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14、沈んだ底

 外は既に茜色に染まり始めていた。砂浜に降りて行けば眩しい光が真白の瞳を刺していく。涼しい屋敷の中にいたから、熱くはなかった。砂が真白のサンダルに合わせて音を鳴らす。人の声よりよっぽど良い、と真白は思った。

(何を、しているんだろう)

 勝手に落ち込んで、勝手に出てきてしまった。何て自分勝手なんだろうと、真白は自分のバカさ加減にため息をついた。幸斗は愛想をつかしただろうか、亜希にそういう変な子だからと言われているのだろうか。嫌な考えが頭を巡り、それを嫌だと思ってしまう自分のわがままをまた、嫌だと思った。

 ずっと砂浜を見ていたはずが、いつの間にか硬い岩の地面になっていた。真白が顔をあげれば、そこは人魚のいた洞窟だった。けれど、そこに人魚はいない。その事実に、真白は安堵した。

(落ち着かなきゃ。誰かが来ない内に、いつも通りに戻らなくちゃ。じゃないと、また、変な子だって言われるから)

 夕陽の照る洞窟を進んで、ユキの座っていた岩の隅に座り込む。岩に体を預ければ、酷く楽な気持ちになった。

陽の光が深くなって、真白の髪をとめる白のシュシュを彩っていく。波も静かに流れていく。真白はユキの優しい音を思い出していた。

(あんな優しい音を出す人が、酷いことをするのかな。あんな哀しい顔をする人が、嫌な事をするのかな)

切れ目から風に揺れる水面を見つめる。人魚だから、人間とは違うのだろうか。そうかもしれないけれど、それだけにしては違和感があるし、それだけなのは淋しいと真白は思った。

「―よし子?」

 か細い声と同時に水の跳ねる音が響き渡った。真白の足をヒヤリ、と凍えるように冷たい何かが掴んだ。一瞬の間を置いて体を強く引かれる。眼前を波が踊り、真白は咄嗟に固く目を閉じた。

 水しぶきの音はしなかった。生ぬるい水が体を流れていく。耳に水が入ろうとする。痛い、と思ってもろくに体を動かす事も出来ず、下に引きずられていく。

(な、に……?)

 じょじょに体にまとわりつく水が重くなっていく。体の中の空気が無くなっていくのを真白は感じた。空気が漏れて、鼻に耳に口に水が入ってくる。水が喉に入ってヒリヒリと痛みだす。水が入ってくるのに目からは涙が出てくる。口を開けてはいけないと思うのに、苦しくて閉じる事が出来なかった。

 と、足を引っ張っていた何かが離れ、代わりに真白の首を何かが包み込んだ。途端に喉が締まる。息が出来ない。真白の体は無意識に動いていた。

(嫌、死にたくない! まだ、話していたい!)

 滅茶苦茶に腕や足を振る。左手が何度か細い何かを掴んだ。それでも首に締めるものは離れない。何度も何度も首のものを掴もうとしたけれど、何も変わらなかった。

(もう、だめ……)

 何も考えられなくて、頭が真っ白になっていくのを真白はぼんやりと感じていた。

 ただ朦朧(もうろう)としていく意識の中で、首を包むものが無くなり、金色の光が傍をよぎったのが見えた。



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