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【コミカライズ連載中!】追放勇者の優雅な生活 (スローライフ) ~自由になったら俺だけの最愛天使も手に入った! ~【書籍化!】  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第一章 元勇者生存編

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16.ダンジョンの練習

本日更新3回目。


 森の中にあるヘルリッチの小屋。


 小屋の外は日が傾いていた。

 広場に落ちる影が長くなっている。


 俺とリリシアは小屋周囲の開けたところに並んで立った。

 銀髪が隠す頬はまだ赤いものの、リリシアは冷静になったようだった。


 俺は考えを話す。


「で、あのダンジョンは見たところ、とても狭かった」


「はい、三人並べば、いっぱいになりそうでした」


「そしてとても暗い。どちらかがカンテラを使用しないといけない」


「ですね」



 俺はカンテラを持った。

「でも、ワープや転移トラップで、はぐれないように手を繋いでおきたい」


「ロープで縛るというのはどうでしょう?」


「俺が前に出て、リリシアが後方で支援するとき、邪魔になる」


「ああ、そうですね……わたくしは天使で対応したほうがいいでしょうか?」


「天使の方が強いんだよな?」


「はい、その通りです。人の姿では、使える力が回復魔法だけになります。天使の方が回復と攻撃の両方の魔法が使えますし、同じ回復魔法でも効果が数段高くなります」


「リリシアは天使で潜ろう。特にあのダンジョンはヘルリッチが使っていたはず。ほかにどんな強い魔物がいるかもわからない」


「はい。では、ご主人様が前を歩き、わたくしがカンテラを持って後ろを……このように」


 リリシアが白い修道服を揺らして後ろに回り込むと、俺の手からカンテラを受け取って掲げた。

 空いた片手は俺の背に触れる。しなやかな指先を服越しに感じた。


「触っていてくれてると、どこにいるかわかっていいな――だが、フレイルが使えなくならないか?」


「それは仕方ありません。ですが天使の羽でも攻撃できます」


 そう言ってリリシアは俺の後ろでバサッと音を立てる。

 肩越しに振り返ると、背中から白い翼を広げていた。白い羽が辺りに舞う。


 そして翼を前に動かすと、舞い散った白い羽が、まっすぐ前に飛んだ。

 翼を広げながら前に出すと、曲線を描いて前に飛ぶ。

 羽の軌跡は鋭く、雑草の葉っぱをスパッと切り落とした。


「羽根を使って通常攻撃できるんだな。……攻撃魔法はどのくらいの威力がある?」


 リリシアが細い眉をしかめた。

「うーん、どれぐらいでしょう? わたくしもまだ、今の状態を確認してはおりませんので」


「それもそうか……なんかいい方法ないかな。練習台になりそうな、木か、岩か――」



 ――と。


 キャシャァァァ!


 と鋭い声が上空に響いた。


 見上げると、大きな竜――ワイバーンが夕焼け空を飛んでいた。

 牧場を襲った帰りらしく、干し草の巨大な塊を持っている。

 巣の材料だろうか。なぜか苦しそうに体をねじっていた。


 ――お。ちょうどいい。

 あれ確か、討伐依頼が出てたよな?


 大きな翼をばたつかせて飛ぶワイバーンを指さした。


「あれを打ち落とせたりするか?」


「いけるとは思いますが……やってみます――天空白羽砲セーラムカノン!」



 リリシアが白い翼をバサッと広げた。

 多くの羽が舞い上がり、光の帯を引きながら円を描いて飛び始める。

 リリシアが中腰になって、白い翼を前に出して閉じていく。


 羽が筒の形を描いて飛ぶ。


 そして光の軌跡によって描かれた筒が光り始め――。

 次の瞬間、光が爆発した。


 ドゴォォォン!


