刻まれた双雷神の刻印を見つめながら、ワタシは申し訳ないという気持ちから、会釈した。
「力を与えてくれたこと、新たな人生を与えてくれたこと、心から感謝しています。でも、ごめんなさい。ワタシは拳闘士の道を歩むと決めたのです。なので、『双雷神』様から恩恵や加護を得ることはもうないでしょう」
目を瞑り、深い陳謝を終えると、寝巻きを脱ぎ、神官だったころ着ていた修道服へ袖を通した。
「神への感謝だけは決して忘れないように、せめてこの服を、拳闘士としても着続けましょう」
身なりの準備が整うと、部屋の扉を開けようと、ドアの取っ手に手を伸ばした。
途端、泊っている宿の一階から、ドシンッ、と凄まじい落下音が聞こえた。
尾を使い、慌てて一階へと滑り降りると、煙舞う出入り口の前に、他にも群がる人々が居た。
「あの・・・なにがあったんですか!?まさか、蛮族の敵襲ですか!?」
ワタシの言葉に何人かが振り向く、そして皆、ぞろぞろと距離を置きながら恐る恐る道を譲る形となった。
「ば、蛮族はお前だろう!!まさか、さっきの音・・・。この宿に魔法でも放ったのか!!」
「半蛇人は魔法適性が高い種族だし・・・本当に!?」
「違います!違います!ワタシじゃありません!ワタシはもう神官を捨てた身ですので!きっと他に原因があるかと・・・!」
ワタシは空いた道を蛇の尾で進み、土煙の奥へと渡った。
出入り口には、巨大な何かの影が掛かっており、外の景色の一切が遮断されていた。
煙が晴れ、それが何かがようやく見えた。“巨兵蟹”の網詰めだった。
何十という巨大な蟹が、網の中に閉じ込められており、その網を掴んでいたのは、他の誰でもない、ワタシの師匠となった“ブリザーデ”だった。
「キッチンの誰か、居ないのか?」
周囲が唖然とする中、給仕室から三匹の妖犬人が現れ、ブリザーデの持ってきた“巨兵蟹”と対面した。
「ブリザーデさんがウチに食事の依頼をするなんて初めてだね!」
「うんうん!どう料理する?塩味が好きなら塩茹でもできるよ!」
「それとも網焼きにする?塩振って焼けば美味しくなるよー!」
ブリザーデは少し上を向き、じゅるりとよだれを啜りながら、数十枚の銅貨を妖犬人へ手渡した。
「いや、今回はアタシの分じゃない。ここの宿の飯に使ってくれ。調理の仕方は、美味ければなんでもいい」
給仕の妖犬人たちへ依頼を済ませると、ブリザーデはワタシの方へと歩み寄った。
「お、おはようございます。ブリザーデさん」
「マゼンタ、昨日の今日だが早速修行だ。食事が終わったら、森の前に来い。昨日、オマエは泣いていた森の前だ」
「うっ・・・はい」
それだけ告げると、ブリザーデは宿から去った。大量の蟹たちは、妖犬人たちが裏手へと運び込んでいった。
騒動が終わると、ぞろぞろと他の人々が、テーブル席へと座り始める。それに乗じ、ワタシも空いている席へと座った。
「あんな数の巨兵蟹を倒して来るなんて・・・。本当に、伝説になるほど強いんですね」
改めて、ワタシは彼女の力に感動した。
巨兵蟹は、本来一匹を倒すのに、五人以上のパーティは必要とされている強力な生物。それを何十匹も、単身で倒したという事実。それにワタシは、かっこいいと思った。
ワタシもあれほど強くなりたい、ワタシもあれほどたくましくなりたい。
今日からワタシも、変われるのかな。あれほど強くなれるのかな。そんなふわふわとした不安を抱きながら、ワタシは朝食を頼んだ。
朝食を終えたワタシは、ブリザーデと約束した森の前へとやってきた。
そこには、小さな巾着袋と紐に吊るした碧色のガントレットを肩に掛ける彼女の姿があった。
「お待たせ、しました。ブリザーデさん」
「別に待っていない。準備が出来ているなら、行くぞ」
「は、はいっ!」
ブリザーデの先導に従い、ワタシたちは森の中腹を目指して歩き出した。
昨日、ワタシが泣いていた場所を通り過ぎれば、恥ずかしさから頬を赤く染めた。
そんなワタシの顔色を横目見ては、不思議そうに尋ねた。
「どうした、顔が赤いぞ」
「いえっ!その、昨日あんなに大声で泣いていた自分が恥ずかしくて・・・。」
「なら、今後は泣かないようにしろ」
「えっ、あ、はいぃ・・・」
