9.ずーっと見てたので2回目だったと知ってます
今回から作者が、ヴェルのわっかりにくい話を解説します。要はヴェルの話を、まだましにした話を作者がします。
世界の話からしますね。
北の世界は「キタノタミ」ってヒト属しかほとんどいない世界です。土地は浮いてます。空中にあります。上下左右全部空です。
で、この「キタノタミ」なのですが、戦いが嫌いで、長生きで、数が少なくて、いつも他の世界のことを北の世界特有の望遠鏡で観測してるだけです。
東の世界は私たちの現実のこの世界をベースにした世界です。
そして、私たち「ヒト」は他のヒト属に比べると順応力が凄いです。
南の世界はほとんど戦場です。いつでも戦争か戦いがおきてます。また、最強種が1番多いです。と言うより、ヴェルたちの「今現在」の時点で最強種が全員、南の世界にいます。
ここのヒト属は種類も数も多いです。ケモミミ系も、います。
西の世界は、パラレルワールドです。パラレルワールドが幾つも集まって1つの塊になったような世界です。
まぁ、こんなところですかね。これからもこんな感じのことをするのでどうかよろしくお願いします。
『名か...』
今度は思い出にひたるような目の細め方をする。
『世界蛇と呼ばれていたこともあったな...本当に狭いところにいたものだ...私にはもうその名を名乗る資格などない...故に本来の名を名乗ろう。セヘル、それが私の名だ。
して最強種 キタノタミ、貴様の名はなんという?』
「フォール、ザンディ」
『そうか』
戦いはお互い何かを言ったり、何か合図するでもなく始まった。
そして、戦況はわかりやすかった。フォールが一方的に攻められている。
そもそもの話、フォールは戦い方をほとんど知らない。だからこそ最初の一手目で決着をつけなければならなかった。セヘルが油断していた先の一手目で仕留め損ねた時点で、フォールの負けと言っても過言ではなかった。
フォールの唯一の武器である目の力を使おうにも、それ相応の集中が必要なだけに、絶えず攻められているフォールはそれが難しかった。
だがそれでも、フォールは攻撃をうけていない。傷を、かすり傷であっても負っていない。それもフォールの持つ才能のなせる技だ。
そんな状態にあったからこそフォールは油断してしまった。セヘルの尻尾のあるほうから大きな岩が飛んでくる。フォールにとっては、それを避けることも壊すことも容易い。だが、それができない。そのどちらであっても、してしまえばセヘルに殺られる。そういう状況にフォールは陥っている。これはフォールだからこそ見えていたことによりわかったことであって、他の最強種であっても気付かぬかもしれないほどの巧妙な手口だった。
そして、この状況を打開する策はフォールにはない。どこに避けようと、どう壊そうと確実に殺られると才能が訴えている。仕方がないと、賭けに出ることにした。
だが、そんな賭けも無意味に終わる。フォールと岩の間に炎の壁と人影が現れる。炎の壁がフォールたちを守っている。炎は熱くない。だが、温かみを感じた。またあの謎の声がフォールの頭の中でして、その声がこの炎の温かみを感じさせた。
『何故だ、何故ここにいる...!?近しい場所ではあるがあそこから出ることはできないはずだっ!!!』
「悪いが、それに答えるつもりはない。重ねて悪いが、こいつはオレの弟子だ。そう簡単に殺されては困る」
フォールをヴェルが守った。炎の壁で岩から守り、そのヴェルの存在がセヘルからフォールを守った。
炎の壁は消えてしまったが、岩も同時に消えていた。
「大したことはせぬ。いまから10秒の間、オレはフォールを守るが攻撃はしない。10秒した後、オレは早々に退こう。
フォールが10秒の間にお前に勝てなければ、オレはお前の願いを1つ叶えてやろう」
『承知した。今の言葉、忘れるなよ』
「オレはどんな方法をもってしても記憶を失わない」
それに対する返事はなく、セヘルは気配を消した。だが、フォールはセヘルの存在が視えた。そして、先のあの発光体も視えていた。
だから同じことする。『視えているのなら壊せる』その言葉を意識する。発光体が光を失う、今度は一瞬ではない。今度は長い。それと同じくしてセヘルが倒れた。もう発光体は光ることはないのかもしれない...
