番外編 新年の宴(みたいなもの)ですヨ
※ これは、12/31時点の登場人物(?)を元にしています。
「明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします」
そう言って頭を下げると、ネスやルベル、この場に集っている神々が驚いた様な顔であたしを見てきた。
「……リジーも挨拶って、できるんですね」
おいっ。失礼過ぎるぞ魔術神。
思わず手に持っていたマチで魔術神の頭を殴ると、痛いですよと何故かマチに文句を言っていた。
取り敢えず、意味不明な魔術神は放っておいて、折角のお正月だからと頑張って再現した御節もどきを、宴会用にと資源神が原材料を用意し、技工神がその技術をフルに使って製作したテーブルの上に並べる。
勿論、この御節もどきが入っている御重や取り皿、カトラリー、グラスなんかも資源神&技工神&農商工神がその力を存分に振るって準備してくれた一級品というより神級品である。
お酒なんかは、過去にこの世界へ召喚された人の内の誰かが酒狂いだったのか、様々な物が存在している。中には聞いた事がないお酒もあるから、同じ世界だけではなく違う世界のお酒も含まれている可能性があり、ちょっと楽しみ。
「リジーの言う『御節』って、随分細々しているのね~」
幸運神があたしの手元を覗き込みながら言う。
「あたしも余り詳しくはないけど、御節料理の一つひとつに色んな意味があるみたい」
「例えば?」
「えーと……」
なんだっけ? 重箱に入れるのにも理由があった気がするけど……思い出せないからスルーして……。
「子孫繁栄とか、五穀豊穣? 邪気払いとか、健康祈願、えーと……長寿に金運? 頭が良くなります様に系の物もあった気がするけど……どれがどんな意味かまでは流石に覚えてない」
「あら、残念」
幸運神がクスッと笑い、魔術神を見る。
あたしもチラッと見てみるが、妙にギラギラした瞳がこっちを向いていたので気付かなかった事にした方が良さそうだ。アレに付き合ってたら、時間なんていくらあっても足りない。
「おいおいおいおい。そんな話はどうでもいいから、さっさと呑もうぜッ」
「早くしろ、早く!」
既に待ち切れない闘神と竜神がジョッキに並々と酒を注いでいた。……なんでジョッキ?
「全員に配り終わるまで少しは待て」
闘神と竜神の顔を見る事なく時空神が切り捨て、お酒の入ったグラスや杯なんかを準備し、獣神が一人ひとりに配って歩く。
「ありがとう」
「……うん」
あたしの前に杯が置かれたので感謝すると、獣神が言葉少なに頷き、そそくさと時空神の近くに戻っていった。
「照れてるね」
「うん、照れてる」
「可愛いわねぇ」
あたし、魔術神、幸運神が、ちょっと挙動不審になっている獣神にほっこりしていると、成長神が偉そうにコホンと咳払いした。
「では、年の始まりを祝して――」
『かんぱーい』
という訳で、無礼講な宴会が始まる。
すると早速、表裏神があたしの真横を陣取る。なにか話をする訳でもないんだけど、表裏神にとってはあたしの隣が指定席の様だ。まあ、気まずい沈黙って訳じゃないからいいけど。
「神にお供えとかされた物は?」
「ああ。地方の者達が、一年を無事に過ごせた礼だとか言ってこれを神殿に置いていった」
そう言って成長神が出してきたのは丸ごとの野菜とか、加工してない麦や米なんか。腹黒いどっかのおバカさん達じゃない限りお供えした物を回収なんてしないから、きちんと現物が神の所に届く。
「リジー。また加工して時空神の贈り物の中に入れておくからな」
「うん、宜しくー。美味しく食べるのが礼儀だよね」
「またこうやって差し入れお願いね」
「分かってる」
技工神や資源神の言葉に軽く返しつつ御節を突っついていると、農商工神があたしの背中に張り付き、背後からなにかを差し出してきた。
「リジー。おもしれーのみっけたぞー」
「は?」
農商工神が差し出してきたのは真っ白い陶器製の瓶。看破を掛けてみる。
「……これ、シャレ?」
「イヤ。マジらしーぞ」
「……召喚された誰かは暇だったの?」
「さあな」
ケラケラ笑いながら農商工神があたしの傍にその瓶を置き、じゃあな~とか言って離れていく。
向かう先は成長神や時空神の所。ああ、なるほど。次はそっちにちょっかいかけて楽しむ気なんだ。
「リジー! 農商工神をなんとかして下さい!」
は? なぜあたしに助けを求める成長神!?