 大きな音とともに光の塊が発射される。

 飛んでいたワイバーンの腹にズドンッと激しい音とともに突き刺さった。


「グギャァァァ――ッ!」


 腹を突き破るだけでなく、次の瞬間、ドパンッと空中で爆発した。

 ワイバーンの身体に大穴があいて落下していく。



 こちらにも少し血の雨が降って来た。


「うわっ!」


「きゃっ! ――天光布オーラバリア


 リリシアが手を上に伸ばして翼も広げる。

 光の膜が俺とリリシアを包んだ。


 ズズゥゥゥン……。 

 そしてワイバーンは広場の隅に轟音を立てて落ちた。



 リリシアは光の膜を解除すると、辺りを見渡す。

 広場だけでなく、周囲の木々も赤く染まっていた。


「……威力、大きかったですね……一撃で落とせるなんて」


「予想以上だ。ダンジョン内では場所を考えないと、かえって危険かもな」


「ええ、気を付けます。……それにしてもこのワイバーン、どうしましょう?」


「放置すると、魔物を呼びそう――ん、まだ生きてるな!」



 俺は剣を抜き放つと、一直線に駆けた。

 剣に聖波気を込めていく。


 ワイバーンは血まみれの顔をググっと持ち上げて俺を睨む。

 Bランクとはいえ、さすがドラゴン種。

 あの攻撃を受けて生きてるとは。


 続いて、牙の並ぶ口を開けた。

 ――ブレスを吐くつもりか?



 ――と。

 走る俺の前に、白い羽が飛んできた。

 六角形を描いて飛ぶと、白く光る盾となる。


 ワイバーンの口の奥が光り始めるが、俺の攻撃が先になりそうだ。

 するとブレスが間に合わないと思ったのか、大きな手を振って鋭い爪で攻撃してきた。


 ギィィンッ!


 六角形の羽の盾が爪を跳ね返す。


 意外と固い!


 おかげで俺は直進したまま、ワイバーンの傍へ来ていた。


「ハァッ! 聖斬撃ホーリースラッシュ!」


 ザァン!


