ヴァンの過去…1~アルム視点~
ヴァンの過去…1
「ほら、急いでパッチョ。遅れてるよ」
「これ、なんてダイエットですか?!」
「んー…登山ダイエットかな?」
そんな呑気な事を下で喋りながら、お嬢様の夫とオーク弟はノロノロ登ってきた。
「急いで下さい。お嬢様の出産までに戻らないと」
暗雲と突風、雷の鳴る白竜山。いつもは穏やかなのに…やはり白獅子王の言う通り、本当に守護竜が巣を捨てたのか?
「ぜー、ぜー。やっと到着…」
先に登ってローブを引いたりしてかなり苦労しましたが全員登って来れたようですね。
「た…卵ぉ!!」
さっきまであんなにヘトヘトだったのに急に元気になったパッチョが巣の中央にある大きな卵を持ち上げる。
「食べていいよね?卵だよ!こんなにおっきいよ!」
「……随分変わった柄ですね」
白竜の卵…事前に図鑑で白竜について調べた時、白い卵が描かれていたが…これは、なんだ?何故黒い。
「何だか白竜の卵じゃないみたい。ちょっと不気味だけどオリエ、食べるかな」
「ボキも食べていい?こんなに大きければオリエさん一人じゃ食べきれないよね?!」
「パッチョは食いしん坊だな。って、僕も食べれるなら食べたいなぁ」
「ったく。貴方達は本当に食べることばかり。
いいでしょう、持ち帰ってゆで卵にしましょう」
僕はそれを背中にくくりつけるとまた皆の下山を手伝いながら下りる。
「と、言うわけです」
シビリカさんへ報告するカンパニュラさん。僕はお湯の準備をしながら皆の会話を聞いている。
「うむ。そいつはご苦労だったな。
まぁ、白竜が巣を捨てたのは間違いなかろう。抱卵中は餌も食べずに巣に篭るはずだ。カッコウされちまったか、無精卵かで卵を置いて逃げちまったんだろ」
「じゃあこれはどうしますか?ムッチョとパッチョがとても食べたそうにしてますが。毒がなければオリエにも食べさせたいんですが」
「たまごぉ!」
「たまごおぉ!!」
鼻息荒く、オーク兄弟は鍋でお湯を沸かす僕の周りを回っている。
「白獅子に聞いてみるか。
おい、山羊少年。伝言オウムを借りるぞ」
「どうぞ」
僕の家の伝言オウムはとても賢い。人の言うことを伝えるべき人に伝えたら相手の返事を聞いてちゃんと帰って来る。勿論手紙も持って行くことも可能だ。
「…これでよし。頼むぞ」
クワァーと鳴いて伝言オウムは飛び立つ。
「此処から白獅子王の所まで数分でしょう。あれはハヤブサの血も入っているからあっという間です」
僕の家は酪農と伝言オウムの繁殖を行っている。
酪農は姉、母、オバ、祖母達の乳をそのまま出荷したり、チーズ、バター、クリームに加工して出荷する。
半山羊人の乳は他の種族の赤子に与えても大丈夫なので市場で重宝される。その日売れなければ加工食品にしてまた売る。大体売れ残らないし、残ったら菓子などにも加工する。また、化粧品なんかにもなるし、入浴剤なんかにも。我が家だけでこの白獅子王の城も城下町も支えている。
ただ、乳が出せるのは女性だけなので、男は他の仕事をする。と言っても…半山羊人の男は極度に生まれにくい為、貴族の家の執事になったりする。また、結婚する時はその家の全姉妹を嫁にする為色々大変。
…はい。女に生まれたかったです。
「早く食べたいっ!」
「たまごおぉ!!」
「うるさいですよ。煮豚にしますよ?」
耳元で騒ぐオーク兄弟にピシャリと言い放つ。
「怖いぃ!」
「ホントにボキ達より年下なのぉ?!」
「これでも12歳です。
ちなみに、白獅子大学院卒業してますよ。大学図書室の本は全て読みました」
世の中の事は何でも知ってる…今はたまたま父が仕える貴族のお転婆娘のお守りだが、僕はこんな所で終わらない。いつかは白獅子王の城の文官になるんだ。
「お、帰って来たな」
伝言オウムが帰って来るとシビリカはその首に付いている筒を取り中の書類を取り出す。
「なんと書かれているのですか?」
「…恐らくこいつは絶滅した古代竜の卵だ。先祖返りして生まれたんだろうよ。
しかしそんな事、白竜さまは知らんだろう。黒いもんが嫌われるこの世界で、白竜さまは自分がこれを産んだと認めたくなくて巣ごと捨てたのだろう…ってのがお城の文官様のご意見だ。
白獅子はワシ等にこれの始末は任せるとよ」
ならば、遠慮は入りませんね。
僕は割れないように卵を抱えると沸騰した鍋に入れる。




