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【コミカライズ連載中!】追放勇者の優雅な生活 (スローライフ) ~自由になったら俺だけの最愛天使も手に入った! ~【書籍化!】  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第四章 聖竜の宝珠編

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117.騒々しい冒険者ギルド

 午前中の王都。

 店から五分の距離にある冒険者ギルドへ雑用をすませにやってきた。


 一階のカウンターと反対側の壁には依頼が張り出された掲示板がある。

 そこの前には冒険者たちがそこそこいた。


 王都東ダンジョンが潰れたため、一時期はほとんど人がいなかった。

 その結果、最近増えた動物退治の依頼をこなす人がいなかったため、依頼料が高騰していた。

 それで人が戻ってきているのだった。


 討伐依頼のほとんどは狼退治かイノシシ退治。

 狼は街道を襲い、イノシシは畑を荒らしているようだった。



 ふと見ると、一階の隅にエドガー隊の子供たちがいた。

 彼らは王都から離れずに、ずっと動物退治の依頼をこなしていたはず。

 狼について話を聞けるかと思った。


 そこで薬草採集の依頼を受けるのはリリシアに任せて、俺は子供たちに近づいた。


「おはよう、ひさしぶりだな。元気してたか?」


「え、アレクさん!?」「おはようです?」「おはよございます?」「おはようっす」「おはよー……え!?」


 子供たちが俺を見てそれぞれ驚いていた。目をかわいらしく見開いている。

 ――なんだ、この反応……あ、そうか! 若返ったからか。


 俺は頬を掻きつつ誤魔化した。


「まあ、その、あれだ。外見が変わったことは内密にな」


「あっ、はい」「ういっす」


 眼鏡をかけた少年と銀髪の小柄な少年が深刻な表情でうなずく。

 いや逆に、真面目にとらえられても困るんだが……。



 俺は話を変えようと気軽に言った。


「こんなところでなにしてるんだ?」


「ええっと、みんなどっちの依頼を受けるかなと調べてまして」


「どっち?」


「狼かイノシシです。みんなが受けなかった、依頼の少ない方を受けてサポートしようかなって」


「なるほど、いい心がけだな。さすがAランクパーティー」


「ありがとうございます」


 少年は眼鏡を光らせて頭を下げた。

 ただ俺は少し疑問に思った。



「でもその二つならイノシシが人気になるんじゃないか? 同じDランクで、肉まで高く売れるし」


「普通はそうなんですけど、なんだか最近、異様にイノシシが強くって」


「ほう。強い?」


「ええ、連携が完璧というか。戦術的に動くというか。突進してくるだけじゃなくなってるので」


「……ほう」


 俺は何か嫌な予感がした。

 統率されていると言うことはリーダーが優秀と言うこと。

 ……あのホワイトボアが何かやってるんじゃないだろうな?

 

 そんな疑惑が心を脳裏をかすめた。

 ただ狼の方は安心してよさそうだった。


 確認のため、眼鏡をかけた少年に話しかける。


「じゃあ、狼を大規模討伐する、みたいな話にはならなさそうだな? チラッと聞いたんだが」


「そうですね。狼は数を減らしているみたいなので、ないと思います」


「そうか、よかった」


「よかった?」


「あっ、なんでもない。……でも数を減らしてる?」


「どうも狼とイノシシが争っているのではないかと……噂ですが」


「なるほど」



 ――と。

 ぼさぼさの黒髪で目が隠れた長身の男、エドガーが傍へ来た。いつ見てもやる気のなさそうなオーラを出している。


「おはようっす、アレクさん」


「おはよう。どうした?」


「いや、今の話なんっすけど。イノシシはちょっとヤバいっすよ?」


「ヤバい?」


「糧食ため込んで、塹壕まで掘ってるっす。陣地築いてるんすよ」


「は!? 戦争でもする気なのか、イノシシは!?」


 エドガーが身を屈めて俺だけに聞こえる小声で言う。


「イノシシのボスは聖獣っすよね。彼が何か企んで指示を出してるのかも」


「確かにヤバいな。聖獣が人を襲うなんて発覚したら、聖域認定が取り消されかねない」


「そうっす。一度確認した方がいいかと」


 エドガーは前髪に隠れた黒い瞳をキラッと光らせつつ押し殺した声で言った。

 俺は強くうなずく。


「わかった。あとで聞いてみるよ。情報ありがとうな」


「任せてくださいっす。これぐらい余裕っすから」


 口の端を上げてニヤリと笑うエドガー。

 ひょうひょうとしているが、頼りになる男だった。


 

