24.快適なダンジョン拡張
本日更新2回目
夕暮れ時の王都の空に、寝床へ帰る鳥たちが飛んでいく。
王都の中心にある城は高い塀と深い堀に囲まれていた。
白壁が夕日に赤く染まっている。
その一室、豪華な調度品の置かれた部屋で、勇者マリウスは女僧侶とともにテーブルに座って書類をめくっていた。
イケメン顔を俳優のように大げさにしかめて書類を眺める。
「イビルサーペントはもう倒しましたし……山の古城にキマイラ? うーん、称賛してくれる観戦者が少なくなりますね」
対面に座る女僧侶が、はぁっと溜息を吐く。
「選んでる場合ではないと思いますが。ワイバーンを討伐できなかったのですから、ランクを下げてでも必ず討伐できるものにしませんと」
「それではまるで、勇者の僕が頼りないみたいじゃないですか! もっと、こう。横取りされず、僕だけが倒せて拍手喝采みたいな、そんな任務でないと」
「アレクさんは選んだりしなかったですけどね」
「あれは選ばなさすぎでしょう! 任務依頼を上から取っていくだけなんて! あんなのが勇者として長年やってきた方がおかしいんですよ」
「みんなが同じように困っているんだから、緊急依頼以外は順番に全部こなしていくんだ、って言ってましたけど」
「それで失敗してたら意味ないと思いませんか?」
「はぁ……そうですね。勇者になって初の仕事は必ずやり遂げるって、ワイバーン選んでましたもんね」
マリウスが書類をめくる手を止めて顔を上げた。
眉間にしわを寄せて女僧侶を睨む。
「勇者である僕のやり方に文句あるんですか?」
「勇者勇者って言いますけど、これでも私、次期大司教序列一位なんですよ? あなたが失敗すると私にも影響出るんで、頑張ってもらえませんかね?」
「だからこうして今、やってるじゃないですかっ!!」
マリウスは怒りの目で女僧侶を睨んだ。
女僧侶はひょうひょうと肩をすくめて吐息を吐く。
「はぁ……化けの皮がはがれかけって感じですね。アレクさんは怒鳴ったりしませんし、人々のために黙々と誠実に任務をこなしてくれましたのに」
「アレクのどこがいいって言うんですか! うだつの上がらないオッサンで、口の利き方もまともに知らない! 任務は失敗ばかりで討伐数だって右肩下がり! ――もう終わった男なんですよ、あいつは!」
女僧侶は首をかしげた。肩で切り揃えた青い髪がさらりと流れる。
「……討伐数?」
と、つぶやいたが、急に扉が開いたのでうやむやになった。
鎧を着た騎士が赤いマントを揺らして部屋に入って来る。
「ここにおられたか、勇者マリウスどの。緊急事態が発生した。今すぐ作戦会議に参加してはもらえませんかな?」
「緊急事態?」
「ええ、王都の下までダンジョンが侵略してきているとわかったのだ」
「ダンジョン! 王都の危機! ――これだ!」
マリウスは青い瞳を輝かせて立ち上がる。
そして騎士に案内されて部屋を出て行った。
あとに残された女僧侶は、首を左右に振って考え込んでいた。青髪がさらさらと鳴る。
「……討伐数? 討伐数……討伐数?」
女僧侶は僧衣を揺らして立ち上がると、ぶつぶつと呟きながら部屋を出て行った。
◇ ◇ ◇
夕暮れ時の王都南東の森。
俺とリリシアはモンスターを狩っていた。
低級なモンスターは俺が近づくだけで消滅してしまうので、まずはリリシアが天使スキルで索敵。
その後、強いモンスターだけを狙って倒した。
討伐部位を切り取って、残りを子機に吸い取らせる。
死体に押し当てるだけで吸い込まれた。
ついでに岩や倒木などもあれば子機を押し当てて吸い取った。
そのたびに子機の画面がぴかぴかと嬉しそうに明滅した。
日が落ちてお互いの顔がよく見えなくなるまで魔物退治に精を出した。
「ふう……材料はもう充分かな?」
「はい。かなり溜まったはずです……任務の品も溜まりましたし」
リリシアは背中に手を回して、背負い袋をぽんぽんと叩いた。
魔物を倒しながら、薬草やキノコ、虫の卵も採取していたのだった。
俺は頷く。
「よし。じゃあ、汚れを落としてから戻るか! ――ちょっと冷たいかもしれんが」
「は、はいっ」
俺とリリシアは小屋に戻って荷物を置くと、裏手にあるポンプ式の井戸まで来た。
ポンプの取っ手を握って何度も上下させると、清冽な水がほとばしる。
リリシアは両手を差し出して水を受けた。
そのまま顔を洗って気持ちよさそうな笑顔になる。
「ああ、生き返りますわ……」
「顔だけじゃなくて、服を脱がないと。暗くてよく見えないから大丈夫だ」
「は、はい……」
リリシアは恥ずかしそうに頬を染めつつ、皮の鎧と修道服を脱いだ。
そしてポンプから勢いよく出る水に、裸体を晒した。
白い肌が清らかな水を弾いていく。
ふと俺は思ったことを口にした。
「翼は洗わなくていいのか?」
「大丈夫ですが……洗いましょうか」
リリシアは両肩を抱くように前かがみになった。
バサッと白い翼が夕闇に広がる。
そして、しゃがみ込んで翼を濡らしていく。
「洗いにくそうだな」
俺は片手でポンプを上下させつつ、開いた手で翼を撫でた。
リリシアが頬を染めて、びくっと華奢な裸体を震わせる。
「そんなに触られたら……ダメですっ、ご主人様ぁ――っ!」
「なんでだ? 綺麗で美しいと思うぞ?」
「あぁ――っ!」
モフモフした翼を優しく手洗いした。
体を洗い終えた後、俺とリリシアは森の中の小屋へと入った。
薄暗い小屋の中、リリシアが裸のまま寄り添ってくる。
柔らかな大きな胸が、俺の肌へとじかに押し付けられた。白い翼が二人を包む。
「夜になると、さすがに寒いですわ……」
「じゃあ、温めあおうか――ん」
「んん――っ!」
俺はリリシア口を塞いだ。
静かな小屋の中、ちゅっ、ちゅくっ、と柔らかな舌の絡み合う音が響く。
そんな状況でもリリシアの指先は、俺の肌を攻め続ける。
――どこまで可愛いいんだ、この堕天使は!
