105.まさかのアレを再利用
王都の夜。
俺とリリシアは森の屋敷に帰っていた。
邪神教徒を潰そうとしたが、本拠地に行っても見当たらず、逆に探していた邪神の胸像を見つけたので帰ってきたのだった。
――賢者の石、光の宝玉、邪神の胸像の三つが揃った。
これで、若返れる。
食堂で夕食を囲みながら、俺は心が浮き立っていた。
隣にいるリリシアも笑顔を弾ませている。
「偶然、邪神の胸像が手に入ってよかったな」
「はい、ご主人様っ」
リリシアがサラダを食べながら夢見心地で答えた。
エルフ少女のテティが鶏肉を挟んだパンをほおばりつつ言う。
「よかったね~。これで若返るんだね」
「ああ、こんなに早く三つともそろうとは思わなかった。これからは簡単に若返ることができる」
「10歳? それとも20歳?」
「そうだな。まずは15歳若返って24歳ぐらいになるつもりだ。それでいいよな、リリシア?」
俺が尋ねると、リリシアがスミレ色の瞳でじっと俺の顔を観察してきた。
「今のご主人様も落ち着きがあって素敵ですが、24歳になったご主人様も――はっ!」
「ん、どうした?」
「さらに10年若返れば、まだ固い果実のような14歳のご主人様に手取り足取り、わたくしの手で花開かせていくというのも……うふっ、うふふっ」
リリシアが無邪気とは言えない、ヤバい笑みを浮かべて笑っていた。
青い髪を揺らして顔を上げたソフィシアが、ジトっとした目でリリシアを見る。
「この堕天使、絶対、淫乱の罪で堕天したんだと思う」
「な、何を言うんですか、ソフィシアさん! わ、わたくしは、優しすぎる罪なんです! 本当なんです!」
「何に優しいかわかったもんじゃないよね。性欲に優しいとか、男に優しいとか」
「わたくしはご主人様以外ありえません! 愛するご主人様の、いろいろな年齢を一緒に楽しみたいだけなんです、ご主人様と!」
「いやもう、その発想がヤバいってば。そのうち9歳まで若返らせてショタアレクさんを存分に味わい出すかも」
「9歳っ!? ――はぁぁんっ! それはもう、犯罪ですわぁっ! そんなに若返ってはいけません、ご主人様っ!」
赤くなった頬を両手で挟みつつ、蕩ける笑みで身もだえした。銀髪が激しく乱れる。
――やっぱこの天使、堕天使だ。
そう思って冷静になった俺は、淡々と答えた。
「三つあれば安くなるとは言っても、お金は何度もかかるしな。今は24歳に戻れたらそれでいい」
「そ、そうですか。ざんね――いえ、よかったです」
リリシアは冷静さを取り戻しつつも、少し肩を落として焼いた鶏肉を食べ始めた。
俺はおかずをパンにはさんで食べるテティを見た。
「テティの方はどうだ? 森で練習できたか?」
「んふ~! けっこう練習できた! 強い魔法、バンバン撃ったから! たぶんまだ氷漬けになってる。明日になったら見て見て!」
テティはパンを食べつつ、幼さの残る顔を大きな笑みでいっぱいにした。
強くなれたこと、魔法が使えるようになったこと、すべてが嬉しいらしい。
そんな彼女を見て俺は微笑んで頷いた。
「ああ、よく頑張ったな。偉いぞ。明日を楽しみにしてる」
「わはー、じゃあ体力つけなきゃっ! ――はむっ!」
テティは笑顔で新しいパンを手に取って頬張った。
リリシアが慈愛に満ちた笑みでテティを見る。
「雪エルフの風習やしきたりも学んでいるようですし、よかったですわ」
「うん、自分が誰かわかるってほんと楽しい!」
「あ~、だよね~。私もなんでこんなに神様のことが気になるんだろうって、わからなかったもんね~」
「使命を忘れさせられていたのは、不安でしたものね。わかります、ソフィシアさん」
女性三人が過去について、それぞれの思いを口にしていく。
夕食を食べながら賑やかな夜は続いていった。
◇ ◇ ◇
