58.優しいリリシア
55話と56話で主人公が死にかけてる人を操のために見捨てるひどい奴、という指摘がなるほど納得しましたので、少し改稿しました。話の大きな流れは変わってません。
森の屋敷に爽やかな日差しが降り注ぐ朝。
俺とリリシアは寝室のベッドで裸で寄り添っていた。
寝起きのリリシアが俺の胸に頬擦りしつつ甘えるような声でささやく。ぱたぱたと翼が小さく羽ばたいていた。
「ご主人様ぁ……今日はどうされますかぁ?」
「今日は魔界へ行く。どれぐらい手間取るかわからないから、冒険者ギルドの依頼は止めておこう」
「はい、ますたぁ……」
「あとは、昨日倒さなかったアンデッドダンジョンだな。それをちゃちゃっとやっつけてマジックバッグと子機を作ってから、魔界へ行こう」
「わかりましたぁ~」
まだ眠いのか、あどけない頬笑みを浮かべつつ頬擦りをしてくる。
さらさらの銀髪が肌に触れてくすぐったい。
垂れ目がちの瞳が一層垂れている感じがした。
俺はリリシアの頭を優しく撫でつつ尋ねる。
「どうした、リリシア? なんだか甘えんぼだな、今日は?」
「ふわぁ……気持ちいいです、ますたぁ……まだお湯にぷかぷか浮いてるような、心地よさでしゅ……」
「そんなに良かったんだったら、今日も入るか?」
リリシアが頬を染めて、いやいやと首を振る。
そして心地よい鼻声で言った。
「やーん、ふわふわは毎日はダメですぅ……サポートできなく……ふにゃ」
「それもそうか。だったら眠り姫は起こしてやらないとな?」
「ふぇ? ――んんっ!」
俺はリリシアを強く抱きしめて、思いっきりキスをした。
突然の攻勢にリリシアは喘ぎながらも、小さな舌を絡めてくる。
ちゅ、ちゅぱっと互いのキスが淫らな音を立てた。
しばらくして顔を離すと、リリシアは恥ずかしそうに頬を染めて、すみれ色の瞳で睨んできた。
「ご主人様ったらっ! 朝から激しすぎますわっ!」
「でも目が覚めるだろ?」
俺はリリシアの薄い腰に腕を回して引き寄せる。裸の曲線が滑らかに密着した。
リリシアが耳まで真っ赤になって、なだらかな頬をぷくっと膨らませる。
「も、もうっ……! 朝から激しいのは、今日だけですよっ!」
「優しいな、リリシアは」
リリシアが真っ白な翼を広げつつ、俺に柔らかく倒れ込んでくる。
大きな胸が丸く揺れていた。
――そのうちまたしそうだ。
そんなことを思いつつ、朝の穏やかな陽光の中で汗を光らせつつ一つになった。
◇ ◇ ◇
その後、朝食を終えると、俺は冒険者としての準備をして先にダンジョンへ入った。
すると、僧侶のソフィシアが話しかけてきた。
「おはようございます、アレクさん……」
「おはよう、ソフィシア。どうした?」
ソフィシアは青い髪を手で撫でつつ、頬を染めて視線を逸らす。
「あ、あの。昨日は助けてくれて、本当にありがとうございました」
「いやいや。ソフィシアには前に助けてもらったんだし、お互い様だ。それより裸見てすまなかったな」
「いえっ、いきなりだったので驚いてしまっただけで……別に、アレクさんに……だったら、いくらでも……もう、全部、見られちゃったし……」
顔を真っ赤にして俯いてしまう。
言葉の後半は、ごにょごにょ言ってて聞き取れなかった。
俺は今後のことを尋ねた。
「これからどうする? しばらくここにいるか?」
「いてもいいですか? 教会にはまだ戻れそうにないから……メイちゃんがいろいろ動いてくれてるみたいですけど、時間かかりそうです」
「メイちゃん?」
「ああ、魔法使いの、えーっと今の名前は何だっけ? マッキーベルかな?」
「なんで名前が違うんだよ」
