98.チンピラ退治!
王都の朝。
開店準備をしているとエドガーがやってきたので会った。
ひょろっと背の高いエドガーは、ぼさぼさの髪を掻きつつ言った。
「おはようっす、アレクさん」
「早いな。丁度良かったが」
「なんすか?」
俺はポケットから子機を取り出して渡した。
昨日の夜、リリシアを呪った相手をぼこぼこにしようと考えた。
しかしエドガーと連絡取れず不発に終わったため、やり場のない怒りをダンジョン攻略で発散した。
――むしゃくしゃしてやった。反省はしていない。でも少しすっきりした。
俺はエドガーに説明をする。
「これは連絡が取れるようになるマジックアイテムだ。俺に直接連絡入れるもよし、繋がらないときはダンジョンコアのコウに伝言するもよし。意思疎通がしやすくなる」
「便利っすね、ありがとうっす……へぇ、暇つぶし用のパズルとかも入ってるんすね」
「え? そうなのか?」
「はい。ここに」
エドガーが子機の画面を俺に見せてきた。
そこには確かに、色とりどりの華やかな画面が表示されていた。
神のカードを五枚使ってパーティーを組み、パズル玉を揃えて敵に攻撃しながらダンジョンを攻略する『パズル&ダンジョン』略してパズダンと。
本棚に隠れた本好きな少女を捕まえて消していく『マインスイーパー』という遊びが入っていた。
てっきり俺は連絡専用のアイテムだと思っていたので、それ以外では子機をいじらなかった。
こんな遊べる隠し機能があったとは。
「……ちょっと面白そうだな。暇になったらやってみよう」
「俺っちもプレイしとくっす」
「で、開店前から店に来て、どうした?」
俺が尋ねると、楽しそうに微笑んでいたエドガーが、顔を引き締めた。
「今日、朝一番に裏組織のチンピラが嫌がらせしてくるっす。あとぷちエリの在庫に毒を混ぜる気らしいっす」
「ほう。もう潰すか」
「え?」
「裏組織の犯罪歴や居場所はもう、把握してるんだろ、エドガー?」
「ばっちりっす」
「じゃあもう倒そう。そのチンピラが来たら、やるぞ」
「りょうかいっす」
エドガーがニヤっと笑った。
そのとき、ドアがどんどんっと荒っぽく叩かれた。
「――さっそく来たか」
目配せするとエドガーがドアに移動した。やる気のなさそうな態度とは裏腹に、恐ろしく素早い手つきでドアの鍵を開ける。
「ちょっと、アレク。おはよーさん! いるかい!?」
入ってきたのは大家のおばさんだった。
俺とエドガーは毒気を抜かれたかのように、肩を落とす。
「どうした、大家さん」
「店舗押さえたから、ぷちエリ運んでもらっていいかい?」
「ああ、わかったよ。大家の住んでるところに運べばいいのか?」
「うんや。うちが持ってる倉庫さ。すぐそこだよ」
「わかった。確か最初は1200本だったな」
「代金は後払いでね」
「じゃあ、エドガー店番頼む」
「りょうかいっす」
エドガーは、部屋の隅で壁に背をもたれて軽く答える。
大家がふくよかなおなかを揺すって驚いた。
「うわっ、誰かいたのかい!? びっくりするじゃないかい! 気配がしなかったよ!」
「影が薄いってよく言われるっす」
「冒険者の知り合い、エドガーだ。こっちはうちの店の大家さん」
「よろしくっす」
「ひょろっとしてまあ、ご飯食べなきゃダメだよ! ――じゃあ、行こうかい」
「じゃあ、頼んだ」
俺は大家に案内されて、近くの倉庫に向かった。
倉庫は川沿いにあって、三角屋根に赤いレンガの壁で作られた堅牢な建物だった。
中には木箱が運ばれていた。
ポーション用の空き箱らしく、中が仕切られている。
マジックバッグからぷちエリを出しては箱に並べつつ大家に言う。
「そうそう。新しいぷちエリはクラウン印がついてるんだが」
「そうらしいねぇ、王様が大喜びしたって言うじゃないかい。王室御用達なんて、ますます売れちまうよ。値上げしてもいいんじゃないかい?」
「そうだな。2万ゴートは今日までにしておこう。ダンジョンの町では3万で」
「りょーかい。まだ安いと思うけどね」
「あんまり高くすると手が出なくなる人もいるだろうから……あとそうだ。この瓶、回して開けると、新品なら音がするから」
試しに回して一本開けてみた。
プシュッと甲高い音がする。
大家が目を丸くした。
「なんだか、すごいじゃないか」
「古い物や、異物混入された物がすぐわかる」
「品質の証明にもなるのかい。考えてあるんだねぇ。さすがアレクだね」
「まあな」
本当はコウの発案らしいが、言うわけには行かないので、適当にごまかした。
