39.ルベルの本音と子供たちの想い
王都の朝。
店を出て5分ほど爽やかな街並みを歩く。
馬車や人々が忙しそうに行きかっていた。
そして二階建ての大きな冒険者ギルドに入った。
すると、なぜか人が少なかった。
首をかしげながら依頼掲示板へ向かう。
「冒険者がいないな?」
「どうしたんでしょう?」
手を繋いでいるリリシアが首を傾げた。
依頼掲示板に来ると、うっと息をのんだ。
「依頼が少ない……」
「金額も安いのが多いですね……」
「ひょっとして俺が王都近辺を歩き回ったせいで弱いモンスターが全部死んだのか」
「そのようです……ダンジョンも倒しましたし、別の街へ移ったのかもしれませんね」
リリシアがぎゅっと手を握ってきた。
俺を慰めようとしてくれているのか。
そんな心遣いが嬉しくて、俺もほっそりした手を握り返した。
――確かに冒険者が減ったのは痛手だが、ぷちエリクサーは需要あるだろう。
「リリシアも心配するな。いい任務依頼がないときは、店番に立てばいい」
「はいっ、そうですね! 気落ちしないなんて、さすがご主人様ですっ」
リリシアが笑顔になって手を握ったまま寄り添ってきた。
全幅の信頼を置いてくれてるのがわかり、とても可愛らしかった。
――と。
背後からジャラジャラと音が近づいてきた。
振り返るとギルドマスターのルベルだった。
ツインテールの赤い髪が逆巻くように揺れている。
「アレクか。毎日頑張ってるな」
「金を稼ぎたくて……でも依頼少ないな。特に討伐系が」
「しばらくはこの調子だろうな」
「そうか。まあ収集系は受けられるし、今はこれでいいか」
「ん? 他の街には行かないのか? だいたいみんな、ダンジョンのある西のウェストアリアか、川を下った先の港町ノースプトンに行ってるぞ?」
「店をするからな。――ああ、これ。試してくれ」
俺は小瓶をルベルに渡した。
彼女は指でつまんで顔の前に持ってくると、不審そうに眺める。
「なんだこれは?」
「ぷちエリクサーだ。今度、店で売るから効果が良かったなら広めてくれ」
「ふん。まあいいだろう」
ルベルはベルトに下げた袋に入れると、腰に手を当てた。
布面積の少ないすらりとした肢体が強調される。
俺はお礼を言い忘れていたのを思い出した。
「それと、昨日は庇ってくれてというか、助けてくれてありがとうな」
「ふっ、私はギルドマスターだからな。子飼いの冒険者の面倒を見るのは、イヤでも当然のことだ」
「嫌でもって……俺、何かしたか?」
「私はお前なんて嫌いだっ」
端正な顔に笑みを浮かべつつも、赤い瞳で睨んでくる。
俺は意味がわからなくて戸惑った。
「えっ?」
「――と、先日までは思っていた。正確には妬んでいたのだ、アレクのことを」
「……あ~、ひょっとして聖と火の違いだけで、辛い目に遭ってたからか?」
彼女は俺と同じぐらい魔力が膨大らしいが、火属性の魔力を生まれ持っていた。
そのため、苦労したらしい。
ルベルが赤髪を揺らして頷く。
「そうだ。アレクは勇者として子供の頃からちやほやされて。私は化け物扱いで地獄を見た。だから羨ましくて仕方なかったのだ。……が、勇者もそこまで羨ましい存在ではないとわかったから、嫉妬心はなくなった」
「そうか……そんなに大変だったのか」
「赤子や幼児の頃はそれほどでもなかったがな。9歳で覚醒して、村を一つ燃やしたよ。それからは自分の力を恨みつつ、人のいない方、木や草の生えない方に逃げたんだ」
「よく今まで生きてこれたな」
「逃げた先にあった砂漠のダンジョンが、火炎ダンジョンでな。誰もいなくて、そこで生きた」
ルベルは肩をすくめた。羽織ってるマントが揺れる。
リリシアが不思議そうに首を傾げた。
「ご飯はどうされたのです?」
「火の精霊サラマンダーや地獄の番犬フレイムドッグを食ったことあるか? なかなか乙な味だぞ? 炎の化身フレイムドラゴンが一番うまかったが」
「ドラゴンまで……す、すごいです……」
「……まさに、想像を絶する地獄を生き抜いてきたんだな……それに比べたら俺なんて生ぬるいもんだ」
「でも不思議ですわ……火攻撃で火の魔物を倒せるのでしょうか?」
「知らんのか? あらゆる金属が蒸発するほど高温になると、雷が発生するんだよ」
「そんなの知るわけないだろ! ……しかし、よくそれでギルドマスターにまでなったな。というか、なろうと思ったというか」
俺は彼女の発言に引きつつも、感心しながら言った。
横でリリシアも同じように引きつつ、うんうんと頷いている。
ルベルは何でもなさそうな口調で、気軽に答えた。
「まあ、その後はダンジョンで火抵抗や火封印のアイテムを手に入れていって、人並に生活できるようになった……が『村一つ燃やした化け物』の汚名をそそぐには、桁違いの名声を手に入れないと人間扱いしてもらえなかったんだよ」
