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【コミカライズ連載中!】追放勇者の優雅な生活 (スローライフ) ~自由になったら俺だけの最愛天使も手に入った! ~【書籍化!】  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第一章 元勇者生存編

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29.補給と臥龍とエドガー隊


 月が照らす夜。

 俺とリリシアは山脈にあるダンジョンに潜っていた。

 しかし徘徊しているはずのモンスターとまったく出会わず、どんどん地下へと降りていく。


「ここまでモンスターがいないとは。不用心すぎないか?」


「本当ですね。どうしたのでしょう?」


「侵入者撃退用はいなくとも、作業用のゴーレムはいそうなものだが……」


 疑問に思いながらもさらに階層を降りていく。

 材料回収用通路なのでトラップもなく、予想以上に行程が進んだ。



 そして鍵のかかる部屋を見つけたので中へ入った。

 だだっ広い部屋。

 石が転がっているだけで何もない。


 俺は部屋の隅に行くと背負い袋を降ろした。


「もう夜も遅いだろう。食事して休むか」


「はい。そうしましょう」


 リリシアが隣に腰を下ろす。

 白い翼をぱたぱたと動かしながらご飯の用意をする。


 ご飯と言ってもお茶とパンとソーセージ。野菜が欲しいところ。



 食べていると、ふとリリシアの翼の色がおかしいことに気が付いた。


「なんだか、翼がくすんでないか?」


 リリシアが羽を前に伸ばして丸め、体を抱くような形にする。

 真っ白だった翼が、少し灰色がかっている。


「あ……ほんとですね……ずっと天使でいて、授かった聖波気もかなり使いましたから」 


「すまない。疲れてるか……帰った方がよかったか?」


「いえ、大丈夫です。一日ぐらい、耐えてみせます!」


 細い眉を寄せて、ふんっと気合を入れるリリシア。


 でもどこか声に元気がない。


 ――ここからさらに最深部に向かうし、探知や探索を今日以上にやって貰うことになるし……まずいな。

 途中で天使になれなくなったら、かなりまずい。



 そこで俺はゆっくりと力を蓄えるようにパンとソーセージを噛んで食べた。

 最後は水で流し込む。


 それからリリシアに顔を近づけた。

 もぐもぐと小さな口で最後の一口を食べるリリシアの頬にキスをする。


 彼女は疲れが吹き飛んだかのように、すみれ色の目を丸くした。


「ひゃっ!? ご主人様マスター!?」


「聖波気を補充しておこう」


 リリシアが頬を染めて上目遣いで俺を見上げる。


「ま、ご主人様マスターぁ……ここ、ダンジョンですよ? ダンジョンの中ですよ?」


「だからだよ。リリシアが天使の状態で全力を出せるようにしておかないと、今後の探索が危うい」


「そ、そうですけどぉ……んぅっ」


 俺はリリシアの言葉を唇でふさいだ。

 舌を絡めあうとリリシアが熱い吐息を漏らす。


「あぁ……もう……ご主人様マスターったら……」


 リリシアは恥ずかし気なそぶりを見せつつ、手がしなやかに動いて修道服の帯を解き、ついでに俺のズボンの帯を解いた。

 翼をバサッと広げると天使のような笑みを浮かべて俺の上に舞い降りてくる。大きな胸が目の前で弾んだ。


 その後はお互いに優しく抱きしめてキスをして、一つに重なって。

 でも危険な場所で愛し合う行為に高ぶるのか、リリシアはいつになく激しく。

 銀髪と白い羽が俺の上で舞うように乱れて。


 薄暗いダンジョンの中、リリシアの声がよく響いた。


 そして一日分と言わず、一週間分ぐらいたっぷりとリリシアに聖波気を補充した。

 翼は輝くほどの白さを取り戻した。


       ◇  ◇  ◇


 そのころ、混沌竜は通路を抜けた。

 通路の先もまたダンジョンだった。


 混沌竜は首を上げて匂いを嗅ぐ。

 それだけでこのフロアにいる存在を感じ取れた。


 ――いる。確かにたくさん肉がいる。

 そこまでうまくはなさそうだが……それでも食う価値はありそうだ。


 そして一番近い集団へと襲い掛かった。


 ゴブリンの上級職であるゴブリンスナイパーやゴブリンウィッチが一撃で顔を食われる。

 ぶしゅっと血が噴き出して辺りを濡らした。


 身長二メートルはあるグレートゴブリンが巨大な斧を振り上げたが、腹がばつんっと食いちぎられる。


 あっという間に三体を平らげると、また別のゴブリンを襲った。

 腹がいっぱいになるまで狩りを続けて、そして小さな部屋で横になる。


 そこそこ強い魔物食ったおかげで、体力が回復してくるのがわかった。

 ふふっと混沌竜は口角を上げて笑う。


 ――起きたらもっと回復しているだろう。

 この調子でいこう。


 そして部屋の隅で丸くなると目を閉じた。


       ◇  ◇  ◇


 次の日。

 王都東のダンジョンでは。


 大量の物資と人員を使っての攻略のため、順調に突破していた。

 そもそも地下1~20階は多くの冒険者が経験済みのため、攻略が早かった。

 騎士団と同時に潜っていくぐらい。


 結果、初日ですでに18階層を突破。

 二日目にして先陣は最下層に近いと思われる地下29階層目に突入していた。


 レンガを組み上げたような床や壁。

 通路や部屋が入り組んでいる。


 出てくるモンスターは、眠りガスを放つ大型のウサギ、スリープラビット。

 葉っぱが刃のように鋭い低木のブッシュトレント。

 そして子供の背丈ぐらいの醜い妖魔ゴブリンだった。


 Aランク冒険者のエドガー隊が通路を進んでいた。

 AのエドガーのほかはB~Cの少年少女が5人で、剣や弓でゴブリンやウサギを倒していく。

 10~15歳ぐらいの子供たちが真剣な顔で敵を狩る。


「そこのゴブリン。手前に落とし穴があるっす」


「はい!」

 

