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【コミカライズ連載中!】追放勇者の優雅な生活 (スローライフ) ~自由になったら俺だけの最愛天使も手に入った! ~【書籍化!】  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第四章 聖竜の宝珠編

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134.ドワーフ公爵令嬢ヒルダ

 港町ノースプトンにて、俺とリリシアはドワーフ少女ヒルダを追いかけていた。


 人通りの多い表通りの横道にさしかかったが、裏通りへと曲がる少女の後ろ姿がちらっと見えた。

 さらに追いかけて、俺たちも裏通りへと入った。

 一本奥に入っただけなので、まだ道幅は広い。馬車がすれ違える広さ。


 ヒルダの後姿を捉えた。

 小柄なので人並に埋もれるが、背中に大きな荷物を背負っているので見分けがつく。


 しかし追いかけている途中で、ふと問題に気が付いた。

 俺が足を緩めると、隣でリリシアが首を傾げた。



「どうされました、ご主人様?」


「いや、なんて話しかけようかと思ってな。いきなり話しかけても不審がられるだけだろう?」


「それも……そうですね。わたくしだって、見知らぬ他人にいきなり話しかけられたら警戒します」


「かといって父親に頼まれたからと正直に話しても疎まれるはず。きっと何か理由があって家出したんだから」


「もう勇者さまではありませんし、信頼してもらうのは難しいかもしれませんね」


 リリシアが困ったように眉を寄せた。

 俺も顎を撫でつつ頷く。


「うーん、しばらく様子を見よう。ヒルダが何をしているのか知ってからの方が交渉しやすそうだ」


「確かにそうですね。わかりました、指眼鏡をしつつ見失わないように気を付けます」


「頼んだぞ」


 それからはヒルダの後を距離を保って尾行した。

 いくつかの横道に入って進んでいく。



 しばらくしてヒルダが店に入った。魚を売っている店だった。

 近づいて建物の陰から様子をうかがう。

 ヒルダは店主と何やら話していた。

 必死な様子だが店主は取り合わない。 

 すぐに出てきたので、慌てて物陰に隠れた。

 

 ヒルダはいらいらしながら肩を怒らせて歩く。爪をしきりに噛んでいた。

 俺は店とヒルダを交互に見てから言う。


「リリシア、店の主人にヒルダが何を話したか尋ねてくれ」


「わかりました。聞いたらすぐに追いかけます」


「頼む」


 リリシアが修道服を揺らして店へ入った。

 俺はヒルダを追った。



 ヒルダは難しい顔をしながら、また裏通りにある別の店に入った。干物が売られている。

 そっと店内をうかがうと、髭面の親父に向かって何やらまくし立てている。

 けれど交渉は失敗に終わったらしく、とぼとぼと表へ出てくる。

 また裏通りを歩き始めた。


 ――いったい何をしているのだろうか?