 するとガラの悪そうな冒険者たちがエドガーに話しかけてきた。

 傍にいる俺や子供たちを無視して。


「おいおいエドガーの奴が何か偉そうなこと言ってやがるぜ」「ぎゃはは、まだ子供のおもりしてんのかよっ」


 彼らは馬鹿にしたような笑い声を上げた。

 子供たちが、むっと顔をしかめて睨む。

 

 ガラの悪いパーティーは、初めて見る顔だった。

 だがリーダーと思われる30代に見える男だけはどこかで見たように思った。


 エドガーがへこへこと頭を下げる。


「あ、ヨアネスさん、どうもっす」


「おう、王都が大変だから戻ってきてやった。せいぜい俺たちの足を引っ張んなよ、ぎゃははっ」


 ――なんだこいつら?

 俺が勝手に優秀だと思ってるエドガーをバカにされてちょっとムカッとした。

 でも、彼らの間に俺の知らない事情などがあるのかもしれないので、ここは我慢することにした。



 ところが。

 ヨアネスと呼ばれたガラの悪い剣士がリリシアに目を付けた。

 受付を終えてこちらに戻ってくるリリシアに、ニヤニヤ笑いながら近づいていく。


「おいおい、いい女だな。回復士か? 俺たちに付き合えよ。今夜は楽しませてやるからさぁ?」


 ヨアネスが伸ばした手を、リリシアは軽やかによけた。銀髪がふわりとなびく。

 形の良い眉をしかめつつ睨み返す。


「わたくしは奴隷ですので、あなたの好きにはなりませんわ。ご主人様に尋ねられては?」


「へぇ、そうかい。どいつだ?」


「ご主人様はすぐそこにおられます」


 そう言ってしなやかな手つきで俺を指し示した。


「なに――うおっ!?」


 ヨアネスは驚愕で一歩分飛び跳ねた。

 俺が音もなく彼の真横に立っていたからだった。


 ついでに握りしめた拳には聖波気を込めている。

 リリシアに何かしそうだったので、思わず傍まで寄っていたのだった。

 髪の毛一本でも傷付けたら、誰であろうとなんであろうとやるつもりだった。



 ヨアネスは一歩下がった位置から俺を観察するように見た。

 びっくりしていた間抜けな顔が、次第に強張っていく。


「なっ! お、お前はっ、アレク!」


「へぇ、俺のこと知ってるのか。意外だな」


 もともと人気のない勇者だった上に、若返ったのだからもうバレないと思っていたのだが。

 ヨアネスは歯ぎしりをして俺を睨む。


「てめぇ……愚図でのろまなてめえがいるから……っ。ぜってぇ許さねぇ!」


「俺が何かしたか? お前のこと何も覚えてないんだが……」


「なんだとっ! バカが! ふざけんな!」


 ヨアネスはこぶしを握り締めて俺に一歩近づく。

 しかしカウンターから鋭い声が飛んだ。


「ギルド内での争いはご法度ですよ」


 受付嬢が眼鏡をクイッと指で押し上げつつ言った。レンズが光る。



「ちっ――覚えてろ」


 捨て台詞を吐いて踵を返すヨアネス。

 俺はリリシアを片手で抱き寄せつつ彼の背中に言い返した。


「俺はお前のいう通りバカだから、どうでもいい奴のことなんて覚えてられないな」


「なにっ――っ!」


「だから、お前が覚えておけ。――俺には何を言っても構わないが、俺の妻に手を出したらタダじゃ済まさないからな」


「――くっ!」


 ヨアネスは肩越しにものすごい目つきで睨み返すと、パーティーを率いて出て行った。



 静かになるギルド内。

 俺はリリシアを抱きつつ、肩をすくめた。


「なんだあいつら。知らない顔だが」


「Aランクパーティーっすよ。ヨアネスさんはこの国の王子さまっす」


「あっ! やっぱり見たことあったわ! お城で! ――でも、恨まれるようなことはしてないはずだが……」


 リリシアが寄り添いつつ、すみれ色の瞳で俺を見上げた。


「それは……王位継承権を失ったからでは?」


「えっ? 俺のせいで?」