 エドガーの指示を受けて、少年剣士がショートソードを構えて駆ける。

 大きく回り込んで横からゴブリンを斬った。


 別の少年戦士が全身を使って柄の長い斧を両手で振り被る。足りない力を補う強烈な一撃。

 ブッシュトレントを破壊する。


 後衛は狩猟者ハンターの少年と、探検者レンジャーの少女が弓を打ちまくる。

 最後衛はエドガーと回復士の少女。


 エドガーは回復士を守りつつ、罠やトラップを見抜いて指示を出す。

 子供とは思えないきびきびした動きで順調に進んでいった。



 ただエドガーが眉間にしわを寄せる。

「さすがに29階層になると、トリッキーだねぇ」


「なんだか頭が回るというか……ゴブリンの装備も良くなってる気がします」

 回復士の少女は白いローブの襟元を掴んで震える。



 次の敵が通路の角から現れる。

 一回り大きなホブゴブリン1体と通常のゴブリン2体。その後ろにひょろっと背が高いゴブリンがいた。


 そいつが杖を持っていることに気付いてエドガーが叫びながら後衛から駆け出す。

「ゴブリンシャーマン! 魔法体制っす!」


「「「はい!」」」

 剣士と戦士の少年が背負っていた盾を前に出す。その後ろに後衛職が隠れて弓を打つ。

 大きな盾一枚で子どもたち全員がすっぽりと隠れるので、盾二枚重ねの防御力となる。


 その間にエドガーは駆けた。

 ゴブリンが弓を射掛け、魔法を飛ばしてくる。


 エドガーは壁に足をかけると、走る勢いそのままに壁を走った。

 ゴブリンたちが驚く。

 さらに天井を蹴ってゴブリンパーティーの後ろに着地。


 それと同時にゴブリンシャーマンの首から血が吹き出した。ゆっくり倒れていく。

 すでにエドガーはナイフを手にしていた。


 挟み撃ちとなったゴブリンが慌てる。

 弓を捨ててエドガーに切りかかるが、エドガーは余裕で切り捨てる。


 ホブゴブリンは少年たちへ切りかかるが、矢を射かけまくるので近づく頃には全身矢だらけでふらふらになっている。

 少年剣士が襲い掛かってホブゴブリンを足止め、さらに隙を作る。

 大きくぐらついたところを、少年戦士が思いっきり振りかぶった長柄斧を叩きつけて倒す。


 エドガーがけだるげな声で指示を出す。

「練習通りに、いい感じっす~。たぶんこいつらが来た方に安地があるはず。ささっと回収していくよ~」


「「「はいっ」」」

 子供たちはてきぱきと動く。

 モンスターの体内にある魔核を取り、装備品を剥ぎ取り、討伐部位を取り、そして使えそうな矢を回収する。



 その後、通路の先を向かうとかなり広い部屋に出た。モンスターの気配はない。

 トラップもなかった。


 子供たちがほっと息を吐く。

「これましたね、エドガー隊長」

「じゃあ、しばらくここで休憩。俺っちは上に報告してくるから~。危なくなったら【台形防御陣】で逃げるよーに」


「「「はいっ」」」


 それからすぐに28階に連絡して、騎士団十人が物資を背負って29階へ降りる。

 エドガーがトラップを解除しつつ案内する。


 こうして29階層にも拠点ができたのだが。



 なぜか騎士団と一緒に勇者マリウスのパーティーまで来た。


「なんすか? もう交代っすか?」


 エドガーは目を隠す前髪をぼりぼりと掻きながら、やる気なさそうに言った。

 子供たちはエドガーの後ろに集まって険しい顔でマリウスを見ている。


 マリウスは両手を広げて爽やかな笑みを浮かべる。

「君たちは王都屈指の子供パーティーと聞いてる。どうしても大人に比べて疲れやすいはずだから、その間は僕たちが進めるよ」


「この子たち、そんなやわじゃないんで、もう少し行けそうっすけど」


「君は異国から来た盗賊なんだってね? 僕はこの国の勇者だ。国のためには僕が頑張らせておくれよ」


「はあ、そうっすか。じゃあ、お言葉に甘えて休むっす」


 エドガーはあっさりと引き下がった。

 ――マリウスがダンジョン最下層攻略の手柄を取ろうとしているのを知りつつ。