俺は、リリシアの手首を掴んでベッドへ向かう。
「食前の、軽い運動と行こうか」
「あぁ――ますたぁ……」
ベッドに仰向けになったリリシアが両手を広げて俺を誘う。
俺はゆっくりと、水に濡れて冷えた彼女の身体を抱きしめた。
そしてせっかく洗った体が、またたっぷりと汗をかいてしまった。
夜の闇の中。
リリシアがすねたような口調で言う。
「もぅ。お風呂に入り直さなくては、ですよ」
「真っ暗になったし、裏は無理だな。予定より早いが先にやるか」
「はいっ」
俺とリリシアはもう装備は付けず、簡単にローブだけ羽織ってベッドを出た。
そして子機の通話ボタンを押してコウに話しかける。
「コウ、材料はさっきので足りてるか?」
『はーい。ばっちりです』
「じゃあ、作り替えてくれ」
『あいあいさー』
一部屋だった丸太小屋が広がっていく。
壁ができて、ドアができる。
最終的に平屋建ての屋敷ができた。
設計図通りなら正方形に近い形をしている。
森の小屋をダンジョンに取り込んだのだった。
俺とリリシアは玄関にいた。
天井にある魔法の明かりが、清らかな青白い光で室内を爽やかに照らしている。
コウが言う。
『確認おねです』
「わかった」
俺とリリシアは屋敷を見ていく。
正方形に近く、中庭がある。
玄関入ってすぐは冒険者装備置き場があり、近くには応接室や談話室がある。
屋敷の奥にはキッチンと食堂があった。キッチンは食堂に通じている。
水回りはまとめた方がいいので、キッチン近くに風呂も設置した。
あとは寝室やリビングルーム、書庫に化粧室、客室、物置、倉庫。
偽装されたダンジョン入り口。
俺に寄り添うリリシアが嬉しそうな声を出す。
「さすがご主人さまですわ……まさかダンジョンの機能を使って、小屋を拡張されてしまうなんて」
「いろいろダンジョンの仕組みを聞いてたら出来るだろうと思ってな。元の小屋もコウが用意したものだったし。うまくいってよかったよ」
「ほんとに豪華な家になって……設計図通りです」
「ああ、元勇者と堕天使が住む家にしては、これ以上ないな。本当は二階も欲しかったが、さすがに屋根が木の上に出てしまうから、見つかる可能性が出てくる」
「そこまで考えておられたのですね。ご主人様は頼りになります」
裸にローブ一枚のまま抱き着いてきて、ぐりぐりと胸に顔を押し付けてくる。
子犬みたいで可愛い仕草。
頭を撫でると、嬉しそうにパタパタと翼を動かした。
「思い通りの家で、ダンジョンだから壊れないし、リリシアが天使でいても見られる心配はない。最高だな」
「しかし予想外に広かったですね。お掃除頑張りますね」
「いや、掃除はコウがしてくれるぞ」
「な、なんという快適なおうちでしょう。最高ですわ……あと心配なのは侵入者ぐらいでしょうか」
「普通の冒険者は戦闘しながらでは、ここまでは来れないだろうし。一応、塀で囲ってあるし、罠も仕掛けてあるが……誰か置いた方がいいな」
「あとでコウちゃんに相談してみましょう」
俺はリリシアの腰を抱いた。
「じゃあ、使い心地も試してみるか」
「はい、ご主人様っ」
リリシアが大きな胸を押し付けるように寄り添ってくる。銀髪が揺れていい香りがした。
その後、キッチンを初めて使用して軽い夕食を作った。
かまどは薪を使わずともよく、スイッチをひねるだけで魔法の炎が出て調理できた。
リリシアの作った肉と野菜を煮込んだポトフ的なスープは、とても優しい味がした。
そして、風呂の使い心地もリリシアと肌を重ねあって確かめる。
白い大理石がタイルのように敷き詰められて、湯船にはお湯がなみなみと満ちている。
シャワーとかいう温水が出るホースもあった。
最後は寝室で、リリシアが肌を桃色に染めて乱れた。
白い翼が広がり、ふかふかのベッドの上に白い羽が何度も舞い散る。
新居に可愛い声が夜通し響き続けた。
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→25.ダンジョン攻略作戦