表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ連載中!】追放勇者の優雅な生活 (スローライフ) ~自由になったら俺だけの最愛天使も手に入った! ~【書籍化!】  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第二章 賢者の石編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/166

73.魔王とミコトとエドガーの終わり

 アレクが現れる少し前の、ヤマタ国にあるミコトの城。

 その作業室にて魔王とゴーブが鎧を修正していた。


 ミコトは捕まえた盗人を直々に尋問するとのことで、この場にはいなかった。



 魔王が凶悪な笑みを浮かべて、ゴブリンのゴーブを見ている。

 ゴーブはまた全身鎧を着ていた。

 

「どうだ、ゴーブ? 動いてみよ」


「は、はい。魔王様!」


 ゴーブはぎこちなく動く。がしゃんがしゃんと重たい音がする。

 しかし、肘と膝の関節が曲がり、以前に比べて格段に動きやすくなっていた。


 魔王は顎に手を当てつつ、ニヤリと笑う。


「ふふん、いい感じではないか! 関節部分に、聖獣と魔獣の皮を二枚重ねにして内側に呪印を刻んだ! これで動きやすさ倍増だ! 我輩に不可能はな~い、フハハハハッ!」


「さすがでございます、魔王様!」


 ゴーブが手足をコミカルに動かしつつ魔王を褒め称える。

 魔王は、ぴたっと高笑いを止めてゴーブを見た。


 

「息の方はどうだ?」


「はいっ、苦しくありません! 空気を結晶化させて入れてありますので、丸3日は行動可能です!」


「ふふん、よい感じだな……あとは魔法を使えるようにしたいところだ。今だと密閉されておるから、内側で暴発してしまう……それに聖獣の皮が稀少すぎるのも問題だな。量産するにはコストがかかりすぎる」


