85.強敵ダンジョン襲来!
俺はコウのダンジョンにいた。
手前の広間で待っていると、敵ダンジョンの通路が現れた。
真っ赤な光がほとばしって、目が開けていられない。
「くっ――! いったいなんだ!?」
「ご主人様っ! 敵は炎ダンジョンです!」
「きゅい~!」
リリシアと聖白竜ラーナの声が聞こえた。
俺は腕で顔を守りつつ、細目を開けて敵を見る。
広間の壁に幅5メートルほどの通路ができていた。
そこには、ずらっと燃え盛る魔物たちがいた。
通路の天井に頭が付きそうなぐらい大きな燃える巨人、おそらくイフリートだ。
ほかにも炎に包まれたトカゲのサラマンダーや、それより大きなドラゴン。
また炎の馬、炎の鳥がいた。鳥は昔戦ったフェニックスに似ている。
灼熱の集団がいるためか、空気が揺らいで見える。
いや赤いのは石や鉄が赤く発光しているからで、敵ダンジョンは洒落にならない高温状態なのだろうと察せられた。
そんな炎の集団の先頭に、よく知っている人がいた。
燃え盛る炎のような赤いツインテールを逆巻き、スレンダーな上半身裸を腕組みで隠している。
上半身からは炎の熱気が放たれていた。たぶん熱気の原因はこいつだろう。
赤い目が俺を捕らえて睨みつける。
「やはりアレクのダンジョンだったか」
「ルベル!」「ルベルさん!?」
炎に包まれる女性は、ギルドマスターのルベルだった。
彼女がツインテールを手で払うと、赤い燐光が散った。
晒された小ぶりな胸がふるふると震える。
「ルベル……ダンジョンマスターだったのか」
「まあな。似たような感じだ」
「どうしてここが?」
「ふんっ。王都近郊の森に突然80億パワー越えのダンジョンが現れたら、確認しに来るに決まってるだろう?」
「え、そんなに数字高いのか、このダンジョン?」
すると奥の広間からコウが言った。
「チュートリアル終わってますたーのパワーが加算されたです。で、ますたーだけで81億、奥さんが5000万、ソフィシアさんが2020万、ラーナさんが777万、テティさんが5です」
「ここのダンジョンコアはおしゃべりだな。数値をほいほい教えるもんじゃない」
「大丈夫です? だって……いえ、今はいいです。それに、すぐに数値変わりますゆえ。奥さんは毎日深夜に300万~700万、ソフィシアさんはお風呂入るごとに1万増えていってるです」
いろいろ気になったが今はルベルだ。
俺はルベルを見据えて言う。
「それで……ルベル。どうするつもりだ? 俺としては黙っていて欲しいのだが」
俺がダンジョンマスターというだけでなく、天使状態のリリシアとソフィシアも見られてしまった。
ルベルは好戦的な笑みを浮かべつつ、こちらのメンバーを眺めていく。
「さあて、どうするかな? 久しぶりに本気が出せそうな相手だし、少し遊んでみるのも面白そうだ。私に勝ったら秘密は黙っておく、というのはどうだ? くくくっ……エドガーもそちら側か」
「ギルマス、すんません。アレクさんには返しきれない恩があるんで」
エドガーは髪の下から黒い瞳で睨み返すと、どこから取り出したのか、変わった形のナイフやお札が連なった縄を腰に巻いた。
ルベルは口に手を当てておかしそうに笑う。というか状況を楽しんでる。
「なあに遊ぶだけだ。堕天使二人は下がっといた方がいい。焼き天使になるぞ?」
