65.それぞれの一家団欒・後編(エドガー家)
本日2話更新2話目。
アレクたちが楽しげな夕食を食べていた、一方そのころ。
夜の王都の外れに、エドガー隊の拠点になっている安い一軒家があった。
中からは賑やかな子供たちの声があふれてくる。
明るい光の満ちる居間には、六人掛けの大きなテーブルがあった。
その上に、この国の料理がたくさん載っていた。
薄焼きのパンにハムやソーセージなどの具材を乗せて、トマトソースをかけ、たっぷりとチーズをかけて焼いたもの。
牛乳とクリームをたっぷり使った、魚介のシチュー。
鶏肉のから揚げに、グレートボアのどでかいブロック肉の照り焼き。
パンを油で揚げて砂糖をかけたものや、果物もある。
甘いクリームを巻いたクレープもある。
リンゴパイやケーキもある。
しかも一つ一つが大皿の上へ、山のように積み上がっている。
全部で数万ゴートはしそうなごちそうだった。
エドガー隊の子供たちは自分たちでそれぞれ用意したが、目が輝いていた。
特に、戦士少年キーリと、回復士少女のチャーナはよだれを垂らしている。
主賓であるノバラ姫もまた、幼い顔を輝かせていた。
「ほほう、おいしそうなのじゃっ! アズマよ、これがこの国の名物かのっ!?」
ノバラ姫の元気さに、エドガーが諫める。
「姫、治って起きたばかりっすよ? 少しは自重お願いします」
「何を言う。さっき飲んだ、ぷちえり? あれを飲んだらもう、お腹がすいてすいてたまらぬのじゃ!」
「マジっすか。さすがアレクさんの薬っすね……んじゃあ、まあ食べ過ぎには注意しつつ――みんなも食べましょう」
「「「いただきまーすっ!」」」
全員が手を合わせて合唱すると、目を輝かせて料理に向かった。
それぞれが狙っていた料理を、大皿から取っていく。
ノバラ姫はおいしそうな湯気を立てるピザ風の薄焼きパンにかじりついた。
伸びるチーズに苦戦しつつ笑顔になる。
「とろーっとしておる! とろ~なのじゃっ」
「火傷に注意してくれっす。チーズの下がかなり熱いんで」
「ふぁ! 火傷ひたらあたしが魔法ひゃけますっ! ――あつっ!」
チャーナが口を半開きにしてはふはふと息をした。チーズが熱かったらしい。
剣士ユマと探索者のシーマはシチューを食べて目を見開く。
「ん! シチューもおいしい!」「こんな具沢山、初めてっ」
狩人のモクは眼鏡を上げつつ唐揚げを食べる。
「すごく豪華ですね?」
「姫復活のお祝いっすから!」
「これなら毎日復活してくれてもいいぜ?」
キーリがニヤッと笑って姫に親指を立てた。
ノバラ姫もまんざらでもない様子で頷く。
「うむ。頑張ってみるかのう?」
「やめてください。破産します」
エドガーが胸を押さえて、大げさに辛そうな口調で言った。
その仕草がおかしくて、あははっとみんなが屈託のない笑い声を立てる。
だが、口と手はせわしく動く。
笑いながらもみんな食べるのに夢中だった。
特にノバラ姫はいつになく楽しそう。
同年代の子供と遊ぶことも、誰かと一緒に食事することも、ともに初めての経験だった。
毒見をしていない、出来立て熱々の料理を食べることも。
それらをテーブルに身を乗り出して、大皿から取り合うことも。
おかっぱの黒髪を派手に揺らして、弾ける笑顔が絶えなかった。
そうして、とても賑やかで楽しい時間が過ぎた。
しばらく時間が流れて。
テーブルの上にある料理がどれも半分以上減ったころ。
みんなはデザート的な甘いものをつつくようになっていた。
自然とこれからのことを話し合う。
「一週間も離れちゃうんですね~寂しいです」
一番小さな回復士の少女、チャーナが眉を下げて悲しそうにつぶやいた。
エドガーは彼女の座る椅子の後ろにしゃがんで、目線を合わせつつ頭を撫でた。口の端に笑みを浮かべて言う。
「大丈夫っすよ。チャーナちゃんは強い子に育ったすから」
「たいちょーがいないと、まだまだ心配ですっ。とっさに魔法使えるか、間違えないか……」
「じゃあ、これ、あげるっすよ。回復魔法に失敗したら、これで治療するといいっす」
エドガーが腰に下げていた手のひらサイズの小物入れ――印籠を手に取ってチャーナに渡した。
チャーナは目を丸くする。
「えっ! これって隊長の大切な物じゃないんですか?!」
「もう、大丈夫っす。それ持ってれば安心できるっしょ? ……これ、薬入れになってて、ここがこう、こういう仕組みで……」
エドガーは、ふたを開けたり側面を外したりしながら、印籠の使い方を説明した。
チャーナは喜ぶ半面、不安そうな顔をする。
「いいんですか……? こんな高価なもの、もらっちゃって」
「俺っちがいない間は、これが俺だと思って頼ってくれっす。一週間ぐらい、寂しくないっしょ?」
「はいっ! わかりました! じゃあ、貰うんじゃなくて、隊長の分身だと思って預かります! 旅から帰ってきたら返しますね!」
チャーナは元気な笑顔で宣言すると、受け取った印籠を両手でぎゅっと握り締めた。
エドガーは立ち上がって伸びをすると、テーブルを囲む他の子供たちを見ていく。
「そうっすね……みんな俺っちと離れると寂しい……くはないかもっすけど、なんつーか最後の切り札的に思ってたかも知れないから、みんなにも使える道具渡しとくっすね」
そう言ってエドガーは、みんなに折り畳み鉤爪や、仕込み刀、忍具を仕込んだ手甲、魔法布などを渡していった。
明るく元気にぼさぼさの髪を揺らしながら、使い方を教えては何気なく渡していく。
その様子を見ていたノバラ姫がショックを受けていた。
「アズマ……縁起でもない。まるでカタミワ……」
しかし全部言う前に、エドガーが人差し指を姫の唇に優しく当てた。
「違うっすよ、姫。ただ自分の使ってたものを渡して、会いたい寂しさを紛らわしてほしいだけっす……一週間で帰ってこれるんすから」
二人のやり取りを静かに聞いていた少年モクの眼鏡がキラッと光る。でも何も言わない。
ノバラ姫が大いに頷くと、ニヤリと笑った。
「そうじゃの。……であれば、お前たちはもっと寂しい思いをせよ」
「「「ええっ!?」」」
「どういうこと、姫様?」「なんでよ?」「どうして?」
ノバラ姫は大人の真似をするような不敵な笑みを浮かべて胸を反らす。
「ふふん。ただ帰るのはつまらんのじゃ。あちこちめぐって、おいしいものを楽しむのじゃっ」
「「「えええ~!」」」
「ちょっと待ってよ!」「姫様、隊長の帰りがますます遅れちゃう」「ずるいっ」「お土産あるならいいぜ?」
子供たちは口々に抗議したが、ノバラ姫は偉そうに笑って取り合わない。
その様子を、エドガーがぼさぼさの髪に隠れた目を優しそうに緩めて眺めていた。
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