4.血の臭いは消えても全盛期の臭いは凄まじかった...
今回も説明回ですが、予定を変更して無理やり話をほんの僅かにですがすすめることにしました。これらの説明回を通して東での予想の裏を取り、予想が崩れることを祈ってます。
「ならば次は、世界それぞれの説明にうつるがよいか?」
「うん、いいよ」
「先に言うが、オレは世界の内側のことについては多くを知っている。知らぬことを自分自身の手では探せないほど多くを知っている。
だが、世界の外側のことについては他の者より知っていると自負するが、知らぬことばかりだ。
まず、北の世界、東の世界、西の世界、南の世界の俗に言うところの四方界の共通点から説明しよう。
世界にはそれぞれシナリオが存在している。運命論、宿命論といったところの具現だ。運命論、宿命論についての説明は必要か?」
「んー、多分大丈夫だけど、念のためお願い」
「『世の中の出来事はすべて、あらかじめそうなるよう定められており、ヒト属の努力ではそれを変えることができない、という考え』のことを言う。
四方界の共通点として、『何事にも例外はある』ということは忘れるな」
「分かった」
「その運命論、宿命論に対して逆らうことのできる、変えることが出来る者たちをオレは勝手にチェンジャーと呼んでいる」
「なるほど...」
「チェンジャーの共通点については追い追い説明しよう。
シナリオだが、見える者と見えない者がいる。シナリオが見えるからとてチェンジャーというわけではない。
そして、シナリオは幾つもの歯車が互いに干渉しあい、互いで互いを回している1本の柱のような物だ。空が晴れていれば見えるが、こうも雲が厚ければ見えようはずもない」
そう言ってヴェルが空を見上げるのを見てフォールも見上げてみると、真っ白な天井はみるみるうちに色を失い、この場所の空の景色を見せてくれた。空はいつものように灰色の厚い雲に覆われていた。
「このあたりの空って晴れるなんてことあるの?」
「ないこともない。ここから見える空が晴れたことは何度もあった。その中の一回に立ち会ったことはあった」
「へー、綺麗だった?」
「他の何でもない場所で見た空の方が空気は澄んでいてどちらか一方を綺麗と呼ぶなら、他の何でもない場所の方であろうな」
「そっか...」
「まぁ、綺麗な空など旅をしておれば多くみられよう」
「うん、それもそうだね」
フォールは微笑みながら返した。
「して話を戻すが、シナリオは北の世界と南の世界、東の世界と西の世界をそれぞれ直線で結んだときにその2本の線が交わったところにある。だが、四方界それぞれから同じ距離にあるわけではない。
そして、世界のエネルギー源はヒト属の感情、それも先の七つの大罪が主だ。このことについては他のことに密接な関係となっている。
次だ。四方界に存在する生命についてだ。ここから先はお前も知っていることも多くあると思うが、お前の知らぬことや誤った知識の可能性も考えて1から説明するがよいな?」
「うん、大丈夫」
「それぞれの世界で最も繁栄している生物は言うまでもなくヒト属であり、世界それぞれで最も繁栄しているヒト属の種類は別だ。
そして、ヒト属の魂の核は七つの大罪だ。これについては魂を特殊な分解方法で壊し、核を出さねば分からぬことなのだから今一時覚えておればこの先覚えておく必要もあるまい。
七つの大罪が世界の主なエネルギー源となっている理由の一つがこれだ。世界はヒト属に七つの大罪を増幅させそれをエネルギーとしている。
四方界ではヒト属以外の生命も、共通点が多いものばかりだ。その例が家畜であろう。どの世界の家畜を見ても同じようなものを家畜としている」
「確かにそうかも」
何かを思い出すようにフォールは言った。
「次は文明、文化についてだ。北の世界には宗教のようなものはほとんどないが、東の世界と南の世界は同じような宗教が多数存在する。だが、その理由は後にしよう。食文化も同様、肉を食い、魚を食い、植物からとれる実を食べ、葉を食べ、茎を食べ、根を食す。そして、ヒト属は料理ということをする。