「だから人間で唯一のSSランクになったのか。――ルベルのこと知らなかったが、これからは尊敬するよ」
「ありがとう。まあ、昨日言ったようなこと、すでに気付いていたのに勇者としてのアレクを助けなかったのは問題だ。だから、一ついいことを教えておこう」
「いいこと?」
「今は私と同じで半径500メートルなんだろう? 例えばそれでCランク以下を倒しているとするなら、半径250メートルに魔力を圧縮するとB以下、半径125メートルでA以下、半径62メートルでS以下となる。コントロールが大変だがな」
「圧縮か、考えたことなかったな。今度から練習してみるよ」
「ちなみにエンシェントギアゴーレムを倒すには半径31メートルまで圧縮したぞ。――じゃあ、これからも頑張ってくれ、アレク」
ルベルはアクセサリーをジャラつかせて気軽に手を上げて別れを告げた。
そして、赤いツインテールを揺らして、そのまま奥へと去って行った。
静かになったギルドで、俺とリリシアは少しの間呆然としていた。
燃え盛る炎嵐のような、激しい女性だと思った。
隣でリリシアが、はうっと息を吐く。
「なんだか、すごい方ですね……」
「みんなに恐れられつつも、慕われてたわけだな――さて、リリシア。依頼は選んだか?」
「あっ、はい! 収集系で、できそうなの選びましたっ」
小さな手に持った任務依頼の紙を胸の前に持ってきた。
「よし、行くか」
「はいっ」
それから受付まで行って、薬草収集などの簡単な任務依頼を受けた。
その後、ギルドを出ようとしたら、玄関先で弓を背負った眼鏡の少年と出会った。
エドガー隊の一人だ。
落ち着いた態度で頭を下げてくる。
「おはようございます、アレクさん、リリシアさん」
「おはよう」
「おはようございます、モクちゃん。……エドガーさんの具合は?」
少年モクは少し顔を伏せた。幼さの残る顔に憂鬱な影が差す。
「怪我は治りました。意識も戻りました。でも、ひどくやられた後遺症が出ていて、しばらく動けそうには……今日は僕らでもできる依頼を探しに」
「まあ! ……複数の臓器を治したので、まだ体内で整合性が取れていないのかもしれませんね。もしまた体調が崩れたら知らせてください。治癒しますから」
「ありがとうございます、連絡は冒険者ギルド経由でいいですか?」
「裏通りの端のお店、前はお弁当屋さんだったところがご主人様のお店ですわ」
リリシアがすらりとした腕を上げて店のある方角を指し示した。
少年は思いつめた表情で、黒髪を揺らして頷く。
「そこ知ってます。――わかりました、いなかったときは置手紙します」
横で聞いてた俺は、なんだか深刻そうだと思った。
まあ今は養父代わりのエドガーを失ったらと思うと、子供たちは不安で仕方ないのだろう。
そこで鞄をごそごそ漁って、ぷちエリクサーの小瓶を取り出した。
「えーっと、モクくんだったかな。これをエドガーに飲ませて欲しい」
「なんでしょう、これは?」
「今度うちの店で売り出す目玉商品だ。名付けて、ぷちエリクサー。魔力や体力のほか、状態異常なんかを治すはずだ」
「えっ! そんな高価なもの、貰っていいんですか?」
「山ほどあるからな。その代わり効果が良かったら、宣伝してくれよ」
隣のリリシアも微笑んで諭す。
「ご主人様特製の薬ですから、効果も素晴らしいものです。お金はいらない代わりに、ぜひ使用した感想を聞かせてくださいな」
「は、はい! ありがとうございます! さっそく隊長に飲ませてきますっ!」
モクはお礼もそこそこに、小瓶を受け取ったらいきなり走り出した。
てか、依頼を受けに来てたはずなのに。
目的を忘れるぐらい、エドガーが心配だったか。
ただ険しかった凛々しい顔が、今は笑みを噛みしめていた。眼鏡がきらりと朝日に光る。
――うむ。人助けをすると気持ちがいいもんだ。
しかも子供が笑顔になってくれたことが嬉しい。
あとは効いてくれることを祈るばかりだ。
するとリリシアが俺の腕をそっと抱いてきた。大きな胸に挟まれる。
微笑みを浮かべてささやく。
「ありがとうございます、ご主人様。ご主人様が優しさを見せると、わたくしまで嬉しくなってしまいます」
「そうか。さすがは俺の補佐役だな。だったらこれからもリリシアを嬉しがらせるよ」
「はぃ……嬉しいです」
腕を抱くリリシアが、肩のあたりにぐりぐりと顔をこすりつけてきた。
子犬みたいな嬉しさの表現だった。
どんな仕草も可愛すぎた。
「じゃあ、次は奴隷商だ。行くぞ」
「はいっ、ご主人様っ」
俺はリリシアを連れてゆうゆうと歩き出した。
きっとルベルのダンジョン探索は、火炎バリアを取ったボンバーマン状態。
ブクマと★評価ありがとうございます!
おかげで週間2位になれました!
ストック尽きましたが、できるだけ毎日更新します!
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