「な、なんてこと言われるのです! ご主人様を守ります!」「私だって属性低減の大魔法が使えますし!」
天使二人は翼をバサッと鳴らして身構えると、ルベルを睨んだ。
けれどルベルは余裕な態度を崩さない。
「耐えられると思うか? 私が本気を出すと、後ろにいる仲間のイフリートやフェニックスですら火傷を負うからな」
天井に頭が付くぐらい背が高いイフリートが燃え盛る顔を大きくうなずいた。
彼の後ろにいる燃える鳥は、怯えるようにぶるぶると震えていた。ルベルのフルパワーを思い出しているのかもしれない。
「なんで火や炎の化身が火傷するんだよ……ちょっと化け物じみてるぞ」
俺が言うと盛大に鼻で笑われた。形の良い胸が跳ねるように揺れる。
「はっ! アレクにだけは言われたくないな……ん? なぜ子供がいる? その子も避難させておけ」
「きゅいっ!」
ラーナは白い髪を揺らして首を振った。ルベルを強いまなざしで睨みかえす。
俺は紹介する。
「その子はただの子供じゃない。聖白竜だ。名前はラーナ」
「なにっ! 聖白竜さまか!? …………そうか、邪魔したな」
ルベルは肩をすくめると、小ぶりな胸を揺らして通路の隅に向かった。
そこに置いてあった装身具――指輪や腕輪、ネックレスを付け始める。
火抵抗や火封印の付与効果があるらしく、着けるたびに荒々しい炎が減って美しい女性に戻っていく。
いや、スタイルだけなら元々美女だけど。まとう雰囲気が怖い。
急な態度の変化に俺は首をかしげて尋ねる。
「えっ、もういいのか?」
「聖白竜様を傷つけるわけにはいかないだろ……あの聖属性のドラゴンゾンビか?」
「ああ、そうだ。大きかったのに材料にしたら縮んだ」
「やはりそうだったのか……世界を救ってくれてありがとう」
「え?」
突然の感謝の言葉に驚くしかなかった。
ラーナを復活させただけだぞ?
しかも世界を救う気なんて俺にはない。ただ自分のためにドラゴンダンジョン作っただけなんだが……。
するとラーナが、てててっと走ってルベルへ向かった。
こちらの広間と相手の通路の境界線までくると、ルベルに向かって両手を差し出した。
「きゅい! きゅきゅ~、きゅきゅいっ!」
何か必死にルベルへ訴えかけている。
装身具を身に着けながらルベルが困った顔で俺を見た。
「ラーナは何と言っているんだ?」
「俺もわからん。何か欲しいみたいだが」
「なんだ? 何か欲しいのか?」
「きゅい! きゅい!」
小さな体全部を使って訴えかける。両手で小さな丸を作りつつ。
それを見ていたルベルが、あ~っと声を上げる。
全身からの炎が完全に消えると、上にマントを羽織った。
そして仲間のところへ戻ると、炎馬の背に乗せた鞄から丸い玉を取り出した。
親指ぐらいの小さな玉。血のように赤い色をしていた。
その赤い玉を掲げつつこちらへ戻ってくる。
「ひょっとして欲しいのはこれか?」
「きゅいいい~!」
ラーナが青い瞳を輝かせて頷いた。
ルベルは境界までくると床を転がしてラーナに渡した。
おそらくこちらの広間に体の一部が入ると、それだけで熱気が吹き荒れるのだろう。
ラーナはすぐに拾い上げて、大切そうに両手で包み込む。
なんとなくわかった。あれが聖白竜に捧げる宝珠の一つじゃないか?