どのくらい時間が経ったのか、なんていう感覚はフォールにはなかった。ただただ「疲れた」としか考えていない。
10秒でこの人生が続くか否かが決まる。10秒で知りたいことが知りたかったことになってしまう。10秒でここまで積み重ねてきたことが無にかえる。
それが、フォールはとてつもなく嫌だった。どんなやつでも大体嫌だろうというのはわかっていたが、とにかくやはり嫌だった。
そんなことだからフォールは全く気がつかなかった。
セヘルがフォールたちに向かって突進してくる。洞窟の中での突進よりも数段速い。100m近い巨体がその重さを感じさせない速度で迫ってくる。
この距離ではフォールは避けられない。そもそもまず、フォールは気づいていない。
フォールしかいなければ確実に死んでいた。
セヘルの瞳は赤くなっている。その赤い瞳のなかでも黒い縦の瞳孔は鋭い目をしている。
「まだ7秒だ。それにキサマはセヘルではない。世界蛇の名を地に落とした過去の亡霊どもよ。消えろ」
セヘルが突然失速する。だが、目は諦めていない。セヘルが尻尾を振って鱗をヴェルに向かって飛ばす。
「その程度の毒など効かぬ」
そう言ってヴェルはその鱗を、どこからともなく炎を出して蒸発させた。
実際鱗には毒があった。それはセヘルの体内で作られた毒ではない。植物や他の毒をもつ生き物たちの毒を集めて混ぜたものだ。フォールなら僅かに触れただけでも数秒後に死に至っていた。最強種ですらないものなら、この場の空気だけで1分と経たず死に至る。
ここでやっとフォールは今この状況を理解する。そして、40mほど後方に跳んだ。セヘルの失速したが継続していた突進を、その跳躍で避ける。
フォールが移動した先に、瞬間移動でもしたのではないかと疑ってしまうような速度で、ヴェルも移動した。
「セヘルって最強種だったの...?」
「見た目は大蛇だが純血の龍、ドラゴンだ。しかし、今のあれは過去の亡霊でしかない。セヘルの体に過去の亡霊が取り憑いている。フォール、それを破壊してみろ」
「いや、無理でしょ...どうやったらいいのかわかんないし...」
「お前はやり方を知っている。お前がさっきセヘルの魂を破壊しようとしたときと同じことだ。今度は視るものが違うだけだ」
「わかったよ、やるよ!」
「目を凝らせ、視ることだけを考えろ。他のものは全て排除しろ。視るべきものだけを視ていろ」
「...」
ヴェルの話を聞いているのかも怪しいほどに、フォールは集中している。フォールに聞こえてはいるが聞いてはいない。
「セヘルのものじゃない何かが視える...」
「それを破壊しろ」
フォールにはヴェルも、セヘルとの間にある木も土も石もなにも見えていない。ただ、セヘルの頭のあたりにある赤黒い靄だけが視えている。
「壊す...破壊する...」
黒い靄は端のほうから崩れていった。最終的に、完全にセヘルの中からなくなった。
それからフォールは自分でも気付かぬうちに、心の声が口から出ていた。
「壊、した...疲れた...」
「10秒間の戦闘、見事であった。最強種の名が相応しくなったのではないか」
「え?ほんと?それは嬉しい、かな...」
フォールにとってその言葉は本当に嬉しかった。
とりわけその中でも、『ヴェルに褒められた』という事実が嬉しかった。
セヘルのもとへフォールが向かったので、ヴェルはついていった。
「セヘル、どうなったの?」
「そいつは───」
ヴェルが言いかけたとき、セヘルは目を開ける。今度は青い瞳に黒い縦の瞳孔だ。
『フォール・ザンディよ、これは私の負けだな。負けを認めたならば仕方ない。敗者は勝者に従うものだ』
「折角あの靄から解放されたのに?」
『死ぬのならそれでよい。この森では弱い者は死に、強い者の食料になる。死ぬ直前に私の人生で最も強い2人の強者と戦えたのだから満足だ』
「強いなんて!私はほとんど何もしてないし、油断してばっかりだったし」
「いや、お前は強いぞ、フォール。2度もセヘルの魂を壊しかけたのだ、それが強い者でないはずがなかろう」
「結局のところ、私やっぱり命壊そうとしたんだ...」
『して、私はどうなるのだ?』
腕を組み考えこんでいるフォールだが、隙はほとんどない。
前回の8.の文章量が少ないことが気になって、こうして投稿させていただきました。セヘルが食料になってしまうのかどうか、ご期待ください。もしかしたら、フォールはセヘルがどう調理させるのか悩んでいるのかもしれませんよ?1/22