99.丁寧な組織潰し!
昼の王都。
舗装された石畳の道を、ぼさぼさ髪の男が荷車を引いていく。
その上には縛られた男がたくさん乗っていた。
荷車の後ろをうだつの上がらないオッサンが押している。
縛られた男の一人、猿ぐつわをはめられて唸ることしかできない男が内心で思う。
こんなはずじゃなかった……と。
◇ ◇ ◇
男は昔から楽して生きたくて仕方がなかった。
まじめに働くと言うのが馬鹿らしいと思っていた。
その分、体格が良くて腕力が強い。
暴れたら、どんなわがままだって通る。
たいていの奴は殴れば言うことを聞く。
この世はちょろい。
しかし村でやりすぎてしまい逃げ出さざるを得なくなった。
王都まで来れば暴力で何とかなるかと思ったが、なかなか面倒になってくる。
縄張りだのシマだの。
面倒くせぇと男は思った。
そんなとき今の組織に所属した。
誰を殴れば一番儲かるか教えてくれた。
殴って儲けて、豪遊。
酒に女に食い物。いい生活だった。
ここ最近は対立していた組織が勝手につぶれて、さらに羽を伸ばして暴れ回ることができた。
ボスがうまく立ち回ったらしい。
今日は倉庫にあるぷちエリに毒を混ぜれば金貨がもらえる仕事だった。
楽勝のはずだった。
ところが毒を入れようとしたら、男が二人現れて有無を言わさず襲い掛かってきた。
ひょろっとした痩せた男と、うだつの上がらなさそうなおっさんなのに。
見かけからは想像できないほど攻撃が早く、また一撃が重かった。
結果、手も足も出ずにぼこぼこにされた。
それでも男は戦おうとした。
何度地面に転がされても立ち上がる。
仲間はすでにうずくまって戦意喪失状態。
せめて一発だけでも殴らねぇと気が済まねぇ!
けれど、それもかなわぬまま、男二人に徹底的に痛めつけられた。
痛みで立ち上がれなくなるほどに。
それでも悪態をついていたら肘と膝と肩と股関節を徹底的に壊された。
今までとは違う痛み。二度と動けなくなるという恐怖がまとわりつく激痛。
気が付いたら芋虫のように地面を這い、泣いて許しを乞うていた。
無造作に縛られながら思う。
――なんなんだよ、こいつら……強すぎだろ……。
暴力だけは自信があっただけに、真っ向勝負に負けて自信を折られ。
また体が動かせなくなると言う恐怖で心が砕かれた。
目に子供の時以来の涙を滲ませつつ、子ウサギのように震えていた。
その後は縛られて荷台に乗せられて、どこかへ連れていかれた。
昼の街を縛った男たちを乗せて平然と歩いていく。
――異常な状態なのに、おかしなことに誰も気が付きやしねぇ。
いったいなんでだよ、ああ痛ぇ。
オレの人生……こんなはずじゃなかった。
◇ ◇ ◇
王都の裏通り。
俺は荷車の後ろから押していた。前はエドガーが引いている。
とある地下へと続く階段の前で荷車が止まった。
エドガーが荷車の前から来て階段を指さす。
「ここっす」
「わかった」
エドガーを先頭にして俺は後に続いた。
薄暗い階段を降りていく。すえた臭いが鼻を突く。
地下に降りると扉の前に男が一人いた。
俺たちを見て眉をしかめる。
「なんだてめぇら?」
「ゴミの掃除屋ってところっすかね?」
「お仲間はもう乗ってるよ」
「なんだと! ――ぐふっ!」
男が腹を抑えてうずくまる。
エドガーが殴ったらしいが見えなかった。
ささっと縛ってドアを開ける。
店内はカウンターとテーブル席がある酒場。
あちこちに柄の悪そうな男たちがいた。
俺たちが入ってきたのを見て立ち上がる。
「なんのようだ?」「誰だお前?」「やんのか、こら?」
7人ほどの男たちが俺たちを囲んでくる。
なので俺は言ってやった。秘かに聖波気を圧縮しつつ。200メートルでいいか。
「俺はぷちエリ屋の店主、アレクだ。うちに用があるらしいから来てやった。ありがたく思えよ?」
「なにぃ!」「てめぇか!」
男たちがいきり立つ。
すると店の奥にいた男が太い声で叫んだ。
「ちょうどいい。野郎ども、『本気で』やっちまえ!」
「「「おう!」」」
男の命令を受けて、男たちが手にナイフや斧などの獲物を持った。
俺とエドガーは素手で構える。
――しくったな、普通の剣を持ってくるべきだった。
今はいつもの黒い片刃剣しか持ってなかった。
内心舌打ちしたがもう遅い。
男たちが襲い掛かってきた。
狭い店内。
二人相手だと殴りにくい。
その時俺の目の前に、エドガーが倒した男が倒れ込んだ。
男の手には少し長めのショートソードが握られている。
――お、これはいい。
素早く拾って剣を構える。
いつもより短いが、同じように聖波気を込めて聖剣技を発動させる。
「ハァッ!」
剣の軌跡がきらめいて、目の前にいた二人の男を十字に切りつける。
聖剣技――聖十字斬!
