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5、祖母の死んだ理由

 波の音が近い。砂浜に降りれば、先程までは全く感じなかった海特有の、カラリとした熱が襲ってきた。

「よし子さんには小さい頃からお世話になっていてな。家の奴らはあんまりいい顔しなかったけど、あんな優しい人を邪険にする家の方がどうかしてると思う」

 目を覚ました小夜が寄って引く波にはしゃぐ声を背に、少年、幸斗は真白の祖母の話を始める。自由の制限された生活からの逃げ場所をくれた事、一緒に海の絵を描いた事、安いけれど手間暇かけた温かいパイケーキの事。それらを語る時の、幸斗の心の奥底にある尖った心の欠片にそっと触れる時のような、温かな優しさを含んだ声に、幸斗がどれだけ祖母との時間を大切に思っていたかが伝わる。真白の母も邪険にする祖母を、この少年は大切に思ってくれていたのだと、真白の知らない事だらけなのに、どうしてか安心したような気分になった。

「だからこそ、よし子さんを死に至らしめた理由が知りたいんだ」

「おばあちゃんは老衰って」

「死期を悟ってる奴が壊される家の鍵を新調するか? 町の人の頼まれ事も請け負ってたようだし」

 里子が持っていた傷一つない鍵を思い出す。けれど、と真白が納得していないのに気付いたのか、幸斗が肩に下げていた鞄から分厚い装丁の本を出す。

 陽に照らされた茶色の本は、所々が破けているけれど、表紙のでこぼこした細工には傷が無く丁寧に扱われていたのが分かる。表紙の細工は虹と何かの花を曖昧ながら形作っていて、その歪な模様は紛れもなく記憶にいる祖母が抱えていた古い日記帳のものだった。

「それ、おばあちゃんの」

「あれ? これ知ってるの? よし子さん、家族には会わないって言ってたけど」

 “家族には会わない”という言葉にどうしてか、真白は胸が痛くなった。記憶の中の綺麗な祖母はそんな事をいう人には見えない。

「まだざっとしか読んでないけど、よし子さん誰かを余程毛嫌いしてたんだろうな。恨み事が満載だったよ。最後まで言ってたから何か関わってるんだろうな」

 ははっ、と軽く笑う幸斗に理不尽な気持ち悪さがわき上がるのを感じる。どうしようもなく叫びたくなるのをこらえる。

「でも、勉強もしなきゃいけないし、俺一人じゃ手が回んないんだよね。あんたは他の奴らとは違いそうだし、手伝ってよ」

 そう言って差し出された手を、真白は思わずはねのけてしまった。幸斗が驚いたのが分かる。真白も我に返って、無言でうなだれる。

 カモメが頭上で鳴いて、波が引いていって、幸斗が手を下したのを感じた。それを感じて胸がちくりと痛んだのを真白は無視した。それでもいいと思っていた。

(変だ、変だよ、こんなの。早く、妹さん連れて帰ろう)

 幸斗の方を見ないように海へ視線をやって、え、と声を出した。幸斗もつられて海を見て、ヒュッと息を詰めた。

「小夜……?」



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