60.魔界突入!
※前話を昨日夜8時40分半ごろに全面改稿しました。
※姫の名前をノバラ姫に変更しました。
王都の朝。
アンデッドダンジョンの攻略を終えて俺とリリシアは帰還した。
広間の奥にいるコウに近寄りつつ、袋からダンジョンコアを取り出す。
「じゃあ、魔界へ行く前に、マジックバッグと子機を作ってくれ」
「はいですー!」
球体の横っ腹が、ガシャンと音を立てて開く。
そこに宝石のようなコアを三つ入れた。
小窓が閉まってコウがピカピカと光り出す。
そして広間の端に、宝箱が二つ現れた。
近寄って開けると、白い背負い袋と薄っぺらい板状の子機が入っていた。
両方を手に取りながら尋ねる。
「このマジックバッグはどれぐらい入る?」
「王都にある城一軒ぐらいなら、余裕で入るです?」
「でか! ――これがあれば魔界でもいろいろ拾ってこれるな。子機はリリシアが使ってくれ」
「はい、ご主人様!」
子機をリリシアに渡して、マジックバッグには保存食やロープカンテラなどの必需品を詰め込んだ。
言われた通り、呆れるほど容量が大きかった。
マジックバッグを背負いつつ、俺は言う。
「よし、じゃあ、魔界へつないでくれ」
「あいさー」
手前の広間にまた通路ができる。
ソフィシアが僧衣を揺らして驚く。
「ま、魔界!? 大丈夫なのですか?」
「まあ、問題ないだろ。――じゃあ、店番とコウの護衛、頼んだ」「お願いしますね」
「は、はい! いってらっしゃいませ!」
青い髪を揺らして戸惑う声を背に、俺とリリシアは通路へと入った。
◇ ◇ ◇
通路を通って入り口を出た。
空が赤く、大地は黒い。
ねじ曲がった不気味な木が紫色の葉を茂らせていた。
しかし俺が一歩、足を進めると葉がすべて散った。
そして遠くからガラガラと何かが崩れる音がした。
「ん? 何の音だ?」
リリシアが簡易な地図を見ながら言う。
「あちらの方角には魔王城があるみたいです。確か、魔王城は半壊していたと聞きます。それが崩れたのでしょう」
「そうか。一応、罠がないか用心して行こう」
「はいっ」
俺は剣を手に持って周囲を警戒しながら先へ進んだ。
しかし魔物も魔族も見かけない。
しだいに崩れた城跡が見えてくる。
ただ、様子がおかしかった。
城跡から天へといくつもの光が昇っている。
「ん? なんだ、あれは?」
「――あ!」
「どうした?」
はっとして、リリシアが息をのんだ。
そしてすぐさま両手を重ねるように前へ出した。バサッと白い翼が体を覆うように広がる。
「――魂魄聖導! ノバラ姫!」
手のひらが金色に光るとともに、小さくて白い球体がリリシアの手の中に吸い込まれた。
そのまま胸へ押し当てると、消えた。
俺はまさかと思いつつ尋ねる。
「どうした、リリシア? まさか……」
「はい!こちらがエドガーさんの探しておられた、ヤマタ国の姫の魂です!」
「魔界にあったのか……」
「わたくしも驚きです。こんなところに大量の魂が迷い込んでいたなんて……」
「きっと何かの儀式とか、魔王の策略とかなんだろうな」
リリシアが細い眉を凛々しく寄せて頷く。
「だと思います。やはり魔王は復活しているのかもしれません」
「まあ、なんにせよ。企みを壊せてよかったな」
「はい、ご主人様っ」
俺は魂の昇る城跡に来るとリリシアに指示した。
「じゃあ次は、賢者の石を探してくれ」
「はいっ――闇魔力探知」
リリシアが胸に手を当てつつ、少し前かがみになって白翼をバサッと広げた。
同心円状に白い光が波のように放たれる。
羽が波に乗って広がっていく……。
しばらくしてリリシアが顔を上げた。
輝くような笑みを浮かべて言う。
「ありました、ご主人様! 賢者の石です!」
「本当か! どこだ!?」
「こっちです!」
リリシアの案内の元、瓦礫を踏みつつその場所へ行く。
城跡の真ん中辺りで立ち止まった。
困ったように細い眉を寄せる。