冷たさすら感じるさっぱりとした言葉に、ワタシは少しうつむいてしまった。
それでも彼女は歩みを止めない。だからワタシも、下を向きながらその後ろ姿を追った。
「着いたぞ。ここがオマエの修行場だ」
やがて辿り着いた森の中腹。その光景にワタシはとにかく驚いた。
自然を下に造り上げられた基礎能力のトレーニング用の器具や、拳闘士の技術を強化する為の専用器具などが二十から三十以上は準備されていた。
「すごい!ブリザーデさんは、普段ここでトレーニングを?」
「あぁ。此処、アンブラッセに来てからは、ずっとここで鍛錬している」
「つまりブリザーデさんの強さの一部はこの森にあったんですね!ワタシも、この器具たちを使って鍛えれば、強くなれるのでしょうか?」
ブリザーデは、手荷物と自分のガントレットを木の根元に投げ捨てると、ワタシに問いを投げた。
「マゼンタ、オマエは普通の拳闘士になりたいか?それとも、強い拳闘士になりたいか?」
ワタシは迷うことなく、その二択に答えを出した。
「勿論、強い拳闘士になりたいです」
「求める理想に比例して、苦難が付き纏うことになる。強い拳闘士を目指すなら、死にたくなるほど辛い修行になるだろう。それでも、なりたいか?」
「・・・昨日も言いましたが、沢山泣き言を言うかもしれませんし、沢山弱音を吐くと思います。けど、だからこそ、そんな自分を変えたいんです。理想の自分になる為に、弱さを克服しなければならないのなら、喜んでこの身体を地獄の釜に沈めます」
数秒の静寂の後、ブリザーデは少しだけ微笑んだ。
「同じようなことを言った弟子が過去に何人かいたな。果たして、オマエは逃げずについて来れるかどうか」
そう言うと、ブリザーデはワタシに「ついて来い」と指示し、ワタシはその背中を追った。
少し歩いて到着したのは、器具などが置かれていない少し開けた場所。木々によって囲まれたその空間は、格闘技のリングを彷彿とさせた。
「アタシに一撃食らわせろ。それが第一課題だ」
「えっ、アナタに一撃って・・・」
困惑するワタシを他所に、ブリザーデはワタシに歩み寄った。
彼女の拳の間合いに、ワタシが入った瞬間、ワタシの左腕から、バキリッ、と重く鈍い音が鳴った。
視界が潤う。息が荒くなる。ポタリと雫が流れ落ち、鮮明になった眼で、左腕を確認した。
その腕は、肘関節を軸に、本来曲がるわけの無い、いや、曲がってはいけない方向へと折れていた。
機能しない指先が、それを示すように痙攣する。皮膚越しに出っ張り膨らんだ肘関節は、脈打つたびに火傷しそうな熱さを伝える。
感覚がその事態を認識すると、ワタシは耐え難い激痛に叫んだ。
「いっ、ぎぃああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!」
そんなワタシの顔を見ることなく、彼女は凍てつくような冷たい瞳で、ただ一点を見つめていた。
そう、もう片方の、右側の腕だ。
「どうした。悶えていては追撃を食らうぞ」
ブリザーデは、身動きの取れないワタシの右腕を掴み、乱暴にねじり回し、関節や骨を雑にへし折った。
肩関節を破壊し、伸びた腕の肘関節を逆方向に折り曲げ、バキッ、とへし曲げた。
痛覚という管に、何百度という熱湯を流し込まれている感覚。熱くて、痛くて、もう耐えられない。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイ。
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱いアツイ。
「があぁぁあああああああああああああああッ!!!!ぅごッ!!ぶぇッ!!!」
膨大な痛覚情報が流れ込む脳が混乱したせいだろう。ワタシは、惨めに嘔吐した。
それでも涙は止まらない。それでも痛みは止まらない。それでも熱は治まらない。それでもワタシに逃げ場はない。
うっ血した歪な腕をも引きずり、蛇というよりミミズのような無様な姿を晒すワタシを見下しながら、ブリザーデは口を開いた。
「・・・所詮は半蛇人。脆いな」
這いつくばるワタシの首を、彼女は掴み上げる。
ワタシは、こんな仕打ちに対する怒りよりも、助けてくれと懇願するような涙を流しながら、苦しそうに喘いだ。
