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【コミカライズ連載中!】追放勇者の優雅な生活 (スローライフ) ~自由になったら俺だけの最愛天使も手に入った! ~【書籍化!】  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第三章 邪神と聖獣編

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103.突撃勇者と驚く魔王


 俺は邪神関係の黒幕に会うため、コウの通路を歩いていた。

 この先に星竜界があり、聖白竜がいないとたどり着けないらしい。


 ――と。

 コウの作った通路の端まで行くと、足が止まった。

 目の前は夜空のように暗く光っており、巨大な茶色の星が浮かんでいた。

 空の遥かに高いところから見下ろしているような感覚。


「こ、これが……星竜界?」


『ここから先は結界が張られて行けぬです?』


「よし、じゃあラーナ。俺の背中にしっかり掴まりつつ、バリアを張って向かってくれ」


「きゃい!」



 俺の背中にしがみつく聖白竜のラーナが楽しげな声で答えた。

 周囲に球状のバリアが張られる。


 それから隣にいるリリシアとしっかり手を繋いだ。

 彼女のすみれ色の瞳と視線が合う。


「じゃあ、いこう……空を飛ぶなんて、天使なら慣れたものか?」


「いえ……この高さからは。ですが、ご主人様がいてくれたら大丈夫です」


「よし……3、2、1、ごー!」


「はいっ!」


 二人一緒に通路の出口を蹴って、巨大な星へと跳んだ。

 ラーナの広げた翼から白い光が放出されて、帯のように軌跡を描く。

 リリシアもバリアに包まれると、白い翼を広げて天使のように飛んだ。



 二人で飛んで行く。

 というか落ちていく?

 茶色い星が急速に近づいてきた。どんどん加速していってる気がする。


「大丈夫か、これ?」


「きゃぁい!」


 俺の背中を見たリリシアが真剣な顔で頷く。


「ラーナちゃんがとても喜んでます。きっと大丈夫でしょう」


「わかった。信じるしかないか」


 そのまま茶色い星へと降下していった。



 星を丸く包む青い大気に接触すると、激しい火花が散り始めた。

 バリアの周囲が赤く燃え始める。とてつもない高温になっている様子。


「これ、バリアがなかったら燃え尽きてそうだな」


「さすが聖白竜さまのお力です」


 リリシアはつなぐ手にますます力を込めて握ってきた。



 そして結界を突き抜けて上空へと出た。

 青空には白い雲がまばらに浮かぶ。


 はるか下に見える地上は、茶色い地面が広がるばかりで何もない。

 遠くを見ても、なだらかな地平線が続くばかりで、風化して丸くなった低い山がところどころにあるばかり。


 生き物の気配は全く感じられなかった。



 俺はリリシアを見る。


「邪神の関係者はどこにいる?」


「えっと、お待ちください――闇魔力探知オーラディティクト


 リリシアが白い羽を飛ばして地表を探った。

 すぐに、くわっと目を見開く。


「……あの山のふもとにある黒い建物に、無数の邪悪な気配が集まっています!」


 指さす先を見ると、山の陰に隠れるようにして黒い神殿が建っていた。

 今にも崩れそうだ。


「あそこか。集会でもやってるのか? ――ラーナ、行けるか?」


「きゅい!」


 俺の背中で元気に鳴くと、速度が一段階上がった。

 そして滑空しながら神殿へと向かった。

 チラッと後ろを振り返ると、乾いた空に白い光が帯のように残っていた。



 ――が。

 地表近くまで来ると、降下する速度は凄まじい早さとなっていた。

 俺は焦りつつ背中にしがみつく少女に呼びかける。


「ラーナ、ストップだ、止まれ!」


「きゅいっ!」


 ぐりんと半回転して俺の頭が上になる。

 しかし、その反動でリリシアとつないだ手がすっぽ抜けてしまった。

 リリシアは必至で翼を広げて羽ばたくものの、焼け石に水だった。


「ご主人様っ!」


「リリシア――ッ! ――ラーナ、もう、どうでもいい、リリシアに追いつけ!」


「きゃいっ!」


 また頭を下にして、俺にしがみつきつつラーナが飛んだ。

 最速を超える急降下。


「リリシア――ッ!」


「ますたぁ――っ!」


 地面に叩きつけられる寸前で、彼女の身体を掴んで上へと放り投げた。

 その反動からか、俺とラーナの落下速度が加速する。


「なにっ!?」


「きゃぁい!?」


 ドゴォォォン――ッ!



