~ユリside~
「あぁ…オリエぇ…行かないでぇ…」
「もう、カンパニュラったら。そんなメソメソ泣かないの。ユリの方が大人よ?」
そう言うお母さんの顔を…きっと僕は無表情で見てる。
「ユリは本当は悲しいんだよ。泣くの堪えてるんだよぉ…だから行かないでぇ…」
…そんな事、ない。
これは仕方のないこと。
お母さんが実家に帰らないと、お父さんもクソジジイ様も皆も…殺されちゃうから。
「ユリ」
お父さんに言われたからか、お母さんは僕を抱き締める。
「ごめんね、お母さん、行くね」
「…うん」
やめてほしい。こういうの。泣いてすがったって、どうせ行くんだから。
ヴァンの前でやめてほしい。
「それじゃおじいちゃん。カンパニュラをお願いね」
「任せておけ」
お母さんは生け贄に、お父さんは戦場に…。
誰も止めない…1年に1度のクソイベント。
「オリエさん、ゲートの準備が出来ました」
「うん。今行くね」
近くに来たお父さんも一緒に抱き締めると、お母さんはゆっくり離れてアルムの用意した転送魔方陣に乗る。
「オリエぇ~!」
「アナタ、無理は駄目よぉ~!ユリ、ヴァンから離れないでね!」
バシュン
魔方陣が消えるとお母さんもアルムも消える。
「……」
もう、生け贄先に着いただろう。1年に1回、お母さんが帰らなければその夫も子供も仲間達も平気で懸賞金掛ける鬼の住み処に。
「お母さん、行っちゃったね」
わざとそう言えば、母を止められない父は
「あぁ…お父さんが不甲斐ないせいで…ごめんな、ユリ」
と言って頭を撫でる。
「だけど、お母さんの家族を殺すわけにはいかないよ。それに、ユリ達も黒海賊になってしまう」
お父さんは…お母さんのお父さんを殺したい。そうすればお母さんとずっと一緒に居られる。
でも、それをすれば僕やヴァン、ムッチョもパッチョもアルムも全員世界中から命を狙われる。
(僕は結婚しない。子供にこんな想いをさせる両親はクソだ)
お父さんの腕を抜け出すと僕はヴァンの隣に行く。
「お父さん、クソジジイ様。頑張ってね」
「あぁ、行ってくる。行くぞ、クソ息子」
ガシッとお父さんの首根っこを掴むとズリズリ引き摺ってクソジジイは王国召集用魔方陣に乗る。
「ユリ、必ず帰って来るからな!ヴァン、ユリを頼むぞ!」
「わーってらって。しっかり稼いでこいよ船長、副船長」
バシュン
光と共に魔方陣は消え、父と祖父が転送された後、また魔方陣が浮かび上がる。
「……」
「だーいじょぶだってユリ。あいつらなら必ず帰って来る。
それに、俺様達も強くなれば行けるじゃねぇか」
それはそうだけど…怖い。
氷海一面に押し寄せてくる亡者の群れと、空には鳥の大群のごときセイレーンの群れ。北極にある地獄の釜の蓋が開くこの時期にローレライは海上に現れて現世を侵略する。また、セイレーンもこの時期に合わせて進行してくる。
人間を餌にする奴等が都市に巣食えば其処から更に増えて侵略してくる。
だから誰かが戦わないといけない。
強い祖父と父は勿論。他の強い海賊達と協力して戦うんだ。
「うん…それより、ムッチョとパッチョはもう大会会場に着いたかな?」
「着いたんじゃねぇの?
ライト級優勝してるから受付もすんなりいけるだろ」
前大会のライト級で優勝しているあの双子は今回からミドル級に参戦。
無事に優勝してほしいなぁ。
「さぁ、宿を探さないとな。新聞局に行くぞ」
「うん!」