そんなワタシに向けられるのは、やはり温もりのない冷たく青い瞳。
この人は本当に仲間なのか、敵なのか。天使なのか、悪魔なのか。処理能力が機能しない頭で、必死に考える。考えて、考えて、答えも出せずに時は来る。
次の瞬間、ワタシの肝臓部に、彼女の鋭い拳がめり込んだ。バキッ、バキッ、肋骨を容易く砕き割ると、その拳はワタシの身体を離れた。
「ァ・・・ッ、が・・・ゥッ!!」
処理しきれない痛みが神経をショートさせたのだろう。ワタシの意識は、その激痛を受けた後、飛んだ。
「なんでオマエはそう不器用なんだい」
ワタシのことですよね。ごめんなさい。
「なんでオマエはそう馬鹿なんだい」
勉強は積んできたつもりなんですが、ごめんなさい。
「なんでオマエはそんなに固執するんだい」
拳闘士を追っていることでしょうか。悪いことでしょうか。なら、ごめんなさい。
「なんでオマエは、って聞いてるのかい?」
ぼやける視界が鮮明になるのを待ちながら、ゆっくりと身体をフカフカのベッドから起こした。
すると、扉を開けて部屋から去って行くブリザーデの姿が見えた。
バタン、荒っぽく木製の扉が閉められる音の後、追いかけるように女性の声が響いた。
「ブリザーデ!ちょっと待ちなよ!ったく、言葉足らずなんだから・・・」
声の主は、ワタシが眠っていたベッドの横に立っている褐妖精族の女性だった。
その頬には、時計のようなデザインのタトゥーがついていたが、刻印などではないことは一目で解った。
「あぁ、おはよう。かわいい半蛇人のマゼンタちゃん。っと言っても、もうこんばんはの時間なんだけどね」
「こん、ばんは。アナタは、一体・・・?」
「アタシの名前は“クロック”っていうんだ。頬のタトゥーもあるし、解りやすいだろう?」
「クロックさん、ですか。アナタが、治療をしてくれたんですか?」
周囲を見渡しながらワタシは尋ねた。
部屋には、薬草やポーションが保管された棚が並んでおり、医務室のような場所だなと感じたからだ。
「こっ酷くやられてたからね。全部治しといたよ。肘関節、肩関節の複雑骨折。肋骨の粉砕骨折。見習い拳闘士にするレッスンじゃないねこりゃ。完治してると思うけど、痛みが残ってないかチェックだけ頼むよ」
「わかりました。では・・・っ」
言われた通り、ワタシは治療箇所を動かした。
腕や肩の関節を回したり、肋骨部に痛みが無いかを確かめる為に、お腹を膨らませたり、縮ませたりと、念入りに確かめた。
その結果に、ワタシは驚いた。
「ぁ・・・あれ?痛く、ない。ほんの少しも、痛くないです!」
「そりゃあよかったよ。どんな怪我も、日が変わる前に完治させるってのがアタシのポリシーでね、治っているなら今回も貫けたわけだ」
「えっ、つまり、まだここに来てから一日も経過してないんですか!?」
「そうだよ。白昼に連れて来られて、今まで治療していて、今さっきキミが起きたんだよ」
「だとしたら、どうやって治療を?ポーションの類で、この回復速度は信じられませんし・・・」
すると、クロックは胸元に隠していたネックレスを取り出した。
そのネックレスは、『太陽神』のシンボルの形状をしており、一目見て、彼女が『太陽神』を信仰者している神官であることを悟った。
「元とはいえ神官なら解るだろう?恩恵の力だよ。『太陽神』を信仰していると、生命体の活性力を増進させることができるようになる」
クロックはネックレスを胸元にしまうと、手近にあったポーションを一瓶揺らしながら続けた。
「そこからはアタシの知恵と経験。ポーションや薬草で活性化した肉体の活性力を倍にしてやれば、通常の何十倍のスピードで傷が癒えるってわけよ」
自慢げに笑むクロックに、ワタシは純粋な“かっこいい”という感情を抱いた。
「す、すごい・・・っ」
刻印を持って生まれてきたわけでもない。なのに知恵と経験、きっとその中に含まれる発想によって、刻印を持つ神官と同等の実力を発揮している。
クロックはきっと才能があるわけではない。そこを補う為に、人一倍勉強したのだろう。人一倍努力したのだろう。
努力してる人は素晴らしい。だけど、なんでだろう。
今、ワタシの心は、怯えてる。いや、焦ってる?
