19.ファルブール医師の家
本日更新3回目。週間総合入り記念更新。
あと、第18話を修正してリリシアの謝罪を微追加しました。
話の流れは変わりません。
夕暮れ時の王都。
俺とリリシアは街壁近くにある一軒家にいた。
診療所を兼ねた医師ファルブールの家。
かなり奥まったところにあるので、ひっそりと静かだった。
ダンジョンを抜けた先は地下室だった。
一階は玄関と待合室、診療室、手術室、病室。あとは台所と食堂と風呂があった。
二階は書斎や執務室、そして寝室がある。
めぼしいものは何もない。
銀製の手術道具が高そうなぐらい。
重要なものはすべてダンジョンに運び込んでいたのだろう。
そしてファルブールがヘルリッチになってから結構時間があったのか、家のすべてに埃が積もっていた。
リリシアが修道服を揺らしながら寄り添ってくる。
「特に何もなさそうです。どうされますか? ご主人様?」
「そうだな。ここの地下室に遺体を転送してもらうか」
――と。
ドンドンと、一階の扉を叩く音がした。
「痛てぇよ! どこに行ったんだよ! 体がおかしいんだよぉ――早く治してくれよぉ!」
俺は首をひねる。
「なんだか聞き覚えのある声だな?」
「冒険者ギルドで絡んできた――確か、バリアルとかいう大男ではないでしょうか?」
「あいつか……なんで、ここに? ……会ってみよう」
「はい」
リリシアを従えて俺は玄関へ向かった。
扉を開けると、脇腹を両手で抑えた大男バリアルが立っていた。
俺を見て、苦しそうにしかめていた目を見開く。
「な、なんでお前がここに!」
「お前――ファルブールと親しそうだな?」
「な、なんだと! てめぇには関係ねぇ!」
「そうか」
俺は拳に聖波気を込めると、素早く繰り出した。
バリアルはよけようとしたが、動きが遅い。
結果、抉りこむように腹へ拳が刺さった。
白目をむいて膝をつく。
「ぐげぇぇぇ! ――痛すぎんだろ、お前ぇぇぇ!」
俺は納得して頷く。
「ひょっとしてお前、ファルブールの研究に協力していたのか?」
「し、知らねぇよ! ――あぁ、痛てぇ!」
バリアルは腹を抑えて床に突っ伏した。
――聖波気で苦しんでいる。本来は癒しの力なのに。
もう確定的と言えた。
「お前……魔物の力を取り込んでるな?」
「な、なん……で! ――いや、知らねぇ、知らねぇよ! あああ、いてぇ!」
バリアルは虫けらのように、みじめにのたうち回った。
病弱なファルブールだけで魔物をあんなに捕らえられるのかと少し疑問だった。
こいつが魔物の生け捕りの手伝いをしていたんだろう。
強い力をもらうのと引き換えに。
俺は子機を握りつつ、ダンジョンコアに意思を伝えた。
『ここの地下に、実験室にあった遺体を転送してくれ。その後、繋がってる通路を切れ』
『あいあいさー』
それから俺はバリアルをロープで縛り上げると、リリシアとともに家を出た。
リリシアが上目遣いで見上げてくる。
「まさか人体改造で力を得てAランク冒険者になっていたなんて……これから、どうされますか?」
「実験室の遺体は地下室に転送させた。これから冒険者ギルドに行って、日記とともに今回のことを報告する。ファルブールが、ヘルリッチになったと」
「わかりました」
そして夕暮れ時の王都を、俺は冒険者ギルドに向かった。
◇ ◇ ◇
冒険者ギルドについた。
すぐにカウンターに行って、今日の収穫を並べる。
薬草屋キノコ、鳥や虫の卵。
そしてワイバーンの討伐証明部位とともに、日記を置いた。
「これが今日の依頼結果だ。――あと、俺の倒したヘルリッチが、この街の医師ファルブールだった。王都を騒がせていたヘルリッチも同一人物だと思われる。証拠はこの日記だ」
俺の言葉に受付嬢が目を丸くする。素早く日記を手に取る。
