7.初めての天にも昇る気持ち
王都の夕方。
奴隷を買い、武器防具を揃え、冒険者登録を済ませた俺は、王都で二番目に高い宿へ泊まった。
一番目はおそらく勇者一行がいるから使わない。
二番目とはいえ内装は豪華。
しかも今日は部屋に浴室のあるスイートルームを借りた。
宿の最上階で見晴らしがよく、広い部屋が二部屋続きの大きな部屋だった。
手を繋いで入ったリリシアが目を丸くする。
「な、なんだか高そうな部屋ですが……」
「ああ、一番高い。金貨7枚の部屋だ。二人で14枚だな」
「そ、そんな! 散財しすぎですわ!」
リリシアが修道服を乱して俺に詰め寄って来る。
そんな彼女を片手で抱きしめる。
「リリシアを大切にしたいからに決まってるだろう? ……その、あれだ。初めてが安宿だと、風呂がないぞ?」
「あぅ……ご主人様……」
リリシアは顔を真っ赤にして俺の胸に頬を寄せた。
柔らかな体温と吐息が伝わってくる。
じわじわと愛おしさがこみあげてきた。
これは誘っていると考えていいのか? ……ダメだわからんっ。
とりあえず俺たちはソファーに座った。
リリシアはされるがままに俺の身体に身を寄せている。
銀髪が流れて俺の肌に触れる。首筋に彼女の吐息がかかってくすぐったい。
――もう、キスしてもいいのだろうか? いや、まだ早いよな?
外はまだ明るいから、きっと違うのだろう。
なんとか普通に過ごそう。
「そういえば、リリシア」
「なんでしょうか?」
「奴隷商で部屋に入ってきたとき、俺を見て驚いていたが、俺のこと知っていたのか?」
「ああ、いえ。ご主人様を見た瞬間、『あ、この人だ』と思っただけです」
「この人?」
リリシアは悲しげに目を閉じた。伏せられた長い睫毛が美しい。
「わたくしは、やらなくてはいけないことがあります……ですが、その使命を忘れてしまいました。確か子供を守れと言われたように思っていました」
「使命……それで孤児院を」
「はい。子供たちはとても可愛くて、守りたかったのですが……どうにも間違っている気もしていました」
「ほう」
「結果的に孤児院は閉鎖、子供たちは別の孤児院に引き取られました……わたくしのやっていたことはすべて無駄だったのかと思いました。――そんな時、ご主人様に会えたのです」
「俺を守るのが使命?」
「……わかりません。でも、ご主人様と一緒にいられるだけで、なんだかこう心が温かくなるようで……今、わたくしは幸せです」
リリシアが俺に細腕を回して、ぎゅっと抱き着いてきた。
その姿、優しい体温、健気な可愛さ、押し付けられる胸の柔らかさ、すべてが理性を破壊する威力だった。
俺はよくわからない衝動が込み上げてきて、自然と彼女を抱きしめていた。
俺の腕の中で華奢な体がされるがままになる。
――抱いている背中や腰は細いのに、柔らかな胸がますます当たる。
もう、我慢できない。
「リリシア……その、するぞ」
「は、はぃ」
見上げるリリシアの、すみれ色の瞳が潤んでいる。頬がほんのりと染まっている。
――ああ、なんて美しいんだ。でも……ほんとに俺がしてもいいのか?
顔を近づけたまま、最後の踏ん切りがつかなかった。
するとリリシアの方から俺の首を抱くようにして、赤く美しい唇を近づけてきた。
至近距離で夢見るように目を閉じて重ねてくる。
そして唇が触れ合った。
この世のものとは思えない、しっとり濡れた柔らかさ。
――これがキスというものか……震えるほどに心地いい。
さらにリリシアが舌を入れてきた。
俺の舌をからめとって、ちゅくっと淫らな音を立てる。
あまりの快感に背筋が震えつつ、俺は内心驚愕する。
えっ、え? キスって舌まで入れるのか!? これが本当のキスなのか!?
ただ彼女ばかりにさせるのも悪いと思い、俺もリリシアを抱きしめて舌を入れ返した。
「あぁ……っ」
リリシアの赤い唇の端から、切ない吐息が零れ落ちる。
その後もリリシアが動いて俺の服を脱がす。
俺もリリシアの動きをまねして、されたこと返していく。
白い肌に長い銀髪が流れ、大きな胸が美しく丸く揺れる。
――と。
リリシアが耳まで真っ赤にして、声を押し殺して耐えていた時だった。
垂れ目がちの潤んだ瞳で俺を切なげに見上げる。
「ご主人さま……一つ言っておかねばならないことがあります」
「なんだ?」
俺は彼女の豊かな銀髪にキスをしつつ尋ねる。
「あぁっ……わたくしはこういうことをするのは初めてです……ひょっとしたら、治癒師の力を失うかもしれません」
「ああ、問題ない。俺も童貞捨てたら勇者の力を失うそうだしな――」
「そんなことは――ああっ!」
彼女が何を言ってるか、もうどうでもよかった。
そもそも常識を持つ奴隷がいればよかったんだし。
俺の衝動は止まらない。
深く溶け合うように最後まで愛していく。
夕日が赤く染めるスイートルームに、俺とリリシアの影が一つに重なり合った。
そして、白紙のように清らかなリリシアを、すべて俺色に染めた。
リリシアの声がひときわ高く響く。
――が、それで終わらなかった。
バサッと。
突然バサッと。
白い翼がバサッと。
なぜか、リリシアの背中から、真っ白な一対の翼がバサッと広がった。
白鳥のような美しい翼。辺りには羽が散り、夕日を浴びて輝いた。
「ふぅ…………え?」
「あぁ……ますたぁー……――え?」
俺たちは突然現れた白い翼を、呆然と見つめた。
思考停止して見つめるしかなかった。
所持金残り、大金貨24枚、金貨1枚、大銀貨5枚、銀貨1枚。
241万5100ゴート。