「ほら、昼も食べてないんだから、食事して来なよ」
ボーっとしていたワタシの背中を叩き、クロックは言った。
「は、はい!クロックさん、今回は本当にありがとうございました。失礼しました」
深々とお辞儀を二度繰り返し、ワタシはその部屋の扉を出た。
ワタシが出るその一瞬まで、クロックはワタシに手を振ってくれた。
日が落ち、活気付く酒場で、ワタシは夜食のミルクとパンに手を付けることもせず、ポロポロと涙を流していた。
明日が怖い。修行が怖い。痛いのが怖い。そして、彼女が怖い。
「明日なんて来るな・・・。修行なんて終わってしまえ・・・。怖い、怖い、怖い。あんな痛みを、苦しみを、もう味わいたくない・・・ッ」
泣き声を堪えながら、木製のテーブルに涙の雫を一つ二つと落とす。ひっく、ひっく、小さなしゃっくりは誰に届くこともなく歓声に溶ける。
そんなワタシの惨めな様子に気づいたのか、酒場の冒険者たちは大きな口を開く。
「半蛇人は半蛇人らしく、魔法の才能にかまけて生きてりゃよかったのになぁ!」
「中途半端に拳闘士なんて夢を追うから、その報いを受けたんだよ!所詮は蛮族、頭までおめでたく出来上がってんだろうぜ!」
「なんでもあのブリザーデの下に弟子入りしたんだとよ!身の程知らずにも程があるってんだ!英雄への憧れなのか何なのか理由は知らねぇけど、ただでさえ評判の悪いアイツの指導を、痛みの耐性もない後衛職が耐えられるワケもねぇ!」
「人間気取って夢なんか追ってんじゃねぇ!蛮族が!」
酔っ払いも、素面の者も、見境などなくワタシを、想いを、行動を否定する。
そりゃそうだ。蛮族は彼らにとっての敵であり悪。いくら罵ろうとも、否定しようとも、誰も彼らを責めやしない。
異端を気取った半蛇人など、彼らからすれば美味い肴でしかない。
解ってる。憧れだけでは足りなかったこと。それだけじゃ、覚悟も決心も決まりやしないこと、口だけならいくらでも覚悟を語れることを。
食事代の銅貨を数枚置いて、ワタシは涙を拭いながら、酒場を出ようとしたときだった。
ポスッ、と誰かにぶつかった。うつむいていたワタシに見えたのは、碧色のガントレットに、そのスラッとした腰を覆うコルセットベスト。
「ぁ・・・。その、ガントレットは」
潤む眼で顔を上げると、そこにはワタシの怖れている人が居た。
冷たく青い瞳で、ワタシを見つめるのは、他の誰でもない、ブリザーデだった。
「傷は癒えたか?」
淡白な質問に、ワタシは涙を拭いながら答えた。
「は、はい・・・。完治してます」
「そうか。なら、明日も同じ時間に、森の中腹で待つ。来るか来ないかはオマエが決めろ」
それだけ告げると、ブリザーデは酒場のカウンター席へと向かった。
今の修行の意味、ブリザーデの本心、全てを聞きたかった。しかし、今のワタシにそんな覚悟はなかった。
月明りと街灯りに照らされる街中、ワタシはうつむきながら宿への帰路に就いた。
アンブラッセの街には、クエストや冒険を終えた冒険者たちが闊歩していた。
皆一様に、立派な武器に称号、名誉を携え、勇ましく戦う立派な冒険者。
ワタシはその足元にも及ばない。見習いですらない。まだ殻に閉じこもったままの卵なんだ。
「これからどれだけ努力をしても、ブリザーデさんのようにはなれないんでしょうね。きっと、命を懸けたとしても、ワタシには・・・っ」
血が滲むほど、拳を握り締める。もう痛くない。この程度、修行の痛みに比べたら感じないも同然だった。
けれど悔しい。情けない自分にめっぽう腹が立つ。この程度の、たかが一日の修行で音を上げるな。自分の中に、苛立ちをぶつけた。
「・・・今は、帰りましょう」
宿に到着したワタシは、少しでもこの疲労感と心の靄を取り去る為に眠ろうと、二階にある自分の部屋へと向かった。
しかし、階段を上がろうとしたワタシを、妖犬人たちが呼び止めた。
「マゼンタさん!マゼンタさんだよね!料理できてるよ!」
「巨兵蟹を使ったクリームシチューだよ!」
「すっごく美味しくできたから、是非食べて行って頂戴な!」
涙と疲労で腫れた目を擦りながら、ワタシは妖犬人たちに尋ねた。
「料理・・・?ワタシ、注文してませんよ?それに、夜食は済ませましたし・・・」
すると、妖犬人たちは互いに顔を見合いながら、不思議そうに言った。
「うんうん、注文したのはマゼンタさんじゃないよ?」
「注文していったのは、ブリザーデさんだよ!」
「・・・えっ?」
ワタシは思わず目を丸くした。
「きっとマゼンタさん、今晩はあまり食べないだろうから、代わりに宿で元気が出るものを食べさせてやってくれって!」
妖犬人たちのその言葉で、ワタシは全て合点がいった。
多分、彼女は、誰かを育てることが好きなんだろう。しかし、あの修行内容や遠回しなアフターケアで表れる彼女自身の不器用。それらが理由で、きっと今までの弟子たちから恨まれたり嫌われたりしたんだろう。
それでも、誰かを育てたかったんだ。どれだけ不器用でも、どれだけ言葉足らずでも、固執せずにはいられなかった。
誰かを育てたい。誰かを強くしたい。それが、ブリザーデという女性の一本通った筋だったんだ。
