46.僧侶の異変とさすまお!(さすが魔王様!)
※魔王の忠臣、ゴブリン魔導師の名前ゴブを、ゴーブに変更しました。
魔王城は半壊してることにしました。
アレクとリリシアが濃密な夜を過ごしていた頃。
夜の王都の一角にて、杖を持った女魔法使いが片手に酒瓶をぶら下げて歩いていた。
とんがり帽子の広いつばが揺れている。
そして教会の傍にある、僧侶や修道女が住む集合住宅へとやってくる。
勝手知ったるように、門番に軽く挨拶してやり過ごしつつ、敷地を通り抜け、アパート形式の建物を上がる。
二階の一室で立ち止まってノックする。
「そーちゃん、いるー?」
ガチャっと扉が開いて僧衣を着た女僧侶が出てくる。
「どうされたんです?」
「なんか落ち込んでるみたいでさー。今日も休んでたんだって?」
「大丈夫です。明日から出ます」
女僧侶が扉を閉めようとしたが、魔法の杖を突っ込まれて閉められなくなった。
文句を言おうと口を開きかけたが、女魔法使いが先に言葉をぶつけた。
「アレクまた活躍したらしいよ? 邪神の集会所見つけたとかで」
「えっ!?」
不意打ちで戸惑っている隙を突いて、女魔法使いが扉を押し開けて中へ入った。
そして酒瓶を持った右手を掲げる。
「じゃーん! 辛いときは飲んで忘れよー!」
「だ、だめですよっ! 私は僧侶。神に仕える身なんですから、贅沢は出来ません! 帰ってください!」
◇ ◇ ◇
一時間後。
質素な狭い部屋の中、女僧侶と女魔法使いが床に座って低いテーブルを囲んでいた。
酒の入ったコップが二つと、お皿にはおつまみのハムが乗っていた。
女僧侶が真っ赤な顔でテーブルをバンッと叩く。
「そーなんれすよ~、アレクさん、ほんとによくてぇ~。でも、恋とかじゃないんれすぅ~。落ち着くってらけで~」
「ちょ、飲みすぎ~。やっぱフラれたのがショックだったんだねぇ~」
「フラれてませんよっ! ちょっと……ちょっと……んあぁ~、よくわかんないれすぅ~」
女僧侶は両手で頭を抱えてぶんぶんと振った。青い髪が乱れて広がる。
女魔法使いは、コップのお酒を一口飲んでから笑った。
「もうそれ恋っしょ~。アタシは別に、黙々と仕事頑張る人だなぁ~彼氏にしたら物足りなさそうだけど、結婚するならこういうタイプがいいのかな? としか思ってなかったけどさぁ~。そーちゃん、アレクと一緒の時は手や腕を触ったり体を寄せたりして、べったりだったもんねぇ~」
「ええっ!? ほんとれすか!? ……やらぁ、私ったらぁ~」
女僧侶はますます顔を真っ赤にして、顔を手で覆った。
ふふっと女魔法使いが笑う。被っていた帽子を手に取ってくるくると回した。
「自分では気づかないもんだよね~、わかるわかる。だから、あの女と手を繋いだの見て、びっくりしたんでしょ?」
「ほんとに。すごいショックれしたぁ……もう、私の心の中に、ぶわーって黒い衝動が、ぶわぁぁって広がってぇ……あぁ……!」
女僧侶が顔を歪めて青い髪をかきむしった。
その瞬間、彼女の顔にあざのようなものが広がった。
黒だけでなく、青赤緑の交じった汚い色が首筋から左頬へ、そして顔の左側を埋めていく。
女魔法使いが目を丸くして叫んだ。
「ちょ、ちょっと! そーちゃん! どうしたの、そーちゃんっ!!」
「ふぇっ!? な、なに?」
「なに、じゃないわよ! ――ほらっ」
女魔法使いが傍にあった手鏡を、女僧侶の顔の前に出す。
それを見た瞬間、女僧侶が叫んだ。
「きゃーーーーーーっ!」
女僧侶の叫び声はアパートを貫いた。
突然、バンッと扉が開いて年配の修道女が入って来る。
「うるさいですよ、シスター・ソフィシア! いつまで騒いでいるのです! ――って、あなた、その顔! の、呪い!?」
「み、見ないでっ、見ないでぇ~!」
女僧侶は手で顔を隠す。
しかし修道女が外に出て廊下を駆けながら叫ぶ。
「みんな、大変よ! 呪いだわ! ソフィシアは呪われてるわ!」
「違うの、おとといから急にあざが……っ! 呪念消去を何度も唱えたら、大丈夫――うわぁぁぁん!」
女僧侶は泣き出してしまう。
悲し気な顔をして女魔法使いが背中をさするものの、女僧侶はいつまでも泣き止まなかった。
◇ ◇ ◇
一方そのころ魔界では。
半壊した魔王城の中、黒服に黒マントを着た痩身の男が広間を見下ろしていた。
外見の壊れた見た目とは裏腹に、城内はきれいに修理されていた。
当然、人間の目を欺くためだった。
そして魔王が見下ろす広間には、ずらりと巨大な兵士が並んでいた。
魔王がギラリと目を輝かせる。
「ふふん、こやつらが魔人死兵か」
隣にいる魔導師の服を着たゴブリンがもみ手しながら言う。
「そうでございます、魔王様! 剣聖や武神、賢者であった人間の死体をベースにしつつ、魔族や魔獣や巨人の死体で強化した、超最強のアンデッド部隊でございます! 特に食費や、待機中の給料や維持費がかからないのがポイントです!」
