54.マジックバッグとダンジョン談義
王都の昼過ぎ。
俺とリリシアは店の洋服ダンスからダンジョンへと入った。
青白い光が明るく照らす細い通路を歩く。
そして広間を過ぎて、コウのいる部屋へと入った。
白い球体に話しかける。
「コウ、マジックバッグが欲しいんで、ダンジョン攻略するぞ」
「わーい! 楽しみです~!」
「で、だ。俺の能力的に楽勝な、アンデッドのダンジョンはわかるか?」
「ダンジョンの方角や距離ならわかるですが、種類まではわからぬです。わかるのはパワーとコア数と材料数だけです」
「うーん、残念。わかれば楽だと思ったんだが……」
俺は顔をしかめて唸った。
するとリリシアが指を立てて言う。
「冒険者ギルドでしたら、各地にあるダンジョンの資料もあるのではないでしょうか?」
「あっ、それもそうか! 冒険者たちに教えなくちゃいけないもんな。調べて来よう」
「でしたら、わたくしが行ってまいりますわ」
「そうか、頼んだ」
「はいっ」
元気よく頷くと、白い修道服を揺らして小走りに駆けて行った。
――でも、離れると不安になるな。
リリシアは町一番、いや世界一可愛いから、変な奴に絡まれたりしないだろうか?
そんな時、子機の存在を思い出した。
「なあ、コウ」
「なんでしょ~?」
「リリシアにも子機を持たせることってできないか?」
「できるけど、できないです~」
「ふむ。まずは理由を聞こう」
俺は頷いて先を促した。
コウは球体表面に青白い光を賢そうに点滅させて慎重に答えた。
「えっと。ダンジョン一つに付き、ダンジョンマスターは一人です。なので子機は一つあればじゅうぶんなのがデフォルト仕様です~」
「なるほど、理屈はあってるな。じゃあ、増やすにはどうしたらいいんだ?」
「……ダンジョンコアが一つあれば、子機を一つ作れるです」
「またコアかっ! テティの分も考えたら、ますます他のダンジョンを攻略しないといけなくなるな」
「今で満足、さらなる快適、ますたーのお気持ちしだいですゆえ」
「わかったよ。攻略に協力する」
「わーい、ありがとですーっ」
ダンジョンの強欲な仕様には辟易したが、素直に喜ぶコウは可愛かった。
リリシアはまだ帰ってこないので、俺は別の疑問を尋ねた。
「あとあれだな。何のダンジョンにするかだな」
「はいです~。手下モンスターを増やすためにも、そろそろ決めた方がよかとです?」
「フィールドダンジョンとやらがあるって聞いたんだが」
「ありますですよ? ただ、フィールド系にする場合、手下モンスターはダンジョンに呼び込むか、倒したモンスターを吸い込んで再生するしか増やせないので。かなり地道な努力が必要です?」
「うーん、そうなると俺はCランク以下は倒せないし、弱いのは逃げるし、増やすのが難しいな」
「アタシもそう思うです~。ますたーは規格外ですゆえ」
「ふむ。だったらコウは希望あるか? 前に言ってたのは、人形ダンジョンだったか」
「ん~、ちょっと保持している材料が変わりましたゆえ、違うのがいいかもです」
「というと?」
俺の問いかけに、コウは球体表面をペカペカと明るく光らせた。
「じゃじゃーん。ドラゴンダンジョンですー」
「ほう。そういやワイバーンに加えてドラゴンゾンビも吸ってたしな」
「それだけじゃねいです。ベビードラゴンゾンビやドラゴンの腐乱した卵も手に入れたです。ドラゴンダンジョンにすれば、全部新品のドラゴンにできるですっ!」
「ほほう、ゾンビじゃない生きてるドラゴンか。……強そうだな。留守も任せられそうだ」
「ですです。竜人系も強いですが」
「む……人型の方が便利か……悩むなぁ」
「じっくり考慮、ナウローディングですっ」
「もう少し考えさせてくれ。ともあれドラゴン系がいいんだな?」
「です。リサイクルはエコでお得ですゆえ」
「リサイクルされたコウが言うと説得力あるな」
「だうー。それは言わぬが花です?」
球体の表面がいじけるように明滅した。
俺は苦笑いしつつ、話を変えた。
「ところで、前から疑問だったんだが、ダンジョンてなんのために戦っているんだ?」
「さあ? 存じかねますです」
「知らないで戦ってたのかよ」
「ダンジョンはどこからきて、どこへゆくのかー。TVのっとTV。それが問題ですー」
「理由もわからないのに、よくダンジョンたちはルールに従って戦ってるな?」
「むーん。前世で悪いことしたから戦ってるのか、いいことしたからここにいるのかわからぬです。でも、すべてのダンジョンを倒して、一番になったら、そのときは新しいステージに立てるです」
「新しい?」
「この世界とは、バイバイしますです」
「上位の世界に転生するってことか」
「たぶん、そーです。……最初の頃はただのすごろくゲームだったです。さいころ振って、出た目の数だけ駒を進んで、一番になったら上がりだです。そーやって、ずーっとゲームっぽいことをし続けたら、今ダンジョンです」
「そっか。コウはダンジョンでも一番になりたいか?」
「なりたいです。でも今までで一番難しいです」
「ルールが複雑な上に、四六時中警戒しとかないといけないもんなぁ」
俺は他のダンジョンに突然攻められたことを思い出していた。
長い時間を、気を配りながら頑張り続ける。
人間だったら神経すり減らしてやってられないだろう。
するとコウはおかしなことを言い始めた。
「それもですが。この世界で一番取るだけでなく、世界戦でも一番が必要です」
「世界戦?」
「異世界にこの世界のダンジョンがワープして戦うです。来る場合もあるです。この時ばかりは同じ世界同士は仲間になって、徹底的に異世界とやり合ってコアを奪い合うです」
「大変だな……今までもあったのか?」
「人間さんの知らぬところで、何度も世界戦あったですー」
「そうだったのか」
するとリリシアが帰ってきた。
銀髪を後ろになびかせて走って来る。少し息を弾ませていた。
「ただいま戻りました、ご主人様」
「おかえり。変な奴に絡まれなかったか?」
「大丈夫でした。ご主人様の大切な人として遠巻きに見られてるだけでした。むしろ牽制し合って波風立てないようにしている、みたいな? ――離れていても守ってくださるなんて、さすがご主人様ですっ」
「そうか。それはよかった……でも心配だったよ」
少しの間、離れただけなのに不安が募っていた。
自然とリリシアに手を伸ばして抱き締めてしまう。
リリシアが腕の中で、頬を染めて喘ぐ。
「あぅ……嬉しいです、ますたぁ……」
しばらくお互いのぬくもりを確かめあってから体を離した。
それからリリシアの持ってきた情報と、コウの持つダンジョンの情報を照らし合わせる。
三つのアンデッドダンジョンが見つかった。コアの数は合計6個。
ついでにエドガーが調べてきた幻想界の地図を使って姫の魂を探す。
しかし見つからなかった。でもこうやって消去法で調べていけばいい。
俺は腰に下げた剣を抜いて片手で持つと言った。
「よし! じゃあ、乗り込むか!」
「はいっ、ご主人様!」
リリシアが細い眉を寄せて真剣な顔で頷く。続いてバサッと白い翼を広げた。
「じゃあ、行くですー」
コウの声とともに、広間から敵ダンジョンに続く通路が新たに開いた。
俺はリリシアを後ろに従えて、通路へと踏み込んでいった。
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