「ブリザーデさんが、ワタシの為に・・・っ」
本来、弟子であるワタシが、師匠であるブリザーデになにかを振舞うのが常識。しかし、きっとワタシが奢ろうとしても、彼女は断ることだろう。不器用に。
ならば、彼女の為にも、ワタシの為にも、しっかりお腹に入れておかなければならないと思った。
「ありがとうございます、妖犬人さん!ブリザーデさんへは、“明日”伝えましょう」
妖犬人たちは、ワタシの手を掴むと、食事の用意された席へと案内した。
「えへへ、こっちだよ!」
「いっぱい食べて、明日も頑張れ!」
「応援してるからね!」
案内されたテーブルには、大きな器に巨兵蟹の大きな身が馴染んだ出来立てのクリームシチューがあった。
器の横には、丁寧にカットされたバケットが並んでおり、小さなパンとミルクだけしか摂取していないお腹が、あまりの空腹からグゥゥっと鳴った。
「ぁぅ・・・っ。で、では、いただきますっ!」
ワタシは前世の記憶に習い、両手を合掌させ、そう言った。
食事を終え、ワタシは自室のベッドに寝転がっていた。
しかし、すぐには寝付けず、頭の中で浮かんでいる内容を口に出しながら、ひたすら考えていた。
「第一課題は、一撃食らわせること。でも、どうやって?ワタシには、ずば抜けた動体視力も無ければ、鋭い感も無い。それどころか、ブリザーデさんの攻撃を避けるだけのスピードもない。その不利な状況で、一撃・・・」
その課題を乗り越えようと藻掻く心は、ワタシの体をベッドから起こした。
_____足りないのなら足りるまで、ひたすら努力するしかない。
ワタシは森の中腹にある修行場に向かった。
夜更けの時間帯。恐ろしさはあった。しかし、それを上回る向上心が、恐怖を跳ね返した。
修行場に到着すると、真っ先に近づいたのは、太い木の枝に吊り下げられた“鋼鉄の詰められた重い吊り袋”。サンドバッグの中身を鋼鉄に変えたものという解釈が一番しっくりくる。
八十キロから百キロはあろうその吊り袋に、拳をトスッとぶつけながら、ワタシは考えた。
「避けられない、見切れない。なら、攻撃を食らってもいい。相打ち狙いで、強烈な一撃を打ち込むしかない」
小突く程度ではビクともしない吊り袋に、今度はありったけの力を込めて、殴り込んだ。
ドスリッ、吊り袋は鈍い音を立てるが、少しも揺れない。それどころか、拳は皮剥け、激痛が走った。
「ッ~~~~~~!!!!!!!!」
それでも、ワタシは拳を止めなかった。一発、一発、全力で撃ち続けた。
次第に拳からは血が流れ出し、握り拳の内側にできた肉刺は破れ、やがて両手が衝撃で痺れ、痛覚以外の感覚を感じる余裕すらなくなった。
「いっ・・・づぅッ!!けど・・・まだ、まだ・・・っ!!足掻けっ!!藻掻けっ!!」
まだ足りず、ワタシはひたすらに拳を打ち続けた。憧れを現実にする為に用意された、その階段を“たった一段上る”それだけの為に、自分を痛めつけ続けた。
バギリッ!
日が昇る頃、ワタシの放った一撃で、ようやく八十キロを越える吊り袋が悲鳴のような金属音を立てて、小さくも確実に揺れた。
今まで為せなかった事を為した瞬間、ワタシは成長できているんだと、目を輝かせた。
「ゆ、揺れた・・・!やった!やった、やった、やったーっ!!ぁぁ・・・っ」
ボロボロの拳を無理やり開き、何度も飛び跳ね、精一杯の万歳をして、ワタシは喜んだ。
しかし、体の疲労は既にピークに達しており、ワタシの体はワタシの意志とは無関係に、強制的な休息に入った。
バタリとその場に倒れ込み、意識を手放したのだ。自分では解らないが、きっとその時、ワタシは満面の笑みを浮かべていたことだろう。
土にしてはやたらと心地がいい、柔らかく、温かい感覚に包まれ、ワタシはゆっくりまぶたを開けた。
景色は修行場、なのにワタシの体は心地の良い温もりに覆われていた。下を見れば、ワタシは高級な寝袋の中に居ることに気づいた。
「は・・・はれぇ・・・?」
「起きたか、マゼンタ」
寝袋からの狭い視界に映ったのは、ブリザーデの顔だった。
彼女の存在に気づくと、ワタシは大慌てで寝袋から体を出そうとした。しかし、慌てて出ようとして、尻尾が絡まり、立ち上がろうとした体勢から一転、転んでしまった。
「はぅっ!ご、ごめんなさい・・・」
「何故謝る?何も謝罪されるようなことをされた覚えがないが」
「いえ!そんな、ワタシは、謝罪しなきゃいけないことが・・・」
絡まった尻尾をゆっくり寝袋から抜き、寝袋の土をパンパンと叩き、丁寧に畳みながら言った。
「勝手に設置されていた器具を使用してしまいました。樹木を相手にすることも考えたんですが、泣いていたあの時みたいに、八つ当たり同然に拳を振るってはいけないと思い、器具をお借りしました。きっと修行の段階としては早いから、使用を控えていたんでしょうが、そんなことを考えずに、ごめんなさい・・・」
ワタシの陳謝を聞くと、ブリザーデはワタシの使用していた重い吊り袋に優しく手を添えた。
何をする気だろうと、ワタシが一度瞬きを終えた瞬間だった。
バギィィイイッ!!!
