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【コミカライズ連載中!】追放勇者の優雅な生活 (スローライフ) ~自由になったら俺だけの最愛天使も手に入った! ~【書籍化!】  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第一章 元勇者生存編

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12.初任務は天地の差

本日更新2話目。


 丸太小屋の中はそこそこ広かった。

 元は木こりか猟師の家だったようで、入ってすぐは土間の台所だった。

 ただ本や実験器具が積み上がっている。


 部屋の中も本が多い。

 作業台には怪しげな薬や器具が乗っている。


 部屋の奥にはベッドと洋服ダンスがあった。

 床は本と器具で埋まっている。ベッドの上も本だらけだった。



 俺は小屋の中を眺めながら言う。

「ベッドも台所も本で埋まってるぞ。よくこんなところで生活できたものだ」


「ご飯も睡眠もいらないアンデッドだからではないでしょうか?」


「なるほど……となると、ずっと一人だったのか?」


 リリシアは指眼鏡であちこち見ながら言う。

「うーん、アンデッドだけだったみたいですね……本と実験器具ばかり……」


「危険はありそうか? 罠とか」


「なさそうです」

 銀髪を揺らしてきょろきょろと見ている。


「手伝うことは?」


「散らばってる本が重なってて見えにくいですわ」


「ふむ。だったら壁際に積み上げるか」


「では、わたくしも片付けながら見ていきますね……こうなると掃除もしたくなりますが」


「アンデッドの家を掃除してどうする」



 俺とリリシアはヘルリッチの小屋を片づけた。


 一時間ほどで本は壁際に積み上がり、器具は部屋の中央の作業台に積み上がった。


「あまり高いものはなかったですね」


「なんだか新しい本も多かったな。最新の娯楽小説まであった」

 

 今話題の小説『魔族転生~国を追放されて虐殺された俺は、魔族になって復讐しながら多種族ハーレムを作りつつ成り上がる!』だった。

 かなりエッチでバイオレンスな内容らしい。

 アンデッドには必要ないだろうに。



 高い本は五冊ほどあった。魔導書らしい。

 器具は価値のあるものは少なかった。魔銀ミスリル製の小皿が高いぐらい。


 俺は背負い袋にしまいつつ言う。

「ここは本拠地じゃないのかもしれないな」


「ええ、そうですね。物品が安いものばかりで……別荘的なものでしょうか?」


「ヘルリッチの所有物とも思えないしな。ベッドや台所がある以上、普通の人間が暮らしていたはずだ……それともここに住んでた人がヘルリッチ化したのか……?」


「ここにある本や設備では、あれほど強いアンデッドになるのは難しいと思います」



 俺は洋服ダンスを見た。

「そうか……じゃあ、手がかりはあの中か」


「気を付けてください」


「リリシアもな」


 俺はまず下の引き出しを開けた。

 ぼろぼろになった靴下や下着、手袋などが入っていた。

 金目のものはない。


「じゃ、次はここだ」

 洋服ダンス正面の扉を両開きに開いた。


 すると、服は下がっていなかった。

 代わりに真っ黒い闇がどこまでも広がっていた。



 リリシアが指眼鏡をしながら驚く。


「これは……! ダンジョン!」 


「えっ! なんでこんなところに入り口が!?」


 俺とリリシアは顔を見合わせた。

「どうする?」


「ダンジョンを潜る用意はしておりませんわ。しかもかなり暗いです。今日は任務も完了しましたし、一度戻られた方が」


「そうするか……ギルドには言っておいた方がいいか?」


「どうでしょう……おそらくこの中にヘルリッチの宝物があるはずです。それを手に入れてから連絡なさっても?」


「なるほど。リリシアは頼りになるな」


 俺は箪笥の扉を閉めた。



「あ、ありがとうございますっ――ひゃんっ」

 すぐそばで嬉しそうに微笑むリリシアが可愛くて、思わず頭を撫でた。


 リリシアの手を取って立たせつつ言う。

「じゃあ、帰ろう」


「はい……ご主人さまっ」

 指を絡めて寄り添ってくる。


 今日のところはそのまま帰った。

 ――まあ初仕事だからほどほどでいいだろう。


 帰り道はリリシアがさっき索敵したおかげで迷うことはなかった。


       ◇  ◇  ◇


 一方そのころ。

 南東の森の別の場所では。

 

