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【コミカライズ連載中!】追放勇者の優雅な生活 (スローライフ) ~自由になったら俺だけの最愛天使も手に入った! ~【書籍化!】  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第二章 賢者の石編

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61.エドガーのために!

 昼頃の王都。

 俺はコウのダンジョンに帰ってきた。

 魔界探索があっさり終わり、姫の魂と、念願の『賢者の石』を手に入れたのだった。


 リリシアを連れて店に顔を出すと、テティがカウンターに座っていた。


「あ、お帰りなさいっ。アレクさま」


「店の方はどうだ?」


「ちょこちょこ売れるようになってきましたっ――ぷちエリだけしか売れてないけど」


 長い耳をピコピコと揺らして嬉しそうに報告する。

 俺は頷いて答える。


「それはいい感じだな。……というか、まだ昼か。薬草採集を受けとくか、リリシア?」


「はい、森に住んでるカムフラージュになりますから、受けた方がよろしいかと。すぐ終わりますし」


 リリシアの言葉に、テティが笑顔で手を上げた。


「うん! あたしも薬草覚えられるから、やりたい!」


「そっか、じゃあ冒険者ギルドに行ってくる。留守番頼むぞ」


「はーい!」


 テティの可愛い声を背に、俺とリリシアは店を出て冒険者ギルドへ向かった。


       ◇  ◇  ◇


 王都の裏通りを五分ほど歩いて冒険者ギルドに来る。

 人は相変わらず少ない。


 依頼を見たけれど、やはり低ランクの依頼がちょこっとあるだけだった。

 王都周辺の畑がモンスターに荒されているらしく、ネズミやグレートボアの討伐依頼が出ていた。

 ――森なら引き受けたいんだがなぁ。


 とりあえず今日も薬草採集系だけを受けた。

 そしてカウンターの受付嬢に、エドガーへの伝言を頼む。望みの品が手に入った、と。


 

 そして店に戻ると、エドガーが来ていた。

 少し猫背気味の姿勢で、店の前にそわそわと立っている。

 俺は呆れながら言うしかない。


「いや、なんでだよ。早すぎるだろ」


 エドガーがぼさぼさの髪を掻きつつ、口元を笑みで緩める。


「アレクさんからの連絡はすぐに届くよう、ギルドに魔道具渡してありますんで」


「用意周到だな」


「……俺っちにとって、アレクさんとリリシアさんが最後の希望っすから」


 髪で隠れた瞳をギラリと光らせるエドガー。彼の本気が見て取れた。

 俺は呆れつつ頷いた。


「ああ、わかってる。――リリシア、姫の魂はあるんだな?」


「はい、しっかりと、ここに」


 リリシアが大きな胸に手を当てた。

 エドガーの顔が笑みで緩む。



「ありがとうっす! ――さっそく、奴隷商についてきてもらってもいいっすか?」


「えっ? 今からか?」


「お願いします、善は急げっすよっ!」


 エドガーが親指を立ててポーズを取りつつ、ウインクした。 

 いつもの寡黙な彼っぽくない。


「せっかちだな……まあ、それだけ長い年月を一途に思い続けていたってことか」


「そうっす! 姫が俺っちの夢っすから!」


「わかった。じゃあ行こう」


「ありがとっすっ!」


 俺たちは妙なテンションのエドガーに急かされて奴隷商へ向かった。


       ◇  ◇  ◇


 昼過ぎの王都。

 俺とリリシアとエドガーは奴隷商の応接室で魔女コーデリアと会っていた。

 三人並んでソファーに座っていたが、対面に座るコーデリアはニタニタと不気味な笑みを浮かべている。


「ひっひっひ。おかしな組み合わせじゃの?」


「今日はエドガーの付き添いだ」


「そうっす。ようやく手に入ったっす! 金も用意してあるんで、どうかお願いするっす!」 


 エドガーが腰を折るように頭を下げた。

 コーデリアは懐から手帳を取り出して指先を舐める。



「素材が時価の物もあるから、前伝えた値段よりかなり上がっておるぞ。それはよいか?」


「当然っす! それも含めて多めに稼いだんで」


「ふむ……ならばよかろ。先に言っておくが死者蘇生依頼における、わしの雇い料は基本料1週間で1400万、技術料4500万、疲労手当1800万。しめて7700万ゴートじゃ」


