34.マリウス断罪
本日更新1回目。
俺とリリシアは王都東と南山脈にあるダンジョンを攻略した。
冒険者ギルドに帰ってダンジョンコアを提出しつつ報告すると、ギルドマスターのルベルが直々にやってきた。
体中につけた装身具をジャラつかせながら寄って来る。
「まさか二日でダンジョンを攻略するとはな。さすがアレクだ」
「全員で攻略していたのに、横から手柄をかっさらうようなことになってすまない」
「いいや。Aランクのエドガー隊や勇者マリウス隊まで失敗していたから、むしろ助かった。あんな強敵がいるなんて、アレクがいなかったらどれだけの被害が出たか……」
「え? マリウスまで? 勇者が負けるほどの強敵はいなかったはずだが……」
「途中まではな。マリウスは偽物の勇者だった。その虚飾が剥がれたんだ」
「はあ、そうですか」
何を言ってるのかよくわからないので、あいまいな返事をするしかなかった。
というかミスリルゴーレム倒しただけで、褒めすぎじゃないかと不思議に思った。
なぜか横にいるリリシアが、銀髪を揺らして深くうなずく。
「やはりそうでしたか……勇者に相応しくない人だと思っていました」
「まあ、人当たりはいいが、裏は最悪な奴だったものな」
俺はあざ笑いを浮かべるマリウスの顔を思い浮かべながら言った。
するとルベルがアクセサリーをジャラッと鳴らして腰に手を当てる。
「というわけで、これから事態の収拾を図らねばならない。アレクもついてきてくれ――それとも何か用事はあるか?」
「いえ、特に何も」
「じゃあ、来てくれ」
ルベルが先に立って歩き出す。
ギルドマスターの言うことに逆らうのは得策ではないと考えて、あとに従った。
ダンジョン攻略の褒賞、およびゴーレムコアやダンジョンコアの売却費。
大金貨21枚、金貨8枚、大銀貨7枚。218万7000ゴート。
冒険者ランクはCになった。
所持金合計。大金貨64枚、金貨37枚、大銀貨13枚、銀貨13枚。678万4300ゴート。
◇ ◇ ◇
夕暮れ時の王都。
俺が連れてこられたのは王城だった。
二度と来ることはないと思っていた王城だった。
白い砂利が敷き詰められた中庭に通された。
そこには後ろ手に縛られて正座させられているマリウスがいた。
美麗な金髪は薄汚れており、端正な顔は歪んでいた。
――いや、マリウスは貴族だろ? なんでこんな罪人みたいな扱いを?
そのほか、勇者パーティーで何度か一緒になった女僧侶と女魔法使い、それに宮廷魔術師長の老人がいた。
白い鎧を着た壮年の騎士団長シュバルツもいる。
全員、硬い表情のままマリウスを睨んでいた。
俺とリリシアとルベルは中庭の端に並んだ。
マリウスは俺を一切見ようとしない。この期に及んでも完全に無視しているようだ。
すると、中庭に面したバルコニーに年老いた国王が姿を現した。
その横には大臣が従っている。
二人とも険しい顔をしていたが、王様は怒りを浮かべていたのに比べて大臣は焦燥の表情だった。
騎士団長が野太い声で宣言する。
「ただ今より、勇者マリウスの虚偽について取り調べをおこなう!」
「虚偽……?」
俺が呟くと横に並ぶルベルがボソッと呟く。
「勇者ではなかったのだよ。マリウスは聖波気を持たない」
「え? どうして!? いやでも、持ってなくちゃ勇者候補にすらなれないだろ?」
「まあ、見ておけ」
ルベルが細い顎で中庭を示す。
兵士が刀身が根元から折れている剣の柄を台に乗せて持ってくる。
騎士団長が指さして言う。
「この剣は聖剣の一つライトキャリバー! 見た目を鋼の剣に偽装してあった! マリウスは聖波気を持っていないことを誤魔化すため、この聖剣を使って聖波気を補っていた! ――何か申し開きはあるか、マリウスよ!」
問われたマリウスは縛られたまま、ぐっと唇を噛んでうつむいている。
さらに騎士団長が言う。
「それどころか勇者になるために、勇者アレクを罠にはめて蹴落とそうとした!」
