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13、言えない苦しさ


 その日、真白と幸斗は遺品整理と称して、よし子の描いた絵を集めていた。

「よし子さん、本当見境なく描いてるな」

 集めてみれば、屋敷の中から見た景色だけだと思っていたのが、意外にも木漏れ日の森や夜景の街並み、山の上からの眺めなど様々な風景を描いた絵が出てきた。

(小雪さんは目が見えないのに、どうしておばあちゃんはこんなにも絵を描いたんだろう)

 そして、黒髪の人魚の絵はついに出てこなかった。

「よくもまぁ、こんだけ溜めこんだな」

 中央の部屋に集まった数百枚の絵を目の前に、幸斗が呆れたような声で言う。今日は小夜が習い事でいないため、その絵ではしゃぐ人はいない。真白と幸斗は二人で静かにそれらの絵を眺めていた。

(言った方がいいんだろうか。でも、どうしても、言葉にしようとしたら苦しくなる)

 真白は今朝の事を幸斗に言えないでいた。ハルが小雪の事を知っているのは昨日の日記で予想はついていた。ユキがこの屋敷の事を知らないのは、小雪が亡くなった後にユキとハルが会ったと考えれば違和感は無い。だから、今回の事には関係ないと話さなくてもいいはずだった。

「なぁ、何かあった? 顔色悪いぞ。家族と何かあったのか?」

 そっと、幸斗の翡翠の瞳が真白を覗き込んでくる。いつもその瞳を綺麗だと思ってきたけれど、今は見られたくないと真白は少しだけ下に目線を逸らした。

(幸斗くんは人魚に何かの疑いを持っている。でも、それは違うんじゃないかって私は思ってしまってる。理由は酷く曖昧なものなのに。こんな事、言えっこないよ)

「ううん、ちょっと疲れちゃっただけ。大丈夫だよ」

「本当? なら、いいけど」

 幸斗の視線が逸れて、真白がホッと微かに息をついた時だった。

「真白―、おやつ食べましょう!」

 亜希が平皿にクッキーを積んだものを持って部屋に入ってきた。空色のチュニックに黒のレギンス姿の亜希は、白いスカーフを首に巻いていた。そして、上で結んだポニーテールを揺らしながら中央のテーブルに皿を置いた所で、積まれた絵に気付く。

「うわぁ、何この量。おばあちゃん、ばか?」

 ペラペラと絵を物色する亜希に真白は内心ため息をついた。

「お姉ちゃん、ここで食べるの?」

「え? そうだよ。あ、御一緒してもいいですか?」

「俺は構いませんが、真白は……」

「真白、休憩は大事なのよ」

「サボりたいだけでしょ」

 そう言いつつも席につけば、亜希は笑う。早く終わらせよう、と真白は思った。

「それにしても、意外と人魚の絵は少ないのね」

 しばらく(主に亜希と幸斗が)雑談をした後、ちらりと絵を見た亜希が言った言葉に、真白と幸斗は瞬きを繰り返した。

「あれ、真白っておばあちゃんが人魚異常に好きって事知らなかった?」

「知らないけど、本とか見て予想はしてた」

「そうそう、人魚の本とかよく集めちゃって。何でそんなに人魚ばっかり調べるのってお母さんに聞いたらね、人魚に会いたいから、だそうよって。全く

意味分かんないわ」

 ま、今となってはどうでもいい事だけどね、と亜希は頬杖をついたまま皿の上にあったココアクッキーを一つつまんだ。

(本当に、おばあちゃんの事どうでもいいんだ……)

 真白もクッキーを一つかじるが、苦い味がした。どうしてこんなにも気持ち悪いと思うのか、真白自身にも分からなかった。

「そういえば、よし子さんはよく人魚は本当にいるんだよって言ってましたね。この海にもそういう類の話が残っているみたいですし」

「モノ好きよねぇ。そんな事でここに残るなんて。って、何だ、おばあちゃんに会った事あるのね」

「はい。よく妹とお世話になっていたので。よし子さんはあまり自分の事を話さない人だったので、お話を聞けて楽しいです」

 そのまま続くよし子の話に、真白はいたたまれなくなって、席を立った。二人の視線が真白を刺してくるように感じた。

「真白?」

「ちょっと疲れちゃったから、外の空気吸ってくるね」

 後ろで幸斗の呼ぶ声が聞こえたけれど、それを無視して真白は部屋を出た。



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