「おっけーっす」


「なんだよ、疲労手当って」


 俺の問いかけに、ばあさんは鷲鼻をフンッと鳴らす。


「この術使うと、三日はまともに動けんからの。その間の収入保障やら介護費用やら、魔力治療費やらもろもろじゃ――嫌なら別に、よそに行けばいいのじゃぞ? わし以外に死者蘇生ができるやつがいるのなら、じゃがの? ひゃっひゃっひゃ!」


「ぼったくり放題だな」


「それでいいっす、お願いするっす!」


 エドガーはまたぼさぼさの髪を跳ねさせて勢い良く頭を下げた。

 リリシアが困ったような微笑みを浮かべる。


「まあ、エドガーさんったら。必死なのですね」



 コーデリアは一つ頷くと、手帳を見ながら机の上に広げた紙に数字だけを書いていく。

 それから数字を計算して言った。


「ふむ。今だと全部込みで12億4783万じゃな」


「えっ!? 12億越えっすか! 11億は貯めたんすけどっ」


 エドガーが顔を焦りで歪めつつ、チラッと俺を見た。

 慌てて首を振る。


「いやいや、俺は億の金なんて持ってないぞ?」


「そうっすよね……残り1億4000万以上……一年以上かかっちまいますね。かぁ~、5億5000万って言われたから、倍額貯めたんすけど、無理っすか……」


 がっくりと肩を落とすエドガー。

 ――てか、確か8年前にこの国に来たはず。

 毎年1億3000万も稼いでたのか、この男は。


 なんだかそんなに頑張ったのに、また先延ばしになるのはかわいそうだと思った。

 リリシアも隣で悲し気に眉を寄せている。



 そこで俺はエドガーを助けたくて、ばあさんに尋ねた。


「ぼったくり過ぎじゃないのか?」


「では、おぬしは隣のおなごが死んで、13億で生き返るとしたら安いと思うか? 高いと思うか?」


 俺は隣に座るリリシアを見た。

 通った鼻筋に、垂れ目がちの大きな目。豊かな銀髪が白い陶器のような頬にかかる。

 長い睫毛のすみれ色の瞳が、ぱちくりと瞬きした。

 天使のように美しい微笑を口元と目元に浮かべている。


 俺は頷いて断言した。


「たったそれだけでいいのか。激安だろ」


「であろ?」


「ありがとうございます、ご主人様っ」


 隣のリリシアが嬉しそうに笑った。

 しかし問題は解決していない。

 それに疑問が浮かんだので俺は首を傾げた。



「でもさすがに11億あったら充分じゃないのか? そんなに高い素材が存在するのか?」


「一つの素材で1億超えるものも、あるのじゃぞ? 高くて当然だわい」


「それはなんだ?」


「若返りと一緒で、言うわけなかろうが。ひゃひゃひゃっ」


「まあ、そりゃ当然か――いや、まてよ?」


 俺はぴんっと閃いた。

 死者蘇生は若返りと同じぐらいの禁術のはず。

 だったら。



 俺はマジックバッグを漁って『賢者の石』を取り出した。

 透き通る緑色の正八面体。淡い光を放っている。

 それをテーブルに乗せた。

 すると、尖ったほうを頂点にして、ふわりと浮かんでゆっくり回転し始めた。


 コーデリアが濁った眼を見開いて息をのむ。しわがれた声を裏返して叫んだ。


「お、おぬしぃ! それっ、それはっ!?」


「賢者の石だ。拾ってきた。――これを使えば、エドガーの死者蘇生も安くできるんじゃないのか?」


「お、おお、おおおおお! ――これは、まさに、これまさに! 賢者の石っ――あ」


 震えるコーデリアがしわくちゃの手を伸ばしてきたので、俺はさっと手の中に奪って隠した。



「話聞いてるか? 賢者の石使えば安くなるんじゃないのか? これって何度でも使えるんだろ?」


