40.ばあさん攻略!
奴隷商へ来た。
王都の裏通りにひっそりと建つ、大きな館。
中へ入ると、分厚い絨毯を歩いた先にある、広い応接室へと案内された。
テーブルに供えられたふかふかのソファーに座る。
対面にいる目つきの鋭い初老の男、奴隷商人が口を開いた。
「ようこそいらっしゃいました。今日はどのようなご用件で?」
「魔女のばあさんに質問があってきた。金は払う。あとはこの奴隷商で一番安い無条件奴隷が欲しい。死にかけでも構わないから」
やはり店番用に無条件奴隷が欲しい。
現状はバレたくない秘密が多すぎるから。
それに、ぷちエリクサーがあるし全回復できるリリシアもいるので、怪我人や病人でも問題ないだろうと考えていた。
ところが奴隷商人は苦しそうに顔をしかめた。
「コーデリアさんの価格は本人との交渉次第なので、お呼びしましょう。ただ、無条件奴隷は今は……」
「どうかしたのか?」
「すべて売れております。その、定期的に買ってくれる方がいますので……」
「でも定期的に買うっておかしくないでしょうか? そんなに奴隷ばかり買っても……」
隣に座るリリシアが眉をひそめつつ尋ねた。
奴隷商人は重い口調で話す。
「別荘に送っただの、他国へ贈答用に送っただのと言われまして……人を使って調べてみましたが実際におこなわれており、私どもといたしましてもどうにも……」
「そいつの名前を教えてもらうってできないか?」
「申し訳ございません。個人情報は、お伝えしかねます」
「まあ、そうなるか。直々に交渉して一人欲しかったが……しかたない。ばあさん――コーデリアを呼んでくれ」
「はい、かしこまりました」
奴隷商人が立ち上がって、壁際に控える老執事のところまで行く。
そして何事かを囁いて、執事は足早に応接室を出て行った。
奴隷商人はテーブルに戻らず、入り口まで行く。
俺は茶を飲みながら待つことしばし。
両開きのドアを開けて、魔女のコーデリアが入ってきた。
緑の髪に銀色のメッシュ、帽子のつばを揺らして歩いてくる。
テーブルの対面に座るなりニヤリと笑った。
「よく来たな、アレクよ。どうやら金策のめどがついたようじゃの? ひっひっひっ」
「まあな。それで若返りの薬について相談したい。いくらかかる?」
「薬だけかえ? その剣の相談はいらぬのか? ――まあ、アレクの頼みであれば、10万ゴートでよかろ。くくっ」
「剣?」
「困ってはおらぬのかの?」
おかしなことでも聞くとばかりに、きょとんとした。
リリシアが指眼鏡をして腰に下げた剣を見る。
「あっ、ご主人様! 魔神剣ルーングリードとありますわ」
「なんじゃ、知っておるのか。貪欲の魔神で、死後も剣となって魔力を吸っておるのじゃ……じゃが、とんでもない主人に出会って大変そうじゃがの、ひっひっひ」
「そうだったのか。まあ相談料だ――ほらよ」
俺は袋から大金貨一枚を出して渡した。
コーデリアは枯れ枝のような指先で掴むと、懐に入れる。
「で、相談とはなんじゃ?」
「まずは、若返りの薬の材料を教えてもらえないか? 自分たちで取って来れば安くなるだろうから」
「ぷふー! 大金が稼げる秘術を、そうそう明かすわけがなかろう? 教えて欲しければ5000兆ゴート用意するんじゃな! ひゃっひゃっひゃ!」
コーデリアは噴き出すと、あざ笑うかのように高く笑った。
――まあ、予想した通りの答えだった。
俺は冷静に言葉を紡ぐ。
「そうだろうとは思ってたよ。だから本題前に確認しただけだ」
「ほう?」
コーデリアが笑いを止めて、俺をじっと見てくる。
俺は身を乗り出して言った。
「ばあさんが持っていないアイテムで、かつ若返りの薬を安く作れるようになるアイテムはあるか? あるなら取って来るから、教えて欲しい」
