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11.アレクが最強で最弱だった理由

日間入り記念更新!


 鬱蒼と生い茂る森の中。

 俺はリリシアが見つけたヘルリッチの下へ、黒い剣を抜きつつ向かった。


 走りながら剣に聖波気セラージュを込めていく。

 魔法の射線を切るように、大木を盾にしつつジグザグに走った。



 そして木々の向こうに、丸太で作った小屋が見えてきた。

 真っ赤なローブを着た黒い骸骨が、家の外に出てきている。

 ――好都合!


「はあぁぁぁぁ――っ!」


 俺は裂帛れっぱくの気合を入れて叫んだ。そして剣を振り上げて突っ込む。


 骸骨が俺を迎撃しようとして杖を上げる。

 ――ただし、ゆっくりと。

 

 やはりヘルリッチは動きが遅い!



「グッ……コレハ――チッ! 【闇大火球ダークフレア】」


 さっきよりも大きな闇の塊が杖の先に生まれる。


 そのまま飛ばしてくる。

 俺は勢いを殺さずに、頭から闇の玉に突っ込む。


 ドゴォォォ――ン!


「バカメ マトモニ クラウトハ――ヤッタカ?」 

 骸骨が疑問を口にする。


 闇の炎がまとわりついて視界の効かない俺は、その声を狙って突撃する。


 そして剣を振り下ろした。


「ハァァァ――ッ!」


 ザァンッ!


「ギャアアア!」


 手ごたえは浅い。 

 炎が晴れると、右肩を斬り飛ばしただけだった。


 だが杖を持っていた腕だったので、やつは次の魔法がもう使えない。



「終わりだ、ヘルリッチ! ――ハァッ!」


 剣を振り上げて、気合と共にまた振り下ろす。


 骸骨は逃げようと背を向けたが、その動きもまたゆっくりで。

 ゴッ、と奴の後頭部に叩き下ろした。赤いフードごと破壊する。


「ギャア」


 さらに一撃。さらに一撃。


「ギャ――ギ――」


 のろのろ動く骸骨を、粉々にしていく。


 そして頭と体と四肢の骨を完全に破壊した。

 しかしまだ、黒い骨の破片がひくひくと動いている。

 破片同士がくっついて蘇生していく。



 ――あれ? 勇者の時はどうしてたっけ。

 確か高位聖職者が、ヘルリッチの胸の辺りから……。


 俺は再生しようとするろっ骨や鎖骨、背骨を砕きまくる。

 すると、人間の心臓があるあたりに、握りこぶし大の赤い玉が入っていた。


「これかな?」

 取り上げようとしたが、なぜか体の中から動かせない。


「ん、なんでだ? ――ハァッ!」

 気合を入れて思いっきり引っ張ったら、メリメリっと音がしてようやく取れた。

 そして黒い骨も砕け散って粉々になって消えた。



 ヘルリッチを倒すと、隠れていたリリシアが白い翼を広げて瞬時に傍へ来た。


 そして涙目で抱き着いてくる。

「ご主人様マスターっ! なんて無茶を! 今すぐ治しますっ! ――高回復ハイヒール!!」


 リリシアはヌルっとした薬草の汁を俺の顔に素早く塗ってから、魔法を唱えた。

 強く温かな光が俺を包む。

 火傷やちりちりになった黒髪が治っていく。


 そして怪我はきれいに治った。

 剣を鞘に収めるとリリシアの頭を撫でる。豊かな銀髪が指先に心地よい。


「ありがとう。やっぱり治癒師は必須だったな」



 するとリリシアが俺の頬を両手で挟みながら、すみれ色の瞳に涙を浮かべて訴えてきた。


「そんなレベルじゃありませんっ! あの魔法に正面から突っ込んでいくなんて! 心臓が止まるかと思いましたわっ」


「いや、逆に一発貰うだけで、あとはタコ殴りにできるから弱いんだよ。見てただろ?」


「ええぇ……あれ、闇魔法の中でも究極魔法の一つでは? わたくしの魔法――天使の上級守備魔法を一撃で破壊する威力なのですよ……?」


 なぜかリリシアは白い修道服を揺らしてドン引きしていた。


「そうなのか? じゃあ、あまり強くないヘルリッチだったんだな」

 俺は気軽に応えた。そうとしか思えなかったから。



 しかしリリシアは白い翼をパタパタと動かして考え込んだ。

 すみれ色の瞳に知的な光が揺れ動く。


「……何か、大きな間違いがある気がします」


「間違い?」


「ご主人様が勇者アレクとして任務失敗ばかりだったこと。ヘルリッチが弱いと思うこと。そしてゴブリンなど弱い妖魔に出会わないこと。出会ったことがないこと。全部、原因は一つかもしれません」


