#1 目覚める
戦闘色が濃いめです。
「」以外の部分はナレーションとして脳内補完して下さい┏●
お楽しみ下さい┏●
某国 某所 午前3時30分
使命を果たした母に抱かれ、元気な男の子が産声を上げた。
母の腕に抱かれた顔は今後の人生が明るい事を確信した様だった。
彼はすくすくと育ち、兄姉と共に何不自由の無い生活を送っていた。
5歳になる頃、彼は自分の世界が特別だと悟る。
朝食後、庭で足腰の鍛錬
昼食後、座学
夕食後、仕事が終わった父と鍛錬
彼の家は大層広く、メイドが30人余りも居る。
彼の父は仕事の事は語らない。
彼の母は不敵に笑う事が多い。
彼の祖父は両腕にいつも包帯を。
彼の兄はたまにしか家に居ない。
彼の姉は地下室に入り浸る。
母に聞いた。名の由来を。
2歳になっても才能が現れなかったと答える。
父に聞いた。才能とは何かを。
何も答えず、ただ悲しげな顔で抱き締められる。
6歳の誕生日前夜。
ある事件が起きた。
彼が眠る屋敷に6人の賊が入った・・・
「おやすみなさいママ・・・明日は何の日か知ってる?」
「もちろんよ。明日はあなたの誕生日よ。愛しい我が子・・・楽しい夢を見るのよ。」
母は彼の額に口付けをし、布団を掛け、部屋の明かりを消し、ドアの左側にあるクローゼットを確認して、寝室を去った。
彼が安心して眠りについた数時間後。
賊が侵入した。
「ここが、あの***家か・・・これで俺達も大金持ちだな。」
賊は下卑た笑みを浮かべながら、門を飛び越え、玄関のドアを外した。
父、母、祖父、兄、姉、そして彼の部屋へと賊が侵入する。
「マ、ママ?まだ朝じゃないよ?」
「そうだよ坊ちゃん・・・それに君には朝は来ないんだよ・・・」
「おじさん・・・だれ?ボクとお話に来てくれたの?」
カーテンから覗く月明かりに照らされた賊は、剣を片手に彼の腰掛けるベッドの傍まで来た。
「坊ちゃん・・・君に恨みは無いんだけど、おじさん達の為に寝てもらうよ・・・」
「パパやママ。お兄ちゃんとお姉ちゃんは?」
「大丈夫さ・・・君と同じで寝てもらうからね・・・」
賊は剣を振りかざし彼の頭に振り下ろした。
彼は咄嗟にベッドの反対側へ転がりそれを避ける。
だが、不運な事に肩口を浅く斬られ、赤い染みがベッドに広がった。
「坊ちゃん・・・避けたら痛いでしょ?大人しくおじさんに・・・殺されろっ!!」
「ヒィィッ」
豹変した賊に彼は短く悲鳴を上げ、小さくなってしまった。
「ママ!パパ!助けてよ!おじいちゃん!早く来てよ!」
「助けを呼んでも無駄だ!流石の***家の当主も寝込みを襲われたんじゃ、死んでるだろうよ。」
死んでる。
この言葉が彼にどれほどのショックを与えたか。
いつも優しい母。
憧れの父。
日常が崩れる音が彼の頭に響く。
「ボケっとしてると・・・ホラよ!!」
賊が彼の胸を狙い剣を突く。
それを、すんでのところで這って避けた彼。
何故避けられたのか。
どうして体が動くのか。
彼にも分からないが、生存を求める声が頭に響く。
「すばしっこいガキだ!とっとと食らえ!!」
ベッドの上に乗り振り下ろされる剣だが、彼は
床を這いドアを背にして避けた。
「へへへっ。もう逃がさねぇぞ?」
「ヒグッ。ヒック。ウウゥ。」
恐怖の為、泣き出した彼に迫り来る殺意。
彼はその場で腰が抜け、ズルズルとドアを滑る
(逃げなきゃ・・・逃げなきゃ。逃げなきゃ!)
彼は自分を鼓舞するが涙は止まらず、腰も入らない。
這う事しか出来ない彼はドアの左側へと進んだ。
母が寝室を出る前に必ず確認するクローゼット。
目の前には恐怖の賊。
後ろには大好きな母が大切にしているクローゼット。
子供心は弱いもので、クローゼットの扉を開け
中に逃げ込もうとした。
性格が悪い賊は、クローゼットの外からトドメを刺そうと彼の行動を見ていた。
コレが運命だった。
賊の油断。
母の優しさ。
彼の心の弱さ。
歯車が噛み合い、運命の針が動き出した瞬間だった。
クローゼットの扉を開けると、彼の目の前に大きな物が落ちてきた。
反射的に避けると、鞘に収められた太刀だった。
「これ・・・えっ?ボクのなの・・・君、話せるの?」
「何ごちゃごちゃ言ってんだ?もういい。死ねやー!!」
ブォン!
賊の剣は彼を捕らえる事は無かった。
賊の目には自分の背後に立つ彼と、彼の持つ妖しく光る太刀が目に映っていた。
「ガキが太刀を持ったくらいで、いい気になるなよ!!」
「ガキ?そりゃ、俺の事か?太刀?そりゃ、鬼化羅擦の事か?」
鬼化羅擦。
世界に散らばる6本の妖刀の1振り。
構えた者はさながら鬼と化し、目の前のあらゆるものを切り裂くと言われる。
「鬼化羅擦だぁ?そんなモノ、ガキが持ったところで玩具だな。」
賊は剣を下ろし、笑っている。
彼は鬼化羅擦を床と水平に構え、腰を落とす。
「後悔して黄泉へ行け・・・擦霧!」
擦霧。
鬼化羅擦の基本技であり、大抵の者は相手を見る事さえ叶わない。
彼は賊へと走り、刃を左脇腹から入れ、真上に切り上げ、右脇へと抜いた。
「ガフッ・・・お、お前・・・普通のガキじゃあ・・・」
「当たり前だろ?世界最強の殺し屋一族・・・フメリ一族の次男。レイ・フメリだぞ?」
「ク・・・ソが・・・」
賊は息絶えた。
寝室は血の海と化し
そこに1人佇むのは、相棒を手にし、才能を開花された・・・(血の)海中に咲く花だった・・・
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