100.薬商に突撃!
昼過ぎの王都。
俺は街の外れにある衛兵詰め所に、荷車に乗せた組織の男どもを届けた。
彼らはもう全員様子がおかしかった。
「ゆるひて……」「たす……たすけ……」「もう、やらぁ……」
虚空を見つめて涙を流し、ろれつの回らない口で許しを求めている。
むさくるしい姿からは想像もできない、情けない姿だった。
出迎えた騎士や兵士たちが、ちょっとドン引きしていた。
ちなみにエドガーが証拠をリストアップしてくれていたので、すぐに裏付け捜査が開始された。
奴隷も全員救出された。
ただ男たちを運び込んだのは俺一人で、エドガーには邪神の像回収に動いてもらった。
ボスのガドウィンを尋問したところ、邪神の像は邪神との通信装置になっているらしかった。
リリシアがすでにぷちエリ屋として被害届を出していたので、スムーズに話が進む。
俺は二回ほど同じ話を繰り返しただけで解放された。
曰く「ぷちエリ屋に乗り込んできたごろつきどもを倒した。そいつらを吐かせると倉庫のぷちエリに毒を入れるらしかった。その現場も抑えて男を倒した。その時の毒薬がこれ。あとはこいつらに指示を出したボスの居場所を吐かせて乗り込んで倒した」
普通なら二人で全員倒すなどと怪しまれるが、元勇者と言う肩書が役立ち、簡単に信じてくれた。
まあ、ほぼ事実だし。
あとは捜査の結果をまた店に連絡すると言うことで、俺は店に帰った。
◇ ◇ ◇
店のドアには『本日休業』の張り紙があった。カーテンは降ろされていて店内は見えない。
中に入るとエドガーがいた。
手に高さ30センチほどの黒い像を持っている。
「お帰りっす。早かったっすね」
「そっちのほうこそ早いぞ、さすがエドガー。――で、それが邪神の像か?」
「そうみたいっす」
抱えていた像を俺に差し出した。
近づいた俺が手に取ろうとして、ふと嫌な予感がしたのでカウンターに座るリリシアを見る。
「リリシアが受け取ってくれないか? 俺の聖波気が壊してしまうかもしれん」
「なるほど、その危険性はありますね! さすがご主人様ですっ」
リリシアが銀髪を揺らして小走りにエドガーへ近づくと、邪神の像を受け取っていた。
今度は呪いが気になる。
「体は大丈夫か、リリシア? また変な呪いとか、発動してないか?」
「え、どうでしょう? 体は大丈夫ですが――見てみますね」
んっ、と声を上げると、背中から翼をバサッと広げた。
染み一つない真っ白な翼。
俺も目を凝らして全体から裏表まで見た。
邪神の像を持っただけでは大丈夫なようだった。
「なんともないな。よかった」
「はい。心配してくれてありがとうございます」
「しかし、昨日の呪いは裏組織の仕業じゃなかったってことだな」
俺の言葉にエドガーがうなずく。
「薬商メディチのほうみたいっすね」
「こっちは表向きはまともな商売。裏組織を潰したようにはいかないだろうな」
「今の当主の父や弟が不審な死を遂げてるんで、何かやってるはずっす……もう少し時間貰えたら、調べられそうっすけど」
エドガーの言葉に、俺は首を振った。
「邪神と交信できるんだろ? 今のうちに潰さないと、情報を伝えられて対策を立てられるかもしれない」
「もともと証拠が少ないので、証拠を隠されるだけでも厄介っすね。邪神の像は厳重に守られてますし」
リリシアが眉を寄せて悲しげな顔をする。
「ですが……どうしたらよいか……」
「だったら、正面突破だ」
「え?」
「罪がないのなら、正面から乗り込めばいい」
「しかし会ってくれるでしょうか?」
不安そうに眉を寄せるリリシア。
俺はニヤリと笑った。そしてカウンターのガラスケースからぷちエリを一本取り出す。
「ぷちエリの販路について、店の主人に直接相談したいといえば、会うしかないだろう。王室御用達なんだから」
「な、なるほど! さすがご主人様!」
「だったら俺っちは、主人の意識がアレクさんに向かっている隙を突くっすね。こっそり忍び込んで、邪神の像を手に入れるっす」
「頼んだ、エドガー。あとは……」
俺たちは軽く打ち合わせをして、店を出た。
◇ ◇ ◇
昼下がりの王都。
王都の大通りにある大きな店。
店の入り口は大きく開かれ、客や店員が出入りしている。
店は裏通りにも面していて、そちらには荷を積んだ馬車が出入りしていた。
俺はリリシアを連れて店に入る。
