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15.ヘルリッチ再湧き?

本日2回目更新。


 朝の冒険者ギルドは、新規の依頼を求める冒険者たちでごった返していた。


 俺とリリシアも掲示板へ行く。

 ――今日はヘルリッチのダンジョンを探索するので、収集系のみ受けようと思っていた。


 リリシアが壁に張られた依頼メモを次々取っていく。


「薬草収集と……キノコ収集。あ、青うずらの卵収集もできそうですね……あとは」


 まあリリシアに任せて大丈夫だろう。

 なんせ指眼鏡で次々と見つけてしまうのだから。

 天使の持つ鑑定スキルらしい。



 リリシアが選ぶ間、俺もぼーっと依頼を眺めた。

 すると驚きの依頼があって、思わず声を上げてしまう。

「えっ?」


「どうされました?」


「ヘルリッチの依頼が、またある……」


「あれが二匹もいたというのですかっ!?」


 リリシアがすみれ色の瞳を丸くして驚く。



 すると横にいた男が教えてくれた。

「あんた、ヘルリッチ殺しのアレクさんかい? でも昨日は森のやつだろ? この街にも出たって噂なんだ」


「は? ヘルリッチが王都に!?」


 人の住むところにヘルリッチが出たなんて、勇者を30年やってて一度もなかった。

 リリシアが口を手で押さえて声を抑える。


「あんなのが王都にいるって、めちゃくちゃ危険じゃありませんかっ」


「いやまあ、噂の段階だからよ。でも何人も姿を見かけたってやつがいるんだ。不審な行方不明者も多い。それで要調査ってわけだ」

 

 依頼メモをよく見ると、討伐依頼ではなく探索依頼だった。難易度Dランク。



 リリシアが銀髪を揺らしながら尋ねる。

「森にいたヘルリッチと同じではないのでしょうか?」


「それはないぜ。ヘルリッチは移動できる範囲が狭い。住処から百歩も離れられないんだ」


「ああ、それはわかる。城や廃墟にいても建物内すら出歩かず、部屋の中から動かないのもいたぐらいだ」

 俺が横から補足した。


 リリシアが真剣な顔でうつむく。

「ヘルリッチ以外にも魔物がいる危険がありますし、王都に住むのはしばらく様子見にした方がいいかもしれませんね……」


「いやいや嬢ちゃんっ、待ってくれよ! あんたら倒したじゃねーか! むしろいてくれよ、なっ? なっ?」

 男が慌てて頼み込んでいた。

 自分の発言で俺たちが出て行くことになったら、みんなから白い目で見られるからとかなんとか、必死だった。



 俺はじっと依頼のメモを見つめる。

 ――何か引っかかる。


 手下のアンデッドが何体も見かけられたのならわかるが、ボスクラスのヘルリッチが何匹もいるなんて。

 やっぱりリリシアの言う通り、同じ奴じゃないのか?