「いいのか、ルベル?」
「宝珠だとするなら、私が持っていてもしかたないものだ」
「ラーナ、ちゃんとお礼言うんだぞ?」
「きゅっきゅい~!」
ラーナはルベルを見て頭を下げた。言葉の意味はわからない。
装備を整えたルベルがこちらを振り返る。
「では今日のことは黙っておこう」
「ルベルが宝珠を持っていたなんてな」
「宝珠はその属性が一番強いところへ発生するようだ。私は火だから赤い宝珠が来た」
「なるほど。他の宝珠もそういったところを探せばいいのか」
「残りは五個か。頑張れよ」
ルベルはラーナを見ながら言った。
俺は頷きつつ肩をすくめる。
「しかしルベルがダンジョンマスターだったとはな」
「ヒントはあったぞ? いくら炎ダンジョンとはいえ、そう都合よく火抵抗や火封印のアイテムが手に入るはずがないからな。ダンジョンコアに協力するたびに一つ作ってもらっていた」
「なるほど。俺も似たようなもんか」
「あとアレクはもう少し圧縮を覚えた方がいいな。私と戦うなら広間にだけ聖波気を満たすぐらいでないと」
「それが難しいんだが……わかった忠告ありがとう、練習してみるよ」
「じゃあ、またな」
フッと強気な笑みを浮かべたのを最後に、通路が閉じた。
燃え盛るダンジョンの光が消えたので一瞬薄暗くなったように感じる。
天井を見上げると青白い光が静かに広間を照らしていた。
俺は気が抜けて溜息を吐いた。
「なんだか、一気に疲れたな……みんな協力ありがとう」
「いえ、お役に立てず、すみません」「私ももっとお風呂入って力付けるね」
リリシアとソフィシアが翼をしまいつつ言った。
また広間の端にいたエドガーが言う。
すでにいつもの彼に戻っていた。腰に巻いた変な道具は見当たらない。
「無事でよかったっす。じゃあ俺っち、調査に戻りますんで」
「ああ、エドガーもありがとうな。助かったよ」
「またいつでも呼んでくださいっす。じゃっ」
エドガーは気安く手を上げて挨拶すると、王都へ続く通路を去って行った。
俺は傍にいるラーナに目を落とした。
幼女は真剣なまなざしで手の中の赤い玉を見ている。
「ラーナ、それが宝珠だろ? 本来は卵に捧げるらしいが、どうするんだ?」
「きゅ~……――きゅい!」
突然、ラーナは宝珠を口に入れた。そのまま、ごくんと飲み込んでしまう。
少し焦って駆け寄った。
「お、おい、大丈夫か!? のどに詰まったらどうするんだ!」
親指ぐらいの小ささとは言え、五歳の子供にとってはのどの大きさぐらいある。
ラーナは小さな体をびくびくと震わせ始めた。
しゃがみ込んで両肩を揺さぶる。
「おい、やっぱり詰まったんじゃ――」
「きゅいいい~――」
ラーナが叫んだ途端、ぴかーっと全身から赤い光を発した。
あまりの眩しさに目を覆う。
「大丈夫か!?」
「ぃぃぃ~!」
赤い光に包まれる中、ぐぐぐっと体が大きくなっていく。
そして赤い光が消えると、青い瞳に白い髪の少女が立っていた。
ただし年齢は七歳ぐらい。背が伸びて手足がすらっと長くなっていた。
俺とリリシアを見てニコニコと微笑む。
「れく、れく! ――りしぁ、りしぁっ」
「おっ、喋れるようになったのか!」
「れくっ! きゅい~っ。れく、あいあと! りしゃ、ありあと!」
ラーナがしゃがんでいる俺に抱き着いてきた。
とても嬉しそうな笑みでいろいろ喋る。
喋れるようになったのはいいけれど、まだ舌っ足らずなので半分ぐらいしか意味が理解できない。
でも話が少しでも理解できると、ラーナは満面の笑みで「きゅい!」とか「きゃい!」と鳴いた。
しばらくラーナの相手した後、俺たちは夕食を食べるために屋敷へ戻った。
前書き上げたのを手直しして新作を投下してます。
『僕は全てを【ヒール】する~村を追放された青年は、拾ったゴミを激レアアイテムに修繕して成り上がる!~』https://ncode.syosetu.com/n6104gm/
人気があまり……やっぱりざまぁ要素がないからダメでしょうか?
タイトルパクりもやばいでしょうか?
感想もらえると嬉しいです。1章10万字まで書いてあります。
あと、おっさん勇者と受賞作が書籍化同時進行になりそうで、執筆時間取れないかも。ごめんなさい。
ゆっくりお待ちください。
次話は明日更新。
→86.スピカとテティとカレーライス




