8.リリシアの正体
夕暮れ時の王都。
高級な宿に泊まった俺は、奴隷のリリシアを強く抱いて愛し合った。
するとリリシアの背中から白鳥のように美しい、白い翼がバサッと生えた。
――え!? 女性って感極まると背中に翼が生えるのか!?
混乱した俺は、口を半開きにして呆然と見ていたが、ようやく気を取り直してリリシアに尋ねた。
「こ、これは……なんだ?」
「つば、翼、みたいです……え。まさか」
リリシアが細い腕を裸体に回して前かがみになり、大きな胸を抑え込むように、ぎゅっと抱いた。
すると白い翼がバサァッとまた広がった。
自分の意思で動かせるらしい。
何度かバサバサやっているうちに、リリシアが何かを思い出したらしく、すみれ色の瞳を見開いて顔を上げた。
「そうです! わたくしは、罪を犯して天界を追放された天使でしたわっ!」
「ええっ!」
「驚くのも無理ありません! それで、子供の勇者を助けたら罪を許すと言われていて……でも、一番大切なその使命を忘れてしまってっ! ――ああ! 本当に申し訳ございません、ご主人様! わたくしはあなたを助ける役目を持っていましたのに……っ!」
リリシアが垂れ目がちの、すみれ色の瞳から涙をこぼして俺にすがり付いてくる。
その華奢な体、白い肌、柔らかな曲線すべてが、許しを請おうと震えていた。
いじらしく、また可愛らしい。
俺は彼女の銀髪を撫でつつ微笑んだ。
「もういい。こうして出会えたんだから、問題ない」
「ご主人さまぁっ! なんてお優しい――でも、本当にごめんなさいっ。どうしてこんな大切なことをっ! 一番大切なことなのに、どうしてっ!」
リリシアが涙を散らして抱き着いてくる。
「いいから、気にするな。きっとまだ思い出せていない事情でもあるんだろう――でも、急にどうして翼と記憶が?」
「ご主人様が桁違いに大量の聖波気を与えてくれたからでしょう……わたくしの罪を清める唯一の力、それがご主人様の聖波気だったのです」
「そうだったのか……だったら、もっともっと聖波気を与えないとな」
「ふぇ……? 今与えたのにもう次の準備に!? さすがご主人様、す、すごいですっ――あっ、んんっ」
俺はリリシアの唇をふさいだ。彼女も必死に舌を絡めて求めてくる。
白い翼をバサバサと羽ばたきながら乱れる彼女は、天使のように美しく。
また妖しいまでに俺の理性を狂わせる堕天使だった。
何度も何度も聖波気を彼女に与えた。与えまくった。
いつしか豪華で広いスイートルームには、白い羽が散らばっていた。
◇ ◇ ◇
王都の朝。
小鳥の声が遠くから響いてくる。
ベランダに面した大きな窓から、心地よい朝日が斜めに入る。
俺は大きなベッドの上で目を覚ました。
白いシーツの上には、何枚もの白い羽が散らばっている。
――何回愛しただろうか。わからないぐらいリリシアを愛した。
それぐらい美しく、可愛く、いじらしく、気高く、抱き締める気持ちが止まらなかった。
最高のパートナーだと思った。
またリリシアの仕草や態度も素晴らしかった。
奴隷商で夜の仕方は知識として習っていたものの、実技は初めてだったので妖艶なほどに初々しかった。
一緒に風呂も入って、そこでも愛した。
俺の初めてを何度も受け入れてもらった。
ただ、勇者の力である聖波気は罪深い行為をしても失われなかった。
女を抱いたら勇者じゃなくなるという話はガセ、もしくは騙されていただけだったようだ。
――が。
横に寝ているはずのリリシアに触ろうと手を伸ばした。
その手が空振りに終わる。
驚いて隣を見ると、彼女はいなかった。
「え……」
逃げた?
リリシアの言葉は嘘だった?
