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3.奴隷が高い

本日3話更新。3話目。


 勇者をクビになった俺は奴隷商に奴隷を買いに来ていた。

 俺を裏切らず、身の回りの世話と生きるための常識を補佐してもらうため。


 広い応接室の壁際に並んだ四人の美少女と一人の老婆――魔女を、奴隷商人が解説していく。


「一人目はエルフの冒険者です。精霊魔法も使えて索敵や探索にも有利です」


「なるほど。冒険者か……ただエルフだと人間の常識はあまり詳しくないんじゃないのか?」


「そこで二人目です。優秀な探索者の人間です。マップ制作や罠解除はお手の物。かつて盗賊でもあったため、一般常識だけでなく裏社会の常識にまで精通しています」

 スレンダーながら色っぽい女性。すらりと長い足を組み替えただけで、しなやかな筋肉が色っぽくうねる。


「でも盗賊か……危ない目に巻き込まれたりしないか?」


「さあ。そこまでは当方でも関知しかねます。ただ実力のあるアレク様なら、少々の問題もはねのけられると信じて紹介したまでです」



「なるほど……でもそれなら、どうして次もエルフ?」


「三人目のエルフは一人目とは用途が違います。こちらは窃盗の罪で無条件奴隷になったエルフですので……身の回りの世話から夜の世話まで、何でもできるのでございます」



「無条件奴隷?」


「殺しと暴力以外の、なんでもしていい奴隷です」


「一人目のエルフは違うのか?」


「あの方は条件奴隷。自分から奴隷になっておりますので、働く時間や仕事内容、日当有休福利厚生などの条件を出している奴隷です。仕事内容に含まれていない仕事をさせると主人の方が罰せられます」


「奴隷って二種類あったのか……この子は何ができるんだ?」


「弓や魔法が少し使えますが……熟練度は一人目には劣りますね」


 エルフの少女は微かに震えていた。翡翠色の大きな瞳が揺れている。何かを言いたい様子。

 でも何も話さない。


 胸は普通サイズだが均整の取れたスタイルは一級の彫刻のように美しい。

 白い肌には傷一つなく、並びのよい歯も大きな瞳も宝石のよう。

 いや、美しさで言えば一人目のエルフもだけど。



 ――なるほど。

 一人目のエルフは夜の相手は禁止なんだろう。

 だから性能が劣っても好き勝手出来るエルフを一緒に出すと、一人目を抱きたかった人が代わりとしてこの子を買うんだ。


 店頭で一点物の名品を飾りつつ、店内では量産品ばかり並べる店のやり方か。

 馬鹿な男――特に俺みたいな馬鹿な男なら簡単に引っかかってしまうだろう。


 でも、今の俺には常識のある奴隷入手が死活問題だった。

 この子はなしだ。



 すると一人目の美女エルフが手を上げた。

 奴隷商人が厳しい目を向ける。

「なんですかな? お客様の前で」


「一つだけその子の代わりに言いたいのですが。というか言ってくれと【精霊念話】がうるさくて。店の不利にはなりませんから」


「まあ、いいでしょう――ああ、アレク様。条件奴隷は喋れますが、無条件奴隷は声を封じておりますので」


 美女エルフは緑の瞳で俺を見つめた。

「その子が言うには、本屋で小説を万引きして安い定食屋でただ食いしただけ、店の金は盗んでないわ。少しのお金ぐらい、いいじゃない。だから助けて、ですって」


「万引きも無銭飲食も、れっきとした犯罪だぞ。額の大小じゃないと思うんだが……?」



 俺の言葉にエルフ少女が目を丸くした。賛同してもらえると思っていたようだ。

 エルフ美女が深くうなずく。


「私もそう思います。だいたい、エルフはすべての種族より優秀だから、劣った人間からは盗んでもいい。そんな考えをしてるから、すべての他種族からエルフが白い目で見られてしまうのですよ。少しは反省しなさい」


