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31.ゆるゆるダンジョン攻略とエドガーの本気

本日更新2回目?


 ダンジョンでも愛し合った俺とリリシアは、次の日からまた攻略を再開した。

 そして昼過ぎになって、ようやく山脈の中央にあるダンジョンコアの部屋を探り当てた。


 広間の中央に丸い球体がある。

 赤い絨毯の上に黒い玉が偉そうに鎮座していた。


 俺たちが入って来るなり、丸い玉は驚いたように明滅を繰り返す。


 ――いや、何かの攻撃か!?


 俺は剣を振り上げて駆け出した。

 後ろからリリシアの声が飛ぶ。


「床に転移タイルが! 五歩左!」


 俺は指示されたタイルを避けながら、ダンジョンコアへ肉薄する。


 ガゴォン!


 突き出した剣が、コアを真横から貫いた。


 ピピピピピっと耳障りな甲高い音を発した。


 その時後ろで、ぼふっと変な音がした。

 振り返ると転移タイルからなぜか鳥の丸焼きが出ていた。

 白い湯気が立ち上り、おいしそうな匂いが漂う。


 ――なんでだ? あれも攻撃の一種なのか……!?



 鶏肉の出現に戸惑っていると、コアの光が消えて動かなくなった。

 ――どうやら倒したようだ。


 コアの仕組みを勉強した時に、コアは横が薄いと知っていたので簡単だった。


「これが山脈のダンジョンコアか。あっけなかったな」


「一撃で壊すなんて……やっぱりご主人様が強いからですわ」


 リリシアが天使の羽を広げて傍へ来る。


 ふと、ミシミシと広間が微かに揺れていることに気付いた。


「てか、コアが壊れたら、崩壊しないのか?」


 すると子機が震えた。

 取り出して画面を見ると、コウからの連絡が入っていた。


『ご安心です、ますたー。ダンジョンには倒すと壊れるものと壊れないものがあるです』


「ここは壊れないのか。よかった」


『いえ、壊れる方です』


「だめだろ!」


 ピシピシと音が広がっていく。


『子機に魔力を込めつつ、コアにくっつけてです』


「こうか?」


 俺は平べったい板状の子機に聖波気を送り込みつつ、壊れたコアに押し付けた。

 くっつけた場所から黒かった玉が白色に変わっていく。



 全部白に変わると、コアの横がガシャンと音を立てて開いた。

 台が出てきて、その上に手のひらぐらいの大きさがある六角形の宝石が4つ載っていた。

 赤や緑など色鮮やかな宝石だった。


『乗っ取り完了です。自爆スイッチ、オフにしたです――あとこれ、コアのコアです。吸えませんので持って帰ってきてほしーです』


「わかった……ただ報告用に一個は売るからな」


『りょーかいです。緑のは売らないでほしーです』


「奪われたやつか、わかった。――そういやゴーレムがいなかったぞ。とくにミスリルゴーレムどこだ?」


 俺は宝石を袋に入れながら尋ねた。

 コウをパワーアップさせると俺たちの住環境が良くなる。

 できれば格段の強化につながるミスリルを持って帰りたかった。



『ふむふむ……王都東のダンジョン30階に送ってあるです、ますたー』


「そうか。どうする?」


『できればほしーです、ますたー』


「じゃあ、そこまで通路をつなげられるか?」


『30階は無理ですが。29階になら、接続できるです』


「じゃあ、それで」


『あいさー。通路はちょっと長めになるです』


 壁に通路の入り口が現れた。

 俺とリリシアは中に入る。


「おっと。人がいるかもしれない。戻ってくれ」


「はい、ご主人様」


 リリシアが背中の翼を引っ込めた。

 戦力が大幅ダウンだが仕方がない。


 そして俺が前で剣を構え、彼女が後ろで指眼鏡をしながら、長い通路を歩いていく。

 背中を優しく触るリリシアの細い指先が、とても可愛らしかった。


       ◇  ◇  ◇


 一方そのころ。

 王都東のダンジョン最下層。


 小さな部屋で眠っていた混沌竜は、遠くから響く金属音に気が付いて目を覚ました。

 なにかが戦っているらしい。


 気配を探ると大半はゴーレムだった。


 ――肉はないのか……お?