 気になったので、依頼メモを手に取った。

 失敗してもいいから受けてみるつもりだ。

 そしてリリシアも選び終えたので二人でカウンターへ向かった。



 すると、俺のことを見ていたらしい冒険者たちがひそひそとざわめく。

「またヘルリッチだぜ……」「ヘルリッチに恨みでもあるのかしら?」「あの余裕っぷりがすげぇな」「バリアルがビビッて出てこないわけだぜ」


 ――ん? そういや斧の大男がいないな。

 まあ、どうでもいいか。小突いただけなので怪我はしてないだろうし。

 むしろ絡んでくる奴がいなくてせいせいする。



 カウンターで受付嬢に依頼メモを渡すと、彼女は片方の眉だけ器用に上げた。

「収集系と……またヘルリッチですか」


「ん? 似たような依頼を連続して受けるのはまずいのか?」


「いえ、構いませんよ。ただこちらは、いるかどうかすら未確定でして……」


「目撃者はいるんだろ? どんなヘルリッチだった?」


「街に出たのは赤いローブを着た、黒い骸骨のヘルリッチだそうです」


「……それは昨日とは違う気がするな」

 俺は嘘をついた。まだダンジョンを漁って宝物を手に入れてないから。

 でも昨日の奴に間違いなかった。



 受付嬢が残念そうに肩を落とす。

「そうですか……見間違いだといいんですけどね」


「見つけられなくて任務失敗したら、どうなる? 何かペナルティでもあるのか?」


「この場合は特に何も。依頼者がいる期日の決まった依頼の場合、迷惑料的な罰金が発生することもあります」


「なるほど……じゃあ、今日のところはこの依頼で」


「はい――こちら冒険者カードをお返しです」


 ガチャっとプレス機でパーティーを組んで、依頼内容が記載されたカードを返された。


 そしてギルドを後にした。



 朝日が石畳を照らす大通り。

 人の多い中、リリシアが顔を寄せてきて、そっとささやく。

「同じ、でしたね」


「ああ、昨日倒したやつと同じだ。でも、ヘルリッチの習性からしてあり得ない……あのダンジョンが何か関係してるのか?」


「その可能性は高いですね……カンテラやロープを買ってから行きましょう」


「わかった」


 森へ向かう前に雑貨屋や道具屋でダンジョン探索に必要なものを買った。

 カンテラやロープのほか、毛布やマッチ、水筒。収集物を入れる小袋、大袋。

 あと収集した卵を壊さないケースも買った。


 全部で3万6000ゴートだった。



 所持金残り。大金貨32枚、金貨11枚、大銀貨8枚、銀貨8枚。331万8800ゴート。


       ◇  ◇  ◇


 王都の南東にある森。

 俺とリリシアはダンジョン探索の道具を揃えてヘルリッチの小屋へ向かった。


 途中、リリシアが指眼鏡で薬草やキノコを収穫しつつ、森の奥へと進んでいく。



 今日のリリシアは木の枝も眺める。


「あっ! ――ありましたわ」


 突然、翼をバサッと広げて、軽く地面を蹴る。

 それだけで、ふわっと高い梢まで飛んだ。


 リリシアは悲し気な頬笑みを浮かべて鳥の巣に手を伸ばす。


「ごめんなさい、一つ貰いますわね」


 ――採集依頼の、青うずらの卵収集だった。


 卵を手に入れたリリシアが、翼を広げて舞い降りる。 

 緑の森から木漏れ日が斜めに差す中、白亜の翼を広げて飛ぶ天使が、宗教絵画のように美しかった。


 ――この見惚れるぐらい神々しい天使を抱きしめてもいいなんて、俺は人生を諦めなくてよかったと思わざるを得ない。



 ぼーっと見惚れていると、地上に戻ったリリシアが俺に近寄りながら首をかしげる。


「どうされました、ご主人様マスター?」


「いや、リリシアが美しくて可愛いなと思って」


「も、もう……っ! 急に褒めないでくださいましっ」


 リリシアは頬を染めて、そっぽを向く。

 でも白い翼が嬉しそうにバサッと鳴るのを見逃さなかった。


 けれど、すぐに白い翼をしまってしまうのが残念だった。

 ――人に見られたら大変だから仕方ないけど。


       ◇  ◇  ◇


 日がだいぶ傾いた午後。

 森の奥深くにあるヘルリッチの小屋まで来た。


 この辺りになると、冒険者の姿はまったく見えない。

 みんなはもっと手前で依頼を終えるらしい。

 俺は聖波気のせいで敵と遭遇しないため、他の冒険者の数倍は距離を稼げるのだった。


「意外と時間がかかったな」 


「すみません、いろいろ採集してしまって……」


 薬草やキノコ、鳥や虫の卵など、見つけるたびに採集したのだった。

 それで少し時間がかかってしまった。