広い店内は整頓されており、カウンターの後ろには小さな引き出しの棚が壁を埋めるように並んでいた。
俺はカウンターにぷちエリを1本置きつつ、店員の一人に話しかける。
「ちょっと、商談があってメディチ当主と話したいんだが」
「事前に約束はされておりますか?」
「いや、していない。ただ、ぷちエリの委託販売についてと――花束のお礼といえば、スムーズに話し合いをしてくれるはずだ」
俺はちらっと後ろにいるリリシアを見た。
白い修道服を着たリリシアは、白い花束を抱えていた。
彼女は店員と目が合うと、天使のような笑みを浮かべた。
「わたくしたちもお礼をお持ちしました。どうでしょう、素敵な花束だとは思いませんか?」
「あ、はい。では一応予定を聞いてみますが……。その花束は先に受け取って渡しましょうか?」
「いや、これは直接渡したい。花束のお返しに、と言ってもらえればわかる」
「そう、ですか。少々お待ちください」
店員はいぶかしそうに眉を寄せつつも、店の奥へと消えた。
ところが数分もしないうちにすぐに戻って来た。少し慌てた様子。
「メディチ当主がお会いになるそうです。どうぞこちらへ」
店員に案内されて薬商の館を歩いた。
そして、調度の整った応接室に通される。
部屋の中では痩せた男がにこやかな笑みを浮かべていた。
「どうも初めまして、メディチ薬商の当主メディチです。ぷちエリの商談に我が商会を選んでもらえて光栄です」
そう言いながら近づくと、手を前に出してきた。握手か。
呪いはないかと用心しつつ、その手を握った。
痩せているのに汗で湿っていて気持ち悪かった。
握手自体は、特に何もなかった。
――まあ、俺は聖波気があるから呪いにはかからないだろうが。
「ぷちエリを全国展開したいんだが。メディチ薬商の販路を使えないだろうか」
「ええ、条件さえ折り合えば、もちろん可能です――まあ、立ち話もなんですから、どうぞあちらへ」
手で示されたソファーへと俺とリリシアが座る。
メディチはリリシアの抱える花束をチラッと見てから言った。
「素敵な花束ですね」
「ええ、お返しにと思いまして」
「お返し、というのはどういうことでしょう? 私どもは特に関係しておりませんが」
「あら、そうですか。てっきり赤い花束を寄こしてくれたのはメディチさんかと思ったのですが。花束が無駄になってしまいましたわ」
「そんなことはありません。花は飾れば美しいものです。――どうぞこちらも」
メディチは花瓶から赤い花を一輪抜き出すと、ソファーへときた。
向かいに座りながら、赤い花を差し出してくる。
俺は手を伸ばす。
メディチの表情、口元がピクリと動いた。
なので俺は花を手に取らなかった。
手を前に出して拒絶のポーズを取る。
「なるほど。やはり呪いを振りまいていたのはお前の仕業か」
「な、なんですって!?」
「相手を呪うには赤い花を渡すんだったな……俺の聖波気の前には、呪いなど無効だ――ハァッ!」
赤い花を摘まみながら全力で気合を発した。
一瞬にして赤い花は黒ずんで、ぼろぼろと崩れ去った。
メディチが目を丸くして驚く。
「な、なんだというのです!?」
「聖波気を浴びて黒く崩れ去る……呪いのアイテムの証拠だ!」
「そ、そんな! 違う! これは何かの間違いだ! そうだ、罠だ! 私ははめられたんだ!」
すると、部屋のドアが音もなく開いた。
エドガーが静かに入って来る。
手には黒くて禍々しい邪神の像を抱えていた。
「これ、書斎の奥の部屋にありましたけど、メディチさんのっすよね?」
「う、うわぁぁぁ! か、返せ! その力は私のものだぁ!」
メディチが立ち上がって飛び掛かろうとする。
しかし俺がテーブルを蹴っ飛ばしたので、思いっきり机の上に倒れ込んだ。
「その態度。その反応。やはり邪神の信徒だったか」
「ふ、ふは……! こ、こんなことをして、ただで済むと思うなよ……私に敵対した以上、全力で叩き潰して――」
その時、屋敷の中がにわかに騒がしくなった。
遠くから朗々とした声が響いてくる。
「私たちはルクティア聖騎士団の者だ! 邪神を信奉しているという証拠が見つかったので捜査を開始する! 捜査の妨害をすれば同罪だと思え!」
「みなさん、邪悪な気配がこちらからします、ついてきてください!」
「隠し部屋はこっちだってさ~。歯向かう奴らはやっちゃって~」
女性たちの声もした。僧侶のソフィシアと、魔法使いマッキーベルの声だった。