 剣が青白い軌跡を描いて、長い首の根元を斬り飛ばした。

 断末魔を上げることなく、ワイバーンの首と胴体が別々に地面へ倒れる。

 しばらく様子を見たがもう動かない。呼吸も止まった。

 倒したようだ。



 リリシアが空を飛ぶように、一瞬で傍へ来る。

 すみれ色の瞳が驚愕で輝いていた。


「さすがご主人様ですわっ。ワイバーンが速射ブレスを吐く前にやっつけてしまうなんて!」


「リリシアも守備魔法ありがとうな。いい連携だった」


「はいっ! これからも突撃されるときは天使の盾でお守りしますね」


「頼む……さて、討伐証明部位はどこだったかな?」


 俺が尋ねると、リリシアは指眼鏡を使ってワイバーンの死体を眺めた。


「少々お待ちを……えーっと、牙と角と翼、それに尻尾になりますね。肉は毒性が強いので食べられません」


「部位を切り取ったら森に捨てよう」


「はいっ」



 その後、部位を切り取って袋に詰め、ワイバーンの死体は運びやすい大きさに切ってから、森に捨てた。

 本当は埋めたかったが、ワイバーンは家よりでかい。

 あまりにも量が多すぎる。


 捨てるだけでも時間がかかってしまった。

 人の背丈より高い牧草の塊は運ぶのも面倒なので、転がして小屋の傍に置いた。


 片づけを終えて、ようやく小屋に入った。


       ◇  ◇  ◇


 時を少し戻った夕暮れ。


 ワイバーンは悠々と赤い空を飛んでいた。

 手には牧場を襲って手に入れた牧草のロールを持っている。巣の材料だ。


 ワイバーンは暗い喜びに震えていた。

 口角を上げてニヤリと笑うと、鋭い牙が夕日を浴びて光る。

 自分のお腹にいる邪悪な波動を感じるたびに笑いが込み上げてくるのだった。


 ――生マレル……世界ヲ滅ボス、災厄ガ……。


 ワイバーンは、自分が世界を滅ぼす母体に選ばれたことを喜んでいた。

 日に日に大きくなるお腹から、邪悪な波動が感じられて心が躍る。


 まさか一万年に一度生まれる混沌竜カオスドラゴンがワイバーンから生まれるとは、神でも予想しないだろう。


 そして人間の王都の近くに巣作りしたのも考えあってのことだった。

 混沌竜は生まれながらにしてSSランク。

 母の腹を食い破って生まれ、あとはもうひたすら食べまくってSSSランクへと成長する。


 生まれた瞬間、自分は死ぬからエサやりは出来ない。

 だからエサの多い王都の傍で巣を作ったのだった。


 ――アト数日。

 アト数日デ世界ハ滅ビル……クククッ!


 また暗い笑みを浮かべた時だった。


 突然、巨体に衝撃が走った。

 お腹の中に焼けた鉄棒を突っ込まれたような激痛が襲う。


 思わず悲鳴を上げた。

 

「キャシャァァァ!」


 ――生マレル!? チ、違ウ!


 そう。

 高速飛行をしていたこと、喜びで周囲への警戒がおろそかだったこと、そしてお腹から発する邪悪なオーラによって、アレクの聖波気に気付かなかったのだ。


 結果、ワイバーンは高濃度の聖波気に突っ込んで、生命力の半分を奪われる大ダメージを受けた。

 特に邪悪な混沌竜はそれ以上のダメージを受けていた。瀕死だった。

 それが母体にフィードバックされて激痛となったのだった。


 しかもアレクの聖波気は魔物の行動を遅くする。

 爽やかだった空気が、水のようにまとわりついてくる。

 どれだけ羽ばたいても沼に堕ちたかのように地上へ引きずり下ろされていく。


 ――ナンダ!? コレハナンダ!?


 必死に羽ばたいて空気の沼から抜け出そうとするが、高速で突っ込んだため、安全圏へ出るにはかなり距離があった。


 じょじょに高度を下げていく。


 ――と。


 ズドンとお腹に衝撃が走った。激痛が爆発する!


「グギャァァァ――ッ!」


 今度こそ外的な痛みだった。

 錐もみ状態で地上へ落ちながら、目の端で下を見る。


 人間が二人いた。

 魔法か何かで攻撃されたと悟った。

 そして、あと数日で生まれるはずだった我が子が、失われたことに気が付いた。

 逆に言えば、お腹にいた混沌竜が盾となり、即死は免れたのだった。


 ワイバーンは地面に落ちた。

 長い首をもたげつつ、ギリッと牙を噛む。

 地上に激突した痛みなんか感じないほどの怒りがこみ上げる。


 許サナイ……ッ!!


 人間ナド食イ殺シテヤル!


 ワイバーンは口を開いた。

 ワイバーンのソニックブレスは風属性。速攻の真空破なのでどんな相手にでも先制攻撃できた。

 威力も高く、鎧を着こんだ人間すら近づく前に細切れにしてきた。



 だから今回も口を開いてブレスを吐こうとした。

 でも、遅い。ブレスがのどへと上がってこない。


 ――ナゼ!? ナニガ起キテル!?


 まるで夢だった。寝ているときに見る夢だった。

 何かに追いかけられて逃げようとしても、なぜか体が思うように動かずに速度が出ない悪夢。

 今の自分はそれだとワイバーンは思った。


 気が付くと人間がもう目の前まで来ている。

 思わず爪を振るった。

 しかし盾に弾かれて次の瞬間、首に熱い衝撃が走る。


 そして視線が宙を舞ったことに気が付いた。


 人間が一撃で自身の首を刎ねるという冗談じみた状況に、ワイバーンは『ヤハリ夢ダッタ、コレデ悪夢ガ終ワル』と考え、目を閉じた。


ブクマと☆評価の応援、ありがとうございます!

おかげさまでジャンル別17位、日間総合74位にまで上昇しました!


これは明日も記念の複数更新しないといけませんね。

執筆頑張ります!

あと誤字報告ありがとうございました、助かります!


明日は午前中にまず更新。

→17.ダンジョン探索

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