「ほ、本当ですか! ――ちょっと拝見……こ、これはっ! 少々お待ちを!」
受付嬢は小走りにカウンター前から去った。
すぐに戻って来る。
「ファルブールの家に調査団を送ります! ダンジョンコアをよみがえらせて利用していた、とのことですが。ダンジョンはありましたか?」
俺は言葉に窮した。
しかし横からリリシアが素早くフォローしてくれた。
「蘇生させたダンジョンでしたので、調査中に崩壊してしまいました。ですが繋がっていた地下室は無事です」
「分かりました! 家を急いで調べさせましょう」
「あと、バリアルがファルブールの魔術による手術を受けている可能性が高い。縛って転がしてあるから一緒に調べてくれ」
「はい、わかりました! ……それで、依頼達成ですね! ――カードを」
「ほい」
俺とリリシアはカードを出した。
受付嬢が計算していく。
「えーっと、薬草が42枚で8400ゴート、依頼達成1000ゴート。夢見キノコが5本で20000ゴート、依頼達成5000ゴート。薬虫の卵が8個で40000ゴート、依頼達成で10000ゴート。青うずらの卵が6個で48000ゴート、依頼達成15000ゴート。ワイバーンの牙と角と尻尾で46万ゴート、依頼達成で15万ゴート。ヘルリッチ探索達成75000ゴート、です」
カウンターの上に大金貨8枚、金貨3枚、大銀貨2枚、銀貨4枚が置かれた。83万2400ゴートぶん。
俺は受け取って袋に入れた。
返された冒険者カードはランクがDになっていた。
受付嬢が言う。
「ワイバーンまで倒すなんて驚きです。勇者マリウス様でも苦戦しているそうですのに」
「そうなのか? まあ知ったこっちゃないが」
あんなやつのこと、今は思い出してる暇はない。
何かするにしろ、リリシアとの生活基盤ができてからだ。
受付を離れて鑑定カウンターまで向かう。
すると冒険者たちがざわめいた。
「ヘルリッチの次はワイバーンて」「あいつすごすぎだよな」「さすが水晶玉を破壊しただけある」「もうDランクらしいぜ」「もうあいつの強さはAランク越えてる」「可愛い子連れて活躍ってのが、うらやましいねぇ」
――なんだか、ギルドの噂になっている。
そんなたいしたことしてないんだがな。
それから鑑定カウンターまで行った。
カウンターの上に宝石を乗せる。
「これを買い取ってくれ」
「はいよっ」
鑑定士が目にルーペを当てて、宝石を見ていく。
「ちょっと傷もついてるから、全部で13万4500ゴートって、ところだな」
価値がわからないのでリリシアを見た。
彼女は白い修道(服)を揺らして首をかしげた。
「もう少し高いと思ったのですが……一つ一つの価格を教えてもらえませんか?」
「お、おう……」
鑑定士は説明した。
リリシアが黒色の宝石を指さす。
「この宝石の鑑定がおかしい気がします。これ、ブラックオニキスではなくて、闇魔力の結晶かと」
「なんだって!? ――ああ! すまねぇ! あんたの言う通りだ! 闇結晶なんて、ほとんど見ないから! 全部で31万4500ゴートになるな!」
リリシアを見ると、銀髪を揺らして頷いた。
「じゃあ、それで頼む」
「はいよ!」
大金貨3枚と、金貨1枚、大銀貨4枚に銀貨5枚が置かれた。
それらをしまいつつ、リリシアに言う。
「じゃあ、休むか」
「はい……っ」
リリシアは何かを感じ取ったのか、少し頬を染めつつ頷いた。
そして俺たちはギルドを後にして、手を繋ぎながら夜の街へと出て行った。
所持金合計。大金貨45枚、金貨31枚、大銀貨14枚、銀貨66枚。
483万0600ゴート。
ジャンル別日間16位、日間総合53位になりました!
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次話は深夜ぐらいに更新です!
→20.失敗とせいこう




