14.家の相談
朝の王都に爽やかな朝日が降る。
勇者マリウスは高級宿のバルコニーで食後のお茶を飲んでいた。
昨日のやつれ加減はすっかり消え、サラサラの金髪はきれいになっている。
そこへ杖を持った僧侶の女性がやってくる。
「マリウス様。今日こそはワイバーンを退治しましょう」
「わかっているさ」
白い歯を見せて爽やかに笑う。
女僧侶は眉をひそめつつ咎めるように言う。
「失敗したのに余裕ですね? 王様が怒っていましたよ?」
「何を言っているんだい。昨日のは失敗じゃないさ」
「え?」
「下見に行っただけだよ。だから準備不足だった。今日こそワイバーンを仕留めるから」
「はぁ……そうですか」
女僧侶は言葉では従ったものの、疑うようなジト目は変わらなかった。
マリウスはお茶を飲み干すと、長い足でしなやかに立ち上がった。
赤い目を細めて笑いかける。
「雑魚敵を相手にしなければいいんだ。――まずは教会で魔除けの聖水を購入しよう」
「ええ、わかりました」
女僧侶は青い髪を揺らして頷く。
そしてマリウスは女僧侶を連れて部屋を出て行った。
◇ ◇ ◇
王都の朝。
安宿でリリシアと深く愛し合った俺は、小鳥の声とともに目を覚ました。
狭いベッドの隣では、裸のリリシアがシーツだけをまとって寝ている。
朝日を浴びて輝く白い肌と乱れた銀髪が、愛おしいぐらいに美しい。
横向きに寝た背中からは、一対の白い翼も神々しく光っている。
――これが俺の天使だなんて、やはり信じられないな。
そっと手を伸ばして、彼女の持つ天上の曲線を確かめる。
しっとりとした肌触りが指先に伝わる。
白い翼はふさふさで、どこまでも柔らかくて気持ちいい。
すると、リリシアが「んぅっ」と可愛くうめいて目を開けた。
大きなすみれ色の瞳が俺を見上げる。
「あぅ……おはようございます、ご主人様」
「おはよう。俺の可愛いリリシア」
挨拶をしながら彼女の頬にキスをした。
それだけで、白くなだらかな頬が赤く染まっていく。
「ひゃっ……ご主人さまぁ……ダメです……朝、です……」
「もう誘ってるだろ、それ」
「ち、違いま――んぅっ!」
リリシアの赤い唇を塞いで、折れそうなほどに華奢な肢体を抱きしめた。
一方の彼女は、恥ずかしがる仕草をしながらも、細い指が大胆に攻めてくる。
朝の輝く光の中で、天使のような白翼の彼女を愛した。
◇ ◇ ◇
王都の朝。
俺とリリシアは軽食屋で朝食を取っていた。二人で200ゴート。
安宿では食事が出ないので。
狭い店内。
テーブルに向かい合って座っていたが、リリシアは顔を真っ赤にして炒り卵を突いている。
「なんですのっ! ――昨晩はお楽しみでしたね、って! なんですのっ! ――えい、えいっ!」
朝、宿を出る時に宿屋の主人がニヤニヤしながら言った言葉。
――昨夜もたくさん愛し合ったが、その時の声が聞こえていたらしい。
彼女は必死に可愛い声を抑えていたが、無駄だったようだ。
俺はハムを挟んだパンを食べつつ言う。
「これは、家を借りるかどうかした方がいいかもしれないな」
「そ、そうです! それが一番ですわっ!」
「遠慮なく愛し合えるもんな」
「うぅ……わたくしのご主人様は、いじわるです……っ」
卵をもひもひと食べつつ、すみれ色の瞳で上目遣いで見てくる。銀髪が儚げに揺れていた。
可愛いったらありゃしない。
神々しいまでに美しくて、いじらしいまでに可愛い。
それでいて俺に尽くしてくれるんだから最高だ。
――こんな彼女のためには、やはり最高の衣食住を揃えてやらないとな。
いつまでも安宿に泊まっていてはダメだ。
しかし、いくらかかるのか。
常識のない俺は相場を知らない。
そこでリリシアに聞いてみた。
「家を買ったり借りたりするのって、いくらかかるんだ?」
「そうですねぇ……住む場所は王都ですか?」
「そうか。その辺から決めないといけないのか」
「王都ですと、一部屋借りるのに7万ゴートからでしょうか。買うとなると中古の一部屋で1500万、新築なら3500万ぐらいでしょうか。一軒家だと億はすると思います。あと税金もかかりますね」
「高い……無理だな。地方の街だと安くなるのか?」
「当然です。借りると一部屋2万ぐらい、大きな一軒家でも10万ゴートかからないかと。一軒家を買っても街の中で2000万、郊外だと300万ゴートでしょう。魔物の危険がありますが」
「なるほど……うーん。買うとなると一生ものだし、場所はよく考えないとダメそうだな……今の俺には、正直どこがいいとか判断つかない」
「わたくしも、冒険者として暮らせる場所はちょっと判断がつきません」
「家を買うのは、冒険者の生活に慣れてからだな。まずは部屋を借りよう」
「はい、それがいいと思います」
俺はお茶を飲みながら言う。
「よし。ヘルリッチのダンジョンに潜ったあとは、部屋を探すか」
「え――っ。ほんとですか、ご主人様!?」
「ああ、リリシアを大切にしたいからな。それに、よく考えたら危険だ。安宿だと正体がバレるかもしれない。――あと、リリシアの可愛い声を他人に聴かれるなんて許せないな」
「ますたぁ……っ」
リリシアが嬉しそうに目を細める。俺を見るすみれ色の瞳は潤んでいた。
その後、朝食を食べ終えてると冒険者ギルドに向かった。
所持金残り。大金貨32枚、金貨14枚、大銀貨14枚、銀貨8枚。
335万4800ゴート。
ブクマと☆評価の応援ありがとうございます!
ランキングがさらに上がって日間総合118位、ジャンル別30位!
400Ptも入ってる……嬉しいです、更新頑張ります!
この作品が面白いと思ったら、↓の星を入れてもらえると喜びます!
次話更新は午後ぐらいに。
→15.ヘルリッチ再湧き?