「リジー。農商工神が興味を持ちそうな物、持ってないか?」
だから、なぜあたしに振るんだ時空神!?
「自分達でなんとかしろよー」
「そうそう。なんとかしてねー」
そこで囃し立てないでよ技工神に資源神! あんた達、ホント農商工神と同じで楽しそうな事には目がないね――って、とうとう、混ざりに行ったよ……。
「酒が足んねーぞ!」
「酒持ってこいっ!」
「酒じゃ酒じゃー!」
闘神、竜神に加え、ルベルが酒を寄越せと大合唱。
獣神とネスはそれをチラッと見た後、そそくさとあたしや表裏神の近くに避難してきた。なんか似てるなぁ、この2人。
「酒だっ!」
「酒だっ!」
「酒じゃっ!」
騒ぐだけで自分から取りに行こうとしない3人。
「酒だっ!」
「酒だっ!」
「酒じゃっ!」
……。
「うざっ」
「うるさい」
「……(こくん)」
「……(こくん)」
あたしと表裏神がボソッと呟くと、獣神とネスが黙って頷く。
他の神々の様子を見る。
成長神と時空神は、技工神、資源神、農商工神に絡まれながらもしっかり食べたり飲んだりしている。
幸運神と魔術神は、離れた場所にテーブルごと移動し、2人でのんびり楽しんでいる様だ。ちゃっかりしてるなー。
「酒だっ!」
「酒だっ!」
「酒じゃっ!」
……。
「やっかましいわっ! 酔っ払い共っ!! これでも飲んでろっ!!!」
あたしは農商工神が置いていった白い陶器製の瓶の蓋を開け、空となっている3人のジョッキに酒を注ぐ。
「酒だっ!」
「酒だっ!」
「酒じゃっ!」
結局、同じ事しか言えんのかっ!!?
――とか思っているうちに。
「「「――――」」」
闘神、竜神、ルベルの動きが停止し、その場でぱったり横になり。
「「「ZZZzzzzzz」」」
寝た。速攻で寝てしまった。
「やーっぱ、竜殺しの酒の威力はすげーなー」
農商工神が楽しそうにケタケタ笑った。
『竜殺しの酒』 種類:酒 所有者:なし
酒に強い竜すら一瞬で酔い潰せる強い酒。アルコール度数は99と言われている。
ストレートで飲まない。火気厳禁。酒に弱い者はにおいすら嗅いではいけない。
普通は医療用に使われたり、果実酒等を作るのに薄めて使用される。
「……生きてる?」
「平和そうに寝てるから心配しなくて大丈夫ですよ」
あたしの問いに、魔術神が笑う。平和そうって……。
まあ、大丈夫そうならいいか。
……神って丈夫だなぁ。
「――という夢を見た」
あたしが語り終えると、ネスは首を傾げ、ルベルはなぜか震え上がった。
「楽しそうだな?」
「そうだね。楽しそうだったよ、みんな」
「りりりりりり、リジー! ワシ、ワシ、絶対に騒がない様にするのじゃ!」
「え? うん? そうだね。騒がないようにね?」
「騒がないのじゃ!」
「???」
『……物凄くあり得そうな夢ですね(其々の神の性格がバレているのはなぜでしょう……)』
あり得そうなのかいっ!?
『神々なら、その様な酒宴を開いている気がしませんか?』
あ、なるほどね。