「なんだって?」


「原因はご主人様の持つ聖波気が膨大すぎることです。人の認識や常識をはるかに超越した大きさだったのです」


「意味がよくわからないんだが……?」



 リリシアは顎に手を当てつつ周囲を見て、それから俺を見る。


「ご主人様は攻撃するとき、ものすごく気合を入れて攻撃されていましたね?」


「そりゃ、当然するだろ。攻撃は気合入れてやらないと。腰が抜けてるとダメージにならない」


「ええ、それがまず、あの究極魔法を食らっても大丈夫な理由です」


「どういうことだ?」


「気合と一緒に膨大な聖波気が全身から放出されているのです。それがある種のバリアになっていて、魔法の威力を軽減しています」


「そ、そうだったのか……出してなかったらヤバいのか?」


「木っ端みじんになっていたと思います」


「……今後は気を付けるよ」

 今頃になってどんな無茶をしていたか理解した。少し背筋が冷たくなる。



 リリシアがほっそりした指を立てて言葉を続ける。

「そして、二つ目。大量に漏れる聖波気が、魔物に逃げられる原因です」


「え? なんでだ?」


「攻撃時に駄々洩れになる聖波気を感じ取って、多くの魔物は攻撃される前に察知して逃げるんです」


「ヘルリッチは逃げなかったぞ」


「この魔物は特別強いです。聖波気にも耐えられる。ですが聖波気の効果によって、動きがとても遅くなっています。見ていた感じ、まるで水の中を歩くようでした。わたくしを攻撃してきたときは、目にも止まらぬ速さだったのですよ? これだけの距離がありながら、身を守るのに精いっぱいだったのですから」


「言われてみれば、そうだな……」

 天使状態では瞬間移動並みに素早く動けるリリシアが、吹き飛ばされるほど後れをとっていたと言える。



「弱い魔物に出会わないというのも、聖波気のせいか?」


「おそらく。ずっと漏れていますから。流出量とその範囲から考えて、弱い魔物だと半径500メートル以内に入っただけで消滅していると考えられます」


「そうだったのか……だからゴブリンやコボルト、ゴーストやスケルトン辺りは見たことがなかったのか」


「いえ、もっとです。おそらくCランク以下の闇属性や不死系アンデッドモンスターは消滅かと」


「…………」

 俺は唖然として口を開くしかなかった。言葉が出ない。


 勇者としての聖波気が膨大すぎたのが、逆に足を引っ張っていただなんて。

 俺は気付きもしなった。たぶん周りの連中も気づいてなかった。


 敵が見つからなくて任務失敗もよくあったが、見つける前に消滅させていたから退治できなかっただけなんて。

 確かに俺の行った地域では、しばらく魔物の被害が出なくなったように思う。

 人知を超えた大量の聖波気のせいだったのか……。



 でも原因がわかって良かった。


「さすがリリシアだ。教えてくれてありがとうな。これからもずっと傍にいていろいろ教えてくれ」


 リリシアが少し頬を染めつつ頷く。

「はいっ、当然です! それがわたくしの使命ですから! ……それに、魔物とは逆にわたくしはご主人様マスターの傍にいるだけで元気になるというか、喜びがあふれてきます」


「腕組みをよくしてきたのも、漏れ出る聖波気を受け取るためか」


「それは――っ! それだけじゃありませんっ」

 リリシアは唇を噛んで上目遣いで見てきた。


 白い翼を持つ凛々しい天使なのに、可愛い仕草が抱きしめたくなる。



 俺はリリシアの細い腰に手を回して抱き寄せる。

「じゃあ、そろそろ帰るか」


「あぅっ――あ、ヘルリッチの家を探って宝を探したほうがよいのでは?」


「ああ、そうか。そういうこともしないといけないのか」


 勇者の時は、そう言う雑用は従者の仕事だった。

 ――やはり面倒だな、冒険者は。


 

 ただしすぐに閃く。

「そうか。リリシアの指眼鏡を使えば、売れそうなものはすぐに見つかるか」


「はいっ。お任せください!」


 俺とリリシアは寄り添いつつ、ヘルリッチの家に入っ――ろうとして入り口で翼が引っかかったので、リリシアが人に戻った。


ジャンル別(60位)に続いて日間総合(259位)にもランクイン!

ブクマや☆評価ありがとうございます! みなさんのおかげです!

というわけで記念更新しました。


次話は昼頃更新。

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― 新着の感想 ―
[一言] 常にホーリィボトル状態……? やばいっすねぇ……(・∀・)
[一言] まさかの半径500m低級モンスターは即時消滅www 依頼失敗の理由が桁違いすぎるなw ちゃんと1回の説明で理解するところもいいな
[良い点] >「バカメ マトモニ クラウトハ――ヤッタカ?」  敵が「やってないフラグ」を立ててくれるとは・・・
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