 俺はリリシアの頭を撫でつつ言う。

「いや、問題ない。そうやって頑張ってくれる方が嬉しい」


「ありがとうございます、ご主人様マスターっ」

 リリシアは頬を染めて俺にしなだれかかって来る。



 そのまま寄り添いながら小屋へと入った。

 部屋の中は昨日片づけたため、整頓されている。


 小屋の奥にある洋服ダンスを開けると、闇が広がっていた。


 ――が。

 俺は扉を一度閉じた。

 隣のリリシアが首をかしげる。銀髪がさらっと流れた。


「どうされました? ご主人様マスター?」


「先に早めの夕飯を食べておこう。ここなら用意もしやすいし」 


「あっ! そうですわね! ――今すぐ支度いたしますっ」


 リリシアが白い修道服を揺らして駆け出す。

 台所に立って薪に火を付けつつ、辺りを見回す。


「水はどこでしょう?」


「裏にあったんじゃないか、確か」


「見てきます!」

 リリシアが細い手足を振って走り出した。



 俺もついていくと小屋の裏にポンプ式の井戸があった。

 リリシアが細腕でレバーをぎいっと引く。

 最初の内は空打ちだった。


 俺も手を出して手伝う。

 次第に赤い水が出始める。

 そして最後には大量のきれいな水がほとばしった。



「出ました! これなら飲めますね!」


「ああ、いい水だ」


 桶一杯に水をくむと、小屋へ戻った。


 それから食事の支度をした。

 温かいスープに湯気の立つソーセージ。

 パンはそのままだが、スープや肉とよく合う。


「おいしいですわっ」


「リリシアのおかげだ」


「いえ、ご主人様のためならっ」


 リリシアがパンを頬張りながら微笑む。


 俺も食べながら、この天使はなんて可愛いんだろうと思った。



 そして早めの夕飯を食べ終えた。

 満足したので、別の想いも満たしたくなった。

 朝からずっと見ていた、輝く天使の柔らかさをこの手で抱き締めたい。


 未使用と思われるベッドもあるし、見てくるような人の気配もない。


 ――が、さすがにしない。

 それよりもまず、しておかなくてはならないことがあった。



 俺はリリシアの細い手首を掴む。

 すると、すみれ色の瞳を丸くして俺を見返した。


「な、なんですか、ご主人様?」


「食後の運動といこう」


 そのまま立ち上がると、リリシアが頬を染めて恥ずかしがった。白い修道服が乱れる。


「だ、ダメですわ、ご主人様マスター! こんなところで愛し合うなんてっ! いつ魔物に襲われるかわかりませんっ! それにダンジョン探索前から疲れるようなことは……っ」


 そう早口に言うと、さらに服を脱ぐように乱して胸の谷間を大胆に見せつつ、言葉とは裏腹にベッドの方へ行こうとする。


「何を言っている? ダンジョン内の二人での戦い方を訓練しておきたい」


「あ――っ」


 リリシアは顔を耳まで真っ赤にしてうつむいてしまった。


 その可愛い耳に口を寄せる。

「それともベッドの上で愛を確かめる方がよかったか?」


「うぅ……ますたぁーが、いじわるですぅ……っ」

 すみれ色の瞳を涙で潤ませて見上げてきた。



 ――そんな誘うような顔されると今にも押し倒したくなる。

 気品のある美しさが崩れると、この世のものとは思えないほど可愛くなる。


 でも、それぐらい大切だからこそ、ダンジョン内での動きを確認しておきたかった。

 俺はリリシアを守りたいし、絶対に失いたくない!


 想いをぐっと抑え込むと、俺はリリシアの手を引いて外へ出た。


すごいです。まさかの二桁!

ジャンル別23位、日間総合94位にランクイン!

みなさんがブクマと評価してくれたおかげです、ありがとうございます。

面白いと思ってもらえたようでなによりです。


二桁記念に夜も更新します!

次話→16.ダンジョンの練習

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― 新着の感想 ―
[良い点] 無骨なおっさんなのに、きちんと愛情表現をするところは見習いたい。
[一言] 色恋物って、駆け引きがあったりすれ違いがあったり、なんやかんやあって面白いのであって、ただのカップルがイチャイチャしてる描写なんぞ、なんも面白くない。 童貞が初体験して猿になるのはわかるけ…
[気になる点] ヘルリッチの強さの割に討伐報酬が異様に安かったのは、住処からほとんど出て来なくて危険度が低いからなのか。
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