男の胸や首を斬り付ける。
「ぐわっ!」「いてぇっ!」
男たちはナイフを落として切られた場所を抑えた。
――が。
血はついたものの、傷口はなかった。
「「え?」」
「聖導斬撃――ハァッ!」
俺はさらに踏み込んで、頭からまた先まで真っ二つにぶった切った。
「ぎゃあああ!」
切られた男が血をまき散らしつつ叫ぶ。
床に倒れ込んだが、怪我はない。
隣で見ていた男が、目を見開いて震える。
「な、なんだよ、これ。どういうことだよ……」
「なにが? 怪我してないんだから、暴力は振るってないってことだよな?」
「は? 何を言って――!?」
「――ハァっ!」
問答無用で男を斜めに斬る。
激痛が走ったのかうずくまるが、血が出るだけで怪我はない。
――そう。
安物の剣を使用すると、剣に込めた聖波気が駄々洩れ状態になってしまい、斬ると同時に回復してしまうのだった。
回復斬とでもいうべき攻撃。
これのせいで動物系の魔物退治や山賊退治にはとても苦労した。
でも、殺さない程度に痛めつける分にはちょうど良かったかもしれない。
特に最近の聖波気が増えた状態では、怪我の治りが早かった。瞬時に治っている。
横ではエドガーが3人目を軽々と倒していた。
彼は確実に意識を刈り取っていくのですごい。
いったいどういう訓練をしてきたのやら。
残り二人も倒して、縛るのはエドガーに任せる。
俺は店の奥へと向かう。
すると眼帯をした、いかつい男が立ち上がった。
「おいおい。俺たちが誰かわかってるんだろうな? 今なら見逃してやっても……」
俺は振り返ってエドガーに尋ねる。
「こいつの罪状は?」
「そいつは組織のボスでガドウィン。殺人と誘拐、非合法の麻薬取引っすね」
「そうか。――じゃあ、ガドウィン。俺に敵対した罪を償ってもらおう」
「ふざけんな! ――くらえ!」
ガドウィンは小袋を投げつけてきた。
ショートソードで切り払うと、辺りに、ぱっと白い粉が散る。
空いた手で払うが、目や口に入った。ピリピリする。
「くっ! ――痺れ薬か!」
「へへっ、もっと悪い薬さ。一ヵ月は頭がおかしくなっちまうぜ!」
「そうか――ハァっ!」
俺は聖波気を圧縮しつつも、気合を入れて体内の聖波気を放出した。
青白い光が一瞬、かぁっと周囲に放たれる。
それだけで白い粉は吹き飛ばされた。
ガドウィンの顔にかかる。
「うわっ! なにしやがった――ぺっぺっ! ううぅんっ」
ガドウィンが崩れ落ちると、ぐねぐねと体をヘビのようにくねらせた。
薬が効いたらしい。
俺は店内を見渡す。
「これで全員か?」
「いや、あと一人いるっすよ。参謀役が――そこっす」
エドガーの姿が陽炎のようにぶれた。
そしてカウンターの中に現れると、小男の首根っこを捕まえた。
男は震えつつ情けない声を出す。
「ひぇぇぇ! 許してください! 俺はいつも命令されて従ってただけでっ」
「トマソンが殺した奴隷の処理を請け負ってたそうっすね?」
「そ、それはボスが、引き受けたから……」
「まだ息のあった奴隷を嬉々として切り刻んで処分したのは、あんただそうっすね」
「な――なぜ、それを……」
「――弱い奴ほど、弱ってる人を痛めつけたがるっすね」
エドガーは骨が折れそうなほど強く、小男を縛り上げる。メキッという鈍い音とともに小男が悲鳴をあげた。
そして全員を店の床に転がした。
