166.トゥルー・エンディング&ウェディング
最終話ですが、超長くなってすみません。
8000字あります。
大魔王との戦いから数週間。
王都は以前と同じぐらい復興していた。
ようやく世間的に、念願だったアレをやっても問題なくなった。
ある晴れた日の昼過ぎ。
俺とリリシアは、お城の前にある広場にいた。
いつもの冒険者姿ではなく、俺は白いタキシード姿。リリシアは白いドレスを着ている。
慶事を祝う白い布で覆われた広場には、大勢の人が集まっていた。
街の人や冒険者たち。大家のおばさんやシェリルに魔女の婆さん。
テティと雪エルフ、ラーナもいた。
王様と王女様、騎士団。宮廷魔術師団とマッキーベルもいる。
当然、ドワーフ公爵や令嬢ヒルダもいた。
さらにはルベルやエドガーどころか、日焼けした肌にアロハシャツを着た魔王までいた。
――なんでだよ。
さすがに心の中でツッコミを入れざるを得ない。
あとはちっちゃな姫様ノバラ姫もヤマタ国からの国賓として参加していた。
エドガー隊の子供たちが護衛のように囲んでいる。
そんな大勢が見守る中、聖職者のローブを着た聖女ソフィシアが青髪を揺らして広場の最奥に現れた。
ゆっくりと歩いて壇上に立ち、神妙に佇む俺とリリシアを見下ろす。
ソフィシアが杖を振りつつ、まずは俺に向かってよく通る声で言った。
「救世主アレクよ。汝は病める時も健やかなる時も、伴侶リリシアを大切にし、愛し抜くと誓いますか?」
「誓います」
ソフィシアは深くうなずくと、次はリリシアに向き直る。
「天の使いリリシアよ。汝は病める時も健やかなる時も、伴侶アレクを大切にし、愛し抜くと誓いますか?」
「はいっ、誓います!」
リリシアの澄んだ声が、ひときわりりしく王都の上に広がる青空へ響いた。
ソフィシアは青髪を揺らして深くうなずく。
それから広場の人々を見渡しながら、高らかに宣言する。
「ここに二人は心からの絆を誓い合った。救世主アレク、天の使いリリシア、二人に永遠の祝福があらんことを!」
それまで静かに見守っていた人々が、爆発するような歓声を上げた。
「アレク様、ばんざーい!」「リリシアさん、ばんざーい!」「二人とも世界を救ってくれてありがとう!」
俺とリリシアは回れ右をして、人々に向き直った。
人々が波のように左右へ動いていく。
広場の真ん中が空いて、大通りまで続く一本の道となった。
俺は微笑みながらリリシアを見て腕を出す。
リリシアは嬉しそうに、はにかみつつ腕を絡ませる。
そして人々の間にできた通路を、歩調を合わせて一歩一歩ゆっくりと歩き出した。
リリシアのドレスの裾が長いので、聖白竜ラーナとエルフ少女テティが裾を持って後に続いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
小説版イラスト:みわべさくら先生
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
通路の両側にいる人たちが、口々にお祝いの言葉を投げてくる。
「アレク様、かっこいい!」「リリシアさん、ドレス似合ってるよ!」「白い服には憧れるわぁ」「ほんと二人とも素敵だね!」「あれ? アレクさん、なんか若く見えない?」「勘のいいガキは嫌いだよ」
まずは王様の前に来た。
柔和な笑みを浮かべて俺とリリシアを見る。
「よく頑張ったのう、アレクよ。かけがえのない幸せを掴んだようで何よりじゃ」
「ありがとうございます、王様」「ありがとうございます」
俺とリリシアは礼を言い、王様の隣にいるグスタフ公爵へ目を向けた。
「アレクよ、さすが私が見込んだ男だ。ドワーフ領のため、世界のために尽力してくれたこと、心から感謝する。二人とも、幸せにな」
「リリシアさん、ほんと綺麗! 憧れちゃう!」
「まあ、ヒルダさん。ありがとうございます」「二人ともありがとう」
続いて、騎士団の前に差し掛かる。
副団長のミルフォードは、王女と手を繋いで立っていた。
王女が口を開く。
「おめでとうございます。お二人の行く末に祝福があらんことを」
「ありがとうございます、王女様」「ご丁寧にありがとうございます」
俺たちが頭を下げると、隣に立つミルフォードが気さくな口調で話しかけてきた。
「さすがはアレク。あの時は庇ってやれなくてすまなかった」
「いいよ、もう。むしろクビになって人生が好転したよ」
「そうだな。二人とも幸せに――とはいえ次は私の番だからな」
ミルフォードは優しい目で隣に立つ王女を見た。
それって、つまり――。
「えっ! カロリナ王女とそういう仲だったのか!?」
