131.宴の後で
あとがきにお知らせがあります!
俺はラーナを成長させて店員をしてもらうため、宝珠を集めていた。
ついでに、ドワーフ公に家出した娘を捜すよう頼まれた。成功すれば、リリシアの奴隷解放に口添えしてもらえる約束だった。
森の朝。
俺がベッドで目を覚ますとリリシアの白翼が二人を包んでいた。
すやすやと心地良さそうな寝息をたてている。息をするたびに、大きな胸が柔らかく揺れていた。
シーツを掛けてやろうとすると、リリシアが目を開ける。
スミレ色の瞳をぼーっとさせつつ顔を上げた。
「はう……おはようございます、ご主人様」
「おはよう。気分はどうだ?」
「うーん、なんだか頭が重いです……」
「二日酔いか?」
「かもしれません――治癒」
リリシアは頭に手を当てて魔法を唱えた。
すぐに銀髪を揺らして笑顔になる。
「治りました、ご主人様っ」
「よかった。じゃあ今日は宝珠を探しに行くか」
「はいっ」
朝食を取ろうと食堂へ行く。
エルフ少女テティや僧侶ソフィシアの姿が見えない。
「まだ起きてないのか」
「珍しいですね」
「あ、そうか。お土産渡したから、あいつらも酔っぱらったのかも」
「見てきますね」
リリシアが食堂を出て行った。
すぐに悲鳴が聞こえた。
「どうしたリリシア!?」
俺は驚いてダンジョンへと急いだ。通路を駆け抜ける。
すると広間でソフィシアが全裸で倒れていた。幼いラーナも大の字になって倒れている。
「えっ!? なにがあった! 息は?」
ソフィシアの側にしゃがんだリリシアが顔を上げる。
「ご主人様、息も脈も正常です!」
「ということは?」
「寝てるだけだと思われます――全裸で」
「寝てるだけか、それはよかった――全裸だけど。ラーナもか?」
「そうみたいです」
「風邪を引いてなきゃいいけどな……とりあえず、ソフィシアに服を着せてやってくれ。俺はラーナを部屋に運んでおく」
「はい、ご主人様」
広間にはテーブルが出ていて食べかけの食事が残っている。
宴会でもしたようだ。
ラーナを横抱きにして抱え上げると、長い白髪がさらりと垂れた。
体は細くて軽い。幼い口元は笑みで緩み、よだれを垂らして寝ていた。
いつまで起きていたのか。
奥の広間に入った。壁際に扉が四つある。
中央には球体のコウが鎮座していた。
「おはよう、コウ」
「おはよーです、ますたー」
「ラーナの部屋はどこだった?」
「扉開けるです~」
がちゃっと音がして扉の一つが開いた。
中へ入るとそこそこ広い部屋だった。ベッドのほかにテーブルや棚がある。
――あとで表札を各部屋につけるか。
そんなことを考えつつラーナをベッドに寝かせると、広間に戻った。
すると、隣の扉が開いてテティが出てきた。
眠そうに大きな口を開けてあくびする。長いエルフ耳がピコピコと揺れていた。
「んあ。アレクさま、おはよー」
「おはよう。昨日は遅くまで宴会したみたいだな?」
「あの二人だけねー。あたしはさっさと寝たけど。酔っぱらって大変だったんだから」
「そうなのか?」
「酒は飲んでも飲まれるな~だね、ほんとに」
テティが華奢な肩をすくめて言った。金髪がふわりと揺れる。
その言葉を受けて、コウが白い球体の表面を青く光らせながら新事実を伝えてきた。
「エールに精神が混乱する仕組みが入ってるです? 薬でも魔法でもなさそうな」
「ダンジョン産のお酒らしいってね」
テティが口を添えた。
「そうだったのか……ということは、ドワーフ公爵はダンジョンを持っているのか?」
確か、ダンジョンの中のように土や砂の純度が高いと言っていた。
コウがぴかぴか光って否定する。
「でもドワーフのあの辺りにはダンジョンおらぬです?」
「それもそうか」
「――時間をもう少しもらえれば、もっと探してみるですが……」
「だったら、次の玉の位置とドワーフ公爵令嬢をリリシアに探してもらうついでに、そっちも探ってもらおう」
「らじゃーですっ」
コウが元気に返事した。
テティは先に朝食を食べるため、広間を出ていった。
その後、リリシアを呼んだ。
コウの傍、広間の床の上に世界地図を広げると、翼を出した天使状態でフレイルを垂らして呪文を唱える。
玉の位置、そしてドワーフ公爵令嬢を探してもらう。
翼を広げつつ、フレイルを世界地図の上にたらす。
「――闇魔力探知」
フレイルで地図の上をなぞっていくと、鎖の先に付いた錘があるところで揺れた。
リリシアが驚きの声を上げる。
「あっ! ルクティア教皇国と、海の中の一つは場所が変わりませんが、もう一つ海の中だった宝珠が別の場所に移動しています!」
「んん? ――まさか、魔物か何かが飲み込んでるんじゃないだろうな……」
「かもしれません」
「面倒だな……よし、後回しにしよう。移動してない玉を探そう。あと娘のヒルダは?」
「王都の北、河口にある港町ノースプトンにいます」
「ああ、あの町か。何度か行ったことがあるな」
王都沿いにある大河を下っていけばノースプトンへ行けるのだった。
勇者をやっていた頃、遠方へ向かうときに何度か利用した。
俺はリリシアを見た。
「ドワーフ公爵領にダンジョンはあるか?」
「なさそうです」
「んん? リリシアの探知でも見つからないってことは、存在しないってことか」
「ひょっとしたらすでに倒されてしまったのかもしれません」
「なるほど……じゃあ、朝食を食べたらノースプトンへ行って娘に会って、それからルクティア教皇国へ行こう」
「はい、ご主人様」
「コウもそれでいいか?」
「はーいです。ただノースプトンにはダンジョン入り口を繋げられるですが、ルクティアはちょっと難しいです?」
「どうしてだ?」
「海の向こうですゆえ。しかもルクティア近くに大きなダンジョンあるです?」
「またダンジョンか。――なんかこの世界、ダンジョン多くないか?」
「世界戦3連勝で、世界が裕福です?」
「なんだかよくわからないが、ダンジョンが多いと世界も豊かになるんだな」
「そういう設定ですゆえ」
コウの白い球体が嬉しそうに、ぴかぴか光った。
――よくわからないが、そういうことらしい。
俺は頷いて言った。
「じゃあ、朝食食ったらノースプトンまで頼む」
「あいあいさー」
俺はリリシアを連れて屋敷に戻った。
テティはすでに朝食の挟みパンを食べ終えて、店で開店準備をしていた。
食堂で軽い朝食を取る。
パンとスープとソーセージ。リンゴも食べる。
しかし、半分も食べないうちに突然、壁や天井が赤く光った。
コウの声が響きわたる。
『わーにん! わーわーにん! 敵が攻めてきたです!』
俺はテーブルから立ち上がりつつ子機を手に取る。
「どうした、コウ!? ダンジョンか?」
『ちゃうです! 超強い魔物さんですっ! 店に来たです! いや、そんな! あの姿は何ですっ!? 店に! 店に!』
「なんだって!? ――あっ! テティが危ない!」
テティはすでに店員として店に出ていた。
俺は壁に立てかけた剣まで走って手に取ると、急いで食堂を出た。
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タイトル変わりました、あと割烹にお知らせとラフ絵載せました。
よかったら見てください!
次話は近日更新。