夕食を終えると、風呂に入った。
一日の汗を流すと、急に疲れが押し寄せた。
すぐに風呂を出て寝室へ戻った。
ベッドに寝ころびながら、今日は朝からいろいろあったと思い返す。
あぁ、でも聖波気の圧縮の練習はしておかないとな。
ぐぐっと力を込めて、また緩める。
そんなことを繰り返していた。
――と。
ネグリジェを着たリリシアが寝室に帰ってきた。
手にはロープを持っている。
ベッドに近寄りながら、彼女も疲れたような笑みを浮かべた。
「聖波気圧縮の練習をされているのですね……さすがですわ、ご主人様。お疲れでしょうに休まないなんて」
「まあな、圧縮がいつ必要になるかわからないからな」
リリシアがベッドで寝ている俺の傍に寄り添いつつ、不思議そうに首を傾げる。
両手でロープを広げた。
「そういえばご主人様。リビングのソファーの下にこのロープが落ちていましたが、これは……?」
「ああ、ちょっと前に、暇つぶしに作ったやつだ」
「ご主人さまがお作りになったのですね。でもどうしてロープ――はっ!?」
「どうかしたか、リリシア?」
リリシアはすみれ色の瞳の端に涙を浮かべると、縄を輪っかにして自分の両手首を締め上げた。
縄の先はベッドの頭側にある柵状のヘッドボードに結ばれる。
そして縛られた姿勢のまま、ネグリジェの裾を割るように、長い足を交差させた。
「こうして、こんな感じで、わたくしを辱める気ですね――っ!」
「いや、おま! そんなことこれっぽっちも――なんで、そんな……」
「あんなことやこんなことまでする気なんて、ご主人様はなんていやらしいんでしょうっ!」
両手が縛られたまま、ベッドの上でじたばたと暴れるリリシア。服がますます乱れて、胸の谷間と白い素足が太ももまで覗いた。
まるで俺を誘うかのように、頬を染めて涙目で見上げてくる。
……そういうことか。
俺はリリシアに覆いかぶさると、華奢な体をぎゅっと抱きしめた。
大きな胸が押し付けられて潰れる。
さらに細い鎖骨にキスをしつつ、俺は言う。
「……いたずら天使は、お仕置きしないと駄目なようだな?」
「ひゃぁん! やっぱりご主人様は、いやらしいですわ! ――こんなことばかり考えていらっしゃるなんてっ! ――あぁん……っ!」
乱れた白い素肌にキスの雨を降らせると、リリシアは喘ぎながら俺の下で身をよじった。
そして徐々に絡み合う度合いが深まっていく。
最後には極限まで圧縮した聖波気を彼女に与えた。
白い翼が出て、白い羽をベッドの上に散らしながら、ますますリリシアは乱れていく。
「あぁ――っ! ご主人様ぁ……っ!」
いつもとは違うプレイの中、いつもよりいっそう抱きしめる腕に力がこもった。
◇ ◇ ◇
一方そのころ。
遠い東の果てにある島国では。
天守閣を持つ城にあるミコトの私室にて、ミコトとスクラシスと魔王、それにゴブリン大魔導師のゴーブがいた。
完成された防護服を見ながら、魔王が顎を撫でつつ唸る。
「ううむ……アレクの聖波気は防げたが、攻撃手段が一切ないと言うのは心もとないな」
「そうでございますね、魔王様! ただ、激しく動くと関節部分が破れてしまいそうです」
「防護服を気にしながらだと、そこらにいる人間、村人Aにすら後れを取ってしまうかもしれん……」
魔王が考え込むと、美青年のミコトが美しい笑みで微笑んだ。
「でしたら服の肩や袖口に、武器を備え付けてはいかがでしょう? ――こんなものを考案しました」
ミコトはちゃぶ台の上に物を並べた。
火薬発射式の爆弾――ミサイルや、腕に巻いて止めるガトリングガンなど。
魔王が子供の様に目を輝かせて喜ぶ。
「おお! 付属パーツか! ミコトもなかなか男のロマンがわかっておるではないか、ふははははっ!」
「ええ、かっこよさと実用性を追求してみましたよ」