 勇者マリウスが金髪を乱し、イケメンな顔を醜く歪めて必死に剣を振るっていた。


「なぜですか……? なぜこんなに敵が多いのですっ!」


 ゴブリンを切り捨てるが、近くの茂みから大きな猪――グレートボアが突進してくる。

 盾で防ぎつつまた剣を振るう。


 さっきからずっと戦っていた。



 マリウスはワイバーン退治に来ていた。


 ワイバーンは翼と前足が一体化したドラゴン。

 体長は並みの家より大きい。


 巣作りを始めたとの情報が入ったため、繁殖を阻止するためにやってきたのだった。

 ワイバーンは子育てに他の生き物の子供をエサにする。

 必然的に子供の時期が長い、人の子供が襲われる。


 ただワイバーンは空を飛ぶが、巣作り中は巣の材料を取りに行く以外ほとんど動かない。

 いつも通りの簡単な任務のはずだった。


 ところが巣までたどり着けない。

 どこからともなく現れた大量のゴブリンやフォレストウルフ、スリープラビットやグレートボアが邪魔をする。


 アレクから漏れまくった聖波気に恐れをなして逃げてきた魔物たちが、マリウスとぶつかったのだった。



「くっ――聖導斬撃ジャスティススラッシュ!」


 マリウスが剣から巨大な斬撃を飛ばして猪を真っ二つにする。

 ようやく戦闘は終わるものの、息が荒い。痩身の身体を震わせて何度も呼吸する。


「いったいどういうことなのです? ワイバーンを守っているとでもいうのですか……?」


 マリウスは勘違いしていた。

 勇者アレクを蹴落とすために、ここ最近はアレクの後ばかり付けてきた。

 だから雑魚がほとんどいなかったのだ。



 年老いた宮廷付き魔導師がローブを揺らして傍へ来る。


「怪我はないようですな。先を急ぎましょう。日が暮れると厄介ですぞ」


「わ、わかっている――なに!」


 またガサガサと、高い木の枝を揺らして魔物が出てくる。

 人の背丈の二倍はある巨人――緑のトロール。

 細長い手足を鞭のように振るって襲い掛かって来る。


「くっ! Cランクのトロールまで! ――でやぁ!」


 マリウスは荒い息を吐きつつ、剣を振り上げて戦いを挑んだ。


       ◇  ◇  ◇


 夕暮れ時の街。

 マリウス一行は、雑魚敵の多さにワイバーンの巣までたどり着けなかった。

 今日中の討伐は不可能となり、魔物の多さに野営も危険と判断されて撤退した。


 マリウスの輝くような金髪は、血と泥で汚れ切っていた。

 街の大通りを歩く足取りも重い。

 勇者となっての初任務は失敗に終わった。


「僕が失敗……? 嘘だ……何かの間違いだ。今日は運が悪かっただけだ……明日だ。明日こそ倒せばいい。僕はあのアレクと違って優秀なんだ……」


 街一番の高級宿へと向かうマリウス。

 国から出向していたパーティーメンバーは顔を見合わせるだけで何も言わずに去る。


 いつもは黄色い声援で迎える街の女性たちも、薄汚れたマリウスを遠巻きに見てひそひそと任務失敗を噂しあうのだった。


ようやくざまぁ相手登場。これから数話ごとにちょくちょく出てきます。


次話は明日深夜更新。

→13.初収入の激しい夜

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追放勇者の優雅な生活(スローライフ)3

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヘルリッチの日常 [一言] ヘルリッチがラノベの愛読者だったとは・・・ きっと、やったかフラグも、いちど言ってみたかったんだろうな・・・。
[一言] ざまぁ相手もそうだけど年老いた宮廷魔道士とかの知識は役に立たなかったのか?お前らも同罪か?
[一言] はた迷惑型スタンピード発生装置系主人公とは珍しい
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