75.閑話 あの時のエドガー・前編
エドガー回。
『第41話』
昼の王都。
アレクの店『ぷちエリ』で、エドガーはアレクから無条件奴隷を大量に購入している金持ちか貴族がいるから調べて欲しいと言われた。
軽く引き受けてエドガーは店を出た。(1秒)
店横の路地に入りつつエドガーは、少しだけ考えた。
――無条件奴隷を大量購入ってことは、奴隷商に行けば購入者リストがあるっすね。金持ちならツケ払いですし。
「風遁――この葉隠れの術」(3秒)
エドガーは術を発動して姿を見えなくすると、建物の屋根を伝って瞬時に移動した。
奴隷商に着く。(5秒)
二階の窓から侵入。
盗賊スキル【宝物探知】を発動。
奴隷商人の部屋にて、顧客リストと購入者リストを見つける。(8秒)
リストの中を見て、トムソン卿が大量購入していると知る。
さらに追記された住所を見る。
沢山購入した奴隷を、ぞろぞろ引き連れて帰るわけがない。奴隷商に言って届けさせるはずだった。
だから購入記録のすぐ下にトムソン邸の住所があった。(9秒)
それからもう一つ【宝物探知】に引っかかった資料を見る。(11秒)
奴隷商がトムソン卿の素行調査をした資料。
ざっと斜め読みするが、失敗した調査だったので記憶にとどめるだけにする。(15秒)
そして奴隷商の窓からトムソン卿の邸宅を見つける。(16秒)
「風遁――風渡りの術」
トムソン卿の邸宅の屋根に着く。(17秒・この後硬直時間5秒)
それから邸宅に入って物色する。当然、盗賊スキルを使用して。(24秒)
すぐにトムソン卿の私室を漁る。(27秒)
【宝物探知】で机の引き出しや書類棚から、奴隷をプレゼントした相手のリストを見つける。(30秒)
さらに盗賊スキルで金庫を開ける。(35秒)
中を漁って非道な行為をしていた証拠を見つける。(40秒)
どうやら、協力者に奴隷や物品を送って、共犯者に仕立て上げているとわかる。
術で写し取るか、考える。(43秒)
しかし、どう考えても100%有罪の証拠になる。
コピーではなく原本を持って帰ることにする。原本を抹消されたら証拠が弱くなるため。(45秒)
軽く後片付け。(47秒)
窓からアレクの店を探す。見つける。(49秒)
「風遁――風渡りの術」
店の近くに術で飛ぶ。(50秒・硬直時間4秒)
この葉隠れの術を消去。
ガチャっと扉を開けて店に入る。(57秒)
アレクが不思議そうな声で尋ねてくる。
「ん、どうした? 忘れ物か?」
「いや、もう調べてきたっす――」
◇ ◇ ◇
『第53話』
ある日のこと。
エドガーはアレクにまた調べものを頼まれた。
「魂は魔界とか幻想界に紛れ込んでいる可能性が高い。過去の勇者の記録があれば調べられるはずだ」「ついでに魔王城に賢者の石があるかどうかも調べてくれ」
軽く引き受けて店の外に出る。(1秒)
「勇者の記録は城か教会っすね――風遁・この葉隠れの術」
エドガーの姿が見えなくなる。
さらに王都の北側にある背の高い城を見る。
「風遁・風渡りの術」
エドガーの姿が消える。(4秒)
城のバルコニーにエドガーが現れる。(5秒・硬直時間4秒)
城の勇者関連資料室へ行く。(15秒)
盗賊スキル【宝物探知】発動。
光った書類を手にとっては、ぱらぱらと見ていく。
地図を見つける。(20秒)
――んー、これは魔界っすか。完全な地図はないみたいっすね……あ、賢者の石はあるんすね。
また別の資料を見る。(25秒)
――幻想界の地図はほぼ完璧っすね。何もないみたいっすけど……これだけあれば、教会にはいかなくてもよさそうっす。必要になったらまた教会に行きましょうかね。
エドガー、床に地図や書類を並べる。(30秒)
それが終わると白紙の紙を持ってくる。
そして懐から巻物を取り出す。(35秒)
「じゃあ、写し取りましょうか――忍法・版画転写の術」
巻物をさっと引き延ばすと、地面に広げた地図や書類にかぶせる。
そして上から擦ってから巻物をはがす。
すると巻物に地図や書類の文字や字形が反転して写し取られた。(40秒)
今度は白紙を巻物に乗せて擦る。
白紙にはすぐに元の地図や書類が転写された。(45秒)
巻物を元通りに直して紙も懐に入れる。(50秒)
床の上の地図や書類を元の場所へしまう。(55秒)
部屋を出てバルコニーへ来る。(65秒)
アレクの店をの辺りを見る。(66秒)
「風遁――風渡りの術」
アレクの店の近くに飛ぶ。(67秒、硬直時間4秒)
この葉隠れの術を消しつつ、店の戸を開ける。(73秒)
エドガーは店に入ってカウンターへ近寄ると、アレクに紙を差し出す。(75秒)
「これが、言われた資料っす」
「すまないな」
◇ ◇ ◇
『第65話の後』
夜明け前の王都。
東の空が薄明るく光っている。
エドガーはまだ寝ている姫を背負って王都外れにある家を出た。
背中のノバラ姫は赤い着物の上にちゃんちゃんこを着て、頭には頭巾を被っている。
エドガーがそっと戸を閉めて音もなく歩きだしたとき、姫がボソッと呟いた。
「子供らに挨拶はしていかぬのかの? アズマ」
「あ、起きてたんすね、おはようっす、姫」
「おはようなのじゃ……ふぁふ」
姫は小さくあくびをした。
エドガーはぼさぼさの髪を揺らしつつ笑う。
「挨拶はいいっすよ、すぐ帰って来るんですから。――夜が明けるまで寝ててください、姫」
「んむ、わかったのじゃ」
ノバラ姫はぺたんとエドガーの背中にもたれると、肩に顎を乗せた。
エドガーは寂しさを含んだ優しい笑みを浮かべると、顔を上げる。
そして薄暗い王都より一足早く朝日に染まっていく山脈の峰を見据えた。
「風遁――風渡りの術」
しゅっ、とエドガーの姿が消えた。
そしてすぐに山脈の山頂近くに移動した。
明けゆく大地がはるか遠くまで見渡せる。
砂漠や草原、森林や大河。ところどこに点在する小さな村や町。
すべてが目覚めようとしていた。
そして東の雲間から赤い太陽が昇り始める。
最初は針の先ぐらいで赤黒く。じょじょにビー玉、蹴鞠ぐらいへと大きくなっていく。
ノバラ姫がエドガーの背中で小さな感嘆の声を上げた。
「おお……大陸の夜明けなのじゃ」
「壮大ですね」
「山の上から見る日の出も、美しいのう……」
朝日に顔を赤く染めつつ感動した声で言った。でも、どこか寂し気な声だった。
エドガーがしっかりと姫を背負いなおす。
「山の上は寒いっすからね。これから何度も山頂に出るんで、服と頭巾はしっかり止めておいてください」
「そうみたいじゃの」
「じゃあ、行きますよ、姫」
「わかったのじゃ」
ノバラ姫が小さな手を回してエドガーにしがみつく。小さな口でまたあくびをかみ殺しながら。
エドガーは遠く地平線の果てを見て呟いた。
「風遁――風渡りの術」
そしてまた、エドガーの姿が消えた。
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短かったので、次話は夜更新。
→76.閑話 あの時のエドガー・中編