メディチがテーブルの上で目を見開いて歯ぎしりをする。
「ば、バカな! なぜルクティア教が! ――ハッ! アレク、貴様ッ! ぷちエリの商談など、嘘だったのだな!」
「突然の訪問と揺さぶりの言葉ですぐぼろを出す。お前は悪役としても三流だ」
「な、なにぃ! こんなことをして許されるとでも!? 証拠など握りつぶしてくれる!」
メディチが睨んでくるが、俺は冷たい目で見下ろした。
「何を勘違いしている? リリシアを呪った罰から逃れられるとでも思っているのか?」
「えっ?」
俺はごろつきから奪った剣を抜き放つと、聖波気を思いっきり込めてから斬り付けた。
ザクッと軽い音を立てて服が切られて血が飛び散る。
メディチが痩せた顔を引きつらせて叫んだ。
「ぎゃあっ! ――いきなり、抜刀! あたまおかしい! ……ぎゃあああ!」
二度、三度と斬り付ける。血が出るものの、すぐに回復していく。
「ゆるひて……デスサイズ、さまぁ……ぐふっ」
メディチが白目をむいて気絶した。
怪我はまったくしていない。ただ服は全身がボロボロになっていた。
さっさと縛り上げる。
リリシアが口に手を当てつつ、声を震わせて言った。
「ま、マスター……さ、さすが、です……」
「そんなドン引きしながら、無理に褒めなくてもいいぞ。勇者らしからぬ行為だってことはわかっているからな」
「でもわたくしを安全にするために、あえて泥をかぶられたような。ありがとうございます」
「ああ、そうだ。こいつが今後も恨むのであっても、俺だけを恨んでほしい。……リリシアだけわかってくれてたら、もう俺は十分だな。ありがとう」
俺はリリシアの頭を撫でた。銀髪が揺れるとともに、俺の胸へと寄り添ってきた。
ただリリシアを優しく抱きしめながら思う。
――裏組織と薬商で信奉している邪神の名前が違った。
どういうことだ? 複数いる? それとも……。
そこにとんがり帽子を揺らして魔法使いのまーちゃんが入ってきた。
「おーっす、アレク。久しぶり~。また派手にやったねぇ~」
「邪神の証拠は見つかったか?」
「ばっちり、どっさり、すっきり! 大漁よ~ん」
「ソフィシアは大丈夫だったか?」
「うん、彼女もいい感じ。今回の活躍で教会への貢献度もアップしたから待遇よくなるかもね」
「そうか。ただ邪神の像は少し貸していてくれ。裏で操ってる奴を倒すから」
「ん、エドガーの持ってたあれだね。一応映像記録には残したから、しばらくなら大丈夫よっ」
「すまないな」
その時、騎士が部屋に入ってきた。
縛られたメディチを担いで連れていく。
マッキーベルも騎士に呼ばれて一緒に出て行った。
俺はリリシアと部屋を後にする。
廊下を歩きながら話した。
「これでちょっかい掛けてきた実行犯は倒したな」
「あとは裏側にいる、彫像師スクラ、もしくは邪神の司祭。でしょうか」
「邪神の名前が違うのが気にかかる。複数犯か、それとも。……どちらにせよ根っこから倒しておかないと、また襲われる」
「でも、どこにいるのやら……それが難しいですわ」
「俺に考えがある」
「えっ、本当ですか、ご主人様!?」
リリシアがすみれ色の目を丸くして驚いた。
俺は子機を取り出して話しかける。
「コウ、ちょっと尋ねたいんだが」
『どうしたです? ますたー』
「邪神の像が通信に使われてるそうだが、調べて発信場所を特定できないか?」
『通信記録がないですゆえ、難しいです。……二台あれば、照射角の違いから送信先座標を特定できるだ、です』
「わかった。持って帰る」
『はーい。お店と屋敷の庭におねです~』
俺は通話を切った。
横にいるリリシアに笑みを向ける。
「うまくいきそうだ」
「さすがご主人様ですっ」
笑顔のリリシアが腕を組んでくる。
俺に信頼を寄せる柔らかな体温を感じつつ、店へと向かった。
祝100話到達!
皆さんの応援のおかげです! ありがとうございます!
ブクマと★評価もありがとうございます!
おかげで9万5000ポイント越えました! 嬉しいです!
まさかの10万ポイントが見えてきました。
……エロすぎて人を選ぶから、そこまで人気出ないと思ってたのに。予想外です。
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ただここにきてプロットから話がずれていて修正に難航中。
次話は少しお待ちを。たぶんテティ回とコウ回。