コーデリアは濁った眼を驚くように見開いたが、くくくっと笑い出す。
「さすがはわしの見込んだ男じゃ! その先を見ておるとはな!」
「ああ、金は払うし、何度でも利用する。だが、お互い得になるようにしたい」
「よかろう。……だがの、それはわしですら現存しておるか知らぬ、伝説のアイテムじゃぞ? それでもよいか?」
「構わない。可能性があるのならば」
俺の返答に、コーデリアは深くうなずいた。帽子が揺れる。
「実はわしが手に入れておらぬものが3つある。一つは錬金術の集大成にして究極の闇のアイテム『賢者の石』じゃ」
「聞いたことがありますわ。錬金術師たちはみな、賢者の石を求めて研究を続けている、と」
「その通りじゃ。だが、まだ手に入れたものはおらん。みな研究半ばで力尽きたり、寿命を迎えてしまうのじゃ」
「ふむ……もし手に入れたものがいるなら、そいつはとても長生きする奴なんだろうな」
長生きと言うのが一つのヒントになるかもしれないと思った。
でも、ないに等しいヒントだった。
コーデリアが頷きながらまた口を開く。
「二つ目は、竜族に伝わるという、世界創世の光を閉じ込めたと言われる伝説のアイテム『光の宝玉』じゃ」
「お。こっちはわかりやすいな。ドラゴンに尋ねて回ればわかるんじゃないのか?」
「そんなことぐらい、すでにやったわ。それでもわからんから困っておる」
「なるほど。じゃあ最後は?」
「三つめは、あらゆる呪いを生み出すとされる呪殺の象徴『邪神の胸像』じゃ」
「邪神……リリシアは知らないか?」
横にいるリリシアに尋ねた。
天使なら神関係に詳しいかと思って。
しかしリリシアは悲しそうに眉を下げた。
「ごめんなさい、ご主人様。邪神と一口に言っても複数いますし、記録にも残らない名もなき邪神の可能性もあります。すぐにはわかりません」
「そうか……リリシアでも無理か」
これは大変だぞ。
さすがは伝説のアイテム。
コーデリアは薄笑いを浮かべて言う。
「さすがに期待はしとらんからの」
「もしその三つがあれば、いくらになる?」
「今は粗悪品で代用しておるといった感じじゃからな。だから余計に材料費がかかっておる。そうさの、わしの費用込みで十分の一の2500万でよかろ」
「2500万ゴートか……それならちょっと頑張れば手が届く」
すでに約670万ゴートを所持していた。それに加えてぷちエリクサーもある。
それに歳を取らないリリシアとずっといるんだから、何度も利用する必要があった。
だから安い方がいい。
するとコーデリアが、ニヤリとあくどい笑みを浮かべる。
「くれるというなら、一つにつき、5回分無料で進呈するがの?」
三つ取ってくれば、15回分無料か。
225年分。元の価格で計算すると37億5000万ゴート分。
逆に言うと、それぐらい価値がある代物。
俺は首を振った。
「悪いが売る気はない。すまないな」
「まあ、そうじゃろうて。わしでもそうする――ほかには何かあるかの?」
その言葉に、俺は袋から業務用ぷちエリクサーを取り出した。
「これが作れて大量供給できるから、薬を安くしてもらえたりはしないか?」
「なんじゃこの、でかい瓶は」
コーデリアはしわくちゃの顔をさらに歪めつつ瓶を手に取った。
覗き込んで目を見張ると、指を付けて雫を舐める。
そして、思いっきり咳込んだ。
「ぐふっ! 聖波気の効果が付いたポーションかっ! ……ふむ、なるほどな」
「ぷちエリクサーの名で売るつもりだが……どうした?」
「大量供給と言っておったが、どのくらいじゃ?」
「何リットルでも。なんなら、トンでも」
「ふふん。そういうことか……まあ、よかろう。これはこれで使い道があるのう……まあ、1トンくれるなら初回だけ1000万ゴート値下げしてやろう」