それから1200本のぷちエリを、ささっと詰め終えて俺は倉庫を後にした。
人を避けながら裏通りを歩いて帰る途中、前から歩いてくるシェリルとテティに出会った。
誰もが振り返る美しいエルフ二人は、さながら姉妹のようだった。
シェリルが金髪を揺らして頭を下げる。
「おはようございます、アレクさま」
「おはよう。これからギルドで練習か?」
「はい。基本からしっかりと教えていきます」
「がんばってくるね、アレクさまっ!」
シェリルと手をつないだテティが、ぴょんっと飛び跳ねて答えた。
金髪がふわっと広がった。
「そうそう。店に誰か来てなかったか?」
「エドガーさんがいたよ?」
「そっか。じゃあ、まだなのか。――がんばってな」
「はい、アレクさま」「はーいっ」
朝から元気な二人と別れて俺は店に戻った。
店にはエドガーがいた。カウンターにはリリシアが座っている。膝の上には聖白竜のラーナが乗っていた。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「ただいま、リリシア。来てなさそうだな」
「はい。ラーナちゃんも、やる気のようですが……」
「きゅい!」
ラーナはちっちゃな拳を掲げて鳴いた。
エドガーが子機でゲームしながら首を傾げる。
「おかしいっすね。朝一で襲うって言ってたんですけど」
「ごろつき待ちって人生で初めてだな」
「二度と待ちたくないっすね――あ、レアカード出たっす」
画面を叩いたり横に動かしたりしながら、なにげにはまってるエドガーだった。
――と。
バタンと大きな音を立てて店のドアが開いた。
荒い足音を響かせて男たちが二人入ってくる。
「おうおう。ぷちエリ売ってくれや」
肩を怒らせ、俺をにらみながらカウンターへ向かう。
「いらっしゃいませ。何本必要ですか?」
「これで売れるだけ売れ。最低百本だ」
硬貨一枚だけ放ってくる。
カウンターに大銀貨が一枚、転がった。
リリシアが眉間にしわを寄せて男をみる。
「いったい何の冗談でしょう? ぷちエリは1本2万ゴート。金貨二枚です」
「たっけぇ! ただのポーションだろ! 1000ゴートあれば十分だろ、ぎゃははは!」
男はニヤニヤ笑いながらも大声で怒鳴った。
後ろにいる男なんかは、リリシアの肢体にエロい視線を向けて笑っている。
すると、エドガーが音もなく移動して準備中の札を出すと、ドアの鍵を閉めた。
さらに道に面した窓のカーテンをするすると降ろしていく。
リリシアはラーナに「ラーナちゃん、奥に下がっていなさいね」と隠れるよう促す。
男たちが不穏な空気を感じ取って騒ぎ出した。
「て、てめぇ! なんのつもりだ!?」「こんなことして、ただですむと思ってんのか!」
俺はエドガーに尋ねる。
「こいつらも証拠は揃ってるのか?」
「ばっちりっす。片方は強盗、片方は誘拐の証拠があるっすね」
エドガーの言葉に、男たちが目の色を変えて焦る。
「な、なんだと!?」「何の証拠があるって言うんだ!」
俺とエドガーは無言のまま、彼らの前後から挟むように近づく。指や首を回してポキポキと鳴らした。
そして低い声で俺は言う。
「正直、もう証拠とかどうでもいい――昨夜の時点で滅ぼすって決めてあるからな!」
言い終えるなり俺は殴り掛かった。
彼らが驚愕して体を強張らせる。
「なっ!?」「くそっ!」
とっさに殴り返してきたが、焦ったのか大ぶりだった。
手の甲で払って流しつつ、脇腹を思いっきり殴りつける。
「ぐげぇっ!」
男は白目をむきながら倒れ込んだ。
店内が狭いせいで、男は棚に突っ込んでいきそうになった。
俺は手を伸ばして男の腰のベルトを掴むと、床に叩きつけた。
一瞬で大人しくなる。よく見ると気絶していた。
一方エドガーも、あっさりともう一人の男を片付けていた。
打撃音すらさせずに意識を刈り取った手腕はさすがだった。
二人を縛り上げて猿ぐつわを噛ませると、エドガーが言った。
「残り13人っすね」
俺は頷いて、エドガーを見る。
「じゃあ、行くか。――リリシアは衛兵詰め所に行って、話を付けておいてくれ」
「ういっす」「はいっ、ご主人様!」
そして店をあとにした。
――裏組織の奴らを二度と歯向かえなくするために。
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次話は近日更新
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