「貴重な鎧を着せていただき、ありがとうございます!」


 感激に目に涙をにじませるゴーブ。

 魔王は胸を反らすと、ギザ歯の口を大きく開けて高笑いした。



「なに、アレク対策だ! これを量産した暁には、我々魔王軍は世界に闇の翼を広げるだろう、フハハハハッ――ほげぇっ!」


 突然、魔王が白目をむいてぶっ倒れた。

 ゴーブが驚愕して魔王に駆け寄る。


「ま、魔王様!? いったいどうされたのです、魔王様!?」


「あ、アレクだ……この反則を超えた、頭おかしい感じは、アレクだ――ッ!」


「な、なんですって!?」


 ゴーブはガシャガシャと走って窓まで行く。

 中庭を見下ろすと天使がゆっくりと舞い降りていく。

 その腕の中には、黒髪の男性。



 兜の下のゴーブの顔が、決意でキリッと凛々しくなる。


「魔王様、少々お待ちください! 必ず追っ払ってきますので!」


 全身鎧の上にローブを羽織って姿を誤魔化すと、全力で走って廊下へ出て行った。


「こんなもの……反則、だ……頼んだぞ、ゴーブよ……」


 魔王は、ひくひくと痙攣するのみだった。


       ◇  ◇  ◇


 ミコトの城の中庭。

 俺は白砂の敷き詰められた地面に降り立った。


 近くにはゴザに座ったエドガーがいる。

 俺は剣を拾いつつ、大声で言った。


「俺はフォルティス王国の元勇者アレクだ! えど――アズマに宝を盗むよう指示したのは俺だ! 文句があるなら、俺に言え!」


 剣を構えて怒鳴ると、中庭にいる人々がざわめいた。


「ゆ、勇者!?」「なぜ、泥棒行為を!?」「い、いったい何が!?」



 すると子供の背丈ぐらいの小さな人物が、着ている鎧をガシャガシャ鳴らして駆け込んできた。

 すだれみたいなのをくぐって横たわった男に話しかけると、すぐに出てきて俺に言った。


「元勇者とは言え、そなたは勇者! この国から出て行きなさい! ――と、ミコト様はおっしゃられています!」


「そうしたいのはやまやまだが、俺にも責任がある」


「せ、責任!?」


「ああ、アズマの賞金首解除、生き返ったノバラ姫の優遇、光の宝玉の譲渡。これを認めてもらえるまでは――」


 俺が言い終わる前に、小さな人影が叫んだ。


「認めましょう! ノバラ姫を連れ帰ったのでアズマの罪は不問! ミカワリ衆のノバラ姫は、聖なる復活を遂げた聖女として、ミコト様のお側仕えとして優遇! それに勇者なので闇を打ち払う光の宝玉を求めるのは当然のこと! ――ただ、あなたは元勇者とは言え、勇者! 我が国への入国は許されません! すぐに港町コベに向かうのであれば、今約束したことをすべてを認めます!」


「え、そんなに早く……わかった。じゃあ、アズマを連れていくが、いいんだな?」


「はい! だから、さっさとこの国から出て行きなさい! 行かないならもう、国家間の外交問題ですよっ!」


「わかったよ」


 俺はエドガーを縛る紐を剣で切ると、中庭から踵を返した。

 エドガーを連れて城の外へと向かいながらリリシアに言う。



「なんかあっさり認めてもらえたな?」


「はい、驚きました」


「噂通りミコトという人物は、本当に優しい王様だったようだ。さっきのも首を刎ねるのかと思ったが、実は肩を叩く騎士叙勲みたいなものだったんじゃないか? 焦って勘違いしてしまったのかもしれない。――俺が来ることもなかったか」