「気づいてなかったのか」
「わたくしはわかっていましたわ。おめでとうございます王女様」
リリシアが軽やかな声で祝福した。
どうやら知らないのは俺だけだったらしい。
周りにいる騎士たちから冷やかしの声が飛んだ。
俺は苦笑しつつ、また歩き出す。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
小説版出版社:GAノベル(SBクリエイティブ)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
宮廷魔術師たちがいる前に来た。
魔術師長の爺さんは俺とリリシアを祝福してくれた。
逆にマッキーベルは細い腰に手を当てて流し目をしてくる。とんがり帽子の広いつばが揺れた。
「私も幸せになりたいっつーか、養ってほしいんだけど?」
「がんばってくれ」「まーちゃんさんなら、きっと幸せになれますわ」
「ああん、ダメだ。幸せバリアが強すぎて皮肉が通じないっ」
「あの秘密は公表しないんだから、我慢してくれ」
「うう~っ!」
悔し気に唇を噛みながら涙目になるマッキーベル。
俺とリリシアは苦笑しつつ先へと進む。
冒険者たちがいる前を通る。
ルベルは赤いツインテールを揺らして、挑発するように笑いかけてくる。
「ふん、今日のところは二人を祝おう。しかし明日からは三人で幸せを楽しもうじゃないか」
「やめてくれ、ルベル」「そ、そうですわ! アレクさんはもうわたくしのものです! 絶対に渡しませんから!」
リリシアが俺の腕へ必死に抱き着いてくる。大きな胸が押し当てられた。
それを見た冒険者たちから悲鳴のような声が上がる。
「羨ましいぜ!」「幸せ者過ぎるだろ!」「俺にも分けてぇ~!」
するとエドガーが不気味な笑顔で振り返った。
「なんすか? 幸せなお二人に文句あるっすか?」
うっと息をのんで黙り込む冒険者たち。
いつになく強気なエドガーにお礼を言う。
「エドガー、いろいろ助けてくれてありがとうな」「本当に、エドガーさんがいてくれなかったら、ここにはたどり着けませんでしたわ」
「そんな……たいした事してないっすよ。そんじゃ、お二人ともお幸せに」
エドガーは困ったように頭を掻いた。
隣にいるノバラ姫が偉そうに言う。
「二人ともよく頑張ったの。褒めて遣わす。――褒美なのじゃ」
ノバラ姫は俺に近づくと背伸びをしながらタキシードの胸ポケットに赤い花を一輪刺した。同じようにリリシアのドレスにも一輪刺す。
それからエドガーの隣に戻ると、俺たちを眺めて「うむ」と鷹揚に頷いた。
「お揃いじゃの。その花のように、二人揃って幸せになるのじゃぞ?」
「ありがとうな、ノバラ姫」「素敵な花を賜り、嬉しく思いますわ」
ついでに俺はノバラ姫に言った。
「そうそう。ミコト国王にもお礼を言っておいてくれ。雪エルフを助けてくれてありがとうって」
「うむ。伝えておこうぞ」
姫の周りにいたエドガー隊の子供たちが騒ぎ出す。
「お二人とも似合ってますね、素敵です」「リリシア姉ちゃん、お幸せに!」「私もこんな結婚式したくなった」「まずは相手よね」「それは禁句よ~」
「ありがとう」「みんなもいい子で過ごすのですよ」
「「「は~い」」」
子供たちの素直な返事や言葉を嬉しく思いつつ、俺とリリシアはまた歩き出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
漫画版作者:AOIKO先生
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後も大勢の人から祝福された。
大家のおばさんは「よく頑張ったねぇ。最初からお似合いの夫婦だと思ってたよ!」と涙ぐんで喜んでくれた。
エルフのシェリルは「世界を救っていただき、私たち全員が感謝をしています。どうかお幸せに」と俺とリリシアの偉業を称えてくれた。
逆にその隣にいた魔女のばあさんは引きつるように笑う。
「ひっひっひ。豪華な結婚式じゃのう。随分と金回りが良くなったようじゃな?」
「見るとこはそこかよ。相変わらず守銭奴だな」「そうですわ、おばあさん。今日ぐらい素直に祝ってくれても良いですのに」
リリシアが不満そうに顔をしかめると、魔女はニタァと凄みのある笑みを浮かべた。
「子供が欲しくないのかぇ? このままだと次も卵を産んでしまうぞ?」
「えっ!?」「そんな、まさか!」
後からリリシアが宝珠の入った卵を産んだと教えられていた。
残念だったが、次は普通に子供ができるだろうと楽観的に考えていたのだが……。
――ていうかなぜ知ってるんだ! このばあさん!