「え? 罠に?」
俺の疑問に答えるかのように、女僧侶が青い髪を揺らして前に出た。
「城の記録に不審な点を発見しましたので、教会にあるすべての記録を照会しました。すると、マリウスが勇者アレクの討伐した魔物を自分の手柄にしているとわかりました――その数1000体以上!」
キッときつい目をして女僧侶がマリウスを睨み付ける。
マリウスは震えながらうつむいていた。
騎士団長は言う。
「これは個人ではおこなえない組織的な犯行! その証拠を――!」
女魔法使いが尖った帽子の広いつばを揺らして前に出る。隣に杖を突いた老人が並んだ。
「こいつ、裕福な実家の資金を使って、賄賂しまくってたのよ。――おじいちゃん、見せたげて」
「やれやれ、人使いの荒い孫じゃのう。時間と位置座標の決定が繊細で、年寄りには辛いんじゃぞ――記録追想」
宮廷魔術師長である老人がローブを揺らして長い杖を振り上げると、いくつかの半透明なウインドウが空中に出た。
そこではマリウスが金を渡して、事務員や、下級役員、そして大臣を懐柔していた。
王様の隣にいる大臣が、髭を震わせて顔を青くする。
マリウスは血がにじむほど唇をかみしめていた。
王様はちらっと大臣を見つつ、マリウスへ目を向ける。
「何か申し開きはあるかの? マリウスよ」
マリウスは痩身を震わせていたが、がばっと顔を上げる。
「勇者を目指して、何が悪いんですかっ! みんな、みんな僕を勇者として称えてくれたじゃないですか! ――剣さえ戻れば、また勇者として活躍できますよ!」
女僧侶と女魔法使いが、イヤそうに眉をしかめる。
「謝罪するかと思えば、開き直りだなんて……」
「あんた、アタシたちが偽者に力を貸すとでも思ってんの?」
彼女たちは冒険者ではないが、冒険者ランクで言えばSランクに相当した。
女僧侶は最上級魔法【完全再生】まで使えるし、女魔法使いは上級魔法だけじゃなく超レアスキル【同時詠唱】を使用できた。
一緒に魔物討伐へ向かったとき「すげぇな」とよく思ったものだった。
マリウスは薄汚れた金髪を翻して叫ぶ。
「僕は選ばれた人間なんだ! 顔も頭も魔法も剣術も! 僕が一番ちやほやされなきゃおかしいだろ!」
「だからって偽装してまで勇者になるなんておかしいとは思いません? ほかにも方法はいろいろあったはずですよ」
女僧侶が溜息を吐きながら諭した。
けれどマリウスは、歯ぎしりをして睨み返す。
「どんなに頑張ったって、生まれを変えるわけにはいかないでしょう! 成り上がり貴族だとか、金で地位を買っただけの所詮は庶民とか! 馬鹿にされるのだけは、我慢できないんだ!」
「だから名声を得られる勇者になったのですか……ほんと自分のことしか考えていない愚かな人ですね――どうしますか、王様?」
女僧侶が王様へ顔を向けた。
王様は頷く。
「マリウスは勇者を騙って王国の権威を貶めた罪として20年の強制労働。協力したものは、全員職位を剥奪の上、罰則金。マリウスの家、フォーライト家は資産没収の上、現在地を離れて辺境への転封とする」
辺境は土地が荒れていて、モンスターも多い。
貴族であっても貧しい生活をするしかなかった。
「そ、そんな!」
マリウスは立ち上がって王様のいるバルコニーへ駆けだそうとした。
しかし、俺の隣にいたルベルが誰よりも早く動いた。
赤い髪を揺らして一気に距離を詰める。多数のネックレスや腕輪がジャラっと鳴る。
そしてマリウスを思い切り蹴って白砂の地面に這わせると、虫けらを見るような目で見下ろした。
ついに日間1位! 人生初です!
皆さんが応援してくれたおかげです。嬉しいです!
ブクマと★評価、本当にありがとうです!
誤字報告ですが、すみません。
全回復は、オーヒールでいきます!
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