「いえ、でも。ご主人様が来られたからこそ、正当な理由が受け入れられたはずです。ご主人様の威光はさすがですわ」


「大げさな。ほとんど何もしてないぞ、俺は」


 俺は肩をすくめて答えた。

 リリシアがエドガーを見る。


「大丈夫ですか? ――全回復オーヒール


 リリシアの手がエドガーに触れると彼の傷が瞬時に治った。

 エドガーが頭を下げる。


「ありがとうっす」


「どうなんだ、エドガー? ミコトは優しい王様だったんじゃないのか?」


「いやもう、アレクさんにはかなわないっすよ。それでいいっす」


 エドガーがなぜか呆れた口調で微笑んだ。肩まですくめている。

 俺は首を傾げつつ答えた。


「よくわからないが、わかった。じゃあ、帰ろう」



 そして中庭の端まで来ると、チラッと後ろを振り返る。

 さっきの小さな人物が、横たわる男に話しかけていた。


 ――あのすだれの向こうで、悠々と横たわっていた人影が名君と呼ばれるミコト様か。

 挨拶できなかったな、失敗した。


 次会うときは、ちゃんと近くまで行って挨拶しようと俺は思った。


       ◇  ◇  ◇


 アレクと言う特大の危機は去ったものの。

 ゴーブは御簾をくぐってミコトを介抱していた。

 ミコトは前合わせをはだけて、色気のある鎖骨と胸板を晒していた。


「大丈夫ですか!? ミコト様っ!」


「ああ……渡し賃一枚、二枚、三枚、四枚、五枚……一文足りな~い」


 息をのむほどに絶世の美貌をしたミコトだが、御髪は乱れて白い頬や薄い肩にかかり、白目をむいて気を失っていた。

 ゴーブが彼の華奢な体を揺すりつつ、必死に呼びかける。


「それ、渡っちゃダメな川です、ミコト様! 船に乗らずに戻ってきてください! お願いします、ミコト様!」


 ゴーブが必死に呼びかけるものの、ミコトはなかなか現世に帰ってこなかった。



 魔王もまた作業室で意識を失ったまま、腕を前に上げて痙攣の運動を繰り広げていた。


       ◇  ◇  ◇


 夕暮れ時のコベ港。

 埠頭の桟橋にて、俺とリリシアとエドガーが午後便の船に乗り込もうとしていた。

 東西に連なる山脈が夕日を受けて赤く色づく。


 その時だった。

 可愛らしい声が港に響いた。


「アズマぁ! アズマぁぁぁ!」


 俺たちが振り返って声の主を見ると、ノバラ姫だった。

 おかっぱの黒髪と、赤い着物の裾をなびかせて駆けてくる。

 その後ろには、赤い装束を来た老人が付き添っていた。



 ノバラ姫は桟橋の傍まで来るなり、息を乱してエドガーを見た。


「待つのじゃ、アズマ。こっちへ来よ」


「はっ、姫様」


 エドガーが桟橋から埠頭へと戻っていく。

 俺とリリシアは船に乗り込んだ。舷側から埠頭を見る。


 するとノバラ姫が俺たちを見た。

「うむ。アレクとリリシアもよう頑張ったのじゃ。褒めてつかわす」


「ああ、みんな無事でよかったよ」「ありがとうございます、ノバラ姫」



 話しているとエドガーが埠頭に戻って、姫の前で片膝をついて頭を垂れた。

 ノバラ姫が黒髪が乱れているのも気にせず、平らな胸を偉そうに反らす。


「さて、アズマよ。そなたも、ようがんばったの。――褒美じゃ」


 ノバラ姫は辺りを見回すと、埠頭に咲く一輪の花に目を止めた。

 小走りで駆け寄って、しなやかな手でそっと手折る。

 それから小さな手で花を大切そうに握りしめて、エドガーの傍へ来て差し出した。


 エドガーはうやうやしく頭を垂れてから、名も無き花を受け取る。


「ははっ、ありがたき幸せ――っ」



 その様子を見下ろして、ノバラ姫は目を潤ませて頷いた。


「うむっ! では、達者での。――えどがぁ」


 アズマとは呼ばなかった。


 エドガーは姫の心遣いを察して、体を震わせつつさらに頭を下げる。

 彼が全身から振り絞るように出す声は、涙声になっていた。


「はい、ありがとうございます、姫っ……姫もどうか、末永くお元気でっ」


「うむ! わらわのことは、もう気にせずともよい。――では、さよならなのじゃ」


 ノバラ姫のふっくらした頬に、一筋の涙が流れる。

 夕日を浴びてキラリと光った。


 エドガーは立ち上がると、もう一度頭を下げて船へと戻ってきた。

 船員が動いて、係留ロープが解かれる。



 船が桟橋を離れて、ゆっくりと進みだす。

 姫が手を大きく振りながら、泣いて叫ぶ。


「たまには顔を見せに来るのじゃぞ、あ――えどがぁ!」


「はいっ、ありがとうございます! いつかまた、必ず!」


 エドガーは髪に隠れた瞳から涙を流しつつ、大声で叫んだ。

 ――上辺では何気ない別れをしてみせても、実際は身分違いの二人。

 たぶん今生の別れとなるのだろう。


 隣ではリリシアが、涙で潤むすみれ色の瞳の端を、そっと細い指で拭っていた。

 俺もまた、少し目が潤んでいたかもしれない。

 夕日に照らされる港がぼやけたまま遠ざかっていく。


 赤い着物を着た姫は、見えなくなるまで手を振っていた。

 エドガーもまた、姫に応えて手を振り続ける。

 見えなくなっても、ずっと。


 ――こうして、8年の歳月をかけたエドガーの長い旅路は、終わりを告げたのだった。

ブクマと★評価ありがとうございます!


少しでも面白いと思ったら、下にある★★★★★をください! 更新する励みになります!


次話は明日更新。

→74.これからのこと(第二章エピローグ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ヤングガンガンコミックスより10月24日に3巻発売!
美しくてエロ可愛いリリシアをぜひマンガで!

追放勇者の優雅な生活(スローライフ)3

追放勇者の漫画化報告はこちら!




小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
前回も思ったんだけども、もし流れで魔王が倒されてしまったらその時点で天使としてのお役目終了で強制帰還な訳だからもっと魔王の身の安全に意識割くべき()だし、ゴーブ君は知られざるガチ恩人なのでは…
[一言] 痙攣の運動って体操かww 魔王様不憫でかわいいw
[良い点] エドガー、お疲れ様でした。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