26.勇者は誠実さが必須
本日更新1回目。
午前中の王都。
冒険者ギルドでダンジョン攻略の作戦を聞いた俺は、リリシアの手を引いて走っていた。
俺のマントと、リリシアの白い修道服が激しく翻る。
――全パーティーから、猛烈なパーティー勧誘をされそうになったため。
人や馬車を避けて走り、いくつかの角を曲がって、ようやく速度を落とす。
石畳の道を俺とリリシアは少し息を弾ませて歩いた。
特にリリシアの豊かな銀髪が乱れて、微笑む頬にかかっている。
「ふう、なんだか大変な目に遭ったな」
「ふふっ。ご主人様がすごい人だからですよっ」
「嬉しそうだな?」
「はいっ。ご主人様のすばらしさがようやく皆さんにも理解していただけたんだなと思うと、嬉しくもなりますっ」
「認めてくれるのはリリシアだけで十分だ。リリシアだけを信じてる」
「ありがとうございますっ、ご主人様ぁっ」
はにかみながら頬を染めると、甘えるような声を出しつつ抱き着いてきた。
大きな胸が喜びにあふれている。
俺はすっかり良い気分になりつつ、受付でもらった紙に目を向けた。
「さて、任務は……っと、やっぱり俺たちは荷物運びだな。それも王都から東ダンジョン入り口までの物資運び」
「パーティーに盗賊や探索者がいないですし、ダンジョンに潜ったこともないですものね」
「予想通りだ。俺たちは俺たちで好きにやれそうだ」
「はいっ。コウちゃんのためにも頑張りましょうっ……でもご主人様、一つ気になったのですが」
リリシアが心配そうに眉を下げて俺を見上げた。
「なんだ?」
「あの勇者マリウスさんとは何かあったのでしょうか?」
「どうしてそんなことを聞く?」
「いえ、あの人が登場してからご主人様の表情が硬くなられたので……なんだか勇者っぽくない人でしたが」
「あったと言えばあった。俺はマリウスにはめられて勇者をクビになったのかもしれない」
「ええ! そんなことが! だったら訴え出て……」
リリシアがすみれ色の瞳を丸くして驚く。
しかし俺は首を振った。黒髪が力なく揺れる。
「無理だ。そうかもしれないというだけで証拠がない。一般人が勇者を訴えるなんて不可能に近いしな」
「そうなのですか?」
「ああ、勇者は国王直属で絶大な捜査権限を持つ。勇者がこいつ怪しいと疑えば、令状なしで家宅捜索できるし、こいつが襲い掛かってきたと判断したら、その場で斬り殺せる」
「そ、そこまで強大な権限が……では、訴えようとしたら」
「勇者をクビになったことを逆恨みしてきた、と言って殺されるな。むしろ訴えの内容が正しければ、確実に口封じで殺されるな」
「あんな人が勇者になってしまうなんて……」
リリシアは悲しそうに目を伏せた。
俺は慰めるように彼女の銀髪を撫でる。
「だからもう気にするな。それにクビになったおかげでリリシアと出会えた」
「はいっ――わたくしもご主人様と出会えて嬉しいですっ」
「俺はもう勇者をするつもりはないから、あいつが勇者をやりたいというなら好きにやればいい。俺は俺で好きに生きるだけだ。リリシアと一緒にな」
というか生活環境がまだ整っていないのに、マリウスのことなんてどうでもよかった。
勇者に気付かれずに不正を暴くなんて、きっと数十年の歳月がかかるに違いない。
――ということは、今後のライフワークでいいか。
もし不正をするような勇者なら、今後も何をしでかすかわからない。
俺のためでもあるが、人々のためにもなるから、一応マリウスの身辺調査を考えておこう。
リリシアが俺の腕を抱くように身を寄せてくる。
「どこまでも一緒にいますからっ、ご主人様!」
「じゃあ、早めの昼飯でも食べるか」
「はいっ」
俺とリリシアは身を寄せ合いつつ、王都の街並みを歩いていく。
そして早めの昼はオープンテラスでランチを食べた。二人で300ゴート。
所持金合計。大金貨44枚、金貨30枚、大銀貨11枚、銀貨25枚。
471万3500ゴート。
◇ ◇ ◇
城の中にある資料室。
女僧侶は青い髪を揺らして資料を読んでいた。手元には自身の手帳がある。
「この日はAランクヴァンパイアロード1体、Bランクヴァンパイア6体討伐……報告書はヴァンパイア3体!? こっちはグリードベアー2体なのに、報告書では1体。……過少報告されてる!」
女僧侶は自分が勇者パーティーに参加した時は、日数や討伐数、経費などを手帳にメモしていた。
あとで大司教に報告するためだった。
顎に指を当てて考える。
――これはアレクさんに対する嫌がらせ? それとも全員にこのようなことが?
続いて女僧侶は勇者候補たちの討伐数を調べていった。
すると、一人だけ数が倍以上に増えている人がいた。
マリウスだった。
アレクの減った分が加算されていた。
女僧侶は驚愕で目を見開く。
「討伐数の付け替え!? こんなことまでしてアレクさんを陥れていたなんて――! すぐ大司教さまにご報告――」
女僧侶は腰を浮かせたが、すぐにイスへ座り直す。
「いえ……数件の付け替えぐらい、記入者がミスした、報告者が勘違いした、という可能性もあるよね。アレクさんとマリウス以外では発生してないし、しかも逆はないのがおかしいですけど。……一度、教会支部の記録もすべて集めて調査してからにしたほうがよさそう」
そして女僧侶は報告書を書き写していく。
「マリウスさんの討伐モンスターは、CランクDランクAランクBランクDCCABCADDB……。アレクさんはAランクBランクBランクABBBABABBB……え?」
女僧侶は資料を読み返した。
――AとBばかり!? Cランク以下がほとんどない。
少しはあるけど、狼や猪や虎や熊など動物系ばかりだ。
いや、待って?
もっとおかしい。
女僧侶はある法則に気付いて立ち上がった。
別の資料を探して開く。それはとても古い資料だった。
目を通して次へ、さらに新しい年次へと次々見ていく。
最新の年まで目を通すと、驚愕で声を震わせた。
「こ、この30年……Sランク以上が出現してない……これって、まさか、まさか……っ!? この国はとんでもないことをしてしまったんじゃないの!?」
女僧侶は資料を胸に抱いて、呆然と立ち尽くした。
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日間12位! また最高位更新。ありがとうございます。
何位ぐらいまで行くのやら。もっと上がって欲しい気持ちと、ランクイン記念更新が辛くなってきた気持ちがせめぎ合ってます。
でも更新頑張ります。
次話は昼すぎ更新
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