「ふはははは! よく考えたな、大魔導ゴーブ! さすが我輩の右腕よ。アレクがいつ死ぬかは、まだ確定ではないからな。しかしまだまだ数が少ない! もっとたくさん作るのだ! 人間たちには悟られないようにな!」
「お任せください、魔王様! 十年後までにあと1万体は作って見せましょう!」
「おお、その意気だ! 頑張るがよいぞ、フハハハハッ!」
褒められたゴーブは嬉しそうに笑顔を浮かべた。
――と。
そこへ突然、蝙蝠が窓から入ってきた。
ゴーブが受け取ると、手の中で手紙に変わる。
読んでいくうちに彼の真剣な顔が驚きに変わっていく。
そして顔を上げて叫んだ。
「ま、魔王様、大変であります!」
「どうかしたのか?」
「『魔族転生~国を追放されて虐殺された俺は、魔族になって復讐しながら多種族ハーレムを作りつつ成り上がる!』が全巻重版かかりました! これで全世界で一億部の大台に乗りました!」
ゴーブの報告に、魔王は背中を反らして高笑いする。
「ふははっ! そうか! ついに来たか! 魔王として活動出来ぬ間も、文化面から人間どもを堕落せしめようとしたのだ! ――して、アンケートの結果はどうだ!?」
「はい! 魔族転生開始前は魔族になりたい人や魔界に住みたい人など0.01%もいませんでしたが! 今や7%の人が、魔族に生まれて思いのまま自由に生きたかったかも、と答えております!」
「フハハハハッ! どうだ人間どもよ、魔王の実力は! 小説を使って文化面から篭絡してやったわ!」
「さすがでございます、魔王様!」
ゴーブが魔導師のローブを派手に揺らして称賛する。
しかし魔王は大げさに辛そうな表情を浮かべると、片手で顔を覆った。
「苦節20年。まったく活動ができず、部下たちも飢えで苦しんだ……そこで小説を書いて本を作り、印刷工場を建てて働き口を作り、化けるのが得意な者たちには全世界展開した本屋チェーン『まおまお』で働かせて糊口を凌がせた……ようやく、我輩の努力が実ったと言えよう!」
「さようでございます、魔王様! 小説だけでなく漫画や児童書、絵本にまで展開したため、大勢の人が存在を知っています。――今では空き地で遊ぶ幼子たちまで、勇者ごっこならぬ魔王ごっこをしているとの報告が!」
「くくくっ……! やはり素直な子供たちには、勇者と魔王のどちらが憧れるべき素晴らしい存在か、真実を見抜いておるようだな! この調子であらゆる生き物の幼児たちに魔王の偉大さを刷り込んでくれるわ! フハハハハッ!」
「そうでございます! 魔王様! なんせ一億部ですから!」
ゴーブが心酔の笑みを浮かべて称賛する。
ただし正確には人にだけ売ってシリーズ累計一億部ではなかった。
魔物や魔族が購入した分も売り上げに含まれていた。
実際に売れたのだから嘘ではなかった。さすが魔王、やり口が大人であった。
すると高笑いしていた魔王が突然、はっと息をのんだ。
「そうだ! 勇者より魔王が優れているということを、さらに小説で訴えればよいではないか! 魔王が勇者にすり替わって、世界を我が物顔に歩き回る! ――どうだゴーブ! いけそうではないか!?」
「さすがです、魔王様! しかし勇者と魔王は敵対者同士。対立相手がいないと物語が盛り上がりに欠けます!」
「なるほど。……では、異世界から来た魔王軍に世界が支配されようとしたとき、目覚めた魔王が勇者になり、人間どもを誑かしていいように使いつつ、異世界魔王をやっつけて大絶賛されるというのはどうだ!? 魔王が欲望のままにハーレムを作りながら、合法的に人間を支配するのだっ!」
「さすがでございます! それなら百万部、いや一千万部間違いなしです!」
「ふはは! 人の心を掴む、邪悪なアイデアを即座に思い付いてしまう我輩の、なんと恐ろしいことよ!」
「はい、恐ろしいでございます!」
「さしずめタイトルは『勇者のふりも楽じゃない~理由? 我輩が魔王だから!~』に決定だな!」
「とても売れそうでございます、魔王様!」
「そうだろう、そうだろう! ――そうと決まれば新作の執筆に励まねばな! 十巻以上になる大作だ! フハハハハッ!」
魔王様はバサッとマントを翻すと、高笑いしながら自室へと向かった。
崩れかけの魔王城に、楽し気な高笑いがいつまでも続いたのだった。
『魔王様が泣きダッシュするまであと3日』
魔王様。その小説、3巻打ち切りでっせ。
拙著「勇者のふりも楽じゃない~理由? 俺が神だから~」(GAノベル)
https://ncode.syosetu.com/n2594ct/
も良かったらどうぞ~。さめだ小判先生のイラストがエロくて最高ですので。
あとブクマと★評価ありがとうございます!
ブクマ14000越えました!
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次話は明日更新。
→47.ダンジョン騒動