魔女は節くれ立った枯れた指を、指折り数えつつ言う。
「まあ、子供を孕む薬は、材料費込みで5億ゴートじゃな」
「高っか! 若返りより高い!」「暴利ですわ、おばあさん!」
俺たちの非難する言葉に、魔女はニタニタと笑うばかり。
「嫌なら他を当たると良い。できる者がいるのであれば、じゃがな! ひゃっひゃっひゃ」
「く……っ!」
俺は唇をかみしめるしかない。完全に足元を見られている。
リリシアは大きな胸に手を当てて、整った顔を泣きそうに崩した。
「ああ、そんなことって……ごめんなさい、アレクさんっ」
リリシアの泣き顔なんて見たくなかった。
特にこの幸せな日に、悲しみの涙を零すことになるなんて。
俺はこぶしを握りつつ、ババアに立ち向かう。
「――いいだろう。5億ゴートだな? 絶対に俺が貯めてやる! 絶対にだ!」
「アレクさん――ッ!」
リリシアは涙を散らして俺に抱き着いてきた。
しかし辺りに散った涙は宝石のように、幸せに輝いていた。
魔女は、ふふんっと鼻で笑う。
「新婚旅行が終わったら、いつもの場所で待っておるぞい」
「ああ、旅行後を楽しみにしとけ」
俺は吐き捨てるように言うと、リリシアを促して歩き出した。
――むしろお金で幸せが買えるんだ。そう考えたら安いじゃないか!
俺はリリシアを連れて、力強く堂々と歩いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
漫画版出版社:ヤングガンガン(スクウェア・エニックス)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
最後に。
大通りには白馬の引く白い馬車が停まっていた。
その傍にアロハシャツを着た魔王が、偉そうにふんぞり返っている。
「なんでいるんだよ」
「ふっ、これでも一応本屋チェーンまおまおの社長だぞ? 偉い人たちの集まる場所に顔を出せば、人脈が勝手に広がるからな! フハハハハッ!」
「自分の為かよ。まあ、魔王らしいな」「でもお祝いしてくれるのでしょうか?」
「なぜ我輩が祝わねばならんのだ! 幸せの絶頂とは、バッドエンドの前にあるぬか喜びにすぎん! 今後訪れる絶望に震えるがいい、ふははははっ!」
「平常運転だな」「さすがですわ」
「褒められたと思っておこうか! フハハッ――ん?」
魔王がリリシアの後ろにいるテティに目を止めた。高笑いをやめて普通に話しかける。
「テティよ。本屋チェーンまおまおから連絡はきたか?」
「え? 特に何も?」
「ならば喜ぶがいい! 貴様の作品は最終選考のうちの三本に残ったぞ!」
「えええ! ほんとに!? 初めて書いたのに最終選考まで行くなんて!」
「さらに最終審査の結果、佳作を受賞した! 人物の作り込みが素晴らしく、魅力的な人物であった! アイデアの組み合わせやストーリーの展開も良かったぞ!」
「うわぁ! ありがとうございます! 超嬉しいです! ――やったー!」
テティは両手を上げて喜んだ。ドレスの裾を持ったままだったので、危うくリリシアの下着が見えるところだった。
リリシアが顔を真っ赤にして、必死で両手で押さえたので間一髪免れた。
俺とリリシアはテティを祝福する。
「よかったな、テティ。ずっと書いてたもんな」「作家デビューするなんて、素晴らしいですわ」
「ありがと~、みんなのおかげだよっ。まお社長もありがとね!」
「うむ。ただし改稿は何十回も頑張るのだぞ! ――では、さらばだ!」
魔王は素早く立ち去った。
しかし、帰るのかと思ったら、魔王はなぜか広場の方に入っていった。
――人脈を広げるためだったか?
