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【コミカライズ連載中!】追放勇者の優雅な生活 (スローライフ) ~自由になったら俺だけの最愛天使も手に入った! ~【書籍化!】  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第四章 聖竜の宝珠編

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154.意外な助っ人

本日二話更新、1話目


 王都近郊。

 赤黒い曇天の下で、全長二十メートルはある巨大幼女ラーナと大魔王スケルスが殴り合っていた。

 互いに殴った後で、大魔王が少し離れてニヤリと笑った。


「なかなかしぶとい。褒めて遣わす」


「きゅいい!」


 ラーナはこぶしを握り締めて大魔王を睨む。

 しかし大魔王はまだまだ余裕があったが、ラーナは肩と全身で荒い呼吸をしていた。

 形勢は明らかに大魔王に傾いていた。



 上空から見下ろすルベルは、眉間にしわを寄せながら呟く。「頑張れ、ラーナ」と。


 また、王都の外壁の上から壮絶な戦いを見ていた騎士や冒険者たちも応援する。


「負けるな、聖白竜さま!」「がんばれ!」「……ていうか、俺たちは何を見せられてるんだ?」「正気に戻るな!」「巨大幼女ばんざい!」



 そんな声を受けてか、ラーナは大きく息を吸い込むと、大魔王へ向けて一歩踏みだした。

 そこへ、アレクの声が頭上から鳴り響いた。


「ラーナ! この扉を外から引っ張ってくれ!」


「きゃい!?」


 ラーナが目をまん丸に見開いて、上を見上げる。

 

 百メートルほど上空に、大きな両開きの扉が浮かんでいた。扉は白い石でできていて、蔓が絡むような複雑な装飾が施されていた。

 