「この下にあるのですが……かなり深そうです」
「地下の宝物庫といったところか……。このがれきを撤去するのは大変だな」
「ええ、人が何人もいりますわ」
「んー。困った。――いや、まてよ?」
「どうされました、ご主人様?」
俺は子機を取り出しつつ、マジックバッグを手に持った。
「コウに材料として吸い取らせつつ、足場に使えそうな石はマジックバッグに保管、そして適時使用ってのはどうだ?」
「さすがご主人様ですわ! それならうまくいきそうですっ!」
リリシアがすみれ色の瞳を輝かせて笑顔になった。
俺は子機を耳に当てつつ言う。
「というわけだ。できるか、コウ?」
『わーい。できるですー、魔界さんの魔素たっぷり材料、手に入るです~』
「そうか、よしやろう。――案内してくれ、リリシア」
「はい、こちらです!」
がれきを吸い込みつつ、階段を作って下に降りていく。
コウが『魔素がないです、浄化されてただの石です~』と文句言ってたが気にしない。
そして宝箱を見つけた。
「これか」
「罠もないようです」
宝箱をあけると、握り拳大の宝石が入っていた。
四角錘を上下合わせにした正八面体の宝石。
透き通る緑色をしていた。かすかに光っている。
――これが、俺の求めていたものか。
何度も若返るために必要な一つ。
嬉しさで顔がにやけるのを堪えつつ、そっけなく言った。
「なんか大きな宝石みたいだな」
「エメラルドみたいですが、ちゃんと賢者の石ですわ……光ってますし。おめでとうございます、ご主人様」
リリシアが指眼鏡をしながら言った。
俺はうなずく。
「ありがとうな。リリシアが傍にいてくれたおかげだ……ついでに他にはめぼしいアイテムあるか?」
「金貨と……呪われた斧があります。魔神斧『怠惰一撃』だそうです。たまに行動できなくなるけれど一撃必殺になるそうです」
「一応拾っとくか。使わなければコウの材料になるだろうし」
「はい、こっちです」
それからゴートではない金貨と、斧を手に入れた。
俺はマジックバッグに全部入れつつ言う。
「なんか、あっさり終わったな」
「はい。魔王もいませんでしたね」
「城も壊れたままだったし。魔界にいると勇者が来るかもしれないから、きっと安全な場所に隠れてるんだろう」
「さすが魔王、一筋縄ではいかないようですね」
「じゃあ、帰るか」
「はいっ」
可愛い声で返事するリリシアを連れて、俺はコウのダンジョンへと帰った。
◇ ◇ ◇
少し前の魔王城。
痩身の魔王は柱の立ち並ぶ広間で、玉座に座って原稿用紙の束に赤ペンを入れていた。
広間の壁際に警備の魔物がいるだけで、数は少なかった。
魔王の傍にいる魔導師ゴーブが大声を張り上げる。
「次! 前へ!」
両開きの扉が開いて、狼の顔をした男が入ってきた。
赤い絨毯を歩いて玉座の前まで進み出る。手には小型の宝箱を持っていた。
「ははっ! こちら、ミミックの小型化に成功しましたです、魔王様!」
「そんなに小さくては弱かろう?」
魔王は原稿からチラッと鋭い目つきを上げた。
狼男は目を輝かせてうなずく。
「さすが魔王さま! そこを逆手に取りまして、危険探知のスキルでは見つけられないようにしました! 例えば机の中に入れる小物入れや、金庫の中に入れる宝石箱にしておけば、油断した勇者や冒険者は食いつかれるでしょう!」
「ほほう、やるではないか! さすがだと誉めてやろう! 採用だ! ふはははっ」
「ははー、ありがたき幸せ!」
狼男は深々と頭を下げた。
報償の金貨が授与される。
魔導師ゴーブがまた大声を上げた。
「では、次――ん?」
ミシミシと魔王城が揺れた。
魔王がいぶかしげな目で柱や天井を眺める。
「地震か? まさか魔界で?」
次の瞬間、ドゴォッ! と激しい音とともに天井が崩れた。
青白い光が壁となって押し寄せる。
魔王が慌てて玉座から立ち上がった。