ここまでで何か聞きたいことはあるか?」
「いや、気になることはいっぱいあるけど、後になったら説明してくれると思ってるし、それもなかったら聞くよ」
「ならばその体で進めよう。次は世界それぞれの説明だ。これには死の世界も含めて説明しよう。
まず、フォールの故郷、北の世界についてだ。呼ばれ方には『観測所』、『長寿の世界』、『平和の具現』と様々に呼ばれている。
四方界において最も時間の流れが遅い。南の世界においての一年が、北の世界では二日というほどに差が開いている。
そこで最も繁栄しているヒト属は『北の民』、普段は他の世界、『東の世界』、『南の世界』、それ以外の付近の生命の存在も怪しいような世界を、北の世界特有の望遠鏡で観察して、観測している。
その数はとてつもなく少ないが、同じ時間の流れにおいたときに最も長寿で、最も子孫繁栄に乏しい。そして、最も争いを好まないが、結局魂の核は七つの大罪だ。
北の民は空中に浮いた土地で暮らしている。」
「そうだったみたいだね...」
「次は東の世界だ。呼び名は『ヒトの世界』、『中途半端な世界』、『無能の世界』とこれも様々だ。
四方界においての時間の流れを比較すると、南の世界と比べれば遅く、北の世界と比べれば速く、西の世界とは全く同じ時間の流れ、と中途半端な速さの時間だ。具体的な数字ならば、南の世界と比べたときに東の世界での十日は南の世界での一年となっている。
東の世界で最も繁栄しているヒト属は、ヒトだ。むしろ、あの世界で産まれるヒト属はヒトしかない。そして、その数すらも時間同様に中途半端だ。何においても、比較したときに中途半端な世界だ。
だが、奴らにも奴ら独特の特出した点がある。それは順応力だ。奴らは同じ条件下ならば他のヒト属に比べて順応力が高い、それが奴らの強みだ。
ヒトは球状の星に生きている。そして、ヒトが生きることが出来る星というのも限られている。
これでまず、二つの世界の説明をしたが何かあるか?」
「キミが意図的に隠したんだとしても、隠し方が悪かったキミが悪いということで聞くけど、東の世界のヒト達はなんで無能なの?」
「ああ、よかった。お前がその程度のことにも気づかないようであったらならばどうしたものか、と考えておったが杞憂に終わったらしい、本当によかった」
「私そこまで頭は悪くないんです!」
フォールは睨むような目でヴェルを見て言った。
「いや、失礼した。ちゃんと説明し───」
『よう』とは続かなかった。ヴェルは立ち上がり、数歩後ろへ下がり、突然全身から力が抜けたように片膝を地面につけ、片手で体を支えているような状態になった。
そして、フォールもヴェルを心配して立ち上がった。それと同時に机も椅子もお茶もお菓子も夢であったかのように霧散した。
「ちょっと、いきなりどうしたの?」
フォールはヴェルを本気で心配していたのだが、次の瞬間にそれをも塗り替えてしまうほどの恐怖がフォールを襲った。
「離れて、おれ...これからすることを、見ていくならば、止めはせぬ、咎めは、せぬ、だが、離れて、おれ」
ヴェルは、途中から途切れ途切れになっていたが言葉を紡いだ。そして、その金色の目は殺気と呼ばれる者をありありと宿していた。
それを見たフォールは10mはあろうかという距離を一跳びで0にし、部屋の隅まで後ずさりをし、無意識に壁に背中を押し付けていた。このときのフォールは反射神経と無意識で動いていた。この動きは鈍っていても最強種としての強さを示していた。
そして、フォールが跳んで間もなくこの部屋は形が変わった。ヴェルを中心に、円形に部屋が次々と凹んでいった。それはフォールの足元のギリギリのところで止まった。
だが、そんなことが気にならないほどに、フォールはヴェルから目を離せないでいた。
ヴェルはまず、光の薄い壁のような物を凹みに形をあわせたように、半球状にはった。次にヴェルは左手の掌を右手の爪で傷をつくりそこから大量の血を出していた。他の者ならまず、致死量であろう量を優に超え血を流していた。その様はまさに流すというより溢れ出ている様でさえあった。