「1500万になるのか。助かるな。あと100ccを1万で売ろうと思ってたんだが」
「安すぎじゃ。3~5万でも売れるじゃろ。言っておくが、わしが高いのは1トンを貯蔵する設備費を引いたからじゃぞ?」
「なるほど。さすが老獪なばあさん。ちゃっかりしてる」
俺は呆れて肩をすくめた。
――でも、これで定期的なつながりはできたはずだ。
手数料を取る奴隷商を通さない、直接取引できる可能性が出てくる。
つまり更なる値下げが期待できるはずだ。
コーデリアは、くくくっと笑いつつ言う。
「他に何かあるかの?」
「いや、今のところはそれぐらいだ。ぷちエリクサーについてはここの店に連絡をくれ。――じゃあ、ありがとうな」
俺は店の地図を書いたメモを渡して立ち上がった。
すると、コーデリアが不意に口を開いた。
「おお、そうじゃ。伝言を忘れておったわい」
「なんだ?」
「帰りに裏口に寄ってほしい、と言っておった」
「裏口? 誰が?」
「エルフの娘っ子じゃ」
まるですでに知っているかのように言う。
ということは、美女エルフか少女エルフのどっちかだろう。
「……わかった。寄ってみよう」
今日は急ぐ用事もなし。採集クエストも森の屋敷の周りで十分可能。
どっちのエルフか知らないが会ってみよう。
面倒なら断ればいいし。
そして一度、奴隷商の館を出ると裏手に回った。
すると裏口の戸を少しだけ開けて、人気のいない裏通りをうかがうエルフがいた。
すらりとした美人のシェリルだった。
近づくと深刻な声で話しかけてくる。
「お手数かけてすみません、勇者さま」
「元勇者だ。どうした?」
「勇者を辞められた方にこんなことを頼むのは間違いだとわかっていますが……テティが、あ、テティというのは、前にいた無条件奴隷のエルフの少女です」
「それがどうしたんだ?」
「一昨日買われていったのですが、ひどい目に遭ってるそうなんです」
「自業自得だろう? それに暴力は禁止のはずだ」
「されてるようです……」
「え」
シェリルは整った顔を伏せて、苦しそうに言葉をはく。
「確かに彼女は悪いことをしました。でも、きっと何か事情があったのではないでしょうか」
「どうしてそう思う?」
「精霊が見捨てていませんから」
「というと?」
「エルフは森に生まれ、精霊とともに生きます。悪いことをすれば精霊に嫌われて、エルフとしての力をすべて失います。それなのに彼女は失っていなかったので……」
「そういや精霊念話とか使ってたな……場所はわかるか?」
「実は精霊で探ってみましたが、隠されてるようで。なぜか彼女との精霊念話も通じなくなりました。秘密の場所に移動させられたらしく……役に立たなくてすみません」
「わかった。手が空いたら探ってみよう……大変だけどな」
「ありがとうございます。では……」
彼女は金髪を揺らして頭を深く下げると、扉を閉めた。
人気の少ない裏通りの中で、俺は肩をすくめた。
「場所のわからないことだらけだ」
「でも、気になります。奴隷をつらい目に遭わせるのは違うでしょうに……」
「そうだな。俺だってリリシアは大切にしたい。というか奴隷をやめて対等になってもらいたいぐらいだ」
「嬉しいです……でも契約がありますから……約16年の契約期間だったと思います」
「160年でも、1億6000万年でも、末永く一緒にいたいな」
「はい……っ」
リリシアは嬉しそうに頬を染めてうつむいた。
でも、しっかりと手を握って来る。
俺とリリシアは指を絡める恋人繋ぎをしながら、自分たちの店へと帰った。
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次話は明日更新。
→41.暗殺者エドガーの献身