 小さくて柔らかそうな肉が5つもあるぞ!


 混沌竜は立ち上がると、一番おいしそうな肉に向かって歩き出した。


       ◇  ◇  ◇


 エドガー隊は、地下30階で戦っていた。

 マリウス隊が29階の拠点へ帰るまでの時間稼ぎだった。


 子供たちが陣形を組んでしっかりと守りつつ、じわじわと下がっていく。

 突撃してきたゴブリンナイトやロックゴーレムを着々と倒した。


 エドガーはおもにアイアンゴーレムをメインに倒していた。

 短剣をきらめかせて、ゴーレム核を一撃で破壊していく。


 そしてマリウス隊を挟み撃ちにしたモンスターはすべて処理しきった。


 ふぅっと息を吐いて、エドガーは顔を上げる。


「いい感じっすね。この調子でいきまっしょ」


「「「はいっ、隊長!」」」

 子供たちが元気に応えた。



 その時、エドガーの背筋に悪寒が走った。

 ゾクゾクと、得体の知れない怖れが沸き上がってくる。


 ――なんだ、これ……なにか、ヤバいっす。


 エドガーは本能的な恐怖を感じると、とっさに指示を出した。


「退避! 十字逃避陣で退避!」


「「「えっ!?」」」


 子供たちが戸惑った。


 十字逃避陣。

 エドガーの指示の下、陣形は数多く練習してきた。

 しかし実戦で十字逃避陣を指示されたことは今まで一度もなかった。


 対処できないほどの強敵が現れたときに、エドガーを置いて子供たちだけで逃げる陣形。

 それは、エドガーを失うことだと子供たちは理解していた。



 一番幼い回復士の少女が声を震わせて懇願する。


「あ、あたしたちは、エドガー隊長がいないと、生きていけませんっ! 孤児だったあたしたちを育ててくれた……その恩を返さずには! きっとあたしの回復魔法が――」


 そこまで行って、少女は震えあがって口をつぐんだ。


 ぼさぼさの前髪の下から、エドガーが強烈な眼光で睨み付けたからだった。


「今ならまだトラップが再起動してねーっす。拠点まで走って戻れば大丈夫。モクとシーマは道覚えてるっすね?」


 眼鏡をした狩猟者ハンターの少年モクと、探検者レンジャーの少女シーマは深刻な表情で頷いた。シーマのショートカットの黒髪が揺れる。


「じゃあ、戻ってくれっす」


 回復士の少女は涙を浮かべてエドガーを見上げる。


「隊長、どうしてっ! みんなで頑張ってきたのに!」


「うるさいっすよ! 足手まといだって言わせたいんすか!」


 その言葉に少女はビクッと体を震わせて黙り込んだ。



 その隙を突いて、ハンター少年モクとレンジャー少女シーマが、少女の両脇に腕を入れて抱え上げた。


「行くよ! ユマ!」


「あいよ、キーリは後ろを!」


「任せてよ」


 少年剣士ユマの掛け声を先頭に、真ん中を回復士、両脇をレンジャーとハンター。

 しんがりを少年戦士キーリが勤める十字の陣形で、来た道を戻っていった。


 少女の悲しげな声が響く。

「待って! 隊長を置いてかないで! あたしが守るから、守るからぁ――!」


 しかし、しだいに声は途切れ途切れになり、そして声は消えた。

 きっと上の階へ退避したのだろう。 



 声を聴いたのか、ますます凶悪な気配が近づいてくる。

 エドガーは、へへっと笑って懐をまさぐった。


「俺っちが本気出しても勝てるかどうか……」


 そして紐に通された大量の『くない』や『手裏剣』、『霊呪札』を手品のように取り出した。

 それらを通した紐を、ベルトのように腰へ巻き付ける。


 エドガーの本気装備。

 いつもやる気がなさそうなのは理由があった。

 正体を隠すために本気を出さないようにしていた。

 実力だけならSランクはあった。



 だが、この通路の向こうから近づいてくる相手は、強さの桁が違った。

 だんだんエドガーの額にイヤな汗が流れ始める。


 そして、そいつが通路の角から姿を現した。

 見た目は1メートルほどのトカゲ。黒と緑が混じり合う汚い色のうろこをしていた。