八十キロを越える吊り袋が絶叫のような金属音を立て、宙に浮いていた。
力を込めた雰囲気はなかった。それどころか、あれだけの威力を出せるような距離もなかった。
戻ってきた重い吊り袋を片手で軽々と受け止めると、ワタシが付けた拳の跡に触れながら言った。
「アタシが一度でも、“器具を使って自主練習をするな”と言ったか?」
「・・・えっ?」
「どんな環境で、どんな師の下で、どんな教育を受けようと、師が施してくれるのはあくまで“基盤作り”までだ。そこから先、強さ、賢さなど、見据える理想があるなら、どう足掻いても自分自身で力を磨かなければならない。誰かに育てて貰い、誰かに教えて貰い、ただそれだけで完璧になれるなら、努力など必要ない。自己研鑽の意味を知る者だけが、自分の理想を現実にできる可能性を持つ」
ワタシは、その言葉に納得した。
前の世界でもそうだった。学校に塾、その全てで教えられるのは、問題の解き方であって、断じて答えではない。それは勉強に限った話ではなく、進路という未来も、選択肢は用意されるも、結論は自分が選択するものだ。
「アタシは大した師匠じゃない。だから、基盤なんて立派なものを作ってやれるか解らない。だが、オマエに足りないモノは教えてやる。それを磨け。自分自身が納得するまで」
ブリザーデはワタシの胸元を優しく小突いた。
その拳をぎゅっと両手で握りながら、ワタシは答えた。
「わかりました。アナタからの教えを糧に、自分をもっと磨きます!」
ワタシの笑顔に反応して、ブリザーデも不器用に笑った。笑うことに慣れていないのだろう。だけど、ワタシの言葉に喜びを見せた。それさえ解れば、それでよかった。
「それなら、今日も修行を始めるぞ。ついて来い」
「はいっ!」
彼女の言葉にハッキリと返事をすると、ワタシとブリザーデは昨日と同じ開けた場所へと向かった。
到着すると、ワタシは自分の両手を胸の前で握り、祈りを捧げた。
「『双雷神』様。加護は不要です。ただ見ていてください。アナタが与えてくださった生命が、成長する姿を」
祈りが終わると、ワタシは拳を構えた。
既に構えていた彼女は、開始の合図も無しにワタシの左腕を狙い拳を振るった。
ビキリッ、ビキリッ、鈍い音が鳴った。咄嗟に手を退き、辛うじて致命傷は免れたが、二の腕の骨にはヒビが入ったことだろう。
「ぐぁ・・・ッ!!~~~~ッ!!」
悶えて止まりそうになる本能を、ワタシは唇を噛み締め抑えた。“悶えていては追撃を食らうぞ”という昨日の彼女の言葉を思い出しての行動だった。
「隙が無くても追撃は来る。見えたチャンスは拾いに行け」
その言葉通り、隙を作らなかったワタシに対して、今度は右腕を狙った高速のジャブが向かってきた。
到底避けられる速さではなく、形だけのガードの体勢をとろうと肘を曲げた瞬間だった。
バキッ、ビキッ、上腕骨が砕けた。彼女の拳のヒットポイントが、肘関節から上腕骨に変わったのだ。
しかし、それはチャンスだった。
「がぅ・・・ッ!!捉え・・・まし・・・たッ!!」
肘関節が壊れなかったことで、右腕がまだ機能したのだ。
ワタシは彼女の放った拳に、その腕に、右腕を絡めることで捕まえると、左拳で空いた腹部に攻撃した。
今、ワタシの放てる渾身の一撃。地平線まで飛ばす勢いで拳を振るった。
が、その左拳がブリザーデに届くことはなかった。
「まだ、拳が弱いな」
何故ならその拳は、彼女がワタシの左腕を掴むことで抑えられてしまったからだ。
足掻くようにワタシは蛇の尾を彼女の脚に目掛け振り払ったが、予測していたであろう彼女は、何事もなかったようにその尾を踏みつけ、抑え込んだ。
「な・・・っ!?こ、れも・・・だめ、なん・・・てっ」
尻尾を動かしての大きな行動ができない状況で、それでもワタシは右腕を離さなかった。
ブリザーデはワタシの頭を空いている手で掴むと、一言告げた。
「努力の成果だ。まだ伸びるぞ」
そして、彼女はワタシの額に向かって思いっきり頭突きをした。
ゴチンッ、痛々しい音が響く。ワタシの額が腫れあがる。そして、スルリとその右腕を離し、ワタシはその場に倒れ伏した。
「“太陽光”。出力控えめでっと・・・」
急に眩しくなったまぶたの向こう側。その光で、ワタシは目を覚ました。
