42.奴隷解放作戦
本日更新1回目
日差しが真上から降る昼の王都。
店番用の無条件奴隷を手に入れるため、俺とリリシアとエドガーは街の北側にある高級住宅街に踏み込んでいた。
人通りは少ないが、道幅が広いため陽光が爽やかに降る。
しばらく歩くとエドガーが一軒の屋敷を指さした。
大きな門と広い庭を持つ豪邸。
白壁の三階建てで屋根や柱には装飾が施されていた。
「あそこっす。トムソン卿の屋敷が会場なんで」
「城で見たことあるな、確か国の高官だったはず」
「次期大臣との噂もあるっすよ」
エドガーの情報に、リリシアが大きくうなずく。
「奴隷商さんが探っても不正を見つけられなかったのは当然ですね……いろいろ不利なことは握りつぶしていたんでしょう」
「じゃあ、エドガー。手筈通りに頼んだ」
「了解っす」
エドガーが足音を立てずに去って行った。
白々と日差しを光る道路の角を曲がって消えると、まるで存在が幻だったかのように思えた。
今一緒にいたのが夢だったような感覚になる。
――もうエドガー特有の術とやらを発動したらしい。
ちなみに、来る途中の道で作戦の打ち合わせは済ませてある。
その作戦にのっとり、俺とリリシアは堂々と正面からトムソンの屋敷に向かった。
柵状の門の傍にいた門番が訝し気に俺たちを睨む。
「なんだ、お前たち?」
「愛でる会にゲストとして呼ばれてきた――リリシア」
「はい、ご主人様」
リリシアがすらりとした右手の甲を前に出して、よく見えるように袖をめくった。
白い肌に複雑な隷属紋が入っている。
門番は険しい顔をしたが頷く。
「次からは馬車で来てくれ。人目につく」
「ああ、わかった。――次があればな」
柵状の門が開けられて俺とリリシアは中に入った。
手入れの行き届いた庭を歩いていく。真ん中には噴水があった。
俺はちらりと肩越しに後ろを振り返る。
門番が門を閉めるところだった。
しかし鉄製の柵なのに音がしない。
よく見ると柵が二つある。
門番は幻の柵を使って門を閉めた気になったのだった。
そのまま庭を通って屋敷の前へ。
ドアノックを持って、まずは2回、次に3回、最後に1回叩く。
するとドアが開いた。
執事風の男だが、目の部分だけ穴が開いた黒い頭巾を被っていた。
手にも同じ頭巾を持つ。
「ようこそいらっしゃいました。頭巾は?」
「忘れてしまった」
「左様ですか。どうぞ当方のものをお使いください」
黒い頭巾が渡されたので被った。
そして案内されて広間に入った。
何百人も入れそうな広い部屋。天井も高くてシャンデリアが下がっている。
パーティーは立食式で、白いテーブルクロスのかけられたテーブルには、いくつもの酒や食事が並んでいた。
室内にいる人々は、男も女も黒い頭巾を被っていた。
彼らはみんな部屋の中央を見ている。
そこには泣き叫ぶエルフ少女テティがいた。
台に大の字に縛り付けられた彼女は、鞭で叩かれ、針を刺されて。白い肌に無残な痕が付いている。
エルフを象徴する長い耳も、片方が半分に千切れていた。
「やめて……痛いっ……もう、やめてぇ……っ!」
華奢な体をひねりつつ、少女は焦点の定まらない目で懇願する。
おそらくもう、目は見えていない。すっと通った鼻筋も、今や……。
幼く美しかった顔はひどいありさまだった。
しかし誰も止める者はいない。
にやにや、くすくすと嗜虐的な笑いを零しつつ、酒のグラスを口に運んでいる。
俺はリリシアをチラッと見た。
痛ましそうに顔を歪めていた彼女は、小さくうなずいてから指眼鏡で参加者を見ていく。
それから俺の耳元に口を寄せて参加者の名を告げて言った。
聞き終えると俺はリリシアを連れて、教えられた名前の一人トムソン卿へと歩み寄った。
腹がよく出た、太った男だった。
「なあ、すまない。あんたが責任者か?」
「ん? どこかであったかね?」
「まあ、体格が似ているんでな……でだ、来るのが少し遅れてしまった。俺の奴隷と引き換えになる新しいショーは出来ないか?」
俺の言葉に、黒頭巾を被った中年男はリリシアを上から下までじっくり見た。
「ふふっ、これはなかなか良い悲鳴を上げそうですな……よいでしょう」
トムソン卿は、パンっと手を叩いた。
すると、入ってきたのとは別のドアが開いて、ぞろぞろと十代から二十代の男女が出てきた。
裸体が透けて見える薄い服を着せられて、手には手かせがはめられている。
しかし全員生気がなく、怯えるような視線か、すべてを諦めた無表情をしていた。
俺は頭巾を取ると、剣を抜きつつ言った。
「よし、お前ら全員ここを動くな。奴隷虐待の罪の現行犯だ――リリシア、テティを」
「はいっ」
リリシアが走りつつフレイルを振った。
鎖が蛇のように変幻自在に動いて、男の持つ鞭を叩き落とす。
さらに首に巻き付いて後ろ向きに引きずり倒した。
ゴッ、と鈍い音がして動かなくなる。
そしてテティに駆け寄ると縛られた手足を解きつつ、手を当てて魔法を唱えた。
「全回復――えっ、魔法が!?」
手のひらは光らなかった。驚きで目を丸くするリリシア。
トムソンが、くくくっと笑う。
「ここで魔法が使えるとでも?」
「どんな仕掛けか知らないが、使えるようにすればいいだけだろ?」
「なに?」
俺は剣を両手で構えて、思いっきり魔力を込めた。
「ハァァァ――ッ!」
俺の声に呼応して屋敷が震え、シャンデリアが揺れる。
ドゴォォォ……ピシピシッ――!
遠くから何かが爆発する音、そしてひび割れていく音がする。
魔法封じ結界なんかは、限界以上の魔力が流れると壊れる。
俺が全力で聖波気を流せば突破できるのは過去の冒険で経験済みだった。
トムソンが周囲を見渡して驚きの声を上げる。
「な、なんだこれは!?」
「リリシア、魔法だ」
「はいっ――全回復!」
リリシアの手が光ってテティが回復した。
「使えました! さすが、ますた――」
――が。
次の瞬間、床が抜けた。
「うわっ!」
俺も驚いたが、人々も叫ぶ。
「わぁっ!」「きゃあああ!」「助けてくれ!」
床材とともに、みんな叫びながら地下へと落ちていった。
いつもお読みいただきありがとうございます!
書いてたらとても長くなったので分割します。
次話は夕方か夜更新。
→43.証拠がなかった本当の理由