 子供たちが驚きの表情でエドガーを見る。

 まだ戦えるとでも言いたそうだった。

 けれど隊長の判断は絶対なのか、しょんぼりと肩を落として従った。



 マリウスが気さくに話しかける。

「ちなみにモンスターの強さはどのぐらいかな? まあ、子供達でも攻略できる程度だろうとは思うけど」


「ゴブリンナイトやゴブリンシャーマン、ホブゴブリンですけど、グレートゴブリンも出始めてるっす。ここから先はより高位のモンスターが出そうっすよ」


「忠告ありがとう。気を付けて行ってくるよ――ネフィル、頼むよ」


 白い歯をキラッと輝かせてマリウスはお礼を言うと、パーティーを連れて部屋を出て行った。



 はぁ~、と誰かの溜息とともに部屋の空気が緩む。

 エドガーがぼさぼさの黒髪を手で無造作に掻く。


「うちの子たちのお守りよりきついっすよ」


「まあ、あれでも勇者さまだから、仕方ないさ。――まあ、これでも食べて休んでくれ」


 騎士団の一人が苦笑しながら弁当を差し出す。

 エドガーは入り口近くで見張りをしながら言う。


「んじゃ、お言葉に甘えますか――っみんな、休憩だぞ」


「「「はーい!」」」


 子供たちは子供らしい屈託のない笑みを浮かべると、弁当に飛びついた。

 わいわい喋りながら弁当を食べる。


 騎士団員も団らんに参加した。

 年配の騎士が尋ねる。

 

「うちにも君と同じぐらいの息子がいるんだが、どうして危険な冒険をしてるんだい?」


 すると子供たちは口々に言った。


「僕たち孤児なんです」


「行くところも、帰るところもなくて」


「孤児院も潰れちゃって、他所の孤児院に行ったら売り飛ばされそうになって……」


「そのとき隊長が助けてくれたんです」


「エドガー隊がわたしたちの居場所、帰る場所です」


 笑顔で言う子供たちに驚いて、騎士はエドガーを振り返った。



「へぇ。あんたやる気ない人かと思ったら、意外といい人だったんだね」


「やる気ないっすよ。子守りなんてほんとめんどくせーって感じっす」


 ぼりぼりと頭を掻く。


 すると子供の一人が、くすっと笑った。

「あれ、照れてるときにやる仕草なんですよ」


「うるせーっす」


 またエドガーが頭を掻くのを見て、さらにみんなが笑った。


 こうして楽しい時間が流れていった。

 エドガーが異変に気付くまでは。


日間のランキング下がったから、もう一日一話更新でいいかなと思ったけど。

週間どころか月間総合224位に入ってる……。

うん、わかった。明日(正確には今日)も二話更新します……。


面白いと思われたら、↓にある★★★★★評価ください!

執筆の原動力になります(´;ω;`)


次話更新、朝か昼。

→30.偽勇者マリウス

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追放勇者の優雅な生活(スローライフ)3

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― 新着の感想 ―
>「そこのゴブリン。落とし穴の前にいるっす」 >大きく回り込んで横からゴブリンを斬った。 落とし穴の前に居るなら後ろに蹴飛ばせば落とし穴に落ちるだけなので、ここだと逆に落とし穴の後ろに居る、もしくは手…
[一言] リリシアが契約した後一切孤児院について何も言わないので、孤児院の子供たちがどうなったのか気になってました。 運命の人であり自分の使命のためにアレクにベッタリだから、孤児院の子供たちはどうでも…
[良い点] エドガー隊いいですねえ。実にいい・・・ こういう実力もある魅力的な冒険者が出てくるの面白いですね。前回元勇者も出し抜きましたし良いキャラだ。 他にも騎士団員も良い人ばかりで ・・・あれな…
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