そこは、以前の修行後にも眠っていた部屋だった。
ワタシが目を開けたことに気づくと、ベッドの横に立っていたクロックさんは、魔法の光を放つランタンを持ちながら微笑んだ。
「おっと、こんばんは。起こしてしまったかい?アタシの使う“太陽光”は最初は眩しいからね。ごめんよ」
「いえ、大丈夫ですよ。ありがとうございます。また治療してもらったようで」
「いいんだよ。アタシは誰かを助ける為にこういう職業をやってるんだからね。それに、ブリザーデの弟子ともなれば、相応の怪我を持って来られることは覚悟してるさ」
アハハ、と苦笑いをこぼすワタシの腕を触りながら、クロックはやや心配そうに尋ねた。
「ブリザーデの修行は厳しいだろう。毎度毎度、体をボロボロにされて、グチャグチャにされて、アイツに対する恨み辛みを漏らす子を何人も診てきた。だからね、マゼンタ。キミも本心ではそうなんじゃないかって、少し心配だよ」
クロックの心配は、ワタシの事を含め、きっとブリザーデのこともなのだろう。
少なからずブリザーデと親しい仲にあるクロックは、彼女の悪評などがこれ以上広がることを嫌がっているんだろう。
しかし、クロックが抱く二つの懸念を、ワタシは振り払う言葉を知っていた。
「昨日はどうあれ、今のワタシにそういった感情は一切ありません。厳しく、不器用ながらも、しっかりとワタシを導いてくれる。そんな良い師に出会えたと誇りに思っています。大丈夫ですよ。努力に近道はあれど、楽な道はありません。それを覚悟した上で、弟子になると決めたんですから!」
笑顔で答えるワタシの目を見て安心したのか、クロックはワタシの肩にポンッと手を置いて言った。
「そうかい。本当に良かったよ。アイツもやっといい弟子を持てたんだね・・・。マゼンタ、頑張って立派な拳闘士になりなよ。そしたら、一緒に冒険をしようね」
「わぁぁ!はいっ!ありがとうございます!」
ワタシがクロックの部屋を出る頃、胸がとても高鳴っていた。
励まされたからか、心配してくれる相手がいると感じたからか、その両方も理由にはなるのだろう。
しかし、ワタシが一番嬉しかった一言は、“一緒に冒険をしようね”だった。
その為にも、強くならなくてはならない。その為にも、逞しくならなくてはならない。
そう思い、ワタシは修行を続けた。
壊して、治して、強くして、日々の鍛錬はその繰り返しだった。
ブリザーデとの修行では、何度も腕や腹、狙われれば尻尾までもが破壊された。
治療が終わると、ワタシはいつもの倍以上の肉類を摂るようになった。深夜もトレーニングとなれば、エネルギーが必要だったからだ。
夜になると、ブリザーデさんの準備した鋼鉄の吊り袋で打撃力と拳の強度の強化を図った。殴って、殴って、殴り続けて、日が昇るまで拳を使った。
こんな無茶苦茶な修行は、一年に及んだ。
そして、一年が過ぎた頃だった。
「この一年で、見違えるほど成長したな」
いつもの森、開けた場所で、ワタシはブリザーデと対峙していた。
「拳闘士としての取り柄なんて一切ないワタシには、この一年の無茶な修行しかありませんでした。だからこそ、その一点に全力を尽くしたんです。アナタのような、強い拳闘士になる為に!」
互いに拳を構えた。
緊迫した空気が流れる。しかし、もう圧されない。長い修行の成果は、ワタシから隙を限りなく減らしたのだ。
ジリ、ジリ、ワタシから間合いを詰め、拳のリーチに入った瞬間だった。
ワタシは蛇の尻尾を大きく、素早くスイングし、彼女の胴体へのダメージを狙った。
しかし彼女はその尻尾を片手で受け止め、掴み取り、ワタシの体ごと持ち上げ、後方の地面へと叩きつけた。
「ッ・・・ぐッ!!」
辛うじて両手での受身が間に合ったワタシは、地面を指圧のみで掴み、体を全力で捻り、尻尾を彼女の手から振りほどいた。
息を吐く暇もなく、今度はブリザーデの鋭い拳がワタシの胴体を襲った。
攻撃は見えても避ける術を持たないワタシは、その拳を左手の腕でガードすることでダメージを抑えた。
痛みが響く。しかし、もう泣かない。もう叫ばない。何故なら、もう“痛みに対する恐怖は無い”からだ。
片腕を攻撃に使った彼女をチャンスと見たワタシは、腰の入った全力の拳を、ブリザーデの頬を目掛けて放った。
バシィッ!!
