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23、よし子が遺したもの


 翌朝、洞窟へ行けば、既にユキが座っていた。

「ごめんなさい。待たせてしまって」

「いいわよ。こっちへ来て」

 ユキの隣へ座れば栞を見せて欲しいと言われたので、真白はお気に入りのレモン色のワンピースから栞を取り出して渡す。受け取ったそれをユキは懐かしそうに眺めていた。

「それって小雪さんのだったんですか?」

「ええ、よし子が描いてくれたのよ。裏の花びらは私が初めて色付けしたもの。こんな色だったのね。私の尾と同じ色」

 澄んだ青色の花びらを見て、ユキが笑う。真白はユキと向かい合うように体を動かした。

「今日ここに呼んだのは、おばあちゃんの事ですか?」

 ユキは悲しそうに微笑む。けれど口を開いた。

「そうよ。よし子は私が小雪って気付いてくれて会おうとしてくれたわ。けど私には記憶が無くて、人間だった記憶と人魚である事の記憶が頭の中で混濁してね、暴走してしまったの。自分がよし子を殺しちゃうなんてね」

「おばあちゃんの事は記憶を無くしてからも知っていたんですか?」

「ええ、美しい絵を描いてくれる人だった。だからその家族がよし子の絵を水に流してしまうのが悲しかったわ。それ以上に被害が及ばないように、家族に会わなくなったよし子を見るのが悲しかったわ。だから私はよし子に会ったのよ。よし子は私を殺したのは人魚だって思っていたみたいだけど」

 あなたのおばあさんなのに、本当にごめんなさい、と頭を下げるユキに、真白は昨夜幸斗から貰ったよし子の日記を思い出した。一つだけ、ユキの言った事は違った。

「昨日、おばあちゃんの日記を読んだんです。その中でおばあちゃんは、小雪様がいた、人魚になってるなんていたずら好きの小雪様らしい、でも小雪様が幸せそうに見えたからもう大丈夫ねって書いてました。次に会ったら終わりにしよう、家族を屋敷へ招こうって思っていたみたいです」

 真白の言葉が進むにつれ、ユキの瞳に雫があふれてくる。見れば、真白の目元もほのかに赤い。彼女も泣いたのだろうと思い当たって、ユキはとうとう涙を流し始めた。

(あぁ、私は何てことをしてしまったのかしら。それでもあの、淋しそうなハルの傍にいたいと思う私は何なのかしら)

 泣いているユキの傍に、真白は黙ったまま居続けてくれた。



「よし子の事、教えてくれてありがとう」

「いいえ。ユキさんが悲しいまま行かれるのが悲しかっただけです。おばあちゃんはユキさんが幸せになる事を望んでいたから。悲しい事があって欲しくないっていう、私のバカみたいな醜いわがままです」

「ふふ、そういうバカみたいに優しい所、よし子にそっくりね」

「おばあちゃんに?」

「欠陥品の私なんかを大事にしてくれたのは、春彦さんとよし子くらいだわ。だから私はよし子もあなたの気持ちも、大好きよ」

「……っ! ……私もおばあちゃんが大好きです」

「同じね。あなたが幸せになれる事を祈っているわ。よし子のためにも」

「私も」

 それじゃあね、と栞を真白に返して、ユキは海へ還っていった。



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