 その瞬間、ドドドッと大地が揺らいだ。


「戦いの最中によそ見をするとは、しょせん小童だな!」


 大魔王がラーナめがけて突進する。

 ラーナは、ハッとして大魔王を見るがすでに目の前にいた。

 大魔王が最速のボディーブローを放つ。

 ラーナは幼い巨体をくの字に曲げて後方へ飛ぶ――そして、ぼふっと煙が上がった。

 大魔王の拳は空を切る。


「なに!?」 


 ラーナは元の15歳の少女の姿になると、背中に翼を生やして上空へと飛んだ。

 翼から放たれる虹色の光が帯となって空に線を描いた。

 百メートルほど上空に現れた扉の取っ手に両手で捕まり、翼から光を放ちながら引っ張る。


「んんん~ぬぬぬぬ~!」



 ラーナは目をぎゅっとつぶって必死で引っ張るが、扉はびくともしない。 

 それを見ていた大魔王は鼻で笑うと、右手を上空へ向けた。


「終わりだ――闇邪蝕球ルインナイトメア


 禍々しいまでの黒い球体が、扉に取りつくラーナに向けて放たれた。

 上空にいるルベルが火球を飛ばそうとするが、即座にやめて叫んだ。


「ダメだ、吸収される! ――ラーナ、聖波気を放つんだ! バリアを張れ!」


 ラーナが下方を見た。黒い球が飛んでくるのを見て驚く。

 すぐに聖波気を放とうとしたが遅かった。

 すらりとした肢体を包むように黒い球体が炸裂した。


「きゃぁぁうぅぅ――っ!」


 ラーナが悲鳴を上げて細い肢体をのけぞらせた。でも、扉の取っ手を離さない。

 息も絶え絶えになりながら扉をまた引っ張ろうとする。


 扉の向こうからアレクが呼びかける。


「大丈夫か、ラーナ!?」


「だいじょーぶ、まーかせて!」


 けなげな声で笑って答えるラーナ。

 扉の向こうでアレクは歯ぎしりして、さらに唸り声を上げながら扉を押した。



 その頃、王都の外壁上から戦いを見守っていた騎士と冒険者たちは、巨大幼女が急に消えたことで混乱に陥っていた。

「き、消えた!」「いったい何が起きた!?」「もうお終いだ!」



 ――と。

 赤黒い曇天の下を燃え盛る赤い炎が、すうっと空を横切った。

 ルベルが、ラーナと大魔王の射線上に移動したのだった。

 輪郭が輝くほどルベルが炎を圧縮する。


 しかしラーナを見上げていた大魔王が鼻で笑う。


「死ぬ気か? 貴様なぞ、紙を破くよりたやすい」


「果たしてそうかな? ――やってみるがいい」


「ふっ、この期に及んで強がりを――死ね」


 大魔王が伸ばした手に黒い光を集めた。

 その瞬間、大魔王を青白く光る巨大な十字架が貫いた。


「――最終審判ジャッジメント・デイ!」


 リリシアだった。

 白い翼を広げて空を飛びながら、聖なる魔法を大魔王に打ち込んだのだった。



 王都の人たちが歓喜の声を上げる。


「天使だ! 天使様が現れた!」「これで世界は救われる!」「ほら、効いてるぞ!」



 大魔王は身をよじりながら叫んだ。闇のオーラが半壊する。手に集めた闇も霧消した。


「がぁぁぁぁ! ――貴様、時間稼ぎか!」


「それが何か? 全員の力を合わせてラーナを援護する!」


「これ以上、ラーナちゃんに痛い思いをさせませんわ!」


 

 眉尻を上げて決意の表情をしたリリシアが、不敵な笑みを浮かべるルベルの横に並んで浮かんだ。

 大魔王は二人を見上げながら鼻で笑う。


「いつまで耐えられるかな? 百連――暗黒大火球ダークメガフレア


 ボッ――ボッ――ボボボッっと、大魔王の周囲に圧縮された黒い球が百個以上浮かぶ。

 黒い球体の内側では黒い炎が燃え盛る。


 リリシアとルベルが、息をのむ。


「なんて数でしょう――天使大盾陣エンジェリックサークル!」


「くそっ! ――紅蓮大障壁フレイムフォートレス!」


 光の盾が二人の前に展開され、さらに燃え盛る壁が立ちはだかった。


 しかし大魔王が腕を振ると、黒い球体が無数に飛んだ。

 一つ二つは盾や壁が弾いたが、十以上もの黒い球体を受けて盾も壁も崩壊した。

 マシンガンのようにリリシアとルベルを黒い球体が襲う。

 彼女たちの体に当たっていくつもの黒い爆発を起こした。


「きゃあああ!」「ぐぁああああ!」


 リリシアとルベルはぼろぼろになって地面へと落下する。


 内側から扉を押していたアレクが、リリシアの悲鳴に驚く。


「リリシア! 大丈夫か、リリシア!」


 しかし墜落したリリシアは、地面に横たわったまま動かない。


 王都からは絶望の悲鳴が上がった。

「天使様が!」「ギルマスもやられた!」「終わりだ……もう俺たちみんな死ぬんだ……」



 大魔王は余裕の笑みを浮かべて上空へ手を伸ばす。

 手のひらに黒い光を集めながら、ラーナを狙う。


「消え去れ――暗黒闇爆破アビスパルサー


 手のひらから黒い光がレーザーのように放たれる。

 しかしラーナへ当たる直前、ふてぶてしい声が響いた。


「甘いぞ――暗黒大障壁ダークフォートレス


 ラーナの周囲に黒い壁が生まれ、大魔王の放った黒い光は吸収されるように消え去った。



 王都の連中が驚きの声を上げる。

「だ、誰だ!?」「見ろ、上空だ!」「味方……なのか?」「えらくチャラいが」



 大魔王が苛立たしそうに、じろっと声の主を睨む。

 空中にはアロハシャツを着て日焼けしたギザ歯の男が、偉そうにふんぞり返って浮かんでいた。


何奴なにやつだ……?」


「初めましてと言っておこうか! 我輩は魔王! この世のすべてを支配する男だ! フハハハハッ!」


「ただの魔王が偉そうに」


「ほう? そういう貴様も魔王だろう?」


 大魔王スケルスはあざけるような笑みを浮かべて言う。


「ふんっ。我は大魔王スケルス。すべての世界を滅ぼす者よ」


 大魔王の言葉に、魔王は腹を抱えて笑った。


「フハハハハッ! 語るに落ちたとはこのことだな! 貴様にこの世界は滅ぼせない!」


「なんだと?」


「世界を滅ぼすなら魔王で十分! 大魔王なんて名乗った時点で、誇大妄想が過ぎると言うものよ! フハハハハッ!」


「ぬかせ――闇邪蝕球ルインナイトメア


「――闇邪蝕球ルインナイトメア


 ドゴォォォン!