が、その渾身の拳はまた腕を捉えられることで止められてしまった。
“この一撃が通らなければ、次の一撃を食らって、ワタシは負けるだろう。”ワタシの脳は戦闘中とは思えないほど冷静に、現状を分析した。
「いや、だ・・・ッ!!負けたく・・・ないッ!!」
無意識化で言語化したのは、負けず嫌いが表れる一言だった。
次の瞬間、顔面へと向かってくるブリザーデの拳。それに意図して合わせたのか、意図せず合ったのかはわからない。
ただ、その拳に合わせて、ワタシは腰をもう一段階、捻り切ったのだ。
「ぶっ壊してッ、やれえぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
結果、ワタシの捉えられた拳はその指圧を破り、ブリザーデの頬に見事命中した。
そして同時に、ワタシの頬にも強烈な拳が一撃命中した。
バギャリッ!!!!!
互いにガードも外れ、相当な威力故に遠ざかり、仰け反った。
「はぁ・・・はぁ・・・ッ!!げっほっ、げほっ!!どう、ですか・・・っ。ワタシ、一撃、食らわせました・・・よっ」
膝から崩れ落ち、倒れるワタシを、ブリザーデは軽々と抱えた。
「・・・第一課題、合格だ。よく頑張ったな。マゼンタ」
口の端から流れ出る血を吐き捨てると、ブリザーデはワタシを肩に担ぎ、街へと向かった。
クロックの処置が終わると、ワタシは空腹から酒場へと向かった。
とっても気分がよかった。なんせブリザーデさんの第一課題を一年懸けてようやく合格できたのだから。
自分へのご褒美にと、いつもより少し豪華なモノを頼もう。そんなことを思っていた。
「ふんふふ~ん、今晩は何を食べましょうかねぇ~」
そして酒場にワタシが入ると、周囲はざわざわと騒めき始めた。
しかしそれは、揶揄の類では決してなかった。むしろ、その逆というのが正しいのかもしれない。
「おい、聞いたかよ。あのマゼンタとかいう半蛇人。ブリザーデの課題を突破したらしいぞ・・・!」
「はぁ!?嘘に決まってんだろ!あの人の課題は現役の拳闘士でさえ厳しいって言うレベルなんだぞ!それを神官の、それも半蛇人が突破できるわけあるかよ!なぁ、ガレアさん!」
その集会の中に混じっていた竜人族のガレアも、コップ一杯のエールを流し込みながら笑っていた。
「どうせ誰かが面白がって出鱈目言ってんだろ!?その話がマジなら、あの半蛇人は相当の才能の持ち主だぜ!?」
何処からか解らないが広まっていたワタシの成長。それが本当だと、ワタシから伝えようと近づいたその時だった。
後ろからワタシの肩を掴んで、ワタシの前に出た女性が、真偽を語った。
「マゼンタに格闘の才能はない。アイツは努力だけでアタシの課題を突破した。得意な神官という力にかまけることなく、弱さを認めながら、足りないモノを自分で磨いて乗り越えた。オマエたちも人の成長を疑う暇があれば、己を磨いたらどうだ」
その女性は、真っ白な短髪を揺らし、凍てつくような青い瞳で疑う者たちを睨みながら語り聞かせた。
そう、ブリザーデだ。
彼女の言葉を聞くなり、集会のメンバーのほとんどは気まずそうに縮こまっていた。
ただ一人、ガレアだけは、ワタシの方をただ真っ直ぐ睨みつけていた。
彼女はそれを告げると、ワタシの方を向き、カウンター席へとワタシを押した。
「次は、クエストに行くぞ。それが第二の課題だ」
「クエスト、一緒に行けるんですか!?」
「あぁ、その為にも、今日は沢山食べて、ゆっくり休め。いいな」
「はいっ!わかりましたっ!ブリザーデさん!」
ワタシは、ブリザーデの頼んだ巨大なコカトリスの塩焼きを一緒に食した。
勝利の美酒ならぬ、勝利の肉汁は、今まで味わったどんなものより美味しく感じた。
やっと味が出てきました。次からはいよいよ冒険です。
弱いところを磨いて、強く輝かせるってすごく楽しいですね。マゼンタが今後どう輝くのか、描いていてとてもワクワクします。
登場人物への愛情って、創作において大事なんだなと思いました。