「……っ!」

 声が出せないエルフ少女は悔しそうに歯を噛みしめていた。

 そして俺と美女エルフを呪い殺しそうな目つきで交互に睨んできた。


 ――この子は絶対いらないな。何しでかすか、わかったもんじゃない。


 むしろ今のやり取りで、常識をわきまえているのは美女エルフの方だとわかった。

 それどころか、かなり聡明な人だと感じた。一緒にいたら頼りになるかもしれない。

 高くなかったらありかも。



 奴隷商人が言う。

「では、続きよろしいですかな?」


「ああ、頼むよ」


「こちらのおばあさんは条件奴隷。薬と魔法のエキスパートです。特に普通では流通しない特製の薬を調合できます。長生きしているため、常識は随一でしょう」


「エキスパートって言うか、魔女じゃないか」


「ひっひっひ、そういうお前さんは勇者じゃろう?」


 その言葉に、奴隷女性たちの顔色が変わった。

 特にエルフ少女がすがるような目をしてくる。さっきまで物凄い目で睨んでたくせに。



 美女エルフが少し焦って声をかけてくる。金髪が静かに揺れた。

「勇者さま、だったのですか!?」


「そうだ。でももう辞めた。というかクビになった」


「まあ……っ」

 エルフは目を見開いて黙り込んでしまった。



 魔女が妖しく笑う。

「本物の勇者を冷遇して、マリウスとかいう若造をもてはやすとは。この国も見る目がないのう」


「冷遇? 俺は冷遇されてたのか?」


「ひっひっひっ、何も知らんとはの。剣も鎧も持ってはおらんではないか。どうせ国の支給武器で戦わされておったのじゃろ?」


「そうだが……他の勇者は違うのか?」


「もう少し知恵が回るからの。交渉して高性能の武器防具を使用しておるはずじゃ……なるほど。それでさっきから条件に『常識がある奴』などと言う、変な言葉が出てくるのじゃな」



「……ああ、そうだ」


「わしを買うとよい。英雄にでも剣聖にでもしてやろう」


「それは気になるが……高そうだ」


「三ヵ月で3000万から5000万ゴートであろうな」


「高い」

 一瞬心が動いたが、高すぎる。それに条件奴隷は期間が短いらしく、ずっとはいられない。

 もっと安くていいから長くいてくれる奴隷が欲しい。



 奴隷商人が先を促す。

「では五人目の奴隷です。治癒師の無条件奴隷でして、冒険には必須な職かと。また聖職者のような仕事もしておりましたので、人としての常識も多くあります」


 治癒師、回復士、僧侶、神官などの回復職は重宝される。

 確か冒険者パーティーでも必須職だが、需要が多すぎて回復職は足りていないらしい。

 俺は勇者だったので国から派遣された高位聖職者と一緒だったが、回復職がいなくて苦戦してるパーティーはよく見かけた。


 冒険者になるなら僥倖と言えるべき出会いかもしれない。

 ただ、無条件奴隷なのが気になるところ。



「どうして無条件奴隷に?」


「孤児院を経営しておりましたが借金まみれになりましてね。それで無条件奴隷に」


「なるほど」

 子供たちを守ろうとする、心優しい人なのだろう。


 顔を見る。通った鼻筋にたれ目がちの二重の目。すみれ色の瞳を潤ませて俺を見ている。

 

 修道服を着た体を眺める。手や首筋の細さから華奢な印象を受けるが、服に隠れている胸が大きい。

 思わず息をのむ。

 買ったらこの体に触ってもいいのか……。考えただけで緊張する。


 ――冒険に必須な職業で、常識があって優しそうで、女性としても魅力的。

 掘り出し物というしかない。



 ただ、そう思ってしまう時点で、この人を最後に持ってきた奴隷商人の思惑通りなんだろうな。


 一番条件に合う一人目のエルフは触れない。

 二番目三番目は好きに触ってもよいが、履歴に難あり。

 四番目の不気味な魔女の隣に置くことで、五番目の美少女はより美しく見える。


「全員の値段はいくらだ?」


「条件奴隷は交渉次第ですが、一人目は100万から300万、四人目はさきほど言った通り。あとは二人目が600万、三人目が700万、五人目が1000万でございます」


 く――ッ! やはり、今の所持金とぴったりだっ。

 こちらの懐まで正確に当てられていた。



 俺は正直に言うしかなかった。


「とても素晴らしい奴隷だと思うが、今ある全財産はちょうど1000万なんだ。全部使うと今日の晩飯すら食べられなくなる。……少しまけてくれないか?」


 すると魔女が、ぷーっと吹き出しながら笑った。


「そんな値下げ交渉なぞあってたまるか! 常識外れもいいとこじゃ! こんな薄ら馬鹿に買われる奴隷も災難じゃな、ひーっひっひひ!」


 ――むかっ、としたが。

 ぐっと拳を握って堪えた。


 むかつくけれど魔女のいう通りだった。

 値下げ交渉の仕方すら知らない。俺は無知で馬鹿だ。

 だから奴隷に頼ろうとしてるんじゃないか……っ!


 だが、魔女がますます煽って来る。


「この女のどこが素晴らしいのじゃ! お前の目は節穴じゃ、ひーっひっひっひ!」


 握る拳がますます震える。


 ――が。

 突然、閃いた。


 ――まてよ?



 ニヤニヤ笑っている魔女を見て、俺は言い放つ。


「じゃあ、あんたを10万ゴートで10分間買う。仕事内容は奴隷購入の値下げ交渉だ」


「なんじゃとっ!?」「ええっ!」


「俺をバカにしたんだから、あんたは出来るんだろ? まさかできもしないのに笑ったんじゃないだろうな? ――さあ、10分で値下げ交渉を成功させてくれ。さあ早く!」


 俺は袋から大金貨を一枚取り出して、驚いて固まる魔女のばあさんに突き付けた。


明日からはたぶん毎日1話更新。

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