気になってつい目で追ってしまった。
すると魔王はエドガーに話しかけた。
「エドガー、これをやろう」
魔王は唐突に胸ポケットから四角いカードを取り出してエドガーに渡した。
エドガーはまじまじとカードを眺める。
そこには「本屋チェーンまおまお社長、まおまお」と書かれていた。
「なんすかこれ? 名刺っすか?」
「ふふん、我輩は貴様が気に入ったぞ。どうだ? 我輩の下で働いてみないか?」
魔王はギザ歯を光らせて強気な笑みを浮かべた。
エドガーは予想外の言葉に、思わず苦笑する。
「まさかの勧誘っすか。まおさん直々に」
「ふふん、敵であろうと味方であろうと、優秀な者は嫌いではない。――この世の一番の敵は、勇者でも英雄でもなく、味方にいる無能な働き者だからな! フハハハハッ!」
「さすがまおさんっすね。組織を率いるトップだけあるっすよ……運命の巡り合わせがあれば、マジで働いてたかもしれないっす」
「そうか。無理にとは言わん。中途入社は大歓迎だ。気が向いたら、その名刺に書かれた場所を訪れるといい」
「どうもっす。大切にするっす」
エドガーは名刺を丁寧な手つきでポケットにしまった。
それを見届けた魔王は、大仰にうなずくときびすを返した。
「では、また会おう! ふははははっ!」
今度こそ魔王は高笑いをして広場を出て行った。
意気揚々と、長い足を使って大股で去っていく。
その笑い声は青空の高いところまで響きわたっていた。
「相変わらずだな」「愉快な人ではありますけども、大胆さと知的さを感じますわ」
俺は肩をすくめると、馬車に乗り込んだ。
リリシアの手を取って引き上げつつ、御者台の隣へと座らせる。
さらにテティとラーナがドレスの長い裾を馬車へと押し込んだ。
テティとラーナが俺たちを見上げながら口々に言う。
「リリシアさん、素敵だったよ!」「私も素敵なドラゴンを探したくなりました!」
「ありがとうテティちゃん、小説頑張って」「旅行中にかっこいいドラゴン見つけたら連絡先聞いとくよ」
「それじゃ気を付けて行って来てねっ!」「良い旅を!」
二人が手を振った。
俺はリリシアを見て頷く。
「じゃあ、まずは西へ行くぞ」
「はいっ、アレクさん!」
可愛い声でリリシアが答えた。
俺は白馬に手綱を鞭のように入れる。
ゆっくりと馬車が動き出す。
人々は大通り沿いに詰めかけ、俺たちの背後から最後の祝福の言葉を投げかけてくれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
原作小説作者:藤 七郎
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
馬車は車輪の音を立てて大通りを快適に進んでいく。
しかし西へ行くほど次第に人の声援が減っていった。そもそも人がいない。
なぜなら西にある街ウェストアリアはダンジョンが破壊されてしまったため、王都の西通りまで需要がなくなったのだった。
俺たちの目的地は遥か西にあるアラゴン王国だから問題はなかった。
――と。
王都の西にある外壁の門が見える頃だった。
大通り沿いにはほとんど人影がなくなっていたが、路地の入口から奥にかけてホームレスのような人々がうずくまるように何人も座っていた。
そのうちの一人に見覚えがあった。
「ちょっと止まるぞ」
「はい? どうされました?」
俺は馬の手綱をリリシアに渡して馬車を降りた。
路地へと向かう。
少し奥に入ったところに、ぼろぼろの服を着て薄汚れた髪をした青年が虚ろな目をして座っていた。
元勇者で元貴族のマリウスだった。
犯罪奴隷となったマリウスはフォルティス王国の最南端にある、アンデッドの押し寄せる谷で戦い続けていた。
しかし、大魔王の軍勢が攻撃してきたため、剣も鎧も投げ捨てて命からがら逃げてきたのだった。
というのもアンデットが押し寄せる原因だった死の半島は天井が抜け落ちたダンジョンだった。
だから大魔王の放った影の魔物に襲われたのだった。もちろんダンジョンは破壊された。
そしてダンジョンが破壊されたためアンデッドと戦う契約は完了したとみなされ、奴隷契約は解除されていた。
そんなことは知らないマリウスは、逃亡奴隷と言う身分に怯え、実家の後ろ盾を失ったことに怯え、戦う力を失ったことに怯えていた。