「はい。魔王を倒した勇者は王女様と結婚して、次の国王となります……ご主人様がその勇者でしたので」


 リリシアが困ったように眉を寄せた。

 

「なるほど……それって逆恨みじゃないか。しかも俺は勇者としての仕事を果たせなかった。ん? この国の次期国王ってどうなるんだ?」



 エドガーが周囲に目を走らせつつ呟く。


「国王になれないと思ったヨアネスは冒険者になって暴れ回って、なんども裁判沙汰に。アレクさんが首になったけれど、素行不良で王位継承権は剥奪されたままっすね」


「面倒くさいな、それは……王様がやたらと戻って来いと言うのも、そのためか」


「そうっすね。アレクさんが次期国王ということで国は動いてたでしょうから」


「いやいや、魔王がたとえ現れても討伐失敗してたかもしれないだろ? 王女さまはどうなんだ?」


「カロリナ王女は継承権を保持していますが……」


 俺は顔をしかめた。


「生きるって面倒くさいな……でも国が乱れたら生活が危うい」


 屋敷は移動できないから困る。

 どこか別荘を用意するべきかもしれないな。

 ――お金がかかるな。やれやれ。



 考えても仕方ないので、俺は別のことを口にした。


「しかし、意外だな。エドガー」


「なにがっす?」


「バカにされてもへらへらしてその場を流そうとしてたから。相手が王子だから言いなりになってたのか?」


 エドガーは考えるように首を傾げた。ぼさぼさの頭が揺れる。


「ん~、アレクさんと同じっすよ」


「俺と?」


「ええ、自分は失敗した人間だからバカにされてもどうでもいい……ただし、大切な人をバカにされたり傷つけようとするなら許さないってことっす」


 長身のエドガーが視線を下ろして子供たちへ向けた。

 俺もリリシアを抱く手に力を籠めつつうなずく。


「なるほど。エドガーは姫と子供たちってわけか」


「そういうことっすね……じゃあ、そろそろ行くっす」


「ああ、狼は逃がす方向で頼むな」


「了解っす」


 エドガーは子供たちを連れてギルドを出て行った。



 俺はリリシアを見る。


「俺たちも行くか」


「はい、ご主人様っ」


 俺はリリシアを連れて外に出た。

 王子パーティーもエドガー隊も大通りには見あたらなかった。


       ◇  ◇  ◇


 冒険者ギルドを出て、街のはずれにある奴隷商へ向かった。

 午前中の暖かな日差しの中、石畳の道を歩く。

 人や馬車の行きかう朝の喧騒の中、はぁっと溜息を吐いて俺は歩いていた。


 ――すでに目的を終えて、あとはリリシアとイチャイチャするだけだと思っていたのに。

 イノシシに王子。

 なんだか、大きくはないが面倒な問題が多いな……。



 リリシアが白い修道服を揺らして隣を歩きつつ話しかけてくる。


「何かお考え事でしょうか、ご主人様?」


「いやなに。次から次へと小さい問題が出てくるなと思ってな」


「ご主人様なら、きっと解決できますっ」


「もちろんやるけども。リリシアと早く、ゆっくりのんびりと過ごしたいからな」


「わたくしもです、ご主人様……っ」


 リリシアは頬を染めつつ、パシッと俺の肩を軽く叩いた。

 そんな仕草が可愛らしくて、さすが俺の天使だと内心で思った。

次話は明日か明後日更新。

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追放勇者の優雅な生活(スローライフ)3

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― 新着の感想 ―
[良い点]  丁度良い噛ませ犬・・・・ゲフンゲフン!  丁度良い敵対勢力が登場しましたね。
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