 疑問が募った。


 ヒルダの跡を付けていると、リリシアが子機を見ながら帰ってきた。

 俺の居場所がわかるらしい。あとでやり方を教えてもらおう。

 歩きながら小声で尋ねる。


「どうだった?」


「ヒルダさんはルクティア教皇国行きの船を探しているようです」


 ここノースポートから北へ海を渡るとルクティアのある半島がある。

 確か定期便があるはずだった。



「なんでだ? 海を挟んで北だろ? 定期便ぐらいあるんじゃないのか?」


「なんでも今後一か月ほど、教会関係者以外入国禁止になっているそうです」


「ほう? それはまたおかしな話だ」


「ええ……思ったのですが、ルクティア教もダンジョン持ってましたよね? 世界戦と関係があるのかと」


「あ! なるほど。教会も参加するのか……ふむ。となると俺たちも行っても歓迎されなさそうだな」


「エドガーさんに頼んだ方がいいかもしれませんね」


「そうするか――よし。ヒルダに話しかけよう」


「はいっ」


 俺は少し足を速めて歩いた。リリシアは隣で小走り気味についてくる。白い修道服が乱れて、スカートのスリットからすらりとした長い足が見えた。



 徐々にヒルダに近づくが、人が多いためなかなか追いつくところまで行けない。


 いつしか人気のない路地裏を進んでいた。

 細い路地をうねうねと歩く。魚が腐ったような、少しすえた匂いがした。


 ついには袋小路に誘い込まれた。


 袋小路の真ん中にきたドワーフ少女ヒルダが仏頂面をして振り返った。

 肩でそろえた茶髪がふわっと広がる。


 仕立てのよいシャツは革のベルトが斜めにかかっていて、胸の谷間を強調している。ベルトは背中の物を止めている様子。ただ鞄ではないように思われた。

 肩幅に開いた足は、短パンからすらりと伸びている。


 どうやら後をつけていたことに気づいていたらしい。

 少女のヒルダは不機嫌そうな声で問い正してきた。


「なにかよう? 私、今すっごく機嫌が悪いんだけど?」


 可愛い声ながらもいらだっているのがわかる。

 返答次第によっては戦いになりかねない。

 俺は慎重に言葉を選びつつ答えた。


「ヒルダ、俺は元勇者のアレクだ。今はフォルティスの王都でぷちエリ屋っていうポーション屋をやってる。親に頼まれて会いに来た」


「親って、誰よ?」


「グスタフ公爵だ」


 俺の答えに、ヒルダは黒い瞳を細める。

 そして背中の物体に手を伸ばすと、素早く引き抜いて構えた。

 それは拳銃だった。ただし銃身が大砲ほどもある。

 ――重そうな武器を片手で扱うなんて、見た目では想像できないほどの豪腕だ。


「嘘でもほんとでも、どっちにしろ最悪じゃない。一歩でも近づいたら、あんたの体を粉々にするから」


「初めて見るが、強そうな武器を持ってるな。さすがドワーフだ」


 ヒルダの細い眉がピクッと動く。怪訝そうな表情は変わらないが、口の端が少しだけ上がっていた。

 武器をほめられて嬉しいらしい。


「なかなかわかってるじゃない。そうよ、これは特注品。私専用なんだから」


「さすが公爵令嬢だな。確かに一人で家出しても安全そうだ」


「で? なにかよう? 世間話しに来たの?」


 大砲拳銃をちらつかせながらいらだつ声で尋ねてきた。

 今にも暴れ出しそうな様子。

 大砲を避けたら街に甚大な被害が出そうだ。



 俺は困ってしまって、頭を掻きながら言った。


「さて、娘が心配だからと言われたが、無理に連れ戻せとは言われてない」


「ん? なにが言いたいの?」


「うーん。何か困ってるなら、手伝うが?」


「なんで見知らぬ人に手伝われなきゃいけないわけ? 信用できないわ」


「これでも一応、元勇者だったんだが……」


「嘘よ。一度見たことあるけど、もっとおっさんだったわ」


「うっ――確かに」


 俺は言葉を詰まらせた。

 若返ってしまっているため、証拠がないも同然だった。



 ちらっとリリシアを見ると、彼女は真剣な表情でうなずく。白い修道服を揺らして一歩前に出た。


「ヒルダさん、わたくしはリリシアと言います。ルクティアに行きたいのですよね? わたくしたちなら連れていくことができます。ちょうどルクティアに行く用事もあったので」


「人の手なんて借りないわ。なんなら小舟を借りればいいし」


「えっ!? そんな無茶な。対岸の半島まで結構ありますよっ」


「それでも一人でやるから大丈夫。お父さまの息がかかった人の協力なんて受けない」


 ヒルダはきつい目つきで睨んでくる。

 ぜんぜん警戒が解けなかった。


 俺とリリシアは完全に困ってしまって目配りしあうしかなかった。

 ――こういうの苦手だな。


 よくよく考えたら勇者の時は、自分の地位を証明するために勇者のメダルを見せればよかった。

 それだけで信用してもらえた。

 今はどうしたらいいかよくわからない。



 ヒルダがいらだつ声で言う。


「用事は終わり? もう行くから」


「んー、わかった。すまないな。信用してもらう方法がない。じゃあ一つだけ」


「なに?」


「なにか父親に伝言とかあるか? 任務失敗の報告ついでに伝えとくよ」


「別に。なにもないわ。元気にやってるとでも伝えといて」


「じゃあ、お金には困ってないか? 昼飯ぐらいおごるが」


 はぁっと溜息を履くヒルダ。

 

「いらない」


「そっか。ドワーフ公爵領特産のエールもあるんだが」


 俺がマジックバッグから瓶を一本取り出して見せた。

 ヒルダの目が少しだけ大きくなる。


「なんで持ってんの!? 生産できなくなったのにっ」


「グスタフ公からもらったんだが……ん? 生産できなくなった? やっぱりドワーフ領にはダンジョンあったのか? このエールはダンジョンで作るらしいが」



 しまった、とヒルダは可愛い顔を大げさにしかめた。


「知らないっ。私はなにも知らないっ」


 ふむ、と俺は顎に手を当てて考えた。

 ――少しきっかけが生まれた気がする。

 なんとなくだがダンジョンに関係しているんじゃないかと思った。


 そこで俺は自分から秘密を一つ切り出すことにした。エドガーだって自分から秘密をばらして俺たちの信用を勝ち取っていたし。

 

 子機を取り出してヒルダに見せつける。


「もうすぐ世界戦があるそうだが。これ、何か知ってるか?」


「え? ――そ、それって子機!」


 ヒルダは目を見開いて驚いた。

 俺はうなずいた。


「元勇者っていったろ? 今はまあ、人の為じゃなく個人的に動いてるんで、人には言えない職業にもなってる」


 ヒルダはしばらく顔をしかめて悩んでいたが、ついに持っていた大砲拳銃を背中にしまった。

 真剣なまなざしで俺を見上げる。


「わかった。今の職業がダンマスってなら、ある程度事情説明してもいいわ。お互いアレの秘密を暴露できないだろうし」


「そっか。助かるよ」


 俺は、ほっと息を吐いた。これでヒルダの困りごとを解決して実家に連れて帰れば、リリシアの無条件奴隷解放に口添えがもらえる。

 隣ではリリシアも大きな胸を撫でおろしていた。



 ヒルダが先に立って歩き出す。


「イライラしてたらお腹すいちゃった。立ち話もなんだし、食べながら話しましょ――もちろんおごりで」


「ちゃっかりしてるな。りょーかい」


 俺は苦笑しつつ同意した。


 その後、ヒルダに案内されて大通りにある飲食店へと入った。


いつも応援ありがとうございます!

一ヵ月も更新しなかったらポイント減るかなと思ったけど、まだ楽しんでくれているようでうれしいです!

今後も大団円に向けて頑張ります。


次話は明日更新。

→135.ドワーフダンジョン

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