マリウスの目に希望はなかった。ただ絶望しか見ていなかった。
俺はマリウスの前に立って見下ろした。
しかしマリウスは気付かない。うつむいたまま地面を眺めるばかり。
俺は子機を取り出すとコウに相談した。
「聖剣の材料まだ残ってたよな?」
『はい、ありますですよ?』
「だったら適当な聖剣を一本作ってマジックバッグに送ってくれ」
『りょーかいです』
すぐにマジックバッグに聖剣が送られてきた。
それを取り出してマリウスの前に置いた。
ぼんやりした目でしばらく聖剣を見ていたが、その瞳に徐々に光が戻り始める。
「え……これは……?」
「もう一度やり直すんだな。お前は才能がなかったわけじゃないんだから」
マリウスは、はっと息をのんで顔を上げた。
俺の顔を見て眩しそうに目を細める。
「あ、アレク……」
「じゃあな」
俺は背を向けて歩き出した。
後ろでマリウスが何か言おうとしている感じがした。
でも振り返らず俺は路地を出た。
その瞬間「うわぁぁぁぁん――っ!」と、路地から子供のように大声で泣く声が響いてきた。
――それだけ元気があるなら、きっと大丈夫だろう。
絶望の底まで落ちたら、あとは這いあがるだけだ。勇者をクビになった時の、俺のように。
俺は路地を出て馬車へと戻った。
リリシアが大きな泣き声の聞こえる路地を見つつ、心配そうに眉尻を下げた。
「大丈夫ですか?」
「問題ない。いや、むしろ最後の問題が片付いた」
白い歯を見せて笑いかけると、リリシアも相好を崩した。
「さすがですわ、アレクさん」
「たいしたことはしてないけどな――さあ、行こう!」
「はいっ!」
馬に手綱を当てて歩かせる。
リリシアはますます寄り添ってきた。
柔らかな曲線の隙間が優しい愛で埋まっていく。
お互い無言のまま微笑むうちに馬車は西門を出ていた。
おだやかな田園地帯を通る道が続いている。
どこまでも。どこまでも西へ向かって。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
スペシャルサンクス:小説家になろう(ヒナプロジェクト)
and
読んでくれた皆さん
応援してくれた皆さん
感想くれた皆さん
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
雲の地面と青空が広がる天界。
結婚式が終わった直後、見た目17歳の美少女ラーナが転移門から飛び出してきた。
白い制服のスカートを翻し、長い白髪をなびかせてコウのいる神殿へと走る。
手には「光画部」と書かれた看板を持っていた。
神殿まで来ると入り口に看板を立てかけて、コウの傍へと駆け寄った。
その勢いのまま言う。
「コウちゃん、カメラ出して! カメラ! 早く早く!」
「カメラと言っても種類はいっぱいあるですが?」
「そんなの決まってる! ニコンのF3《エフスリー》でしょ!」
ぼふっと音がして、煙と共に床から宝箱が出現した。
ラーナは飛びついて宝箱を開ける。
中から黒い機体のカメラを取り出すと、すぐさま雲の床に向けた。機体の上を開けてファインダーを覗き込む。
ラーナの見る先には地上が映る。
夕暮れ時の平原。
広い道を白い馬車が夕日に向かって進んでいく。
御者台には白い服を着たアレクとリリシアが座っていた。仲睦まじく肩を寄せ合って。
カメラのピントが二人に合っていく。
同時にアレクとリリシアの見つめ合う顔も近づいていく。
コウが疑問を呈する。
「そこからだと逆光になるのでは?」
「だーいじょーぶ、ま~かせて!」
夕日をバックに黒い影となったアレクとリリシアがキスをした瞬間、カシャッとシャッター音が響いた。
『追放勇者の優雅な生活~自由になったら俺だけの最愛天使も手に入った!~ 完』
これにて完結です。
最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございました。
終わりよければすべて良し、にできたかどうか作者としては不安です。
面白かったかどうか、ぜひ★で評価してみてください!
あとお気に入りのキャラがいたかどうかも知りたいです。(次の作品の参考にしたいです)
 




