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【コミカライズ連載中!】追放勇者の優雅な生活 (スローライフ) ~自由になったら俺だけの最愛天使も手に入った! ~【書籍化!】  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第四章 聖竜の宝珠編

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155/166

155.勇者の帰還!

本日更新2話目。


 王都近郊。

 赤黒い雲が覆う曇天の下、俺は上空に浮かぶ扉から地上を見下ろしていた。

 高い外壁に囲まれた王都。焼け野原となった大地。黒いローブを着た巨大な大魔王。

 地に横たわる全裸にマント一枚の赤い少女と、翼をぐったりと広げて倒れる白い女性。


 ――リリシア。

 

 まだ息はあるようだった。しかし無惨に倒れ伏すリリシアを見ていると、ふつふつと怒りがわいてくる。

 ――この世で一番大切にしたい人を、対等になって愛し合いたい人を、痛めつけるとは。

 絶対に許さん!



 俺は剣を抜いて両手で抱え上げると、床を蹴って大魔王目掛けて飛んだ。

 落ちたら死ぬとか、倒せなかったらどうするとか、後のことは何も考えない。


 落下するよりも早く飛ぶ。

 大魔王が何かしようと体を動かした。

 ――避けられてたまるか!


 風が頬に当たり、髪を激しく揺らす中、俺は剣に魔力を込めて叫んだ。


「ハァァァァ――ッ!」


 いまだかつてない膨大な聖波気が、俺を中心にして放たれた。

 地面に転がっていた魔物の残骸が消し飛び、空を覆う雲が丸く消し飛んで陽の光が差す。


「ぐっ、なんだこの、聖波気の多さは――!」


 大魔王が身じろぎするが、まるで水の中にいるように、ゆっくりとしか動けない。



 俺は剣を掲げたまま大魔王の頭上まで迫る。

 接触する数刹那、俺は聖波気を圧縮した。範囲0メートル。

 俺の体と剣が清浄なる青白い光に包まれる。


「これで終わりだ――魔王撃滅閃アルテマスラッシュ!」


 ズアァァァ――ン!


 勇者が使う剣技の奥義。

 魔力や筋力や落下速度など、すべての力を乗せて、動けない大魔王の肩口から股下まで切り裂いた。

 俺は速度を減殺げんさいしながらも、地面へ激突する勢いで着地する。

 巨大な斬撃は勢いあまって大魔王の後ろへと抜け、闇の城の残骸までも消し飛ばした。


 大魔王は膝をついた。衝撃で左右の体が少しズレた。

 切り口から赤や緑、黄色に青と言った宝石が滝のように流れだす。

 大魔王が体に取り込んだ、ダンジョンコアのコアだった。

 零れ落ちるコアを、自身の両手で掬い上げようとしながら、さらに体がズレていく。


「ば、馬鹿な……我が負けるはずが……ああ、力が……抜ける」


「お前の独りよがりな支配は終わりだ。安らかに眠れ」


「我の……争いのない……世界……力で」


 大魔王は零れ落ちたコアを震える手で掬って口へと持って行く。

 幾つかのコアが口へと入り、魔王の頭部が黒い闇に覆われ始める。


 嫌な予感がした。

 ――第二形態にでもなるつもりか?

 


 俺は大魔王の執念深さに呆れつつ、剣を構えて聖波気を込める。

 ただ勇者の奥義を撃つには聖波気が足りない。

 今できそうなのは、聖騎士の奥義の方だろう。


 剣を腰だめにして突きの構えを取る。


「もう十分だ。諦めろ――聖光強烈破ホーリーストライク


 俺は剣を聖波気で光らせながら、大魔王の頭を狙って突きを繰り出した。

 剣先から大砲のような威力で聖波気が発射される。

 大魔王の口の中へと聖波気が飛び込み、頭を噴き飛ばした。


 大魔王の巨体が後ろ向きに倒れていく。

 ズズ……ンッと重い地響きを立てると、巨体が真っ二つに割れた。

 裂け目からさらに色とりどりのコアがあふれ出す。千個以上ありそうだった。


「今度こそ本当に倒した、か」



 しばらく眺めていると大魔王の体は黒い煙となって崩れていった。ただ巨体なので時間がかかりそうだ。

 もう動き出さないことを確認してから、剣を鞘にしまった。

 倒れたリリシアのところへ急いで走る。


 途中、王都の方から爆発するような歓声が上がった。

「た、倒した!」「あの化け物を一人で!」「アレクじゃないか!?」「勇者アレクだ!」「救世主だ!」「アレクさま、ばんざーい!」


 むず痒い歓声を聞きながらも、今はそれどころじゃないと考えてリリシアの下へ急ぐ。

 そしてリリシアの傍へ来てしゃがみこんだ。

 ぐったりと横たわるリリシアを、翼を傷つけないように気を付けながら抱え上げる。


「大丈夫か、リリシア!」

 