ミコトが黒髪を手で後ろに払うという少し偉そうな言葉で答えた。
魔王は、目をキラキラ輝かせると、前のめりになって尋ねる。
「他にはないのか!? 空を飛ぶパーツや、胸の辺りからビームを発射するパーツとか!」
「ビーム……いいですねぇ。胸は難しいですが、目から出しても良いのでは?」
「おお! それはそれでかっこういいな! ふははっ、我輩に相応しい武装だ!」
広い部屋の中、魔王とミコトの楽し気な笑い声が響いた。
けれども呆れたような女性の声が水を差す。
「ほんと、男はいつまでたっても子供なんだから……んしょ、よいしょ」
包帯を巻いたスクラシスが、部屋の隅で粘土をこねて成型していた。
人の形ができると紐を通してから、手に魔力を込めて固めていく。
そんな人形は二つあった。
魔王が振り返って眉をしかめる。
「何を言う。貴様にも関係あるのだぞ? 丸腰で出歩くつもりか?」
「そうじゃないわよ。もっと現実的に考えなさいってこと……はいっ」
突然、スクラシスが魔王に手を突き出した。
その細い手には、今作られたばかりの人形が握られている。
大きな目をした、二頭身ほどの人形。背中に流れる長髪がどこかスクラシスを思わせた。
魔王は受け取ってしげしげと人形を眺める。
「ふむ……小さいながらも細部までよくできておるな。……これはスクラシスか?」
「そうよ。よ、よかったら、ベルトにでも下げておきなさいよねっ」
なぜか頬を染めつつ、もう一つの人形を自分の腰帯に結んで垂らす。
その人形はこわもての笑みを浮かべた、ギザ歯で二頭身の人形だった。
魔王は、ふっと笑いつつベルトに人形を下げる。
「よかろう、ライバルとしてその発言を受け入れてくれる! どんな魂胆があろうとも、我輩は何事にも動じないのだからな、フハハハハッ!」
「べ、別にそれでいいわよ……ったく」
不貞腐れた口調で言うスクラシスだったが、なぜか顔が赤くなっていた。
――と。
二人を見ていたゴーブが、小さな全身を震わせながら提案する。
「こ、これは……。魔王様! この小さな人形で、小説『魔族転生』のキャラクターを作ってみてはいかがでしょうか!? 箱の中身は隠して全10種類、シークレット付きでランダムに販売しては!?」
「むぅ……それは人間どもの射幸心を煽って堕落させる、なかなか良い魔性のアイデアであるが……スクラシスの芸術に反するのではないか? 量産するのも大変であろう」
顔をしかめる魔王だったが、スクラシスは黒紫の長髪を片手で掻き上げると何でもなさそうに言った。
「別にいいわよ、それぐらい。型さえ取れば、後は作業だし」
「さすが我輩の認めた芸術家。この程度、朝飯前と言うわけか! ますます気に入ったぞ、スクラシス! ふははっ!」
「あ、ありがと……っ」
スクラシスは胸を反らして答えたが、耳の先まで真っ赤に染まっていた。
さらにゴーブが褒め称える。
「おおっ! さすが魔王様きっての理解者、スクラシス様でございます! このゴーブ、その広いお心に感銘を受けました!」
「り、理解者だなんて……ふふ、言ってくれるじゃない」
スクラシスは恥ずかしそうにはにかむと、上目遣いで魔王を見上げた。
魔王は堂々として強気な笑顔で応える。
「うむっ! 正攻法がダメなら、絡め手から攻める! 我輩たちの世界征服はまだまだこれからだ! 人間どもよ、恐れおののくがよいわ、フハハハハッ!」
魔王の高笑いが城に響いた。
スクラシスはそんな彼を頼もしそうに見つめ、ミコトはやれやれと肩をすくめるのだった。
この堕天使、どうにかした方がいいと思う。
ブクマと★評価ありがとうございます。
感想での指摘、参考になります。
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→106.巨大ワンコ出現!