 魔王と大魔王の間で黒い大爆発が起こった。

 煙が晴れないうちに、二人が同時に叫ぶ。


「――暗黒大火球ダークメガフレア


「――暗黒大火球ダークメガフレア


 またしても二人の間で黒い大爆発が起こった。



 王都にいる騎士や冒険者たちが驚愕で目を見張る。

「防いでる!」「同じ攻撃で相殺だと……?」「いったい誰なんだ、あのチャラい男は!」



 魔王が胸を反らして高笑いをする。


「ふははははっ! 貴様の手の内なぞ、我輩にはお見通しだ! ――どうした、でくの坊? 我輩の勝利が決まっているとはいえ、少しは楽しませてくれてもいいのだぞ?」


「黙れ! 世界征服もできぬ無能が! 死ね――氷刃吹雪グラシエスブリザード


「なにっ!? 氷結魔法まで使えるのか!?」


 周囲の景色がすべてホワイトアウトするような、猛烈な吹雪が吹き荒れた。

 しかも雪ではなく、小さな氷の刃が無数に含まれていた。あらゆるものを切り刻み、ミンチ肉へと変えてしまう。


 魔王はいったん退避しようとしたが、チラッと地面に横たわるルベルとリリシアに目を向けると、舌打ちしながら両手を左右へ突き出す。

 

「この程度の吹雪で我輩を倒せると思うなよ? ――雷炎爆光破プラズマデトネーション!」


 雷炎系最強魔法が、魔王を中心にして爆発した。雷光を纏う赤い炎が太陽のように膨れ上がる。

 大魔王の放った吹雪を相殺しながら消し飛ばした。



 ――が。

 魔法が消え、煙も消えると、大魔王の姿が地上になかった。


「ぬ? どこだ?」


「ここだ」


 魔王の頭上から大魔王が襲い掛かった。ハッと息をのんで身構えるが、もう遅い。

 巨体から繰り出される大きな拳が、無慈悲な一撃となって魔王を叩き落とす。


「ぐはっ!」


 ドガッ、ドゴォォン!

 

 殴られた魔王は地面に叩きつけられ、激しい土煙と共に巨大なクレーターを作った。

 すぐに魔王は起き上がろうとしたが、大魔王が飛び蹴りのように足を延ばして魔王の上に着地した。

 巨体の衝撃に、魔王は口から赤黒い血を吐いて悶絶する。


 大魔王は魔王を踏みにじりながらあざ笑った。


「魔王を僭称したところで、所詮はこの程度。世界と共に滅びるがいい――そう、意思を持たぬ生き物だけが平和な世界を作るのだよ」


 魔王は踏みつけられて体がバラバラになるほどの痛みに耐えながら、血を吐きつつ不敵に笑った。


「ぐふっ……何か忘れてはおらんか? スケルスよ」


「なにがだ?」


「……我輩の、勝ちだ」



 がこんっ!


 と、上空からちょっと間の抜けた大きな音が聞こえた。

 ギギギ――と重い扉が開いていく。


 誰しもが、はるか上空を見上げた。

 王都の外壁の上にいる騎士たち冒険者たちは目を凝らす。

「あれ?」「どこかで見たような……」「ま、まさかっ!」


 大きく開いた扉の中に立つのはアレク。

 二十代前半の青年ともいえる凛々しい顔に、怒りを黒い瞳に宿して見下ろす。

 そしてアレクは剣を両手で掲げると、地上に立つ大魔王目掛けて彗星のごとき速さで飛び降りた。


 ――両手で握った魔剣ルイングリードを激しく輝かせながら。



次話は夜更新。

→『155.勇者の帰還!』

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