 俺の腕の中で、長いまつ毛が震える。

 そして垂れ目がちの優しい瞳が俺を見上げた。

 花が開くように顔がほころび、笑顔になっていく。


 次の瞬間、細い腕を回して俺にぎゅっと抱き着いてきた。


「ご主人様マスター! もう会えないかと! ますたぁぁぁ!」


 笑って泣いて喜んで。コロコロと表情を変えながら、銀髪を揺らしてしがみついてくる。

 俺も腕に力を込めて抱きしめた。柔らかな曲線が手に温かい。


「よかった、リリシア。無事でよかった……っ!」


 二人抱き合う。溶けあうように強く抱き合う。長い時間ずっと。

 お互いの心と体温が同じになるぐらいまで長く抱き合っていた。



 ――と。

 近くからボソッと声がした。


「……いい加減、回復ヒールの一つでもかけてくれないか?」


 驚きながら声の方を見る。

 倒れたルベルが顔だけ向けて、ジトッとした目で俺たちを見ていた。赤いツインテールが力なく地面に広がっている。


 慌ててリリシアから離れつつ言う。


「うお、すまん! リリシア、頼む!」


「は、はい! 気付かなくてすみません、ルベルさん!」


 リリシアがルベルに手を当ててヒールを唱える。

 俺はそれをあまり見ないようにして周囲を見渡した。

 なんせルベルは全裸にマント一枚羽織ってるだけなので、痴女のようにエロかったからだ。

 いろいろと目のやり場に困る。



 改めて周囲を見渡す。

 晴天の下、王都からの歓声がやまない中で、焼け野原が果てしなく広がっていた。


 ラーナはと見れば、大魔王の遺体があった近くで、地面に転がるコアに子機を押し付けて回収していた。

 ――あっ、戦後の後始末をやってくれてる。俺より偉いな。



 そう言えば魔王は大丈夫だろうか?


 地面に倒れた魔王の傍まで行った。アロハシャツがボロボロになっている。


「大丈夫か、魔王?」


「ふんっ、この程度。かすり傷だ」


 全身ぼろぼろの魔王が、横たわりながらも強がって笑みを浮かべた。

 俺は、その心の強さに感心しつつ、礼を言う。

 

「リリシアやラーナを守ってくれてありがとうな」


「ふん、知らんわ。我輩は我輩のしたいことをしたまで。礼を言われる筋合いはないわ、フハハ――ごほっ、ごほ!」


 強がる魔王は、激しく咳き込んだ。口の周りに血がにじむ。

 俺は顔をしかめつつ、静かに尋ねる。

回復ヒールをかけてやりたいところだが、ダメージになるんだろ? どうしたらいい?」


「ふんっ。もうすぐ我輩の部下が来る。貴様の世話になど一生ならんわ!」


「そうかい。元気そうで何より――お? 部下が来たみたいだな」



 いつの間にか、俺たちの傍に美女が立っていた。

 すらりとした手足に、大きな胸とくびれた腰。無造作に巻き付けたような一枚布を、腰のベルトだけで留めていた。

 胸の谷間やおへそが妖艶なまでに魅せている。

 全身は健康的に日焼けした小麦色の肌をしていた。魔王とお揃いだと思った。


 美女はサングラス越しに魔王を見下ろす。


「あたしはあんたの部下になった覚えはないんだけど?」


「ふんっ、強がっているのも今のうちだ。いずれ我輩無しでは生きていけぬようにしてくれるわ! ふはは――ごほっ、がはっ!」


 魔王は高笑いしようとして吐血した。

 美女は呆れた顔をしながらサンダルを片方だけ脱ぐと、すらりとした脚を伸ばして素足を魔王のアロハシャツの下に入れていく。

 ――なんという、大人なプレイ。


 が、問題があったようで、美女がサングラス越しに俺を睨んでくる。


「ちょっとあんた。そのバカみたいな聖波気、抑えなさいよ」


「ああ、すまん」


 俺は聖波気を0メートルまで圧縮した。

 大魔王相手に二連発も聖波気を放出して枯渇しかけだったせいか、割と簡単に圧縮できた。



 美女と魔王のプレイは続いていく。

 見ていると美女の足先から邪悪な気配が漂った。

 次第に魔王の怪我が治っていく。


 そして魔王は上体を起こしながら美女の脚に、つうっと指先を這わせた。

 美女は驚いたらしく、素早く足を引っ込める。


「な、なにすんのよ!」


「言ったであろう? 我輩無しでは生きていけぬようにしてくれる、と」


「ば、ばかっ」


 美女は恥ずかしがりながら顔を逸らした。

 見た目は妖艶な大人なのに、少女のような仕草が妙に可愛らしかった。


 魔王は立ち上がる。しかし、歩こうとしてふらついた。

 美女が慌てて肩を貸す。


「これで、がれきから掘り出してくれた時の借りは返したからね」


「ふんっ、いいだろう」


 二人仲良く寄り添いながら歩き出す。



 その背に向かって俺は言った。


「またな、魔王」


「ふふん、アレクよ。我輩が世界征服するその日まで、恐れおののいているがいい! フハハハハッ!」


「ちょっと! 急に耳元で高笑いしないでよ!」


「す、すまん」

 