 しかも大怪我を負っていると気付いた。本来の力の半分も出せないはず。


 ただ、Eランク冒険者なら浴びただけで心臓が止まるほどの、凶悪な邪気を放っていた。


 エドガーの膝がガクガクと揺れる。


「武者震いなんて、子供の時以来っすよ……マジ強いっすね。ギルマスや騎士団長がいても勝てるかどうか……こりゃあ、五分すら時間稼げないかも……」


 トカゲとエドガーの目が合った。

 その瞬間、トカゲが猛然と駆け出した。


 エドガーは口の横に指を当てて叫ぶ。


火遁かとん――紅蓮業火ぐれんごうかの術!」


 エドガーの口から灼熱の業火がほとばしる。

 らせんを描いて前方を埋め尽くす。


 しかし、トカゲはエドガーの術などものともせず、炎を突き破って一直線に向かってくる。

 ただエドガーは術と同時に手裏剣やくないを投げていた。

 トカゲの顔にぱちぱちと当たって、傷一つつかないものの条件反射的に目を閉じさせる。


 その隙を突いてエドガーが動いた。

 両手で印を結んで叫ぶ。

 

土遁どとん――大象門たいぞうもんの術!」


 床から分厚い土壁がせり上がる。

 二人の間を覆い隠した。


 けれどトカゲの突進の前には、土壁など無意味。

 トカゲは爪を振るうと土壁を一撃で破壊して前に出た。



 ――が。

 さっきまでいたはずのエドガーの姿は消えていた。


 トカゲが首を素早く振ってエドガーを探す。


 するとエドガーの声が真上から響いた。


「ここっすよ。――水遁すいとん――水雷花すいらいかの術!」


 トカゲが声に反応して上を見上げるのと、エドガーが天井を蹴ってくないを振り下ろすのが同時だった。

 青い電光を帯びたくないが、トカゲの左目を貫く。

 そして、くないに巻き付けた霊呪札が、花が咲くように小さな爆発を起こした。


「グギャァァァ!」


 トカゲは絶叫しながら、爪と尻尾を同時に振った。


 エドガーが叫ぶ。


「忍法――身代わりの術!」


 ぼふっと煙が出た。

 トカゲの攻撃は丸太をバラバラにしただけ。

 すでにエドガーの姿は消えていた。


「キシャァァァ!」


 木くずが舞う中、トカゲは怒り狂って暴れた。


 ただ、ふと血の匂いを嗅いで、冷静になった。

 尻尾の先が赤く染まっている。

 ちろりっと長い舌で付いた血を舐めると体を震わせた。

 そして、尻尾の血の匂いを嗅いでから、右目を輝かせて同じ匂いのする方へ歩き出した。



 一方エドガーは、少し離れた場所にいた。

 壁に寄りかかりつつ、真っ赤に染まった脇腹を手で抑えて歩いていた。

 足を一歩踏み出すたびに抑えた指の間から、鮮やかな赤い血が流れる。


「痛ってぇ……全部使って目ぇ一つと、内臓を交換っすか……分が悪いっすね」


 前髪に隠れた目を細めて苦笑を漏らしつつ、それでも一歩一歩と逃げていった。


ブクマと☆評価ありがとうございます!

やる気が出ます! 更新頑張ります!

誤字報告もありがとうございます! すごく助かります!


次話は明日の昼ぐらいに更新

→32.孤児とエドガーの願い

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― 新着の感想 ―
[一言] シーフにしては戦闘力あるなと思ってたら、忍者じゃねーか 異国の人間とか言ってたけど、日本みたいな国があるのか
[良い点] 面白かったです(≧∇≦)b次も早く読みたいですね( *´艸`) [一言] お金勘定最近無いから、作者様が何か伏線とか無ければこのまま無しの方が作者様も負担軽減ですよ(((*≧艸≦)ププッ
[良い点] エドガー死なないで…(ToT) [一言] 死にそうなフラグたっているような気がするけど… エドガー死なないで~ あ、クズ勇者は別に死んでもいいっすw
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