 俺とラーナは地表に激突した。

 その衝撃で巨大なクレーターができる。

 全身がバラバラになったような衝撃が走った。

 

「くっ……ラーナ、大丈夫か?」


「きゅいぃ~」


 クレーターの中心で、ラーナが目を回していた。

 リリシアが白い翼をふわりと広げて舞い降りる。


「ご主人様! ラーナちゃん! ――全回復オーヒール!」


 すぐ傍にしゃがんだリリシアの手が、俺とラーナを触る。すると急速に体の痛みが引いていった。

 ただラーナは気絶したまま起き上がらなかった。

 幼子を腕に抱えてリリシアが立ち上がる。


「良かった……二人とも無事なようですね」


「ああ、ありがとうなリリシア」


「きゅきゅ~……」


 ラーナはリリシアの腕の中で少しだけ意識を取り戻して鳴いた。



 俺は立ち上がって山影に建つ神殿を見る。


「あれ?」


 見ると、邪悪な神殿がガラガラと音を立てて崩れていくところだった。

 リリシアが形の良い眉をひそめる。


「今の衝撃で崩れてしまったようですね……ご主人様の聖波気の力もありましょう」


「探すのが大変になったな――リリシア、指眼鏡使えるか?」


「はいっ、お任せください」


 リリシアが銀髪を揺らして頷いた。

 俺は腰に下げた黒い剣を抜きつつ、崩壊した神殿に向かって歩き出した。


       ◇  ◇  ◇


 一方そのころ。

 アレクが星竜界に来る前。


 太い柱の立ち並ぶ黒い神殿の中で、邪神スクラシスが手のひらサイズの邪神の像に話しかけていた。

 しかしすぐに妖艶な顔を嫌そうにしかめて像を棚に戻す。


「くっ……! いきなり通じなくなった! いったいどうしたって言うのよ!」


 こたつに入って販促用特典SSを書いていた魔王が顔を上げた。


「ふっ、言ったであろう? 勇者アレクは常識が通用しないから油断するなと」


「だからって、あたしに対して何ができるって言うの」


「気をつけた方がいい。ここにも来るかもしれん。しかもいきなりな」


 魔王はギザ歯をかみしめて苦渋の顔をした。

 スクラシスが胸を反らして鼻で笑う。布面積の少ない衣装の下で大きな胸が妖艶に揺れた。


「ふんっ。ばっかじゃないの。たとえ勇者であっても聖白竜がいないとどうにも――」


 キィィィンと大気を貫く音がする。

 魔王がこたつに座ったまま顔を上げる。


「ん? 何の音だ? ――な、なにぃ!」


 神殿の高い天井を見上げて驚愕する。外が見えているらしい。

 スクラシスも黒紫の髪を乱してうろたえる。


「あ、あれはアレク!? なぜ奴がここに……嘘っ!? 聖白竜いるじゃないっ! なんでなのっ! ――いや、まだよ! あの落下する勢いに最終奥義をぶつければ――っ! 力を合わせて倒すわよ、魔王! ……魔王?」


 スクラシスは振り返った。しかしこたつには誰もいなかった。

 書きかけの原稿用紙すらなくなっている。


 彼女は長い髪を振り乱して叫んだ。


「ああっ! すでに魔王がいないっ!」


 

 スクラシスは赤い唇をかみしめると、自分も逃げだそうとした。

 神殿の裏口へと向かう。


 ――しかし。


 ィィィィ――ンッ! ドゴォッ!


 ガラガラと柱や天井を作る黒い石材が崩れる。

 

「こんなもの――うっ!」


 逃げ出したスクラシスは聖波気をまともに浴びた。衝撃で髪が乱れる。

 さらに裏口の床が抜けた。

 聖波気の影響でまともに身動き取れないまま、瓦礫とともに地下へと崩落した。



「ぅ……く……っ」


 スクラシスはがれきに埋もれて身動きが取れないでいた。

 いつもならこんな瓦礫、小指だけで吹き飛ばせていた。

 しかしアレクの聖波気の影響で何もできない。

 じわ……じわ……と生命力が削られていく。


 ――なんなの!? これが勇者の力だって言うの!? 反則じゃない――っ! 


 くしくも魔王と同じ意見を持ったが、後の祭り。

 誰の助けも得られない今、何もかも遅かった。


 スクラシスはただ神殿の地下でがれきに埋もれて人生を全うしようとしていた。


 『スクラシスが走馬燈を見て死ぬまで、あと1日』

内容に矛盾やご都合がいくつか出てきましたが、3章を書き上げてから修正したいと思います。

感想や指摘がもらえると参考になります!


そしてブクマ2万4000越え! 応援ありがとうございます!


次話は近日更新

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追放勇者の優雅な生活(スローライフ)3

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >巨大な茶色の星が浮かんでいた。 >宇宙から見下ろしているような感覚。 コアが言及するなら兎も角、現地人の主人公が浮かべる感想としては… 惑星概念を知らないのにこの感想を抱くのは少し…
[良い点] 魔王様のリスク回避の高さに脱帽
[一言] 面白い
2020/10/25 00:41 退会済み
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