2.こういうときに使う物
「なぜ、です?」
「誰かにもらった力で叶えられた願いなど、理想など...ただただ、空虚なだけだからだ」
フォールは長くこの魔王と過ごして来たわけではないが、この言葉ほど感情がこもったような言葉を聞いたことがなかった。この魔王の感情はいつも表に出ることなどなかったのだが、それだけにこの言葉には説得力があった。
「ですが、それでは私が強くなる前に災いが起きてしまいかねないのでは?」
「案ずるな、それはない」
「なぜ、そこまで断言できるのです?」
「あの占い師はオレがみてきた中でも5本の指には入るほどの腕をもっていた。そいつが、フォールがもたらすと言ったのだから、災いはお前とともにもたらされる」
「それ、なら、私は、戻らなければ...」
フォールはうつむいてしまった。だが、魔王は何も変わらず続ける。
「もたらされないであろう。だが、フォール、お前は戻るべきだ。強くなって、北の世界を守ってみせろ」
「...」
フォールはうつむいて最早何もこたえない。
「だが、お前でなくとも、最終的には誰かとともに災いはもたらされる」
うつむいた顔を上げ、何か胸の前で掴むような仕草をして、決意を込めたような、先ほどまでの表情に戻る。
「それは、本当、ですか?」
「ああ、このことについては問題を先送りにするだけだ」
「分かりました。なら、私は戻ります!」
「その意気だ、強くあれ」
フォールには一瞬魔王が笑ったようにみえたが、一瞬だったために雰囲気からなる幻覚だろうと納得した。
「フォール、シードをだしてみろ」
「あ、はい」
そう言って、フォールはあるはずのないペンダントに『出て』と心の中で声をかけた。するといままで何もなかったはずが、フォールの首には正八面体の赤い、フォールの髪や瞳のように綺麗な赤のペンダントが首から紐を通してかけられていた。それをはずし、目の前まで歩いてきた魔王にわたす。
このシードと呼ばれる物は、この36代目魔王が治める土地の住人である証であり、この土地に来る直前の、死に際で思ったこと、考えたこと、決意を正確に保存する物だ。
魔王はシードをうけとると、左手でフォールの顔の前にシードをたらし、右手をシードにかざした。すると、シードは赤い輝きを放つ。その輝きは長くもたずにすぐ消えてしまったが、フォールはその輝きが綺麗で好きだった。
「確認してみろ」
そう言ってフォールにシードを返す。
フォールはうけとって、正八面体を掴む。フォールの頭の中では掴むと同時に、先ほど考えていたことが正確に再現される。
慣れないうちは少し気持ち悪いが、慣れると特にどうということもなくなる。それに、これがあるからこそ、立ち止まりたくなったときはこれが自分を奮い立たせてくれるのだ。
「改めて言うが、フォール・ザンディよ、その決意を超えるほどに嫌になったらいつでも投げ出せ、それを責める者はいない。そして、また始めたくなったら始めるがいい。後悔の少ない人生を歩め」
「はい、頑張ります!」
フォールは、フォール・ザンディは改めて目標に向かって歩きだす。
「では、話を戻すが」
「はい」
「オレはお前に知識をあたえてもよい。だが、その全てとまでは言わぬ、できる限り多くをその目で、耳で、見て、聞いて、その知識の真偽をたしかめてこい。それが知識をあたえる条件だ」
「では、偽の知識を私にあたえることもあるのですか?」
「それはない。オレはお前に、オレの知識の中での真実しか教えない。オレがお前に偽の情報をあたえたと思ったときは見方を変えてみろ、それも一つの知ることだ。
知っているということは大事だが、見て聞いたことのあることの方がずっと大事なことなのだから、お前はたしかめてこい」
「わかり、ました」
北の世界出身ということもあり、あまりピンときていないようだが、いづれ分かることなので放っておくことにした。
「力については、誰かに自身の眠っている力を解放してもらうのならばまだよい。だが、やはり力は実力で得てみせろ」
「力をいただくというのは諦めました。ですが、私はそんなにも強くなれるでしょうか?」
「それは問題ない。お前には才能がある、それも並の物ではない。その才能と努力を積み重ねれば、或いはオレたち魔王クラスまで届くやもしれぬ」
「本当、ですか?」
そのフォールの目は、表情は嬉しそうだった。
「才能はある。それに、お前の強さはその赤い目が証明している。
だが、結局お前の努力次第にほかならない」
「なるほど...」
「お前は旅に出てみるとよい、多くを知って学んで、強くあれ」
「旅、ですね。わかりました、いってきます」
そう言うフォールは、これからのことに期待と不安を抱えているようだった。
「では改めて聞くが、フォール、お前の願いは何だ?」
物事は思い通りにならないわけで、そんな中でもなんとか頑張っておりますので、どうかこれからも読んでいただけたらと思っております。どうぞよろしくお願いします。
3.ではそれぞれの世界の説明についてできたらなと考えております。11/4 ただ、その説明、長いです!わかりづらいです!
でも、9.から前書きでそのわかりづらい説明を解説していくので、それでわからなかったところは解決していただけたらと思っています。
※本文修正しました。1/31