 怒られて少し小さくなる魔王。

 そのまま二人は、喜びの声が響く王都とは反対方向へゆっくりと去っていく。

 ――なんだかお似合いの二人だと思った。美女は誰か知らないけれども。


 俺は微笑みながら、また辺りを見渡した。



 ――と。

 遠くで何かが動いていた。

 瓦解した魔の城の傍にある、金色に光る入り口に向かって、その物体は這っていく。

 一瞬、魔物の残りかと思ったが、違う。


 俺は驚愕して叫んだ。

 

「あれは、教皇!? まさか生きてたのか! 虫のように踏みつぶされたはずなのに!」


 さすがは教会のトップ。死ぬはずのダメージを受けても回復魔法が間に合ったようだ。

 立てないほど足や体を無茶苦茶にされた教皇は、それでも金色の入り口へあと数メートルの場所まで来ていた。


 ――あいつを逃したら、せっかく勝ったダンジョン世界戦に、最後の最後で負けるかも!?



 俺は全力で地を駆けた。大地はあちこちが赤く焼け爛れている。

 近づくにつれて、地を這う教皇の不気味な笑い声が聞こえた。


「……まだ、まだですよ……! 私のダンジョンが世界戦開始直後のままなら、私がこの世界の一番になっています。くくくっ!」


「させるか!」


 俺はさらに速度を上げた。

 しかし匍匐前進する教皇は意外に早い。

 俺が近づく前に、教皇は金色に光るダンジョン入り口へ手を伸ばした。

 指が届く――。



 しかし。

 ゲシッ! と教皇の伸ばした手が、長い足による蹴りで払われた。

 腕が後方へ勢いよく飛ばされたせいで、ゴキッと鈍い音が響く。

 骨が折れた痛みに教皇が苦悶の悲鳴を上げた。


「ぬあぁぁぁ! ――だ、誰ですか!」


 教皇は、しわくちゃの顔に脂汗を流しつつ詰問する。


 金色の入り口に、ぬうっと人影が現れた。

 ぼさぼさの黒髪が目を隠す、ひょろっとした背の高い優男。

 Aランク冒険者のエドガーだった。


 エドガーは口の端に笑みを浮かべつつ、肩に背負った袋を軽快に叩く。


「コア120個、全部持ってきたっすよ。お疲れさんっす、教皇さん」


「な、なにぃぃぃ!」


 教皇はどこにそんな力が残っていたのかと思うほどの悲鳴を上げた。

 エドガーへと、枯れ枝のような腕を伸ばしてわめく。


「か、返せ! それは私のものだ、返せ! 私はルクティア教の教皇だぞぉぉぉ!」


「ざんねん♪ あんたはもう教皇じゃなくて、世界を滅ぼそうとした極悪人っすよ」


 エドガーは黒髪に隠れた目で、パチッとウインクした。

 教皇の呼吸が荒くなる。全身が痙攣を始める。


「嘘だ……私は――私が次の神に……嘘だぁぁぁ……ぁ」


 教皇は全身を強くのけぞらせて痙攣を繰り返した。

 そして、ふっと力が抜けると、地面に臥せった。


 エドガーが首を傾げつつしゃがむと、教皇の枯れた首下へ指を当てる。


「……死んだっすね。心臓発作? まあ、望みが立たれたら気力も潰えたってことっすか。あっけない最後っす」



 俺はエドガーの傍へ行くと、教皇を見下ろしながら言う。


「姿を見ないと思ったら。ルクティア教皇国へ侵入してたのか」


「ええ、ちょうどダンジョンの入り口が開いたっすからね。逆行していろいろしてきたっす」


 エドガーは親指を立てながら、にやりと笑った。

 俺は苦笑しつつ、頭を掻くしかない。


「さすがだな、エドガー」


「アレクさんほどじゃないっすよ」


 エドガーにそう言われると、俺はなぜか笑いが込み上げてきた。



 遠くからリリシアが白い翼を羽ばたかせて駆けてくる。


「ご主人様マスターぁ!」


 笑いを堪えようとしたが、リリシアに勢いよく抱き着かれると、もう我慢できなかった。


 赤黒い雲の消え去った晴天の下、俺は心から笑い声をあげた。

 腕の中のリリシアも満面の笑みで嬉しそうに笑う。


 その瞬間、ガラーン……ガラーン……と大空を叩くような鐘の音が響いた。

 光に包まれながら俺とリリシアはますます笑いあう。



 こうしてダンジョン世界戦は終了したのだった。


ラストバトル終了です。

長くなってしまいましたが、全員に見せ場を作れたかなと思います。


次話は明日更新。

→『156.世界の真実』

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― 新着の感想 ―
大魔王と馬鹿教皇のせいで大変でしたけど アレクさんと愉快な仲間達の皆さんお疲れ様でした!!
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