エドガーが言う。
「どうするっす?」
「ん? 俺だけじゃなくリリシアをひどい目に遭わせようとしたんだから、この程度で許す気はないな。しかも、ぷちエリの偽造や毒混入は、成功してたら洒落にならない大被害が出たはずだ。二度と逆らう気がなくなるよう、体に教え込まないといけないんじゃないか?」
俺は振り上げた剣に聖波気を込めて光らせつつ言った。
エドガーはぼさぼさの髪を揺らして頷く。
「それが正解っすね。こういうやつらは心も砕いておかないと、あとあと面倒っす」
ひどく冷静な声で答えたエドガーが、ぽきぽきと指を鳴らして歩く。
縛られた男たちが震えあがった。
「な、なにする気だ!」「おい、やめろ!」「た、助けてぇ!」
剣を振るい、エドガーの拳が唸る。
「ぎゃあああ!」「いてぇえええ!」「ひでぇえええ!」
「金ならやるから、見逃してくれ!」「無理矢理奴隷にした美人もお前にやるから!」「言う、全部言う! 強請りのネタも全部教える、だから命だけは――」
男たちが情けない悲鳴を上げて、さらには泣いて懇願する。
俺は剣を振る手を止めて低い声で問いかける。
「もし俺やリリシアが抵抗せずにされるがままになった時、泣いて懇願したらお前たちは許してくれたか? ――どうだ、言ってみろ!」
「そ、そりゃあ許す、許すぜ!」「助けるに決まってる、だから俺も助けて――」
他の男たちも口ごもりながらも、嘘っぽい声で「許した」とか「当然助けた」とか口々に抜かした。
するとエドガーがぼさぼさの髪の下から、凍てつくほど冷たい視線で見下ろす。
「俺っち、多くの国の言葉をしゃべれるっすけど。クズの言葉は習ってないんで、何言ってるかちょっとわかんないっすね」
「そんなっ――痛ぇ!」「許し――ぎゃあ!」「助け――ひぎぃ!」
その後は、男たちが泣いて謝っても、俺は剣を振るい、エドガーは拳を振るった。
ついでに邪神の像のありかを吐かせた。
ただ、どれだけ尋問しても、呪いの花束はこいつらの仕業じゃない、ということがわかった。
そして彼らの目が虚ろになるころ、ようやく店から運び出して荷車に積んだ。
――ちょっとだけやりすぎたかも。
リリシアにこんな状況を見せなくてよかったと、俺は思った。
昼下がりの気怠い日差しで王都の空気がぬるんでいる。
エドガーが荷車の前に回って引き始めると、俺を振り返って言った。
「こういう仕事は俺っちの独壇場かと思ってたんすけど。アレクさんって本気になったら、ここまでやるんすね」
「まずかったか?」
「いや、甘いほうがまずいっす。絶対に譲歩してはならない相手ってのはいますから。――ていうか、勇者って何となく甘ちゃんかなと思ってたっすけど、さすがアレクさんっすね」
「まあ、勇者のように品行方正に振舞う必要がなくなったからな。守るべきイメージなんてもうない。俺が守りたいのはリリシアだけだ」
「その決意、最高に強いっすね。こいつらが一万人いたってアレクさんには勝てなかったすよ」
「じゃあ、仕上げと行くか」
「はいよっと」
エドガーが元気に荷台を引く。裏通りの細い道に、ガラガラと車輪の音が響く。
そして俺たちは騎士団詰め所に向かって荷台を押して行った。
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