「なっ、これはっ!?」
光の壁が魔物たちを包み、そして消し飛ばしていく。
壁際に並んで警備していた魔物たちの悲鳴が、広間にこだました。
「ぎゃぁぁぁ!」「そんなぁ!」「助けてください、魔王さまぁ!」
「アレクだぁぁぁ――ふぎゃあ!」
叫んだオークが粉々になって消し飛ぶ。
魔王はマントを広げてゴーブを抱え込んだ。黒い魔力で包み込む。
そして駆け出しながら必死で叫んだ。
「逃げろ、総員、退避ぃぃぃ! ――ぐはぁ!」
光の壁がさらに魔王城を破壊しながら飲み込み、魔王も光に襲われて白目をむいて呻いた。
左腕の中に抱え込まれたゴーブが泣きながら叫ぶ。
「魔王様! わたくしめを置いてお逃げください、魔王様!」
「な、なめるなよ、我輩を――速攻魔法発動・魔道瞬歩」
魔王が原稿の束を持った右手を前に出す。
まだ光に飲み込まれていない指先にある、ごつい指輪が黒く光る。
対アレク用として用意していた逃亡の魔法を込めた指輪だった。
次の瞬間、魔王は外に出ていた。
ガラガラと背後で城が崩れ去っていく。
振り仰ぎ見た魔王が、驚愕で目を見開いた。
「これはアレクか!? アレクが来たのか! いったいどうやって!? ――なぜだ! 魔界の入り口をふさいで、ドワーフに伝わる伝説のマトックも破壊して、海に捨てたというのに!」
「魔王さま、お逃げくださいっ!」
青白い光の壁が、歩く速度で近づいてくる。
「くぅっ!」
魔王はギザ歯を噛み締めると、きびすを返して駆け出した。
たった数秒の一撃で、髪は乱れて服とマントはぼろぼろ。肌にはやけどのような跡が付いていた。
魔王は走りながら何度も後ろを振り返る。
崩れる城から逃げ出せた者はほとんどいない。
そして不思議な光を見た。
崩れた城跡から空へと、清浄な光を放つ玉が昇っていく。
「……あれは、なんだ?」
「魔人死兵に使用していた人間の魂かと思われます、魔王様! 命令をよく聞く無垢な幼子の魂を命令系統に組み込んでおりましたが、やられてしまったのでしょう……全部……全部!」
「そうか……魔人死兵も、我が精鋭たちも、もうダメか……すまん、我輩の力が足りないばかりにっ!」
魔王の目にじわっと涙が浮かんだ。
――二十年かけて集め育てた、我輩の忠実な部下たち。
二十年かけて揃えた軍事力。
そのすべてががれきとなって消えた。
魔王は走りながら叫んだ。
「我輩の……我輩の二十年がっ! すべて消し飛ばされて消えていく……っ! こんなの反則を通り越して卑怯だろうがっ! なんなのだ、この得体の知れない強さは!」
腕の中のゴーブも泣きながら必死で慰める。
「魔王様、お気を確かにっ!」
「これが冷静でいられるかっ! 事実は小説より奇なりと言うが、お話にすらならんではないかっ! なんなのだ、これは! ――こんなもの認めん! 我輩はアレクを勇者とは認めん! くそぉ!」
「魔王様……っ! ではこれからどうされますかっ?」
「くっ、あやつの協力を得なければなるまい……」
「あのお方ですか、それに気が付くとはさすが魔王様です!」
「今に見ておれ、アレク……! 十年後二十年後、貴様が死んだあとは必ずや世界を滅ぼしてくれるわっ!」
威勢はよいが、部下を想って流した涙は頬を伝って止まらない。
魔王はギザ歯を噛み締めつつ、号泣するゴーブと書きかけの小説を抱えて魔界から逃げていった。
姫はあまり良い名前を親に付けてもらえないはずなので、野ばらがしっくりきました。(サクヤはたぶん長女か次女)
シューベルトでもありますし。参考意見くださった方々、ありがとうございます。
そしてブクマと★評価で応援してくれて、ありがとうございます!
おかげで評価ポイント7万越えました!
さて、魔王様ざまぁ回でしたがどうでしたでしょうか?
面白かったら↓にある★★★★★評価をくれると嬉しいです!
次話は明日更新
→61.エドガーのために!




