64.それぞれの一家団欒・前編(アレク家)
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夜。
店じまいした後、屋敷のダイニングにいた。
俺とリリシアが並んで座り、正面にはテティとソフィシアがいた。
テティがまたパンに切れ込みを入れては、サラダと肉を挟んでかぶりついていた。
「んふ~、おいしいっ」
「挟んで食べるの好きだな」
「これなら片手で食べられるし、追いかけられた時も持って逃げられるじゃない?」
「意外とダメな理由だった」
テティがすねたように頬を膨らませる。
「なによぉ~。生活の知恵なんだからいいでしょっ」
「ああ、わかってる。でも、もう悪いことするなよ?」
「しないってば。もうアレクさまがいるもんね~っ」
テティがにこにこと笑って挟みパンにかぶりつく。
俺は苦笑しながら肉をかじる。
「ちゃんと働いてくれたらな……今日は店と薬草、どうだった?」
「結構売れた! 30万ゴートぐらい! あと薬草もあたしだけでノルマ達成できたんだからっ」
「それはすごいな。助かったよ、テティ」
「薬草採集、テティちゃんがしてくれたのですね。ありがとう」
俺とリリシアは素直に褒めた。
ところが軽く褒めただけなのに、テティが顔を真っ赤にしてもじもじと目を逸らした。
「う、うん……頑張る。ありがと」
その様子に俺とリリシアは目を合わせて首を傾げた。
推測を話してみる。
「ひょっとして褒められるのに慣れてないのか?」
「ち、ちがっ……わないけど……頑張ったら褒められるって、褒めて欲しいときに褒められるって、初めてだから……だからぁ……う~」
先まで真っ赤にした長い耳を、ぴこぴこ動かしながらうつむいてしまう。
でも小さな口はもひもひと、挟みパンを食べ続けていた。
リリシアが慈しむような大きな笑顔でテティを見る。
「そう……これからはもっと褒めてあげますからね」
「あ、ありがとっ……あたしも、もっと役に立てるよう頑張るねっ」
テティが顔を上げて言った。なぜか翡翠色の瞳が宝石のように潤んでいた。
俺はなんとなく思う。
――頑張ったら褒められる、そんな当たり前のことすら長いことしてもらえなかったんだろうな。
俺は俺のために生きてるだけだが、手伝ってくれる人には感謝したい。
「じゃあ、その調子で。次は精霊魔法を頼むぞ」
「うん、わかった。苦手だけどあたし、できるようになってみせるからねっ」
テティが真剣な顔でこくっと頷いた。
――随分と聞き分けのいい、可愛い子になったもんだと思った。
リリシアが、上品にパンをちぎって食べるソフィシアへ目を向けた。
「ソフィシアさんもお店を手伝っていただいてますし、お賃金をお渡しした方がよいのでしょうか?」
「えっ、私? お風呂に入れてもらってるのに、いいんですか? 店番は勉強や読書し放題ですし、食事もいただいちゃってますし……」
ソフィシアが困り顔で首を傾げた。肩で切り揃えた青い髪がさらっと動く。
俺は納得して頷いた。
「あー、それもそうか。だったら基本無料で、魔法や戦闘の力を使ってもらったら一日に付き金貨1枚の特別報酬ってことで、どうだ?」
「それいいですね。私も気兼ねなくお世話になれそうです」
「じゃ、そうしよう」
俺は食べながら頷いた。
ぶっちゃけ国で一二を争う神聖魔法の使い手なんだから、格安の雇い料だった。
彼女も笑顔で頷き返した。短い青髪がさらさらと、軽やかに跳ねる。
ふと髪が短くなってることに気付いた。
「ん? ソフィシアって髪の毛切ったのか? 前はかなり長かったような」
「あ、わかります~? 一日に何度もお風呂入るから、長いと邪魔だったんで切ってみたんです~」
ソフィシアが手で短い髪を持ち上げるようにすくい上げた。広がる髪が細いうなじを強調して魅力的に見せる。