「むっ! 確かに賢者の石は何度でも使える不変のアイテムじゃが……安くするとなると、エメラルドタブレットの使用を減らして……世界樹の花びらではなく葉だけでいける……あとは、これを、こうして、一週間もかからんか……賢者の石が使えるなら、8億7348万1000ゴートじゃな」


「なら、ここに9億あるっす。釣りはいらないっす!」


 エドガーは手の甲ぐらいある、青白い光を放つ大きな金貨――大聖金貨を取り出して、テーブルの上に9枚並べた。

 含み笑いを浮かべながらコーデリアが手に取ると懐にしまう。


「ふっふっふ、その心意気やよし! 確かに受け取ったのじゃ。必ず成功させようぞ」


「ありがとうっす! お願いするっす! ――それにアレクさんも、伝説のアイテムを貸してくれてありがとうっす! もうマジで、なんでも頼んでください、全部やるっすから!」


「ああ、もちろん。これからも頼む。……しかし。お釣りをあげるにしては多すぎるだろ」


「たぶん他の薬や術と違って、この術は一回きりの気がしてるっす。だから少しでも心地よくコーデリアさんに取り組んでほしいっす」


「よくわかったの。失敗すると灰になるからの」


「なるほど」「エドガーさん、考えておられますわ」


「よかったっす。やれることは全部やっておきたかったっす」


 エドガーが声に決意を滲ませていった。

 コーデリアが頷きながら、俺を見る。



「もう賢者の石を取ってきたとは、さすがわしの目にかなっただけはある――じゃがの、アレクはそんなに大層なものをホイホイと貸し出して大丈夫なのかえ? 貴様はついて来れんぞ?」


「え? どうしてだ?」


「当たり前じゃろ? 聖波気だだ洩れのおぬしがおると、成功するものも失敗してしまうわい。その女と石だけ置いて王都の外……森の方にでも行っておいてくれんかの?」


「よくわからないが、わかった。エドガーとリリシアがいるし、まず大丈夫か……森についたら連絡する。リリシアも何かあったら子機で連絡するんだ」


「はい、ご主人様っ」


 俺は隣に座るリリシアに賢者の石を渡した。

 ――というか、俺が王都にいると失敗するなら、今までどうやってたんだ?

 スケジュールを把握してたのか?


 尋ねようかと思ったが、コーデリアがソファーからゆっくり立ち上がった。



「では、用意を始めようかの。二人はついて来てくれ――よっこらせっと」


 ――まあ、どうでもいいか。

 俺も席を立った。


「じゃあ、またあとで」


「はいっ、ご主人様!」


「ありがとうっす! 本当に……本当に、恩に着るっす!」


 エドガーが素早く立ち上がって、部屋を出て行く俺に頭を下げた。

 そして部屋を出るまで下げ続けた。

ブクマと★評価、ありがとうございます!

月間ジャンル別3位、月間総合6位まで上がってました!

こんなにも高順位が取れるなんて嬉しいです!


次話は明日更新(2回にわけるかも)

→62.暇潰しの縄とノバラ姫

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔女が何故奴隷になってるか?この世界の奴隷の縛りが理解不明。
[一言] よく考えたら、アレクの規格外の聖波気のせいで王都の冒険者ギルドではほぼ討伐依頼がない。 討伐メインの冒険者は生活できないので王都を捨てるしかない。 そんな場所で冒険者相手のぷちエリが商売にな…
[気になる点] いくら時価っつっても、 5億5000万が12億4783万は高騰は酷すぎだろ 2倍以上じゃねーか。足元見てない? あるいは、金稼ぐやる気を失くさせないために、 8年前に安めの値段提示した…
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