ヴェルは相変わらず血を出しながらも、ここにはいない誰かに言うように言った。
「あの馬鹿めっ!!お前にはやれぬっ...!何としても、何としてもお前にやるわけにはいかないっ...!!!」
その声は怒りがこもっているような声だった。ヴェルは血を出し始めたときからずっと俯いていて、表情は見えないがその顔が苦悶の表情を浮かべていることは声から察することが、容易に出来た。そして、ヴェルの体から次第に黒い靄のようなものが立ち込める。それを皮切りにヴェルの口からは憎しみのこもったような声が漏れ出てくる。
「憎い...!憎い...!!世界が、シナリオが、ヒトの悪性が憎い...!!!!」
ヴェルの体から出ていた黒い靄は上へ上へと立ち込めていたが、光の壁に阻まれているらしかった。
「復讐をっ...!!復讐だっ..!!!復讐だっ...!!!」
そして、ヴェルから出ていた血は細く鋭く尖った針を形作りフォールがいる方に向かって凄まじい速度で伸びて来たが、これも光の壁によって阻まれていた。
それでも諦めず、幾度となくフォールに向かってきて光の壁を『ガンガン』と叩くように音を出していたが、いずれも無意味に終わっていた。
たが、この針が1本でもあたればフォールは死ぬであろう、という確信があったために気が気でなかった。
しばらくして、次第にヴェルの口からずっと出ていた言葉も少なくなり、最終的には全くなくなった。それにあわせて針もなくなり、靄はヴェルに戻っていった。ヴェルは終始殺気を放っていたが、同じようにひいていったためにフォールの肩からも力が抜けていった。
「はぁ、ねぇ。何、いまの?」
ため息まじりにフォールがヴェルに聞く、相変わらず光の壁も距離もあるが、ヴェルにはしっかり聞こえていた。
「今のがオレの力をもっていきかねない時期魔王候補への対抗手段、一番平和的な解決方法だ」
「私殺されかけてたと思うんだけど!」
「事実死んではおらぬし、怪我とてしてはおるまい?」
「うん、まぁ、おかげさまで」
「であるならばよかろう」
「でも、あれが一番平和的って納得いかないけどな...」
「他の手段など、そいつを存在ごと消すか、世界を壊すか、しかないのだから十二分に平和的であろうに」
それに対してフォールは苦笑で返していた。
そして、ヴェルは普通に立っていられるほどに落ち着いたのか、何事もなかったように堂々たる姿で立っていた。それと同時に血は地面へ染み込むようにその質量を減らしていき、終いには全てなくなった。部屋の形も元に戻り、いつの間にか光の壁も消えていた。
あとに残ったのはついさっきまでとほとんど同じような光景だった。机があり、椅子があり、お茶があり、お菓子がある。
「して、東の世界が何故無能の世界なのか、という話であったな」
ヴェルはそう言いながら、先ほどと同様に椅子に座ったのを見てフォールもすたすたと戻って椅子に座った。
「そう、だけど、そうなんだけど、もういいの?」
「構わぬ、何かを気にするほど動くわけでもなし、何の問題もなかろうて」
「そっか、じゃー、続きをお願い」
「東の世界では、歴史に名を残すほどの者がほとんど産まれてこない。故にほとんどの場合は、南の世界から東の世界へ移された者が歴史に名を残すほどの偉人となる。
中には東の世界から産まれて名を残した者もあれば、逆に南の世界にきた者もおる。
その『移される』ということは各々で事情が変わってくる。いずれかの世界で死してから移されることもあれば生きながらにして移されることもある」
「なるほど、だから無能と...」
今回の南は長いです。本来なら今回で説明回終える予定でしたが、話をすすめるということで説明回が一回延びてしまいました。ただ、次でヴェルがフォールに説明するだけのこの状態から抜け出せると思っておりますので、どうかお付き合いください。12/7 それと、南のサブタイトルは、今回で言う「4.血の臭いは消えても全盛期の臭いは凄まじかった...」は本編の説明を意図的に欠いたところを補うような形にしてあります。
※1/22本文修正しました。
※1/31本文修正しました。