そんな迷いが心をかすめる。
すると、部屋の中にバサッと音が響いた。
目を向けると、裸体にバスローブを羽織っただけのリリシアが、真剣な表情で翼を広げたり、腕の動きに合わせて翼を閉じたり、またはターンしながら翼から白い羽を飛ばしたりしていた。
踊るように、舞うように、白い翼を広げて動き続ける。指先の動きに合わせて散った羽根が躍る。
大きな胸が弾み、長い銀髪が弧を描く。
そんな朝日を浴びて動く姿が、天使のように美しい。
「リリシア……」
「あっ!」
リリシアが俺を見るなり、翼を広げて飛んでくる。
広い部屋の端にいたのに、たったの一蹴りでベッドの傍までやってきた。ほとんど瞬間移動だった。
「おはようございます、ご主人様っ!」
「なにしてたんだ?」
「翼の動かし方や、天使としての戦い方を思い出していました。――全盛期の十分の一ぐらいの力ですが、けっこう戦えそうです」
「なるほど……治癒師じゃなく、天使としては戦い方を知っていたのか……」
「はいっ。これも、ご主人様のおかげです」
「そうなのか?」
リリシアはたれ目がちの瞳をさらに下げて微笑む。
「はいっ。ご主人様が大量の聖波気を与えてくれましたので、封印されていた天使の力が使えるようになったんだと思います」
「そうなのか……俺の無駄に多いと言われ続けた聖波気も役に立つんだな」
「そんな……無駄じゃありません。ご主人様の聖波気を無駄にさせてしまったのは、わたくしがサポートできなかったせいですっ」
リリシアが申し訳なさそうに眉を寄せた。美しい顔が泣きそうに崩れている。
――昨日も俺の腕の中で泣きながら何度も謝られた。
勇者を補佐する役目を果たせなかったことを、そうとう悔いているらしい。
リリシアの華奢な肩に腕を回して抱き寄せた。柔らかな曲線が布越しに伝わる。
「もういいって言っただろ? この広い世界、出会えただけで幸運なんだ」
「はいっ、ご主人さまっ」
リリシアは嬉しそうな笑みを浮かべて俺にしがみついてくる。甘えるように俺をなぞる指先がいじらしい。
ふと翼の端の方に黒い点がいくつも付いているのに気が付いた。
「そういえば、この黒い斑点模様は元からなのか?」
「いえ……それが堕天使の証です。わたくしの罪の深さです」
「でも、昨日より消えてないか?」
「えっ? ――ええっ!? たった一日で!?」
リリシアが肩越しに振り返って翼を見る。
翼の先端がインク壷に付けたような真っ黒だったのが、まだらになっている。
彼女は可愛い済んだ声を震わせて言う。
「ほんとですわ……翼も自由に出し入れできるようになりましたし……大量の聖波気を何度も受け取ることが、ご主人様の救いに繋がっているのでしょうか?」
「ああ、救われてるよ。――このままずっと天使なのか?」
「まだ天使でいられる時間は多くありません……きゃっ!?」
俺はリリシアの銀髪に手を入れると顔を引き寄せた。
可愛い耳へ、そっとささやく。
「だったらもっと動けるように聖波気を与えよう」
「えっ――? ええっ――!? あ、朝ですよ、ご主人様!?」
「むしろ美しいリリシアがよく見える――ん」
「んんっ――!!」
リリシアの可愛い唇にキスをして、さらにしなやかな体を思いきり抱き締めた。
すべてをさらけ出す朝日の中、彼女は恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めていた。
だが、恥じらう態度とは裏腹に、なぜか昨日より大胆かつ激しく求めてくる。
白い翼が喜びでバサバサ鳴る。大きな胸が丸く揺れた。
俺たちは汗を一つに合わせるように、お互いを最後まで深く愛した。
そして、ふと思う。
――600万ゴートは安かったな。
俺にとっては5000兆ゴートの価値がある、と今さらながらに思った。
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