「あー、本名はメイディリィって言うんですけど、その名前が大っ嫌いで。それで自分でつけた名前を名乗ってるんですよ。気分次第でマリッサとかメリッサとかミラベルとか、いろいろ名乗ってます」
「そういうとこまで変わってるな。まあ、ソフィシアには店番とダンジョンの護衛をやってもらおうか」
「護衛?」
「他のダンジョンが襲ってくるんだよ。ダンジョン同士で戦争してるんだと」
「まあ、そんな事情があったんですね」
ソフィシアが青い瞳を丸くしていた。
するとリリシアが白い修道服を揺らしてダンジョンに入ってきた。
銀髪を揺らしつつ背筋を伸ばして歩く姿は、おしとやかな天使そのもの。
さらにソフィシアを見るなり、口元に微笑みを浮かべた。
「おはようございます、ソフィシアさん。元気になられたようですね」
「はい、ありがとう……もう少しここにいてもいいかな?」
「そうですね……昨日の入浴をあと三日は続けた方がいいかと……翼が汚れすぎていますので」
「そっかぁ……あ、アレクさんといい仲なのにお邪魔しちゃって、ごめんなさい」
ソフィシアがなぜか頬を染めつつ言う。
しかしリリシアは堂々とした態度で、にっこり微笑んだ。
「大丈夫です。ご主人様が私の運命の人ですから」
「うぅ……正妻の貫禄だぁ、これ……」
「でも、ソフィシアさんは、きっと間違えているんですよ」
「間違い?」
「勇者一人につき導きの天使は一人です。ソフィシアさんの大切な勇者は、どこか別にいるはずですわ」
ソフィシアが頭を抱え込んだ。
「うう……そうだったような……違うような」
「もっと汚れを落とせたら思い出しますよ。湯治を頑張りましょうっ」
「うん、わかった……二人がいないときでも、あのお風呂に入っていい? いつまた心が乱れるかわからないから」
その言葉に俺は頷く。
「そうだな。いつでもエリクサー風呂に入れるよう、多めに作っとくか」
「ありがとう、アレクさん」
はにかむように微笑むソフィシア。
俺は丸い玉のいる奥の広間へと向かった。
そしてコウの傍まで来て話しかける。
「聞いてたか? エリクサーたくさん作っておきたいから協力してくれ」
「あいさー。でもその前に魔力ほしーです」
「ああ、すまないな。――ハァッ!」
俺は球体の表面に手を当てて気合を入れた。
700%ぐらいだった魔力がぐいぐい上昇して、1万%まで溜まった。
するとコウが光を点滅させて喜んだ。
「わーい。またダンジョンレベル上がったです~」
「よかったな。というか、1万も貯めれるのか」
「ティア5ですゆえ」
「よし、じゃあエリクサー作るぞ」
「あいあいさ~」
コウが特大の宝箱を出し、俺が水に手を入れてエリクサーに変えていく。
しばらく作業して何トンものエリクサーを作った。
ふうっと息を吐くと、俺は額に滲む汗を手の甲で拭いつつ立ち上がった。
「これぐらいでいいか。――じゃあ、昨日倒さなかったダンジョンへ行く。つないでくれ」
「はーいですっ」
手前の広間から新たに通路が伸びていく。
ソフィシアが一歩引きつつ通路の伸びた先を見て言う。
「こ、これが敵のダンジョン……」
「じゃあ、行ってくる」「留守番頼みますね、ソフィシアさん」
「あ、はい! 行ってらっしゃいませ!」
彼女に見送られながら、俺とリリシアはダンジョンへと飛び込んだ。
魔王様の人気がヤバいですね……感想全部見てます。嬉しいです。
そしてブクマと★評価、ありがとうございます!
おかげで月間ジャンル別4位! 月間総合7位!
楽しんでもらえてるようで、なによりです!
次話は明日更新
→59.優しさが罪となる存在