俺はパンを食べつつ頷いた。
「うん、爽やかで可愛いじゃないか。似合ってると思うぞ?」
「ほんとですか? あはっ。ありがとうございますっ」
ソフィシアが心底嬉しそうに目を細めて笑った。
リリシアがチラッと俺とソフィシアを見たけど何も言わない。
すると、テティが喜ぶソフィシアを見て、不思議そうな声で尋ねた。
「ねえねえ、そのお風呂ってそんなに気持ちいいの?」
「ええ、とっても……体の内側から癒しがしみ込んできて、汚れが浄化される感じですよ」
「へぇ~。だから何度も入ってるんだぁ。――じゃあ、あたしも入ってみていい?」
「「ダメです!」」
リリシアとソフィシアが声を揃えて言った。
テティがぷくっと頬を膨らませる。
「なんでよ~、二人だけずるいっ」
「それは……」
「あのお風呂は大人用なのよっ!」
「そう、それ! ソフィシアさんの言う通りです! 子供は入っては毒なのです!」
「あたしもう、子供じゃないし!」
細い手を動かして、大人のような仕草で髪を後ろに払った。金髪がふわっと広がる。幼い色気が漂った。
しかし、ソフィシアが横からテティの胸をペタペタと叩いた。
「まだまだね~。これがおっきくなったらね」
「胸はないけど、度胸はあるもん!」
彼女たちの言い合いを聞きながら、俺は別のことを考えていた。
――そうか、子供用ぷちエリ風呂もいいな。大人用の半額で提供。
そもそも大人用はいくらになるんだ?
そこでみんなに聞いてみる。
「もしあの風呂を金を取って提供するとなったら、いくらぐらいが妥当だと思う? ――というか、テティも最初の夜に入ってるぞ? 怪我を完全に直したあれだよ」
「ああっ! あのお風呂! ちょっととろみがついたやつ。ソフィお姉ちゃん、いつも蕩ける笑顔で出てくるから、もっとヤラシイお風呂かと思ってた!」
「やらしくないです! 気持ち良すぎて、ちょっとヘブン状態になっちゃうだけですっ!」
頬を染めて必死で反論するソフィシア。青い髪が乱れるように揺れる。
反論になってない気がしたが、突っ込まないことにした。
話が逸れたのでもう一度尋ねる。
「で、いくらすると思う?」
「一生フード取って歩けないなぁ、って思ってたのを治しちゃったから、100万ゴートでも入る人いるんじゃない?」
「えー! それは困りますっ! もっと気軽に入りたいっ。週一としても……2000ゴートぐらいなら? 出せて1万ですっ!」
テティとソフィシアの意見がまた対立する。
俺はスープを飲みながら顔をしかめる。
「どちらの意見もわかるな。二人とも用法が違うからなぁ……」
「確かに素晴らしい効果ですもの……安すぎても、高すぎても、誰もが入れるようにしても、いろいろ問題が起きるかもしれません」
「となると、会員制の高級風呂屋か……ますますいかがわしい雰囲気が出てしまうな」
ヘブン状態になれる大人のお風呂。
絶対、美女や美男子の過剰なサービスがついてくると勘違いされるお店だ。
くすっとリリシアが口を手で覆って笑う。
「もうっ、ご主人様はなんだか生き急ぎ過ぎですわ。お店もまだまだこれからですのに。――もっとゆっくりじっくり事を運ばれてはどうでしょうか?」
「そうだな。足元を固めないうちからふらつくと、転ぶ可能性も出てくるしな。まずはぷちエリだ……まあ、これからもみんな相談に乗ってくれ」
「はいっ」「うん!」「私で良ければ、いつでもっ」
彼女たちの明るい笑顔の返事に満足しつつ、その後も夕餉の和やかな団欒は続いていった。
5500字超えてしまったので前後編に分割します。
早めに読んでもらいたいので、夕方か夜に更新します。
ブクマと★評価をいつもありがとうございます!
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